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避難所に行くだけが避難ではない!② ~色々な避難の場所とタイミング~

前回はハザードマップの使い方について解説をしましたが、今回はハザードマップで自宅や勤務先周辺の危険度をふまえた上で、どのように避難先や避難開始のタイミングを決めるかを考えていきましょう。

どこに避難する?自治体で指定されている「避難場所」と「避難所」

2013年6月に改正された災害対策基本法で、市町村長による「指定緊急避難場所」と「指定避難所」の指定制度が盛り込まれ、翌年の2014年から施行されています。
自宅ではない場所に避難する場所を考えた時、多くの人がまずは自治体の指定緊急避難場所と指定避難所を思い浮かべるのではないでしょうか。
指定緊急避難場所は「避難場所」、指定避難所は「避難所」とも呼ばれ、とても似ている言葉ですが違いがあります。

避難場所は、災害の危険から命を守るために緊急的に避難する場所です。例えば、大地震が発生し、津波の到達が予想される場合や、大規模な火災が発生した時。崖崩れや土石流が発生した時なども避難場所に避難します。洪水が発生した場合なども、緊急的に命を守るためには、避難場所に向かいます。
避難場所の多くは、高台にある公園や駐車場、学校の校庭など、屋外で安全に避難できる、広い場所が指定されています。施設が指定されているところもありますが、普段から鍵などはかかっていなく、誰でも出入りできる場所です。津波の到達が予想されるときに避難する津波ビルや津波タワーも、避難場所に含まれます。

一方、避難所は、災害の危険性があって避難した人たちが、災害の危険性がなくなるまで必要な期間滞在したり、災害によって自宅へ戻れなくなった人たちが一時的に滞在することを目的とした施設です。
学校や体育館、公民館などの屋内の公共の施設が避難所に指定されています。普段は施錠してあり、必要に応じて担当者が駆けつけて鍵を開け、災害時には避難所として開設されます。

避難場所と避難所を兼ねているところもありますが、多くは別の場所を指定されています。災害の種類によって、どこに避難すべきかを選ばなくてはいけません。
避難場所や避難所は、ハザードマップなどで確認することができます。自宅や職場などからどの道路を通って、どこへ向かうことで一刻も早く安全にたどり着けるのか、重ねるハザードマップの「道路防災情報」とともに普段から確認し、一度、実際に歩いてみて、どれくらいの時間がかかるのか把握しておきましょう。現実的な避難のタイミングを考える手がかりになります。
また、もしもの時にはどこに避難するのかいくつか決めて、家族と話し合っておけば、発災時に別々の場所にいて連絡が取りづらくなっても、避難先で落ち合いやすくなります。

避難場所・避難所に行くばかりが避難ではありません

市町村に必ず指定されている避難場所・避難所は、多くの人にとって住まいや職場から速やかに避難できる場所となるはずです。だからこそ、災害時にはたくさんの人が詰めかけることになります。
屋内となる避難所では、過密などの避難環境の悪化を防ぐために定員が設けられていて、避難所を訪れた人すべてを受け入れることができない場合もあります。特に大規模な災害が発生した時や、人口の多い都市部では、全員が避難所に入り切らずに、他の避難所への移動を求められるケースも起こります。
また、多くの人が一つの空間で過ごすこととなる避難所では、防犯やプライバシーに関する問題などのトラブル、衛生環境などの不安を感じて、避難することを躊躇する方も少なくないかも知れません。

しかし、災害時には必ずしも避難所や避難場所に行かなければならないというわけではありません。
危険な場所にいる場合には、その場を離れて安全な場所に行く立ち退き避難が原則ですが、「避難とは難を避けるということ」。安全を確保できる場所に行くということです。

自宅などが安全な場所にあり、備蓄も十分な量があるようなら、避難場所、避難所に行く必要はありません。また、ご自宅などが災害のリスクが高いエリアであり、発災時に自宅にいられない状況になったとしても、安全な場所にある親戚・知人宅やホテル・旅館なども避難先の選択肢の一つです。
普段から、もしも災害が起こった際には避難させてもらえるようにお願いしておきましょう。また、自治体が指定している避難場所や避難所に向かう場合と同じように、どの道路を通ってどんな手段で向かうのが安全に一刻も早く到着できるのか、実際に移動してみて移動にかかる時間を把握しておく必要があります。

