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ぼうさいこくたいで考えた

ぼうさいこくたい2022 神戸で開催

10月22日(土)と23日(日)、神戸市のHATと呼ばれる地域で、「ぼうさいこくたい2022」が行われました。防災に関心をお持ちの方は、もしかしたら現地にお越しくださったかもしれませんね。
2015年に仙台で開かれた国連防災世界会議でいわゆる「仙台防災枠組み」が採択され防災を広げていこ言うという機運が大きく高まりました。国内では各界各層の有識者が参加する「防災推進国民会議」ができ、これを契機に内閣府と防災推進協議会がぼうさいこくたいを開催するようになりました。2016年が第1回ですから、今回で7回目の開催となります。
会場となったHATはもともと、神戸製鋼や川崎製鉄などの製鉄工場や屋内スキー場があった地域ですが、震災でこういった工場が移転し、跡地に副都心を作ろうと、震災後の1996年に着工したものです。人と防災未来センターやJICA関西、神戸赤十字病院、兵庫県災害医療センターなど、災害・防災に関する施設や国際機関が集まっています。また、復興住宅も建設されています。HATはHappy、Active、Townの頭文字をとったものですが、実は、神戸の人でも知らないという人がたくさんいます。私も聞いたことはあるけど…、程度の記憶でした。
HATでは、今回のぼうさいこくたいだけではなく、毎年1月には大きな防災イベントも開かれています。人と防災未来センターもあって、「防災を学ぶならここに行こう」という防災のメッカ的な感じです。
今回のぼうさいこくたいは多くの出展希望者が集まり、これまでだと1団体が2つのイベントに関われたのですが、今回は多くの団体の参加を保障するために、1団体1イベントに限定されました。ただ、個人的にみると、私は2つのセッション(パネルディスカッション)と1つのワークショップのコーディネートを務めましたが、そういう掛け持ちの方もたくさんおられました。

ワークショップ「dokoka」をやってみた

ワークショップでは、参加者は6人程度のグループに分かれて、私が開発したカードを使った学習教材を使って話し合いました(dokoka、明石スクールユニフォームカンパニー)。カードは地震編と地震・津波編があり、好きな方を選びます。初めに災害の状況を話し合って、詳しく記述します。震度やマグニチュード、月日、曜日、時間、天気も自分たちで決めます。災害を知っている人ならわかると思いますが、災害はその発生時期、時間によって様相を変えます。
こういった準備が整ったら、50枚ほどのカードを平等に配ります。カードには災害時にどんなことが発生するかが記述されています。体育館のグランドピアノがひっくり返る、とか、先生が落下物でけがをする、とか、誰もがあまり予想しないことも書かれています(全部、実話です)。参加者は手持ちのカードを出しながら、どんなことが起こるかを話し合い、出されていくカードを同じ内容のものにまとめていきます。まとまったカード群を簡単な言葉で記述します。この辺りはいわゆるKJ法(※)を使っています。例えば、「学校の施設の中には壊れるものがある」とか、「子どもたちが怖がっている」という具合です。まとめて記述するためにメンバーで話し合うのですが、おそらく同じメンバーで日を変えてやっても、まとめ方は違ってくると思います。また、同質のメンバー(例えば中学2年生のグループとか、地域の自主防災組織の役員とか)でやるよりも、異質のメンバー(大人と子どもとか、先生と生徒とか、自主防の担当者と商店街の店主たち、とか)でやる方が多様な意見を通して課題がたくさんわかります。
次に、その記述された課題をどう解決するかを考えます。解決策は備えと対応です。例えば、本棚が倒れるという課題には、前もって固定しておくという備えと揺れを感じたら本棚から離れるという対応があります。この教材の目的は、「全部解決できた!」ではなく、「分からないこと、できていないことがあることが分かった!」です。そのわからないこと、できていないことを一つずつ解決していくのが防災活動なのです。

※出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 https://ja.wikipedia.org/wiki/KJ%E6%B3%95
KJ法は、文化人類学者の川喜田二郎(東京工業大学名誉教授)がデータをまとめるために考案した手法である。KJは考案者のイニシャルに因む。データをカードに記述し、カードをグループごとにまとめて、図解し、論文等にまとめていく。共同での作業にもよく用いられ、「創造性開発」(または創造的問題解決)に効果があるとされる。

ワークショップを回す少年

さて、このワークをしている間に、面白い少年に出会いました。遠く岐阜の飛騨高山からお父さんと参加していました。この中学1年生の少年が、グループでの話し合いを回してくれたのです。大人の意見を聞く姿勢と、自分の意見を伝える姿勢、マニュアルを読んでの的確な指示など、大人顔負け(本当に負けていました)の運営力でした。防災教育は、こういった力を伸ばしてくれるのだなと再確認した次第です。
防災のイベントでは、出展者側は教える立場、参加者は学ぶ立場ととらえがちです。防災教育では大人が教え、子どもが学ぶと思いがちです。でも本当は、共に学ぶ立場なのだと思います。その学び合いの中で、この少年のような力を持つ子供が育っていくのです。」「教える防災」から「ともに考える防災」「共に学ぶ防災」へと、学びのスタイルを変えていきましょう。
ただ、一つだけ、こういった大規模なイベントの欠点を指摘しておきます。ぼうさいこくたいに参加する人は基本的には防災に関心を持っている人がほとんどです。日本の防災力を高めるには、防災に関心のない人の防災力を向上させなければなりません。ターゲットは関心の有無に関係なく誰もが学ぶ学校であり、子どもたちだと私は考えています。

この記事を書いた人

諏訪 清二

全国初の防災専門学科 兵庫県立舞子高校環境防災科の開設時より科長を務め、東日本大震災をはじめとする国内外の被災地でも生徒とともにボランティアや被災者との交流に従事。
防災教育の第一人者として文部科学省「東日本大震災を受けた防災教育・防災管理等に関する有識者会議」など、防災教育関連の委員を務める。

2017年4月から防災学習アドバイザー・コラボラレーターとして活動開始。
学校での防災学習の支援活動を中心に、防災学習、災害、ボランティア、語り継ぎなどのテーマで講演活動も。
中国四川省、ネパール、スリランカ、モンゴル、エルサルバドルをはじめ、海外各地でも防災教育のプロジェクトに関わってきた。

2017年度~ 神戸学院大学現代社会学部 非常勤講師 / 兵庫県立大学 特任教授(大学院減災復興政策研究科)
2018年度~ 関西国際大学セーフティマネジメント研究科 客員研究員
2020年度~ 大阪国際大学短期大学部 非常勤講師
2021年度~ 神戸女子大学 非常勤講師 / 桃山学院教育大学 非常勤講師

【著書】
図解でわかる 14歳からの自然災害と防災 (著者:社会応援ネットワーク 監修:諏訪清二)
防災教育のテッパン――本気で防災教育を始めよう
防災教育の不思議な力――子ども・学校・地域を変える
高校生、災害と向き合う――舞子高等学校環境防災科の10年
※こちらの書籍は、現在電子書籍での販売となります。

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