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同時多発的に発生しやすい「地震で起きる火災」。普通の火災との違いを知って備えよう

消防庁の統計によると、年間で一番火災の多くなる季節が、3月〜5月の春の季節。2番目に火災の多くなる季節が12月〜2月の冬の季節だと出されています。こうした火災の多くが、住宅などの建物火災で、ほとんどのケースがどこか1か所のみで発生します。
しかし、季節に関係なく同時多発的に発生する可能性のある火災もあります。
大きな地震が起こったことで発生する「地震火災」です。

地震火災からの避難は「逃げ惑い避難」とも言われていて、火災が襲ってきて走って逃げたけれど追いつかれてしまったという形ではなく、地域のあちこちで同時刻に火災が発生し、地震の揺れによる道路の破損や、強風が重なれば延焼を招き、逃げ場を失って命を落としてしまうという最悪の事態を引き起こします。
しかし、地震火災の発生原因や対策などを知って、備えておくことで、リスクを減らすことはできます。
過去の事例から学び、備えておきましょう。

発災直後から停電の復旧にかけて—阪神・淡路大震災で発生した火災—

阪神・淡路大震災 住家被害と延焼被害(出展:財団法人消防科学総合センター 災害写真データベース)

1995年の1月にマグニチュード7.3、最大震度7の揺れに襲われた阪神・淡路大震災では、震災当日だけで兵庫県内では100件以上の火災が同時多発的に発生し、7,035棟が全焼し、80棟以上が半焼しました。焼損床面積は、合計833,346㎡にのぼり、数日後に火災がおさまった後には400人以上がご遺体で見つかりました。
震災当時の風速は3m前後の非常に弱い風でしたが、これだけの地震火災による被害にのぼりました。もしも強風が吹いていたら、さらに大きな被害をまねいていたかも知れません。

1996年に日本都市計画学会で発表された学術論文によると、すべての出火原因については特定できなかったものの、ヒアリング調査のできた80件のうち、一番多かった火元は電気器具(15%)、ついで石油ストーブ(11.3%)、電気配線(8.8%)、ガス器具(7.5%)
でした。
発災が1月の早朝だったこともあり、直後には振動で電気ストーブや石油ストーブ、ガス器具などが倒れたり、電線や屋内配線がショートしたり、薬品の反応などによって出火しました。

さらに、翌日以降には、救助や確認のために起こした火などが余震によって燃え広がったり、停電が復旧するに伴ってスイッチの入ったままの電気器具が過熱したり、屋内の配線からの漏電やショートを起こして火災を招く「通電火災」が発生しました。
また、停電時にろうそくを使って灯りを取っていた最中に余震が発生し、火災が発生したケースもあります。
市販されている非常持ち出し袋には、ろうそくがセットされているものもありますが、地震による火災を防ぐという観点では、注意が必要です。豪雨災害による停電ではろうそくも使えますが、地震の際にはろうそくではなく、懐中電灯やランタンで灯りを取るようにしましょう。

災害による停電時の明かり対策については、こちらの記事をご参照ください

津波による火災も—東日本大震災での火災—

東日本大震災 津波と津波火災による市街地被害(出展:財団法人消防科学総合センター 災害写真データベース)

2011年に宮城県沖で発生し、マグニチュード9.0、最大震度7が観測された東日本大震災では、2011年の消防白書によると、宮城県で135件の火災が発生したほか、青森県、岩手県、秋田県、福島県、茨城県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県の、1都10県で、地震直後から累計で286件の火災が発生したと報告されています。
阪神・淡路大震災の時と同様に、地震で破損した家屋での電気の断線やショート、漏電などのほか、電気ストーブなどが転倒したり可燃物がストーブなどに落下したことによる出火や、停電のために使用していたろうそくによる出火なども報告されています。

こうした、一般的な地震火災の他に、東日本大震災で特徴的だったのが、津波が大規模な市街地災害を引き起こした(津波火災)ということです。
岩手県では、合計で237,600㎡にわたる大規模な市街地火災のほか林野火災を、宮城県でも174,300㎡にわたる市街地火災のほか、林野火災や、津波により破損した危険物施設から発生した石油コンビナート火災を引き起こしています。
津波火災は、津波によって浸水した住宅や電気系統がショートした自動車から出火した火災が、自動車や船舶、倒壊した港の貯油タンクなどから流れ出した燃料や住宅のガスタンクから漏れたプロパンガスに引火したりし、それが瓦礫に燃え移ることによって発生します。出火した瓦礫などが、さらに炎をともに漂流することで、さらに市街地や森に火災を広げます。
大量のがれきや津波による浸水で、消防隊が火災の起きている地点に接近できず、消火活動に困難をともない、さらに延焼を広げます。

