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梅雨が終わる前に

雷が鳴ると梅雨が明ける

こどもの頃、親からよくそう教えられました。高校時代に地学で気象を学ぶと、なるほど、昔の人は体験的に天気を理解していたのだなと感心した覚えがあります。今のこどもたちにこの言葉を聞いたことがあるかどうか尋ねてみると、まず誰も知りません。もしかしたら親世代も知らないのかも知れませんね。
ここで2つ、思いつきました。ひとつは、昔から言い継がれている気象に関する言葉探し、もうひとつは地学の大切さです。
まず、言葉探しから。こどもたちと一緒に天気に関わる面白い表現を探してみませんか。こどもたちはみんなタブレットを持っているので、あちこち検索して、先生も知らなかった表現を見つけて来るかもしれません。
もうすぐ梅雨が明けます。冒頭の「雷が鳴ると梅雨が明ける」は私にとっては思い出深い言葉です。梅雨の終盤、真っ黒な雲に覆われた青黒い空で稲光りが光って、耳をつんざく雷鳴が轟くと、ヘソを隠しながら(今のこどもたちは知っているかな)、家の中に逃げ込んだものです。梅雨に限って探してみても、「空梅雨」や「戻り梅雨」など、なるほどと思わせる言葉を先人は編み出してきました。テレビの天気予報が「戻り梅雨」と言う表現を使った時、私は「そんなんありか⁉︎」と突っ込みを入れたことを覚えています。
「夕焼けは晴れ、朝焼けは雨」、「猫が顔を洗うと雨」、「ツバメが低く飛ぶと雨」。そんな言い伝えを探して意味を理解すると、気象が好きになるはずです。こんな授業なら、何も特別に防災の時間を設定しなくても、いつもの国語やホームルームの時間にできます。小学生、中学生、高校生と学習段階によってこどもたちが選んでくる言葉と、それをもとにしたこどもたち同士や先生との対話は違ってくるでしょう。こどもたちは先人の知恵と対話し、気象の奥深さ、面白さを知っていくと思います。防災教育は、取り組む時間数が少ないからか、ともすれば備えと対応に偏りがちですが、こんな授業を通して、気象の面白さも学ばせてみませんか。

地域を知る「水」の授業

梅雨から台風シーズンにかけて、洪水や土砂災害のニュースを見ます。この時期は、こどもたちに気象災害とその備えと対応を学ばせたいですね。
外水氾濫と内水氾濫という、ちょっと混乱しそうな表現があります。自分のいる場所を内側と考えて、堤防の向こう側(外)から水が来る、つまり川から堤防を越えて、あるいは堤防を決壊させて泥水が襲ってくる現象を外水氾濫と呼び、自分のいる側(内)で水があふれる現象を内水氾濫と呼ぶと私は理解しています。水は記憶力が抜群に良いと思ってください。過去に水が出た場所にはまた水が出るのです。地域の人々や保護者とこどもたちが一緒に、過去に水が出た場所を探して歩く、あるいは知っている人から話を聞く、そしてそれを地図に落とし込んでいくと、内水氾濫の危険マップができます。危険個所に色を塗るだけではなく、その話をしてくれた方のコメントなども書き込むと、マップの説得力が増します。
梅雨から台風にかけての、水にかかわる災害が発生しやすい時期に、こんな授業をしてみてください。

高校地学を必修に

さて、ふたつめ。高校の地学を必修科目にしませんか。高校で「雨」を学ばせる科目は「地学基礎」と「地学」です。
高校の学習指導要領によると、理科には以下の科目があります。

科目名 標準単位数 科目名 標準単位数
科学と人間生活
物理基礎 物理
化学基礎 化学
生物基礎 生物
地学基礎 地学

すべての生徒が履修する科目数は、「科学と人間生活」、「物理基礎」、「化学基礎」、「生物基礎」、「地学基礎」のうち「科学と人間生活」を含む2科目か、「物理基礎」、「化学基礎」、「生物基礎」、「地学基礎」のうちから3科目と決められています。そして、「物理」、「化学」、「生物」、「地学」は、その基礎科目を履修したうえで履修することが原則とされています。つまり、「地学」を履修するためには、最初に「地学基礎」を履修しておく必要があるのです。そして、「科学と人間生活」を含む2科目となると「化学基礎」か「生物基礎」が選ばれ、「地学基礎」は選ばれない傾向にあります。「物理基礎」、「化学基礎」、「生物基礎」、「地学基礎」のうちから3科目でも、地学の履修率が一番低くなります。そのうえで、次の科目として何を選ぶかとなると、やはり、「物理」「化学」「生物」となって「地学」は履修されなくなります。
表は、文部科学省の「平成27年度公立高等学校における教育課程の編成・実施状況調査の結果について」から抜粋した理科の各科目の開設率です。「地学基礎」と「地学」の開設率が際立って低いのがわかります。さらに、開設率と履修率は違います。ある科目を開設しても履修する生徒が少ないので、実際には行っていないということがあります。例えば、カリキュラム上は「物理基礎」、「化学基礎」、「生物基礎」、「地学基礎」の4科目から選択できるようになっているけれど、実際には「地学基礎」の選択者が少なくて、開講しないということがよくあります。地学も同様です。実際の履修率は表よりももっと少ないのです。地球に住んでいて地球を学ぶ機会を設けない高校理科の在り方について、もっと議論していく必要があります。


この記事を書いた人

諏訪 清二

全国初の防災専門学科 兵庫県立舞子高校環境防災科の開設時より科長を務め、東日本大震災をはじめとする国内外の被災地でも生徒とともにボランティアや被災者との交流に従事。
防災教育の第一人者として文部科学省「東日本大震災を受けた防災教育・防災管理等に関する有識者会議」など、防災教育関連の委員を務める。

2017年4月から防災学習アドバイザー・コラボラレーターとして活動開始。
学校での防災学習の支援活動を中心に、防災学習、災害、ボランティア、語り継ぎなどのテーマで講演活動も。
中国四川省、ネパール、スリランカ、モンゴル、エルサルバドルをはじめ、海外各地でも防災教育のプロジェクトに関わってきた。

2017年度~ 神戸学院大学現代社会学部 非常勤講師 / 兵庫県立大学 特任教授(大学院減災復興政策研究科)
2018年度~ 関西国際大学セーフティマネジメント研究科 客員研究員
2020年度~ 大阪国際大学短期大学部 非常勤講師
2021年度~ 神戸女子大学 非常勤講師 / 桃山学院教育大学 非常勤講師

【著書】
図解でわかる 14歳からの自然災害と防災 (著者:社会応援ネットワーク 監修:諏訪清二)
防災教育のテッパン――本気で防災教育を始めよう
防災教育の不思議な力――子ども・学校・地域を変える
高校生、災害と向き合う――舞子高等学校環境防災科の10年
※こちらの書籍は、現在電子書籍での販売となります。

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