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いつ起こるかわからない大地震。「冬の深夜・強風」の最悪の被害想定から備えを考えよう

「大地震はいつ起こるかわからない」とはよく言われることです。早朝かもしれませんし、昼間かも知れません。夕方、食事の用意をしている時かもしれませんし、深夜の寝ている時かもしれません。真夏の猛暑日かも知れませんし、真冬の雪が降るような日かもしれません。梅雨の雨が続くお天気の中でかも知れませんし、強い風が吹いている日かも知れません。

台風や豪雨などの気象災害は、ある程度、発生を予測することができます。予報が出されてから、ある程度、備えたり、あらかじめ避難行動をしておくことも不可能ではありません。しかし、地震は、気象情報のように、いつ・どこで発生するのか予測することはできません。大地震は、突然アラートが鳴り、その数秒から数分後に大きな揺れが来て、場合によっては津波に襲われることになります。

いつ起こるかわからないからこそ、いつ来ても自分や身近な大切な人などを守ることができるように、常に大地震の備えをしておくことは重要です。大地震の被害想定には、「最悪の事態が起こる条件」が出されています。そのような状況下で大地震が発生したとしても、生き残ることができる備えが必要なのです。

内閣府では、南海トラフ巨大地震の被害想定を出しています。南海トラフ巨大地震の発生の可能性は、日本の太平洋側に広くまたがっており、陸側が震源になるパターンや、海側が震源になるパターンも考えられ、東海地方が大きく被災するケース、近畿地方が大きく被災するケース、四国地方が大きく被災するケース、九州地方がケースなど、様々な可能性が考えられます。しかし、どのように発生したとしても、最悪な被害を想定されている季節・時間帯があります。

冬の深夜、そして、風速8m/sの強風が吹いている場合です。

南海トラフ巨大地震で想定されている死者数

内閣府の被害想定では、最も死者数の多いパターンの地震で以下のような報告がされています。

東海地方が大きく被災するケース

冬の深夜 (平均風速)約230,000人 (風速8m/s)約231,000人
冬の夕方 (平均風速)約170,000人 (風速8m/s)約171,000人
夏の昼 (平均風速)約143,000人 (風速8m/s)約144,000人

近畿地方が大きく被災するケース

冬の深夜 (平均風速)約178,000人 (風速8m/s)約179,000人
冬の夕方 (平均風速)約134,000人 (風速8m/s)約136,000人
夏の昼 (平均風速)約105,000人 (風速8m/s)約107,000人

四国地方が大きく被災するケース

冬の深夜 (平均風速)約144,000人 (風速8m/s)約145,000人
冬の夕方 (平均風速)約110,000人 (風速8m/s)約111,000人
夏の昼 (平均風速)約 81,000人 (風速8m/s)約 81,000人

九州地方が大きく被災するケース

冬の深夜 (平均風速)約143,000人 (風速8m/s)約144,000人
冬の夕方 (平均風速)約108,000人 (風速8m/s)約109,000人
夏の昼 (平均風速)約 79,000人 (風速8m/s)約 80,000人

どの地域が大きく被災するケースだとしても、またどの時間帯、どの季節だとしても、風速8m/sの風が吹いている時には、1,000人ほど多くの人が亡くなると想定されています。地震火災が風で延焼したり、津波などによって濡れた身体が冷えて低体温症を起こすことで死亡するケースが増えてくると考えられます。風邪を引くなどして亡くなるケースも考えられています。

また、どの地域が大きく被災するケースでも、夏のお昼よりも冬の夕方の方が死者が多くなると想定されています。食事の準備の時間帯での火災も考えたとしても、冬の方が被害が大きくなる傾向にあるということです。冬の深夜になると死者数の想定はさらに多くなり、夏の昼間の2倍近い人々の命が失われると想定されています。
冬の深夜に発生する大地震は、それだけ多くのリスクがあるということを、想像していただけるはずです。

しかし、この被害想定は、「これまで以上の備えを、何もしなかった」場合です。
こうしたリスクについて知り、備え、いざという時には命を守る行動をいち早く取ることで、被害を減らすことはできます。ひとりひとりが取り組めば、この想定される死者数の一人に入らずに済むはずです。

