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マンションやオフィスビル、デパートなどでも。震源地から離れていても大きな揺れに注意「長周期地震動」

大きな地震が発生した時、震源地から離れていても、大きく揺れて、家具が倒れたり大きく移動するなどの危険性がある場所があります。マンションやオフィスビル、デパートなどの高層ビルです。
船酔いを起こすようなゆったりとした揺れが、震源から遠く離れたビルに伝わり、高層ビルの上の階などでは、数秒から数分に渡って、大きな揺れを起こすことがあるのです。「長周期地震動」と呼ばれる揺れです。
長周期地震動によって、人的被害が出るおそれもあることから、気象庁ではこれまでの震度階級の他に、「長周期地震動階級」を策定するとともに、ホームページで「長周期地震動に関する観測情報」を提供しています。

高層マンションなどにお住いの方や、高層ビルにオフィスのある事業者やお勤めの方はもちろん、お買い物などで高層ビルにお出かけされる方なども、長周期地震動について知り、備え、いざという時に自分の身は自分で守れるようにしておきましょう。

長周期地震動とは

長周期地震動とは、大きな地震が発生した時に起こる、揺れが一往復するのにかかる時間(周期)が長い大きな揺れのことです。
地震は数秒から数十秒でいったん揺れが落ち着くケースがほとんどですが、長周期地震動では、高層ビルなどは長時間にわたって大きく揺れ続けることがあります。
高層ビルのような高い建物と、戸建て住宅のような低い建物(低層住宅)では、揺れ方にも違いがあり、揺れが一往復するのにかかる時間(周期)が短い揺れの場合には、低層住宅が大きく揺れやすいのに対して、高層ビルなどでは揺れを逃すように作られています。しかし、長い周期の揺れでは高層ビルなどは共振をして、振り子に力を加えると大きく揺れるように、上層階ほど大きく・長く揺れることがあるのです。

また、長周期地震動は、遠くまで伝わりやすいという特徴があり、震源地から数百km離れたような場所でも、高い建物では大きく長く揺れて、被害を出すことがあります。長周期地震動の大きさや揺れの長さは、地震の震度からは把握することが難しいのです。

「どこで・どれくらい揺れる?」過去の長周期地震動による被害

長周期地震動による被害が注目されるようになったのは、2003年に発生した、「平成15年十勝沖地震」でした。釧路沖深さ45kmでマグニチュード8.0、釧路町などで震度6弱を観測した地震でしたが、震源地から250km以上離れた苫小牧市で、長周期地震動と石油タンクの揺れが共振して、液体の表面が大きく揺れる現象「スロッシング現象」が発生し、タンク内の油に浮かせるタイプの屋根(浮き屋根)が破損して油の中に沈んだことで、約44時間燃え続けるという大きな火災が発生しました。長周期地震動で揺れた石油タンクの揺れ幅は最大3mに達したといいます。

2004年9月に発生した、紀伊半島沖と東海道沖を震源として、マグニチュード6.9と7.4、奈良県下北山村や和歌山県新宮市で震度6弱を観測した「紀伊半島沖・東海道沖を震源とする地震」では、震源域から遠く離れた大阪市や名古屋市でも長周期地震動が観測されて、高層マンションの上層階などが長時間にわたってゆらゆらと揺れ続けました。

同じ年に発生した、マグニチュード6.8、新潟県川口町で震度7を観測した「新潟県中越地震」では、震源から約200km離れた東京都港区の超高層ビルで6基のエレベーターが機器の損傷などで停止し、そのうち1基はエレベーターケーブルが切断する被害が発生しました。

また、2011年に発生した「東日本大震災」では、東京都新宿区の54階建ての高層ビルの最上階で54cmもの振れ幅を、地上から100mの28階では52cmの振れ幅を3秒間で揺れたことが観測されています。また、震源から約700km離れた大阪府大阪市の55階建ビルの最上階では、最大で振れ幅2.7mもの揺れが発生し、約10分間にわたって揺れ続け、エレベーターの閉じ込め事故などもありました。

