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コイヌ、コグマ、ヤギ、ウサギ・・・番号だけじゃない!台風の名前

4月20日に発生した台風1号をかわきりに、今年(2023年)も10個の台風が発生しています(8月25日時点)。7月28日には動きの遅い台風6号(カーヌン)が発生し、数日にわたって沖縄や奄美地方などに影響を与えたことや、その翌週には台風7号(ラン)が和歌山県に上陸し中国地方・北陸地方を縦断して日本海に抜ける際に各地で洪水などの被害を出したことは、まだ記憶に新しいところなのではないでしょうか。8月は、さらに台風8号(ドーラ)、台風9号(サオラー)、台風10号(ダムレイ)と、立て続けに台風が発生し、情報を目にする機会も増えてきているはずです。
9月と10月の台風の発生数は、平年並み、平年並みか少ないという予想も出されていますが、9月も8月についで、台風の発生数が多い季節です。

被害を最小限に抑えるために、日頃からの備えや、進路などの台風情報をチェックすることが大切なのは言うまでもありませんが、それだけじゃない以外のところ にも注目してみることで、台風への興味が深まるかもしれません。

それは、台風の名前です。
台風には、番号とアジア名の、2つの名前がつけられています。

1年間でリセット!馴染み深い、台風の番号

ニュースの天気予報などでは、台風は「台風1号」のように、番号で伝えられることがほとんどです。この台風にふられている番号。これは、気象庁がつけています。気象庁では、毎年1月1日以降、一番早く発生した台風を第1号として、それ以降に発生した台風に、発生順に番号をつけています。大西洋などで発生したハリケーンが進んできて、気象庁の監視領域に入ってきて台風となった場合にも「台風8号」のように台風の番号はふられます。ただし、一度発生した台風がおとろえていったん熱帯高気圧になった後で再び発達して台風になった場合には、最初につけられた台風の番号がそのまま使われます。

そして、翌年1月1日から、台風にふられる番号は、また「第1号」に戻ります。

「毎年、1号から順に番号をふられていると、いつの1号かわからなくなりそう」って思う方もいらっしゃるかもしれませんが、気象庁での国内の一般向けの情報や刊行物については、実は「令和5年台風第1号」のように、年号と台風の番号を並べて表記されています。和暦でなく、西暦と共に表記される場合や、「TS」「STS」「T」のような台風期間中の最大風速に応じた階級(※)と並べて表記される場合などもあります。
また、台風を英語で表記するときには、もう一つの名前、「アジア名」を用いられます。

(※)Tropical Storm(TS):最大風速34ノット以上48ノット未満
Severe Tropical Storm(STS):最大風速48ノット以上64ノット未満
Typhoon(TまたはTY):最大風速64ノット以上

台風のもう一つの名前、アジア名

台風には、番号のほかに、もう一つ名前がつけられます。
冒頭に書いた、「台風6号(カーヌン)」「台風7号(ラン)」「台風8号(ドーラ)」「台風9号(サオラー)」「台風10号(ダムレイ)」この、(カーヌン)(ラン)(ドーラ)(サオラー)が、それぞれの台風のアジア名です。
台風にアジア名がつけられるようになった歴史は、まだそれほど古くなく、23年前の2000年から。

それ以前の1947年から1999年までは、アメリカ軍の合同台風警報センターによる英語名が、台風の国際的な名称として使われていました。英語名では、「アリス」や「ナンシー」、「アン」や「トム」などの人名が付けられていました。1978年までは女性の名前のみが使われていたようで、一説によると、アメリカ空軍や海軍の気象学者たちが、ガーフルフレンドや妻の名前を愛称として使っていたのだそうです。しかし、男女同権に反するのではと問題視され、1979年以降は男性と女性の名前が交互に用いられるようになっていました。

このように、52年にわたって英語名が使われてきましたが、北西太平洋または南シナ海で発生する台風防災に関する、各国の政府間組織「台風委員会」は、2000年1月から、北西太平洋または南シナ海の海域で発生した台風には、共通のアジア名をつけることにしました。

アジア名をつけることにしたのには、2つの目的があります。
一つ目は、国際社会の情報に台風委員会が決めた名前をつけてそれを利用してもらうことで、アジア各国や地域の文化を尊重しながら連帯を強めて、お互いの理解をすすめること。そして、2つ目は、アジアの人たちに馴染みのある呼び名をつけることで、防災意識を高めてもらうことです。