避難行動の開始が遅れがちな深夜

就寝中に地震が発生しても、すぐに避難行動に移すのが難しいことは、容易に想像できるはずです。地震による大きな揺れを感じたとしても、正常性バイアス(異常なことが起こった時に「たいしたことではない」と悪い状況を無視したり状況を過小評価してしまう認知特性)が無意識に働き、再び眠りにつこうとしてしまうかも知れません。もしも津波が迫っていたり、火災が近隣で発生していたとしたら、命を落とすことにつながります。

冬の季節の寒い時であれば、なおさら、避難が必要な場合であっても行動に移すことは難しくなるはずです。夜の暗さは、状況把握を困難にさせ、避難経路での事故などにもつながります。また、避難できたとしても、0度近くまで下がる冬の深夜の気温で低体温症になる可能性もあります。

大地震が発生して、津波や火災が迫っている時には、深夜であっても、やはりいち早く避難行動をおこすことが大切なのです。
もしも大地震が起こったら、できるだけ状況を正確に把握できるように、ラジオやスマートフォンと懐中電灯を枕元に備えておきましょう。眼鏡や補聴器などを普段から使用している方は、そうしたものも枕元に備えておくことが必要です。室内の割れたもので怪我をしないよう底の厚めなスニーカーやスリッパをベッドサイドに備えておくことはもちろん、冬の深夜でも躊躇なく避難できるように、ダウンコートなどの暖かな上着も、寝室に備えておきましょう。

こうした備えが、地震の大きな揺れによって飛ばされてどこかへ行ってしまわないように、収納にも一工夫が必要です。

地震火災を防ぐために

大地震によって多くの人が亡くなると想定されている原因に、地震火災があげられます。出火は、食事の用意をしている時だけとは限りません。住宅そのものが大きく破損したり、倒壊した時にも火災が発生します。
また、地震にともなって停電が発生し、停電から復旧し再び通電した時に出火する「通電火災」が大地震発生時の大規模火災に繋がります。通電火災が発生した時の多くは、出火した住宅の住民はすでに避難していて、初期消火が行えない可能性があります。深夜の就寝時であれば、停電したことにも気付かないまま再通電して出火し、避難できないまま火災の犠牲になることも考えられます。暖房器具を使っている冬の風の強い日であれば、空気も乾燥しているため、さらに大規模な火災になることも。木造住宅が密集している地域では特に注意が必要だということも、想像できるはずです。

通電火災の引き金は、主に3つだと考えられています。
  1. 転倒した家具の下敷きになって破損した配線などに、再通電して発熱発火する
  2. 落下したカーテンや洗濯物などの可燃物がヒーターに接触した状態で再通電し、着火する
  3. 転倒したヒーターや照明器具が可燃物に接触した状態で再通電し、着火する
冬の火災防止として、ストーブやファンヒーターの周りに可燃物を置かないということをよく言われます。部屋干しの洗濯物をストーブやファンヒーターの近くで乾かしたくなるのは、多くの人に働く気持ちだとは思いますが、「もしも大地震が発生したら」と想像すると、そのリスクの高さをご理解いただけるはずです。ヒーターや電気ストーブなどは、スイッチを入れていなくてもコンセントがつながっているだけで、火災の可能性があるのです。暖房器具の周辺には、可燃物を置かないようにしましょう。

他に、日頃からできる対策としては、なによりも住宅の耐震性を高めておくこと、家具などの転倒防止対策を行っておくことが大切です。内閣府の南海トラフ巨大地震の被害想定では、火災にまでならなくても住宅の倒壊や家具などの転倒によって多くの人が亡くなるとも想定されています。

住宅用火災警報器を設置し、火災が発生した時には必ず作動するように点検とメンテナンスをしておくことも大切です。住宅用火災警報器の設置についてはこちらの記事でもご紹介しましたが、


冬の深夜の地震火災を想像してみると、その重要さがよりご理解いただけるのではないでしょうか。住宅用消火器も、キッチンだけでなく寝室やリビングなどにも備え、使い方を確認しておきましょう。

大地震が発生したら、避難するときにブレーカーを落とすのはもちろん、在宅していても停電中は電化製品のスイッチを切り、電源プラグをコンセントから抜くようにしましょう。石油ストーブやファンヒーターは、揺れを感知して自動で消火されるものがほとんどですが、転倒することなどで油漏れを起こすことがあります。火災が発生した時は、そうした漏れ出た油に引火して被害を大きくすることがあります。