今後30年以内に、70〜80%の確率で発生すると言われているマグニチュード8〜9クラスの地震「南海トラフ地震(東南海・南海地震)」でも、都市部の高層ビルなどで長周期地震動が発生することが心配されています。南海トラフ地震が発生した場合の長周期地震動に関して、政府の地震調査研究推進本部地震調査委員会や日本建築学会などでも研究やシミュレーションなどが行われています。
名古屋大学の実験では、東南海・南海地震が同時に発生した場合、名古屋市の中心部の高層ビルでは最大で振れ幅4mを3秒で往復すると予測されています。また、東京都内の50階建てビルでは、振れ幅2mに達する大きな揺れが、10分以上も続く可能性があると、東京消防庁では発表しています。

ビルそのものが倒壊することはなくても、部屋の中では家具が激しく移動したり、散乱するはずです。高層ビルや高層マンションなどでは、長周期地震動の発生を想定した備えが必要なのです。

長周期地震動による揺れの大きさの目安「長周期地震動階級」

長周期地震動の発生に関する情報は、気象庁のホームページで「長周期地震動に関する観測情報」 から確認できます。
その揺れの大きさは、地震の震度とは別に、階級1〜4までの「長周期地震動階級」で表されます。それぞれの階級の特徴と、どのような状況になると考えられているのかを知っておくことが、いざという時の行動や、備えに対しても、大切なヒントになるはずです。

長周期地震動階級1(やや大きな揺れ)

ブラインドなどの吊り下げたものが大きく揺れ、室内にいたほとんどの人が揺れを感じます。驚く人もいます。

長周期地震動階級2(大きな揺れ)

キャスター付き什器がわずかに動き、棚にある食器類や書棚の本が落ちることがあるくらいの揺れ。人は、室内で大きな揺れを感じ、物につかまりたいと感じます。物につかまらないと歩くことが難しいなど、行動に支障を感じるようになります。

長周期地震動階級3(非常に大きな揺れ)

間仕切り壁などがひび割れしたり、亀裂が入ることがあります。また、キャスター付きの什器が大きく動き、固定していない家具が移動することがあります。不安定なものは、倒れることがあります。人は立っていることが難しくなる揺れです。

長周期地震動階級4(極めて大きな揺れ)

間仕切り壁などのひび割れや亀裂が多くなります。キャスター付きの什器は大きく動き、転倒するものもあります。固定していない家具の大半が移動して、倒れるものもあります。人は立っていることができずに、はわないと動くことはできません。揺れにほんろうされます。

気象庁では、2022年の2月1日から、緊急地震速報でこれまでの地震の速報とともに、長周期地震動についても速報を発表する見込みです。※
速報で発表されるのは、非常に大きな揺れとなり、立っていることも難しくなる「長周期地震動階級3」から。10段階(震度0~4、5弱・強、6弱・強、7)で表される地震の震度階級・震度3では、屋内にいるほとんどの人が揺れを感じるようになり、食器棚にある食器が音を立てる程度の揺れですが、「長周期地震動階級」の3は、立っていることが難しくなるような揺れです。
「(地震の)震度3」と「長周期地震動階級3」では、揺れの程度も違います。長周期地震動階級3が出された時には、非常に大きく揺れ、ケガなどのリスクも高まります。

毎日新聞 「長周期地震動」を緊急地震速報に追加 気象庁、来年2月から

事前の備えは「家具類の固定」「レイアウト対策」「安全スペースの確保」を

東京消防庁の調査によると、2011年に発生した東日本大震災で、アンケートに答えた東京都内の11階以上の建物の約47%で家具類の転倒や落下、移動が発生したといいます。6階〜10階でも約32%が、3階〜5階でも約24%に家具類の転倒や落下、移動が発生しています。

