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もしも、道を歩いているときに大地震が発生したら...。ブロック塀などの下敷き、落下物にも注意を!

災害の現場などで「72時間の壁」という言葉が伝えられ続けています。72時間(災害後3日間)の壁というのは、人命救助のタイムリミットのこと。阪神・淡路大震災では、多くの人が倒壊した家屋や転倒した家具などの下敷きになり、命を落としました。救出されて一命をとりとめた人もいましたが、その多くは災害発生から3日間の間に、共助により救出された人たち。被災地内での消防・警察の人員が足りず、近隣の人たちの救出もできずに、命を落とした人たちが多くいました。
大規模な地震が発生した時には、発災直後から、いかに怪我をしないか、いかに生き残るのかが重要になります。
こうしたことから、住宅の耐震化や、家具・家電の固定などの重要性が広く伝えられるようになりました。今後、高い確率で発生すると言われている南海トラフ巨大地震や首都直下型地震に備えて、ご家庭や職場で、建物の耐震化や家具・家電の固定などをしている方も多いかもしれません。
しかし、意外と盲点となっているのが、屋外です。ブロック塀や自動販売機、エアコンの室外機や看板なども、倒壊や転倒・落下などによって、命を危険にさらすことがあります。

倒壊したブロック塀で登校中の児童が亡くなった大阪府北部地震

2018年6月18日、午前7時58分。大阪府北部でマグニチュード6.1の地震が発生しました。大阪市北区、高槻市、枚方市、茨木市、箕面市で、震度6弱。大阪府、京都府、滋賀県、兵庫県、奈良県の一部市区町村で震度5弱以上を観測されています。この地震での住宅被害は、大阪府を中心に全壊が21棟、半壊が454棟、一部破損が約5万7千棟。地震によって6名の方が亡くなりました。この、6名の亡くなった方のうち、2名はブロック塀の倒壊に巻き込まれたものでした。

大阪府高槻市の小学校のプールのブロック塀が約40メートルにわたって倒れ、登校途中の4年生の児童が下敷きになって亡くなるという、いたましい事故が発生しました。

のちの調査で、このブロック塀は高さが2.2mを超えていることや、控壁と言われる壁面に対して直角に一定間隔に設置しなければいけないブロック塀の強度を増すための壁がないこと、鉄筋が壁頂まで届いていないことなど、建築基準法施行令で定められている基準に対していくつかの問題点があったことがわかっています。

普段、何気なく近くを通っているブロック塀が、大きな地震が発生した時には命を危険にさらすものとなる可能性があるのです。

大阪府高槻市では、すべての公共施設でのブロック塀を撤去し、フェンスなどに切り替えているほか、民間の住宅にもブロック塀の撤去に必要な費用の補助を行なっています。こうした動きは、多くの他の都道府県にもあります。

1980年(昭和55年)以前の古いブロック塀には特に注意を

建築基準法では、1981年の改正で「新耐震基準」が施行されて、1981年(昭和56年)以前に建築された建物には耐震性が不十分なものが多く存在することから、新耐震基準以前に建てられた建物の耐震診断・耐震改修が広く呼びかけられています。

建築基準法では、ブロック塀についても基準を定めています。
1980年(昭和55年)に制定され、建物の新耐震基準の施行と同様に、1981年に施行された建築基準法では、「高さは2.2m以下にすること」「長さ3.4m以下ごとに径9mm以上の鉄筋を配置した控壁(主壁に当たる部分に対して直角に取り付けられる壁)で基礎の部分において壁面から高さ5分の1以上突出したものを設けること」「壁の厚さは15㎝(高さ2m以下の塀では10㎝)以上とすること」など、現在の基準に沿ったものとなっています。

ブロック塀の中でも特に、こうした基準を満たしていないものは、大地震が発生した時には倒壊などのリスクが高くなります。
1980年以前に設置されたブロック塀や、建築基準法で定められた基準を知らないままDIYなどで設置されたブロック塀は、注意が必要です。

ブロック塀のある住宅では、安全が確保されているものかチェックを

自宅にブロック塀がある方もいらっしゃるかも知れません。いつから設置されているブロック塀なのか、建築基準法による耐震基準を満たしているかどうかも、契約書や設計図などから確認するのは難しいでしょう。

国土交通省では、誰でもできる、ブロック塀等の点検のチェックポイントを紹介しています。
自宅などにブロック塀のある方は、チェックしておきましょう。
5つのチェック項目のうち、1つでも当てはまらないことがあれば、専門家に相談し、撤去することや補強工事、生垣やフェンスに取り換えることなどを検討しましょう。