電気やガスが復旧し、避難先などから戻ったら、電化製品やガス機器などの使用を再開する前には、近くに燃えやすいものがないか、機器に破損などがないか確認するようにしましょう。しばらくは電化製品から煙やにおいなどの異常がないか注意を払い、異常があった場合には使用を中止しましょう。

大地震が発生した時には、在宅避難を続けるとしても、暖房器具が使えなかった場合にどう寒さをしのぐのかということを考え、備えておくことも必要です。

冷えないように、濡れないように

冬の寒さや津波などの水に濡れることは、低体温症などを引き起こす外的要因にもなり、重症化すれば命を落とすことに繋がります。低体温症とは、内臓などの身体の深い部分の体温が35度を下回る状態のことです。指先などが冷える、冷え性とは違います。
低体温症になると、様々な臓器が正常に働かなくなり、「気を失う」「もうろうとする」「不整脈を起こす」などして、死に至ります。高齢者やダイエット中の人など、基礎代謝が低下することや、ストレス、甲状腺などの内分泌腺の機能低下も原因になりますが、冬の深夜に大地震が発生すれば、寒さにさらされることや津波に巻き込まれて漂流することなどで、誰でも低体温症になる可能性はあります。

津波のリスクのある地域では、たとえ空振りになったとしても、大地震が発生した時にはいち早く津波ビルなどへ避難するようにしましょう。もしも雨が降る中で避難する場合には雨合羽が必需品であるのは言うまでもありませんが、着替えなどを濡らさないように、ビニール袋などに着替えを入れた上で非常用持ち出し袋に入れて、持ち出すようにしましょう。

避難所にたどり着けたとしても、避難所にもすぐには暖房が入れられないことも考えられます。発災から数日間を乗り切れる寒さ対策が必要です。近年は、段ボールベッドを導入する避難所も増えてきましたが、床に雑魚寝しなければならない場合には、床から熱が奪われます。避難所に毛布が届かない、毛布が足りないこともあります。寝袋と銀マット(寝袋の下に敷くマット)や、ダウンコートと毛布、厚手のヨガマットなど、寒さ対策の装備を非常用持ち出し品として備えておくとよいでしょう。
逆に、夏は、うちわや冷却タオル、保冷剤などの暑さ対策グッズも必要です。非常用持ち出し袋も、衣替えが必要です。

液状化のリスクがある地域かどうか確認を

内閣府の「南海トラフ巨大地震の被害想定」では、死者数とその原因の他に、建物が倒壊する数とその原因も想定しています。地震の揺れや津波、火災に次ぐ多さで想定されているのが、液状化です。
地中の地下水の圧力が高くなり、砂でできた地盤の結びつきがバラバラになって、地下水に浮いたような状態になることを、液状化と言います。建物が沈んだり、傾いたりするほか、地下道のマンホールが浮き上がるなどします。こうした地域では、大きな地震が発生すると、あたりが洪水のような状態になり、電柱なども倒れる可能性があります。お住いの地域が液状化のリスクがあるかどうか、ハザードマップなどで確認し、液状化対策のための工事の検討をしてください。簡単な工事ではありませんが、液状化のリスクは大きなものです。

参考資料

内閣府政策統括官(防災担当) 南海トラフ巨大地震の被害想定について

内閣府(防災担当) 日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震対策検討ワーキンググループ
日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の被害想定について【被害の様相】

消防庁予防課 消防の動き‘20年12月号 地震火災対策につい

健達ねっと 低体温症になる原因とは>低体温であるリスクや予防も紹介

東京都都市整備局市街地建築部建築指導課 液状化現象って何?

この記事を書いた人

瀬尾 さちこ

防災士。住宅建築コーディネーター。整理収納コンサルタント。

愛知県東海市のコミュニティエフエム、メディアスエフエムにて防災特別番組「くらしと防災チャンネル(不定期)」、「ほっと一息おひるまメディアス(毎週水曜日12時〜)」を担当。
以前の担当番組:みんなで学ぶ地域防災(2021年~2021年)、防災豆知識(2019年~2021年)
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