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木造住宅の倒壊につながるキラーパルスとは?地震によるゆれの周期とおきやすい被害

2023年2月6日におきたトルコ・シリア大地震では建物の倒壊が非常に多く、トルコとシリアの両国をあわせると5万6千人を超える死者数(2023年3月20日時点)となっています。この地震で建物の倒壊を多くおこした原因として、キラーパルスという言葉がテレビや新聞などのニュースで取り上げられました。キラーパルスと呼ばれる“ゆれの周期”は、建物の倒壊が多くおきた阪神・淡路大震災や熊本地震でも観測され、とくに木造の建物を多く倒壊させることがわかっています。
今回はゆれの周期によって変わる、被害の違いについて解説をします。

ゆれの周期とは

地震によるゆれはガタガタと間隔が短かったり、逆にグーラ、グーラと長かったりします。ゆれが1往復する時間を周期として、その長さによって下のように分類されています。
  • 極短周期 0.5秒以下
  • 短周期 0.5秒~1秒
  • やや短周期 1秒~2秒
  • やや長周期 2秒~5秒
  • 長周期 5秒以上
このようなゆれの周期が地表から建物や体に伝わることで、ガタガタやグーラ、グーラといったゆれの感じかたが異なってくるのです。
実際には長い周期や短い周期が混ざって同時に伝わってくるのですが、地震計に記録された観測データを分析すると、それぞれの周期がどれくらいの強さであったかがわかります。
このゆれの周期の違いによって、同じ震度でもおこる被害が異なってきます。周期が長ければ高い建物が大きくゆれ、周期が短ければ低い建物が大きくゆれるのですが、この建物ごとのゆれやすい周期は「固有周期」と呼ばれています。

高層ビルへの影響が大きい長周期地震動

2023年2月より緊急地震速報に長周期地震動階級が加わったため、ニュースや新聞で「長周期地震動」という言葉を見聞きした方も多いかもしれません。
この「長周期地震動」が想定するゆれの周期と、先ほど紹介した「やや長周期」「長周期」といった分類の周期は異なってくるのですが、気象庁が発表する長周期地震動階級では1.6~7.8秒周期のゆれが大きかったときに発表されます。
一般的には15階建てのビルの固有周期は約1.5秒、30階建てのビルは約3秒、50階建てのビルは約5秒となっていますので、長周期地震動階級の速報があり15階以上の建物にいるときには注意が必要です。

長周期地震動の特徴として、長い周期のゆれは震源からかなり遠くまで届くことがあります。東日本大震災がおきた時には震源から700キロ以上も離れた大阪府の庁舎に被害がありました。庁舎のゆれは10分間も続き、ゆれの大きさは片側で最大1mとなりました。このゆれでエレベーターでの閉じ込めや、天井が落下しています。
また、2003年の十勝沖地震では、震源から約250km離れた苫小牧市の石油コンビナートでタンク内の石油がゆらされ浮き屋根が落ちてしまい、静電気によって火災が発生しています。

高層ビルは高い耐震設計で建てられていますので、ビル自体が倒壊する可能性は極めて低いものの、棚などが倒れてきたり、複合機・コピー機が加速しながら移動して人にぶつかったりするほか、パソコンのディスプレイが飛んでくることもあります。長周期地震動階級の速報がきた時には身を守り、エレベーターは使用しないようにしましょう。

そのほか、長周期地震動の詳しい解説はこちらの記事でしていますので、参考にしてみてください。

木造住宅など、低層の建物が倒壊しやすいキラーパルス

キラーパルスは学術的な言葉ではありませんが、木造住宅など低層の建物の倒壊につながることで注目を集め、ニュースなどでよく使われるようになりました。2023年のトルコ・シリア大地震でも非常に多くの建物を倒壊させた原因と考えられ、キラーパルスと関係性が取り上げられています。

キラーパルスは「やや短周期」に分類される1~2秒の周期のゆれで、阪神・淡路大震災や新潟県中越地震、2016年の熊本地震でおこり、多くの建物の倒壊をおこしました。

熊本地震では1秒と3秒の周期のゆれが強くおきています。地域によってどちらの周期が強かったかは異なるのですが、1秒周期が強くおきた地域では木造住宅の倒壊率が高かったこともわかっています。
逆の例として、多くの地域で津波によって甚大な被害をおこした東日本大震災では、ゆれの周期の多くは1秒以下、太平洋岸では0.5秒以下となっていました。そのため、震度の大きさに比例せず建物の倒壊は少なくなっています。

自宅の耐震化対策を

長周期地震動やキラーパルスによる被害の違いは明らかになっていますが、いつ、どこに、どんな地震がくるかはわかりません。そのため、どのような地震がおきてもよいよう、自宅を耐震化しておくことが大切です。

1981年に建築基準法が改正され「新耐震基準」が制定されましたが、阪神・淡路大震災では新耐震基準の建物を含む多くの住宅が倒壊しました。そのため、建物が倒壊した原因が調査され、その結果をもとに木造住宅を対象にさらなる基準を追加した「2000年基準」が設けられました。
その後、2000年の改正以降におきた震度7の熊本地震では、新耐震基準と比べて2000年基準の被害は少なく、新耐震基準では倒壊・崩壊 8.7%/大破 9.7%、2000年基準では倒壊・崩壊 2.2%/大破 3.8%と大幅に減っています。
しかし、耐震基準法は新しく建築物を建てるときの規則となるため、改正以前の建物には倒壊するリスクが残っています。自分の住んでいる建物がいつ建てられたかを確認して、必要であれば耐震診断や耐震補強を行いましょう。


新しく住宅を建てる場合には、建築基準法で定められた耐震基準とは別に、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」で定められた「耐震等級」という基準があります。耐震等級1では建築基準法の耐震基準と同等、耐震等級2は1.25倍、耐震等級3は1.5倍の強さであることが決められています。
熊本地震では耐震等級3の建物には大きな損傷が見られず、大部分で被害が無かったという調査結果がありますので、新しく住宅を建てる場合には耐震等級についても検討してみてください。


参考資料

白山工業株式会社 - HAKUSANライブラリー 地震の基礎知識

総務省消防庁 東日本大震災記録集
2.3 地震動の周期とその影響

中央大学 - 揺れ方(周期)の違いで発生する被害の違い

気象庁 - 長周期地震動とは?

気象庁 - 長周期地震動による高層ビルの揺れ方

気象庁 - 長周期地震動による被害

独立行政法人 建築研究所 東日本大震災最終報告を踏まえて ③長周期地震動の評価について

日本地震工学会論文集 第18巻, 第2号, 2018
2016 年熊本地震における地震動特性と木造住宅の倒壊率の関係


国土交通省 - 熊本地震における建築物被害の原因分析報告書
2章 地震及び地震動の特徴

東北地方太平洋沖地震による地震動の特徴

国土交通省 住宅局 「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会」報告書のポイント


この記事を書いた人

moshimo ストック 編集部

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