地震による火災を防ぐには

地震火災や津波火災など、地震をきっかけに発生する火災を防ぐポイントは、「生活習慣の改善」「住宅の耐震化」「備えの見直し」「電気ブレーカー対策」、主にこの4つです。
冬場に地震が発生した場合、発災後すぐに起こる可能性の高いのが、電気ストーブや石油ストーブによる火災です。ストーブの近くに洗濯物を干したり、カーテンの近くなどの燃えやすいものの近くにストーブなどを置いていらっしゃるご家庭は、見直しが必要です。
布類だけでなく、ヘアスプレーや殺虫剤などのスプレー缶、紙類なども、地震で大きな揺れが発生した場合には倒れたストーブから引火する可能性が高くなります。本棚が倒れてきて、散乱した本にストーブが引火するというケースもあるので、家具全体の配置も含めて、見直しておきましょう。

住宅の耐震化をはかっておくことも、地震発生時の怪我などを防ぐばかりではなく、地震火災発生のリスクを軽くすることにつながります。住宅が倒壊すれば、ガス管や電気関係の破損にもつながり、火災を引き起こす原因になります。プロパンガスも固定されていなければ、転倒しガス漏れにつながります。プロパンガスを使用している地域にお住いの方は、しっかりと固定しておくようにしましょう。
1981年(昭和56年)6月以前の旧耐震基準で設計されている住宅は、市町村の無料耐震診断などを受け、必要に応じて耐震工事をすることが必要です。また、住宅の築年数にかかわらず、室内の家具の固定をしておくことも大切です。地震の揺れにより家具が転倒して、近くに置かれている電化製品の配線が下敷きになってしまうと、漏電やショートの原因になります。

また、停電時の備えに関しても見直しておきましょう。明かりの確保としてろうそくのみを備えていらっしゃる方は、備えが不十分です。ろうそくは、地震の際には使用できません。必ず、懐中電灯やランタンを備えておきましょう。

さらに、通電火災を防ぐには、避難するときには必ず電気ブレーカーを落とすことが大切です。ガスをお使いのご家庭では、ガスが自動停止されているかとともに、電気ブレーカーを確実に落としたか、確認をして避難先に向かいましょう。
大きな地震などが発生して、急に避難しなければいけない状況になると、気が動転してしまう可能性もあります。地震による揺れが大きい時には、蓋つきの分電盤を使っているご家庭では、蓋が開かなくなってブレーカーを落とせなくなる可能性も否定できません。こうした心配を取り除くために、「感震ブレーカー」という、地震の揺れを感知すると、自動でブレーカーを落としてくれるものもあります。感震ブレーカーには、大がかりな工事が必要なものもありますが、比較的、安価で後付けできるものもあります。ただし、地震の揺れを感知して自動でブレーカーを落とすので、地震の発生とともに、急に電気が消えて真っ暗になることもあります。
感震ブレーカーをお使いのご家庭では、常に懐中電灯やランタンを各部屋の手に取りやすい場所に用意しておく必要もあります。

もしも大きな地震が発生したら

地震による火災を引き起こさないように、ご自宅での対策をしっかりとっておいたとしても、被害にあうリスクを完全に無くすことは、残念ながらできません。
ご自宅からの出火は避けられたとしても、近隣から出火する可能性は考えられることです。
地震による火災から身を守るためには、少しでも早く避難することが必要なのです。
「大きな地震が発生したら、火災も起きるかもしれない」と予測し、一刻も早く、避難すべきかどうか判断するようにしましょう。
そして、もしも避難する前に地震火災が発生してしまった場合には、風上側に向かって、とにかく広い道路や川沿いに出て、そこから避難場所などに向かって逃げるようにしましょう。
早い判断と行動が、災害時にはご自身と大切な人の命を守ることにつながります。

この記事を書いた人

瀬尾 さちこ

防災士。住宅建築コーディネーター。整理収納コンサルタント。

愛知県東海市のコミュニティエフエム、メディアスエフエムにて防災特別番組「くらしと防災チャンネル(不定期)」、「ほっと一息おひるまメディアス(毎週水曜日12時〜)」を担当。
以前の担当番組:みんなで学ぶ地域防災(2021年~2021年)、防災豆知識(2019年~2021年)
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