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防災を必須科目に

続発する地震

能登半島(5月5日、最大震度6強)、千葉県(5月11日、最大震度5強)と地震が続いています。テレビ局は、大きな災害があればその日に予定されている番組の内容と時間帯を変更して「報道特別番組(正式には『特別編成による報道番組』と呼ぶそうです)」を流します。それほど重大でない場合は、時間枠はそのままで内容を災害報道に変えることもあります。今回の連続した地震でも、倒壊した家屋や屋根瓦が落下した家屋、家具が転倒し物が散乱した室内、瓶、缶類が散乱した店内などの映像が流されました。被災者へのインタビューでは皆さんが「怖かった」「立っていられなかった」と答えていました。

頭に浮かんだ二つの疑問

被災した市民へのインタビューを見ていて、まるで過去の災害の録画を見ているような気がしました。ふと、一つの疑問が頭に浮かびました。もし、過去の災害時に映像を見て備えを実行していたら、同じような被害は発生しなかったはずです。では、なぜ、そうならないのでしょうか。専門家は「正常性バイアス」が働いていると解説します。「自分事」にしなければならないと指摘します。でも、そんな指摘が多くの市民を動かしてきたわけではありません。
地震発生直後は被害の報道が続きますが、しばらくすると地震の専門家が登場し、今回の地震のメカニズムを解説します。図表を使いながら解説する専門家に、コメンテーターがいろいろと質問をぶつけます。
ここで二つ目の疑問が浮かびました。コメンテーターといえば、社会の様々なことに精通している人です。そんな知識人が時には震度とマグニチュードの違いを専門家に聞きます。海洋型の地震と直下型の地震の地震がどう違うのかを質問します。「地震は予知できないのか」、「科学で地震を小さくすることはできないのか」などと質問をします。なぜ、コメンテーターほどの博識の人が、地学の基本を知らないのでしょうか。もしかしたら、専門家の深い知見をわかりやすく引き出すための意図的な質問なのかもしれませんが(でも、本当に知らないようにしか見えませんでしたけれど・・・)、コメンテーターでこのレベルですから、多くの市民が地震のメカニズムを熟知しているとは思えません。

防災好きだけが防災力を向上させる仕組みを変えないと

災害と防災に関するテレビの報道は本当に丁寧になりました。しっかりとみているととても勉強になります。でも、関心のない人は被災者のインタビューを見て、「大変だ」と「かかわいそうに」と思って、それで終わりです。特番が続くと他の内容のチャンネルを探すか、ビデオを観るか、テレビのスイッチを切ってしまいます。防災番組を見てすぐにホームセンターに走って突っ張り棒を購入する人はそれほど多くないでしょう。後でやろうと思っているうちに面倒くさくなって、そのうち忘れてしまいます。
市民向けの防災セミナーは増えているようです。でも、参加するのは関心のある人です。犬嫌いの人がしつけ教室に参加するはずはないし、株に関心のない人は投資のセミナーには行きません。今の防災の扱い方が続くと、関心のある人の意識と知識だけが向上し、無関心の人はほとんど何も知らないままで居続けます。

地球に住んでいるのに地球を学ばせない

高校での「地学基礎」の開設率は43.7%、「地学」は8.8%だそうです。しかも、開設はしている(カリキュラム上は、ある)けれども開講はしていない(実際には授業はしていない)ケースも多く、地学では、実際に開講している割合は約45%です。つまり、実際に地学を開講している学校は4%ほどしかないということです。(※)
大学入試ではどうしても物理、化学、生物が優勢です。理科の受験科目に地学含まれていない大学は多いのです。進路実現のためには、地学を勉強している暇はありません。開講しないので地学の教員の採用がない県も多くあります。採用がないので教える人がいなくなり、開講できなくなるという悪循環です。

※地学雑誌、Journal of Geography、129(3)337­354 2020、「高等学校理科「地学基礎」「地学」開設率の都道府県ごとの違いとその要因」 吉田幸平 高木秀雄

防災に関する教科の設置を

防災も防災教育も、関心を持っている一部の人を除いて、ほとんどの人にとっては他人事です。そこを変えましょう。防災に関心のある人だけが防災を追求し続けるのではなく、だれもが防災を学ぶ機会を強制的に作り出すのです。方法は一つです。すべての人が災害や防災を学ぶ場、教科「防災」を作ればいいのです。
とはいえ、学校教育は教科や領域がめいっぱい詰め込まれてパンパンに膨らんでいます。ゆとりなんてないと叱られそうです。でも、「特別の教科 道徳」があります。そのうち、1/3ほどを防災にすれば良いのです。具体的には、小学校2年生、5年生、中学校2年生は防災にかかわる学習をさせたいと私は考えています。もちろん、それだけの時間数を確保するのですから、災害が発生する科学的メカニズム(地学にかかわる部分です)、災害への備え、災害発生時の対応といった災害を生き抜くための学習を中心に、災害ボランティアや支援といった社会貢献、災害時と日常時の心の健康、安全で安心な社会づくりへの参画、自然の恩恵、自分の生き方などにも学習の領域を広げていけば良いでしょう。そこには、「特別の教科 道徳」が取り上げたい価値も含まれています。

この記事を書いた人

諏訪 清二

全国初の防災専門学科 兵庫県立舞子高校環境防災科の開設時より科長を務め、東日本大震災をはじめとする国内外の被災地でも生徒とともにボランティアや被災者との交流に従事。
防災教育の第一人者として文部科学省「東日本大震災を受けた防災教育・防災管理等に関する有識者会議」など、防災教育関連の委員を務める。

2017年4月から防災学習アドバイザー・コラボラレーターとして活動開始。
学校での防災学習の支援活動を中心に、防災学習、災害、ボランティア、語り継ぎなどのテーマで講演活動も。
中国四川省、ネパール、スリランカ、モンゴル、エルサルバドルをはじめ、海外各地でも防災教育のプロジェクトに関わってきた。

2017年度~ 神戸学院大学現代社会学部 非常勤講師 / 兵庫県立大学 特任教授(大学院減災復興政策研究科)
2018年度~ 関西国際大学セーフティマネジメント研究科 客員研究員
2020年度~ 大阪国際大学短期大学部 非常勤講師
2021年度~ 神戸女子大学 非常勤講師 / 桃山学院教育大学 非常勤講師

【著書】
図解でわかる 14歳からの自然災害と防災 (著者:社会応援ネットワーク 監修:諏訪清二)
防災教育のテッパン――本気で防災教育を始めよう
防災教育の不思議な力――子ども・学校・地域を変える
高校生、災害と向き合う――舞子高等学校環境防災科の10年
※こちらの書籍は、現在電子書籍での販売となります。

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