ブロック塀等の点検チェックポイント(国土交通省H Pより)]

  1. 塀は高すぎませんか?(塀の高さは地盤から2.2m以下になっていますか?)
  2. 塀の厚さは十分ですか?(塀の厚さは10cm以上、必要です。塀の高さが2m~2.2m以下の場合には、15cm以上の厚みが必要です。)
  3. 塀の高さが1.2mを超えている場合は、控壁はありますか?(控壁とは、主壁に当たる部分に対して直角に取り付けられる壁のこと。壁の長さが3.4m以下ごとに、塀の高さの1/5以上突出した控壁が必要です。)
  4. 基礎はありますか?(ブロック塀には、コンクリートの基礎が必要です。)
  5. 塀にひび割れや傾きはありませんか?
このほか、塀の中に鉄筋が入っているかも大切なポイントです。塀の中に直径9mm以上の鉄筋が、縦横ともに80cm間隔以下で配筋されていて、縦に入っている鉄筋が壁頂部と基礎の横に入っている鉄筋に、横に入っている鉄筋は縦に入っている鉄筋に、それぞれかぎ掛けされているかどうか。また、基礎の根入れ(土の中に埋まっていること)の深さが30cm以上あることも必要です。
ただし、鉄筋の配筋や基礎については、専門家でないと確認することは難しいかもしれません。不安があれば、専門家(信頼できる外構工事専門業者など)に相談するようにしましょう。

危険なブロック塀を撤去し、生垣に替えていくことを、多くの自治体ではすすめています。ブロック塀の撤去と生垣の設置に補助金や助成金を交付している自治体も多くあります。ブロック塀の耐震診断や撤去工事などを行う前に、お住まいの自治体で補助金・助成金を出しているかどうか、確認して手続きをしましょう。
お住まいの市町村でブロック塀などの安全対策のための支援制度が行われているかどうかは、一般社団法人日本建築防災協会のH Pから担当部署の連絡先とともに確認することができます。

自動販売機・電柱・鳥居・灯籠などの転倒、倒壊にも注意

ブロック塀の他にも、外にいるときに大きな地震が発生した時には注意が必要なものがあります。
神社などにある鳥居や灯籠、電柱、自動販売機も転倒・倒壊の可能性があります。

鳥居や灯籠は、震度6程度の地震によって、各地で転倒や倒壊したケースが見られます。
2022年6月19日に石川県能登地方で発生した最大震度6弱の地震では、珠洲市の春日神社で鳥居が根本から倒壊したほか、10基近くの灯篭が転倒するという被害が出ています。阪神・淡路大震災では神戸市の生田神社で、東日本大震災では山形県の光丘神社や茨城県の鹿島神社の鳥居が倒壊しています。熊本地震では、596基もの鳥居が被害を受けています。

建築基準法施行令では、鳥居については今のところ特に規定がなく、私たちのできる対策としては「できるだけ近づかないようにする」ことです。

電柱も過去の震災では多数倒壊しています。
阪神・淡路大震災では電力関連の電柱が約4,500基と通信関連の電柱が約3,600基、東日本大震災では津波によって電力関連の電柱が約28,000基と通信関連の電柱が約28,000基倒壊しています。

地震や津波だけでなく、台風や竜巻などでも倒壊する被害が出ていますが、「大きな地震が発生したら、電柱も倒壊するかもしれない」と考えておくことは必要です。電柱が倒壊すれば、断線した電線が垂れ下がることも考えられます。避難するときにも、できるだけ近づかないように、触れないように、頭上にも注意するようにしましょう。

清涼飲料自販機やたばこ自販機なども、過去の震災では転倒の被害が発生しています。内閣府では、首都直下型地震が発生した場合、このまま対策を取らなければ約63,000基の自動販売機が転倒する可能性があると、被害想定しています。

清涼飲料の製造や販売業者による連合会、一般社団法人全国清涼飲料連合会では、2008年4月1日から「自動販売機据付基準」の運用を始めていますが、私たちも、古いタイプの自動販売機や基礎に固定されておらず台座に乗っているだけのような自動販売機には大規模な地震が発生した際にはなるべく離れるようにすること、安易に近づかないようにすることが大切です。

もしも下敷きになっている人が近くにいたら、できるだけ救助・救出を

災害時には、自身の安全を確保することが最優先です。自分の身は自分で守る、自助がなによりも大切なのは、災害時の鉄則と言ってもいいでしょう。それでも、ブロック塀や鳥居・灯籠、自動販売機などの倒壊・転倒、看板などの落下に巻き込まれて、下敷きになってしまうこともあります。これまでの震災では、そうした下敷きや閉じ込めなどの救助・救出を近隣の人が行う「共助」で多くの命が救われてきました。