あなたも「要配慮者」に該当するかも知れません

警戒レベル3の「高齢者等避難」が、要配慮者などの避難に時間のかかる方の避難のタイミングの目安とされています。要配慮者とは、どんな人たちのことでしょう?ご高齢の方や障がいをお持ちの方というのは、イメージしやすいかも知れません。
災害対策基本法では、要配慮者とは「高齢者、障がい者、乳幼児、その他の特に配慮を要する者」と定義されています(災害対策基本法第8条第2項第15号)。
しかし、これらは要配慮者の一例で、若い人でも足を骨折していて一人で歩いて避難先に向かうことが困難であれば、要配慮者になるでしょう。体調が思わしくなく、ウイルスなどに感染している可能性がある人なども、避難所などでは配慮が必要とされ、要配慮者に該当すると考えられます。

避難するときには、徒歩で向かうことが原則とされています。災害時には、多くの人が一斉に車を使って避難すると、道路が渋滞します。また豪雨などで道路の冠水が始まったときには、立ち往生を引き起こしたり、増水した用水路や川へ車ごと転落する可能性があるためです。
しかし、配慮が必要な人の中には、徒歩で避難することが難しいケースもあり、やむを得ず車を使って避難することもあります。このような場合に安全に避難を完了するには、行動を開始するタイミングは警戒レベル3の「高齢者等避難」で本当に間に合うのかよく検討し、間に合わないようであれば、警戒レベル2に相当する気象情報(大雨・洪水・高潮注意報、氾濫注意情報など)が出された時点での避難行動の開始も考える必要があります。

避難情報は、避難の目安。あなたの避難のタイミングを考えてマイ・タイムライン作りを

車での避難が必要になるケースは「要配慮者」だけでなく、地域によって自治体が指定している避難場所や避難所まで相当な距離がある場合、避難先として考えている親戚や知人宅やホテルなどが遠方である場合などが考えられます。車で避難する場合には、「要配慮者」に該当しない人でも、安全に避難先にたどり着くためには徒歩での避難以上に早めの決断と行動が必要となってくるかも知れません。

また、豪雨災害などが夜間に発生した場合には、徒歩・車にかかわらず、避難先までの移動には危険がともないます。気象災害は、事前にある程度の予測ができ、テレビやラジオなどの天気予報や、気象庁のホームページなどで注意喚起されます。こうした情報を確認し、避難指示の前であっても暗くなる前に避難を完了する必要があります。
避難のタイミングを逃した時には、無理に移動しようとせずに、建物の出来るだけ高いところで安全を確保(垂直避難)しましょう。

警戒レベル3の「高齢者等避難」で避難に時間のかかる人は避難を開始、警戒レベル4の「避難指示」で危険な場所から安全な場所へ全員が避難というのは、あくまでも避難のタイミングの目安です。災害からご自身や大切な人の命を守るためには、早めに行動することが大切です。そして、「どこに」「どう避難するのか」「避難にどれだけの時間がかかるのか」「避難行動を開始するタイミングはいつなのか」ということは、現実的には一人一人で違っているのです。

そこで、国土交通省では、マイ・タイムラインの作成をすすめています。マイ・タイムラインとは、台風などの接近による大雨によって川の水位が上昇する時に、自分自身がとる避難などの防災行動にかかる時間をもとに整理・逆算して、自分や家族の命を守る避難行動をとるための、一人一人の防災行動計画です。

国土交通省 マイ・タイムライン

ハザードマップなどでご自宅や職場の災害リスクや避難場所・避難所などを確認し、どこにどんな手段で避難したらいいのか、避難するためにはどれだけの時間が必要なのか、そのためにはどの段階で避難を開始したらいいのかなどを、マイ・タイムラインに落とし込んでおきましょう。

国土交通省 マイ・タイムライン かんたん検討ガイド

「避難したのに何も被害がなかった」と空振りに終わることは恥ずかしいことではありませんし、何度空振りをしたとしても命を守るためには早めに避難することは大切です。何もない時こそ、災害時に避難する場所と、行動を開始するタイミングを考えておきましょう。

この記事を書いた人

瀬尾 さちこ

防災士。住宅建築コーディネーター。整理収納コンサルタント。

愛知県東海市のコミュニティエフエム、メディアスエフエムにて防災特別番組「くらしと防災チャンネル(不定期)」、「ほっと一息おひるまメディアス(毎週水曜日12時〜)」を担当。
以前の担当番組:みんなで学ぶ地域防災(2021年~2021年)、防災豆知識(2019年~2021年)
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