B!

「もしも水害で自宅や職場が浸水してしまったら?」覚えておきたい、浸水後の片付けのポイント

日本全国にある1,741市区町村(2019年末時点)のうち、2011年から2020年までの9年間に河川の氾濫などによる水害が起こっていないのは、わずか56市区町村だといいます。全国の市町村の約97%は2011年〜2020年までの期間だけでも1回以上の水害が起きていて、さらにその半数以上の市町村ではこの期間に10回以上の水害が発生しているというデータもあります。
台風や豪雨などで、誰でも水害に遭う可能性はありますし、自宅が浸水してしまう可能性もあります。
6月から10月までは、「出水期」といわれる、豪雨や台風などによる洪水が発生しやすい時期になります。

また、浸水被害は気象災害によるものだけでなく、大規模な地震が発生した場合には液状化や津波、堤防に亀裂が入るなどして洪水が発生することも想定されます。

できるだけ浸水被害を少なくするために、土嚢袋を備えておいたり、家具の固定や住宅の改修など、日頃から対策をしておくことは大切です。
しかし、どれだけ対策をしたとしても、浸水被害に遭う可能性をまったくなくすことはできません。

「もしも、自宅や職場が浸水してしまったら」、どのように片付けをしたらいいのか、その方法やポイントを知っておきましょう。

片付けを始める前にやっておくこと

浸水被害に遭ったら、一刻も早く片付けを始めたいと、ほとんどの人は考えるでしょう。しかし、片付けを始める前に必ず、被害状況がわかるように写真を撮っておくことが重要です。
被害状況を撮影した写真は、様々な支援を受けるために必要な「罹災証明書」を発行してもらうための申請手続きや保険の申請をする時などに必要になります。

スマートフォンのカメラでも十分ですので、「どこまで浸水したのか」「どのような被害が出たのか」などを、できるだけわかりやすく撮影しておきましょう。
撮影のポイントと、罹災証明書については、こちらに詳しくご紹介しています。


また、被災の程度によっては、自分自身で修繕することが難しい場合もあります。特に、床上浸水した場合には、壁の中に入っている電気系統などにも被害が及んでいる可能性があります。住まいを建てたハウスメーカーや工務店などに連絡して点検してもらい、修繕が必要かどうかなど、作業内容を確認するようにしましょう。賃貸住宅の場合は、大家さんや管理会社に連絡し、相談しましょう。

エアコンの室外機や洗濯機などの電化製品も、浸水したら、自分の判断で使ってはいけません。洗浄して乾かせば使えることもありますが、電気回路に水が入ると、ショートしたり部品が故障するなどして、漏電や発火するなどの危険性があります。乾いていたとしても、汚泥などが入り込んでいる可能性があります。
電源プラグを抜いて、家電メーカーや電気店などに相談しましょう。

水害後にブレーカーが落ちていたら、どこかで漏電している可能性もあります。ブレーカーを入れる前に電力会社に相談しましょう。
プロパンガスをお使いの地域で、元の場所からプロパンガスのボンベが動いてしまっていた場合には、復旧する前にガス業者に連絡し、点検してもらうことも必要です。

浸水被害に遭った時には、地域全体に被害が及ぶ場合も多く、近所の人で協力して片付けをすることが難しいことも少なくありません。しかし、泥かきなどの力仕事も多い浸水後の片付けは、ご家族だけで行うのは大変なことです。災害ボランティアの手もかりましょう。ボランティアセンターを運営する地域の社会福祉協議会や市役所・市町村役場などの自治体で紹介してもらうことができます。早めに相談するようにしましょう。

片付けの作業は、安全第一で

大雨などで浸水した場合でも、床下や家の中に入り込んできた水は、雨水ではありません。汚水や泥などが混じっています。木片やガラスの破片などの瓦礫が混じっていることもあります。浸水被害にあった住宅の中には、汚泥が堆積します。片付けの作業を行うときには、安全第一で、肌の露出を避けた服装で行います。

家の中であっても、浸水後の片付けをするときには、長靴か底の厚い靴を履きましょう。釘などの踏み抜き防止用のインソールを入れた長靴が理想的です。瓦礫でケガをしないように、厚手の長袖と長ズボンを着ましょう。また、手にはゴム手袋をします。さらにゴム手袋の中に軍手をすると汗を吸い取り快適です。
傷ができたところが汚泥に触れると、破傷風に感染することがあります。破傷風菌に感染すると、痙攣や呼吸困難、脳炎などを引き起こし、死亡率も高い病気。片付けの最中に、小さなものでもケガをしてしまったら、作業を中断し、傷口を清潔な水道水で洗い流し、消毒するようにしましょう。
ケガをして3日〜21日後に、全身の違和感や痙攣、食べ物が飲み込みにくいなどの症状が現れたら、すぐに医療機関を受診しましょう。