台風委員会は、日本、フィリピン、韓国、タイ、香港、ラオス、中国、カンボジア、マレーシア、ベトナム、シンガポール、北朝鮮、アメリカの14か国などが加盟しています。アジア名は、それぞれの国が、10個ずつ用意していて、合計140個の名前を順番につけています。番号の名前とは違って、1年ごとにはリセットせずに、140個のアジア名をひとまわりしたら、また1つ目に戻るという具合です。
台風は、年間で平均25.6個発生しているので、おおよそ5年から6年で一巡することになります。

アジア名のリストは、気象庁のホームページでも公開されています。
ちなみに、リストの一番最初は、カンボジアのつけた名前で、「象」を意味する「ダムレイ」。
お気づきになった方もいらっしゃるかもしれませんが、今年(2023年)8月に発生した、台風10号に付けられている名前です。

140個のアジア名のリストは、ちょうど5周目に入ったところです。アジア名が付けられた台風は、700個にのぼっています。

日本から提案している台風のアジア名は星座名に由来

台風委員会に加盟している各国から出された台風のアジア名は、それぞれの国の言葉ですが、アジア名のリストに採用されるための条件を満たしているものです。
・アスファベット9文字以内(文字数が多くなりすぎないこと)
・音節が多くなくて発音しやすいこと
・他の加盟国・地域の言葉で感情を害するような意味を持たないもの

言葉として発音しやすく、文字数の少ないものなので、提出した国での言葉の意味は必ずしも名詞や「台風っぽいもの」ではありません。

例えば、フィリピンから出されている名前では「ダナス(経験すること)」「ハグピート(むち打つこと)」、香港からは「チョーイワン(彩雲)」も採用されています。太陽に雲がかかった時に見られる虹色の雲のことを彩雲や景雲と言って、「彩雲を見るといいことが起こる」などという言い伝えもありますが、名前はリストから順に発生した台風につけられるだけなので、「チョーイワン(彩雲)」という名前の台風が大きな被害をもたらすなどということも起こりえます。

タイからは、雷の天使という意味の「メーカラー」という名前も出されていますが、天使とはいえない台風に割り当てられるかも知れません。

ベトナムからは、北西ベトナムにある川の名前「ソングダー」や、歴史的な観光地の名前「コンソン」なども出されていて、現地の人たちは台風情報が出された時に地名と台風の名前がごちゃごちゃになって混乱しないか、少し心配にもなってしまいますね。

日本から提案している10個の名前は、どれも星座名に由来しています。
特定の個人や法人の名称や、商標、地名や、天気現象名 ではない、中立的な名称であることや利害関係が生じにくいこと、台風とイメージ上の関連がある空にあること、多くの人たちに親しまれていることが、星座名を提案した理由です。
・コイヌ(こいぬ座)
・ヤギ(やぎ座)
・ウサギ(うさぎ座)
・カジキ(かじき座)
・コト(こと座)
・クジラ(くじら座)
・コグマ(こぐま座)
・コンパス(コンパス座)
・トカゲ(とかげ座)
・ヤマネコ(やまねこ座)
この10個が、現在日本から提案されてリストに入れられている台風のアジア名です。
「ウサギ」や「コイヌ」など、かわいい生き物も連想する名前は、穏やかそうですで親しみも湧きますが、名前から来るイメージと実際の台風の大きさや勢力とは無関係なので、名前に惑わされないよう、注意が必要です。

引退するアジア名も

台風委員会に加盟している各国がそれぞれ10個ずつ提案し、リストに入れられている140個の台風のアジア名。140個を一巡したら、また最初に戻ってもう一度つけられていき、繰り返し使われますが、もう二度と使われない、引退した名前もあります。引退した名前を提案していた国は、また新たに違う名前を提案することになっています。

台風委員会の加盟国・地域で大きな災害をもたらした台風につけられたアジア名は、加盟国・地域からの要請を受けて、そのアジア名をそれから先の台風には使用しないようにすることもあるのです。
被害を受けた人たちが名前から悲しい気持ちを再び思い起こさないように、また過剰な恐怖を感じさせないようにという配慮もされているのかも知れません。