災害時にもしも下敷きになってしまった人が近くにいたら、自身の安全を確保した上で、できる限り救助・救出にあたりましょう。
救助・救出にあたる場合には、二次災害を防ぐためにも一人では行わず、数人で協力して行います。
下敷きになってしまっている人を見つけたら、まずは声をかけて安心感を与えるようにします。余震などや落下してきそうなものが近くにないか、足場は安全かなどを確認した上で、あらかじめ手で取り除けるものを素早く取り除きましょう。角材やバールなどを使って、てこの原理を利用して落下物やがれきなどを持ち上げて隙間を作り、再び崩れてこないように角材などのものを挟んで空間を作った上で、救出します。車のジャッキが入るような隙間があれば、車のジャッキを使うのも良いでしょう。
物を持ち上げた際には、他の場所が圧迫されないように注意するとともに、救助・救出にあたる人たちが巻き込まれないように安全を確保しましょう。
また、救出する際には、下敷きになっている人に声をかけながら、慎重に引きずり出します。

無事に救助・救出され大きなケガがないとしても、身体の一部分でも圧迫が加わった場合には、医師の診断を受けることが必要です。「クラッシュシンドローム」で重篤な状態になることを防ぐためです。クラッシュシンドロームは、がれきなどの重いものに、腰や腕、脚などが長時間挟まれて、その後圧迫から解放されたときに起こる病気です。筋肉が圧迫されると、筋肉細胞が障害や壊死を起こし、毒性の高い物質が蓄積されます。血流に乗って毒素が急激に全身に広がると、心臓や腎臓にダメージを受け、後日、死に至ることがあります。
特に、暗赤色の尿が出たり、腫れたり、感覚がなくなるようなことがあったら、速やかに医師の診断を受けましょう。

点検や対策を行うことで、被害は減らせます

南海トラフ地震や首都直下型地震など、今後発生が予測されている大規模な地震を避けることはできません。しかし、被害を減らすことは、私たちにもできることです。
ブロック塀や自動販売機などを設置しているところでは、耐震の基準に適合しているか、ぜひ確認し、もしも適合していない場合には対策をしておきましょう。建築基準法では定められていない鳥居や灯籠なども、神職に携わる方たちにはぜひ確認・対策をしておいていただきたいところです。
看板や標識、マンションなどの高いところに設置されているエアコンの室外機なども、大規模な地震が発生した時には、落下する可能性があります。
地震による揺れを感じたら、こうした危険のあるところからはできるだけ離れるようにし、不用意に近づかない、避難するときにも注意しながら安全を確保することを心がけましょう。
被害を出さないように対策すること、自分の身は自分で守ることは、災害に対する備えでとても大切なことです。


参考資料>

内閣府防災情報 「生死を分けるタイムリミットは72時間」みんなでつくる地区防災計画

国土交通省近畿地方整備局 死者を減らすために

内閣府防災情報のページ 令和元年度版防災白書 大阪府北部地震

日経xTECH 酷似する2つのブロック塀死亡事故の教訓

NHK関西NEWS WEB 大阪北部地震4年 学校の塀倒壊で女児死亡 高槻市で黙とう

文部科学省 ブロック塀等に係る建築基準法施行令の主な改正経過

国土交通省 住宅・建築物の耐震化について

国土交通省 ブロック塀等の安全対策について

一般社団法人日本建築防災協会 耐震支援ポータルサイト ブロック塀等の安全対策(地方公共団体の支援制度)

国土交通省 ブロック塀等の安全確保に対する支援

一般社団法人全国清涼飲料連合会 転倒防止策

朝日新聞デジタル 地震で鳥居の東海相次ぐ 建築基準法の適用、都道府県で判断バラバラ

国土交通省 地震等による電柱の倒壊状況

内閣府防災情報のページ 中央防災会議(2005年4月12日) 首都圏直下型地震の防災対策

首相官邸 地震では、どのような災害が起こるのか

東京消防庁 救助・救出訓練の指導

この記事を書いた人

瀬尾 さちこ

防災士。住宅建築コーディネーター。整理収納コンサルタント。

愛知県東海市のコミュニティエフエム、メディアスエフエムにて防災特別番組「くらしと防災チャンネル(不定期)」、「ほっと一息おひるまメディアス(毎週水曜日12時〜)」を担当。
以前の担当番組:みんなで学ぶ地域防災(2021年~2021年)、防災豆知識(2019年~2021年)
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