ヘルメットや帽子をかぶって、頭を守ることも大切です。ヘッドライトがあると、床下に入って清掃する時など暗い中での作業に便利です。さらに、新型コロナウイルス以外にも様々な感染症のリスクがある浸水後の作業は、マスクをして行うことが必須です。消毒作業など、薬品を使うときにはゴーグルをはめて、目を守りましょう。普段、コンタクトレンズを使用している方は、薬品を使わなくても片付け作業をしている間はコンタクトレンズではなく、メガネを使用しましょう。

災害につながるような豪雨は梅雨の終わり頃に降りやすくなります。また、台風は7月から10月にかけてが、最も多くなります。
こうした暑い時期であっても破傷風に罹るリスクを減らすためには、浸水後の後片付けには厚手の長袖シャツなどを着なくてはいけません。しかし、熱中症になるリスクは高くなります。保冷剤を包んだタオルや手拭いを首に巻いたり、こまめに水分や塩分をとったり、無理しすぎずに休憩しながら作業を行うなど、熱中症対策もしっかりとるようにしましょう。

また、好奇心旺盛な子どもたちは、大人以上にケガや感染症などのリスクが高まります。子どもたちに浸水後の片付けの手伝いをさせてはいけません。災害後の大変な中で、人手も必要ですが、子どもたちは可能な限り安全な場所に避難させておくようにしましょう。ここはご近所の人たちとの「共助」がいかされるところかもしれません。

換気をしながら、できるだけ早く排水しつつも、泥が乾き切る前に作業を

片付け作業を始める前に、まずはしっかりと換気をしましょう。浸水した家の中には、カビやレジオネラ菌などが増殖している可能性があります。こうした細菌を吸い込み、感染症にかかるリスクを下げるためにも、作業を始める前にドアと窓を開けて、家の中にしっかりと風を通しましょう。

床下に入り込んだ汚泥を含んだ水は、排水に時間がかかります。長期にわたって水が残っていると、カビや害虫が発生したり、雑菌が繁殖し、悪臭を放つようになり、感染症の原因につながります。また、床を支えている木材が腐敗し、鋼製の金物なども錆が発生してしまいます。さらに、床下の断熱材にも吸水してしまい、断熱効果を無くしてしまう可能性もあります。床下に電気配線や設備配管がある場合は、浸水したままにしておくことで火災や破裂などの危険性もあり、建物の強度や安全性にも影響が出ます。できるだけ早く、「排水」と「乾燥」「消毒」を行う必要があります。
床下浸水の対処法は、こちらの記事でもご紹介しています。


床上浸水などで、室内に汚泥が入り込んできた場合は、泥が乾き切る前に泥をかき出し、水で洗い流す必要があります。乾き切ってしまった汚泥が細かなホコリとなり吸い込んでしまったり、乾いてこびりついた汚泥は水で洗っても落としにくいためです。

水害の後は上下水道も止まっていたり、疲れがたまっていて作業することも大変ですが、ゆっくりと休憩しながらでも、「泥が乾き切るまでに、泥かきをする」ことを、一つの目安にしましょう。

濡れてしまったものの仕分けと、天井・壁・床(床下)の清掃を手分けして

床上浸水した時には、床下の排水・乾燥・消毒の他に、部屋の中の片付けと掃除もしなくてはいけません。「濡れてしまった家具や家電の仕分け」と「天井・壁・床(床下)の掃除」を、手分けして行いましょう。

濡れてしまった家具や家電の仕分け

床上浸水によって濡れてしまったものでも、洗って消毒をすればまた使えるようになるかも知れないものと、再利用できないものがあります。汚泥に浸かってしまったと思うと、気分的に使いたくないと感じるものもあるでしょう。残すものと処分するものを仕分けして、処分すると決めたものは自治体の指示に従ってゴミに出しましょう。災害時のゴミ捨てのルールは、普段とは違います。捨てる場所や分別方法などは、役所などの自治体に確認して指定された通りに行う必要があります。

再利用できないもの

浸水してしまったら再利用できなくなるものが、いくつかあります。
  • 木製の家具(合板)
    木製の家具は、浸水してしまったら再利用できません。洗って消毒をして、乾かしたとしても、繊維の奥まで雑菌などが入り込んでしまっているため、後からカビが生えてくることもあります。ベニヤ板を接着剤で貼り合わせた合板の製品は、接着剤がはがれて反ったりめくれてくることもあります。