ここ数年の間にも、いくつか引退しているアジア名があります。
例えば、2019年8月30日に発生した台風19号「ファクサイ」。東京と千葉県で9名が亡くなり、9万棟を超える住宅被害や長期にわたる停電を引き起こした「房総半島台風」です。この台風には、ラオスが提案した女性のに名前「ファクサイ」というアジア名がつけられていましたが、この名前は引退し、代わりに「ノンファ」という池の名前が提案され、リストに付け加えられています。

同じ年の10月6日に発生し、静岡県や新潟県、関東、甲信、東北地方などで記録的な大雨をもたらし、亡くなった人が100名を超えた「東日本台風」には、フィリピンが提案したすばやいという意味の「ハギビス」というアジア名がつけられていましたが、これも引退し、代わりに「ラガサ(動きを早めること)」がリストに追加されています。

日本から提案したアジア名にも、引退したものがあります。
近年では、「カンムリ」が引退し、代わりに「コト」がリストに追加されました。
「カンムリ」は、2019年11月に発生した台風28号につけられたアジア名です。この台風は、フィリピンに上陸し、ルソン島を中心にフィリピンで13名が亡くなったほか、約1,200棟の家屋が倒壊するなどの被害を出しました。

他にも、「ワシ(2011年台風23号)」「コップ(2015年台風24号)」「ハト(2017年台風13号)」「テンビン(2017年台風27号)」がアジア名を引退しています。

アジア名がつけられないケースも

番号はふられても、アジア名がつかない台風もあります。
今年、8月12日に、西経域から進んできたハリケーンDORAが、東経180度線を越えてミッドウェー諸島近海で強い台風8号(ドーラ)となりました。これが、そのケースです。ハリケーンが気象庁の監視領域に入ってきて台風になったことで、アメリカの国立ハリケーンセンターが定めたリストからつけられたハリケーン名がそのまま使われています。
域外のハリケーンが気象庁の監視領域に入ってくるのは、数年に一度程度の頻度で、2018年の台風17号(ヘクター)以来、5年ぶりのことでした。

このように、発達した熱帯低気圧が東経180度よりも東の領域から、または東経100度よりも西の領域から北西太平洋域に侵入してきた場合には、それぞれの領域を担当する気象機関によって既に付けられた名前が継続して使われることになっています。

名前に惑わされずに

台風が発生した時に出される気象情報は、自分自身や大切な人たちの命と財産を守るために、しっかりと備え、早めの行動に移せるように、進路や勢力、大きさなどをしっかりとチェックすることが大切です。
気象情報をこまめに確認して、安全を確保した上で、アジア名などにも注目してみると、もしかしたら台風に親しみがわいて、さらに興味が深まるかも知れません。台風のアジア名は、テレビのニュースや気象予報などではあまり触れられないかも知れませんが、民間の気象機関によるニュースやSNSでは台風が発生した時にはアジア名もあわせて発表されています。
アジア名もぜひチェックしてみてください。そこから楽しみや興味も、さらに広がるはずです。

しかし、くれぐれも、アジア名はリストから順に付けられているだけで、台風の特徴を示すものではありません。
動物や花の名前など、穏やかそうな名前がついていても、猛威をふるう台風もあります。
ご注意ください。

台風が発生した時には、早めの決断と行動が大切です。
そして、日頃からしっかりと台風への備えもしておきましょう。

参考資料


気象庁 台風の番号とアジア名の付け方


お天気.com 台風の名前の付け方と名前の一覧


ウェザーニュース 台風の名前はどうやって決める?日本など提案のアジア名140個の呼び名リスト


ウェザーニュース 台風の名前リストが更新 日本提案のアジア名も一部が新しい呼名に


デジタル台風 台風の名前(アジア名)


デジタル台風 ニュース・ウェブログ2023


この記事を書いた人

瀬尾 さちこ

防災士。住宅建築コーディネーター。整理収納コンサルタント。

愛知県東海市のコミュニティエフエム、メディアスエフエムにて防災特別番組「くらしと防災チャンネル(不定期)」、「ほっと一息おひるまメディアス(毎週水曜日12時〜)」を担当。
以前の担当番組:みんなで学ぶ地域防災(2021年~2021年)、防災豆知識(2019年~2021年)
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