「地震に対する備えは、家具固定が大切」というのはずっと言われてきていることですが、長周期地震動に備えるためにも、基本はやはり家具類の固定です。また、大きな振幅で長時間にわたって揺れ続けることのある長周期地震動では、キャスター付きの家具類への注意が必要です。長周期地震動による揺れでは、キャスター付きの家具類は移動幅も大きくなり、移動する速度も速く、人に衝突することなどによる危険が特に大きくなる可能性があります。
高層マンションなどの住居では、ピアノやテレビ台、ベビーベッドや収納棚、ワゴンなどにもキャスターがついているものがあります。オフィスでは、会議用のデスクやコピー機、運搬車(台車)などにもキャスターがついています。
日常的に動かすキャスター付きの家具類は、動かす時以外は必ずキャスターロックをかけるようにしましょう。定位置がある場合には、脱着式のベルトなどで壁や床面に固定して、突然大きな揺れに見舞われても移動しないようにしておくことが大切です。
ピアノやコピー機、テレビ台などの日常的に移動させないキャスター付きの家具類は、キャスター固定用の下皿などを設置し、L字金具やベルト式金具、ポール式の転倒防止器具で壁や床面に固定しましょう。金具でしっかりと壁に固定することができない場合には、ポール式の転倒防止器具と粘着式の耐震マットなどを併用し、複数の対策を講じておくことで効果が高まります。
また、キャスターとアジャスターが設置されている機器(コピー機やピアノなど)などは、アジャスターを設定して、壁にベルトなどで連結しておきましょう。
キャスターのない家具類も、もちろん固定しておくことが大切です。机なども、粘着式の耐震マットや滑り止めマットなどを床との接触部に貼っておきましょう。

ウォーターサーバーや観賞用水槽は、長周期地震動の揺れと共振してスロッシング現象(水面が大きく揺れる現象)が起こり、水槽やウォーターサーバーの重心が大きく変動して、転倒する危険が高まります。粘着式の耐震マットやベルト式器具でしっかりと固定しておくことが必要です。

もしも長周期地震動による揺れで、家具類が転倒・落下・移動しても、ケガをしたり避難経路を塞いだりしないレイアウト対策をしておくことも大切です。人がいる場所と物を収納しておく場所を別にする、「集中収納」にすることが理想ですが、現実的にはなかなか難しいかもしれません。
せめて、なるべく物を置かない「安全スペース」を廊下や寝室、会議室などに設けておくようにしましょう。
家具類はできるだけデスクと離して置き、なるべく背の低い家具を選ぶようにすることも大切です。
また、家具類は、幅の広い側に転倒したり移動したりします。もしも転倒や移動してもドアが開けられるレイアウトになっているか、確認してください。
オフィスなどでは、家具類をパーテーションがわりに使わないようにすることはもちろん、建物の構造体と一体になっていないパーテーションや間仕切り壁には固定したとしても家具を支えることはできません。壁や吊り天井が破損してしまうことにつながります。

揺れを感じたり、緊急地震速報を受けた時には、身の安全を最優先に

高層ビルにあるオフィスに勤めていたり、高層マンションに住んでいなくても、デパートなどに買い物に出かけている時など、誰でも地震にあうのと同じように長周期地震動による揺れに遭遇する可能性はあります。

家具類の固定をして備えていたとしても、もしも揺れを感じたり緊急地震速報を受けた時には、身の安全を最優先に行動しましょう。
できるだけ家具類から離れて、落ちついてテーブルや机の下に入ったり、安全スペースに避難して手すりなどに捕まって姿勢を低くしたり、手すりがない場合には四つん這いになり、身を守り、揺れが収まるまで様子を見るようにしましょう。長周期地震動のゆっくりとした大きな揺れは数分間続くこともありますが、時間と共に少しずつ収まります。火の元の確認は、揺れがおさまり、通常通りに歩くことができるようになってから行いましょう。
まずは身の安全を確保することが、なによりも大切です。


<参考資料>
気象庁 長周期地震動について

気象庁 長周期地震動階級および長周期地震動階級関連解説表について

長周期地震動等に対する高層階の室内安全対策専門委員会 報告書

消防庁消防大学校 消防研究センター

内閣府防災情報のページ 十勝沖地震

内閣府防災情報のページ 紀伊半島沖・東海道沖を震源とする地震

共同通信 緊急地震速報に新基準

気象庁 「長周期地震動の予測情報に関する実証実験報告会」説明資料

東京消防庁 東日本大震災の室内被害と長周期地震動等に対する室内安全対策

政府地震調査研究推進本部 南海トラフで発生する地震

特定非営利活動法人日本防災士機構 防災士教本

この記事を書いた人

瀬尾 さちこ

防災士。住宅建築コーディネーター。整理収納コンサルタント。

愛知県東海市のコミュニティエフエム、メディアスエフエムにて防災特別番組「くらしと防災チャンネル(不定期)」、「ほっと一息おひるまメディアス(毎週水曜日12時〜)」を担当。
以前の担当番組:みんなで学ぶ地域防災(2021年~2021年)、防災豆知識(2019年~2021年)
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