  • 畳・じゅうたん・布団
    畳やじゅうたん、布団も浸水してしまったら再利用はできません。木製品と同じく、繊維の奥まで雑菌などが入り込んでしまっています。特に、畳は腐敗が早く、水と汚泥を吸ってしまった畳をあげるのは大変ですが、バールなどを使って床から外して、数人で協力しながらゴミ捨て場まで運びましょう。

  • 電化製品
    エアコンの室外機など、一部の電化製品は専門業者に洗浄・消毒・乾燥してもらうことで使えることもありますが、ほとんどの電化製品は浸水して電気回路に水が入った可能性があるものは再生することができません。ショートや発火の可能性もあるため、残念ですが処分するようにしましょう。

再利用できるかもしれないもの

浸水しても、洗って消毒し、乾燥させればまた使えるかも知れないものもあります。
  • トイレ・バスタブ
  • ふすま・障子
  • 食器
  • 薄手の洋服
  • エアコンの室外機
しっかりと洗って、消毒し、乾燥させましょう。エアコンの室外機やトイレなどは、専門業者に相談してみることをお勧めします。

他に、アルバム・写真なども、濡れたからといってすぐに捨てる必要はありません。重なった写真を1枚ずつ離し、水洗いしてよく干すことで画像は劣化するかも知れませんがとっておけるようになります。


現金や通帳なども、取引銀行や金融機関に相談しましょう。

天井・壁・床(床下)の掃除

天井や壁が浸水してしまった場合には、天井板や壁も外しましょう。壁の奥に入っている断熱材まで水を吸っていないか、確認する必要があります。床は、スコップなどを使って溜まっている汚泥をかき出して、水での洗浄を繰り返します。スコップは、水をつけながら作業すると、スコップに泥がついたままにならずに扱いやすいです。また、床下にも水や汚泥が溜まっていることも考えられるので、バールなどを使って床を開けて、床下の掃除もしましょう。


しっかりと洗浄したら、水で薄めた逆性石けん(ベンザルコニウム塩化物)や次亜塩素酸(家庭用塩素系漂白剤)、消毒用アルコールなどでしっかりと消毒し、十分に乾燥させます。目安は、2ヶ月間ほどです。窓やドアを開けて風を通すことはもちろんですが、扇風機なども使って風を送りましょう。

無理をせずに、ボランティアなどの力も借りながら

浸水の片付けをするときには、手洗いもしっかりとするように心がけましょう。
もしも被災したら、「早く片付けて元の生活を取り戻したい」と、ほとんどの人は思うでしょう。そんな時には、無理をしがちです。しかし、被災したときには思いのほか、心身ともにダメージを負っているはずです。健康と安全を第一に考えて、無理をせずに、ボランティアなどの力も借りながらゆっくりと行いましょう。

しかし、なによりも大切なのは、浸水被害に遭わないようにすることです。
土嚢を備えておいたり、水嚢を作ってリスクが高まった時には水の侵入口になりそうなところに早めに置いておくなど、被災しないための備えも、心がけましょう。


参考資料

政府広報オンライン 河川の氾濫や高潮など、水害からあなたの地域を守る、「水防」

一般社団法人リバーテクノ研究会 地震水害の発生プロセス

JVOAD ノウハウ集
【コロナ禍でもすぐできる!防災アクションガイド】水害にあったら まず行うこと


震災がつなぐ全国ネットワーク 水害にあったときに

気象庁 台風の発生、接近、上陸、経路

厚生労働省 浸水した家屋の感染症対策

国立感染症研究所序 破傷風とは

一般社団法人日本血液製剤機構 日常生活に潜む破傷風

yomiDr. 「教えて!ドクター」の健康子育て塾

FUJIFILM 水に濡れた写真の応急処置

この記事を書いた人

瀬尾 さちこ

防災士。住宅建築コーディネーター。整理収納コンサルタント。

愛知県東海市のコミュニティエフエム、メディアスエフエムにて防災特別番組「くらしと防災チャンネル(不定期)」、「ほっと一息おひるまメディアス(毎週水曜日12時〜)」を担当。
以前の担当番組:みんなで学ぶ地域防災(2021年~2021年)、防災豆知識(2019年~2021年)
瀬尾 さちこの記事一覧

公式SNSアカウントをフォローして、最新記事をチェックしよう

twitter
facebook

この記事をシェア

B!

詳しく見る