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未来の日本を災害に強い列島に改造するための防災教育

被災しない方法

被災しないための最善策は危険な場所や脆弱な建物に住まないことです。どんな災害が発生しても避難所に行かずに自宅に留まり続けることができればベストです。そのためには、洪水や土砂災害、津波が襲ってこない場所で、耐震性のある建物に住む必要があります。もちろん、家具の固定やライフラインのストップを想定した備蓄も必要です。それができれば、災害をそれほど恐れる必要はないはずです。

本当のことを教える

ただ、日本の多くの地域は(人の住んでいる場所のほとんどは、と言っても良いでしょう)、洪水や土砂災害の危険にさらされています。例えば、NHKの調べによると4700万人が洪水の被害に遭う場所に住んでいるそうです(※1)。これに山の斜面や海岸沿いの地域を加えると、その人口はどれほどまで膨れ上がるのでしょうか。
 特に、東京圏、名古屋圏、大阪圏などに広がるゼロメートル地帯にはたくさんの人々が暮らし、仕事をしています。堤防の向こうにある海は見えにくく、ビル街は人々の視界を遮り、海の存在を隠しています。しかも、ゼロメートルという嘘の表現によって、「海と同じくらいか?まあ、いいか」と勘違いしている人がたくさんいるかもしれません。本当は−2メートル、−4メートル、−8メートルなのに、0だと思い込んで、根拠のない安心感を持ってしまっているのです。学校では事実を教えましょう。ゼロじゃなくて−3メートルだと知れば、少しは危機感も増すはずです。
「脅しの防災教育」は駄目だと言われ続けてきました。脅さないように、とにかく楽しく教えようとゲームばかり繰り返して、本当の防災力が身につくのでしょうか。事実を正確に伝え、根拠のない安心感を否定し、だけど、備えや対応でその危険度を下げていくことができると教え、それを実行して初めて、本当の安心感を持つことができるはずです。

※1 NHK「災害列島 命を守る情報サイト」 「浸水域に約4700万人居住」の衝撃

でも、危険な場所に住み続ける

ほとんどの人はどこかに生活の基盤を築いています。たとえそこが危険な場所であっても、住まいや仕事、学校などの関係で、すぐにどこかに引っ越していくわけにはいきません。だから、安全が常に最優先されるのではなく、時には2番目、3番目になることもあるのです。安全なところに住めるなら避難の必要はありませんが、実際は危険そうだけどそこに住み続けるしかないのです。だらこそ、自分が住む場所の土地の成り立ちや特性はしっかりと把握しておきたいものです。

未来のまちを考える

日本の人口はどんどん減っています。いまの出生数は約80万人です。簡単な計算をやってみましょう。もし、この出生数が今後80年間続き、平均寿命がずっと80歳だと仮定すると、80年後の人口は、80万人×80年=64,000,000人となります。現在の人口の半分くらいになるのです。実際にはもっと少ないかも知れません。80年後に、はほとんどの人々が安全な場所に住めるようにするという壮大な計画を立ててみませんか。日本の国づくりは本来こんな思想を持つべきです。
安全な国づくりの方法は2つあります。
ひとつはハードでの対策です。建物の耐震基準を厳格にし、昔に建てられた建物であっても、新たな基準に適合しない建物は取り壊していきます。空き家も放置しません。空き地がどんどんできていきます。水害の危険がある地域では、空き地を自然に戻したり公園にしたりして、人々はより安全な場所に新たにまちを築いて移り住んでいくのです。上流から河口まで堤防に囲まれて水の逃げ場のない河川に、もう一度霞提を築き、遊水池を設け、破堤の危険度を下げます。
もうひとつはソフトでの対策です。防災教育を徹底して、こどもたちが将来家を買う時に、危険な場所を避けるようにするのです。みんなが危険な場所にある家を買わなければ、おのずと危険な場所の人口は減少していきます。
80年、100年、200年先の安全で安心なまちづくりを今から始めましょう。

防災教育にできること

安全な国づくりに教育がどう関わることができるでしょうか。地理や理科、地学で土地の成り立ちを学ばせます。自分の住む地域がどんな特徴を持っているかを発見させます。もちろん、実際のまち歩きとセットで行います。算数で未来の人口を計算させます。国語で30年後のまちの暮らしを文章あるいは口頭で表現させます。図工で未来のまちの絵やジオラマを作らせます。いくつかの教科が協力して単元を作るのです。これは、文科省のいうカリキュラム・マネジメントの縮小版、あえて命名すれば「プチ・カリ・マネ」です。 学校での防災教育の目的は何でしょうか。文科省の「防災教育支援のための懇談会」の資料(※2)や学校防災のための参考資料「『生きる力』を育む防災教育の展開」(※3)などを見ると、その目的が、ハザードを理解して適切な備えを実行し、災害発生時に的確な判断で自他の命を守り(狭義の防災教育)、その後の復旧・復興や安全な社会作りに参画していくこと(広義の防災教育)だと理解できます(※4)。そして、広義の防災教育に果ては無く、どんどん広げていけます。「防災教育」×「未来の国づくり」にとりくんでみませんか。

※2 文部科学省ホームページ
トップ > 政策・審議会 > 審議会情報 > 調査研究協力者会議等(研究開発) > 防災教育支援に関する懇談会 > 防災教育支援に関する懇談会(第6回) 配付資料 > 資料6-3 防災教育支援に関する懇談会 中間とりまとめ(案) > 3.防災教育支援の基本的考え方

※3 文部科学省ホームページ
トップ > 教育 > 学校保健、学校安全、性犯罪・性暴力対策、食育 > 学校安全 > 学校安全<刊行物> 防災教育のねらい

※4 「狭義の防災教育」「広義の防災教育」は筆者の解釈です。

この記事を書いた人

諏訪 清二

全国初の防災専門学科 兵庫県立舞子高校環境防災科の開設時より科長を務め、東日本大震災をはじめとする国内外の被災地でも生徒とともにボランティアや被災者との交流に従事。
防災教育の第一人者として文部科学省「東日本大震災を受けた防災教育・防災管理等に関する有識者会議」など、防災教育関連の委員を務める。

2017年4月から防災学習アドバイザー・コラボラレーターとして活動開始。
学校での防災学習の支援活動を中心に、防災学習、災害、ボランティア、語り継ぎなどのテーマで講演活動も。
中国四川省、ネパール、スリランカ、モンゴル、エルサルバドルをはじめ、海外各地でも防災教育のプロジェクトに関わってきた。

2017年度~ 神戸学院大学現代社会学部 非常勤講師 / 兵庫県立大学 特任教授(大学院減災復興政策研究科)
2018年度~ 関西国際大学セーフティマネジメント研究科 客員研究員
2020年度~ 大阪国際大学短期大学部 非常勤講師
2021年度~ 神戸女子大学 非常勤講師 / 桃山学院教育大学 非常勤講師

【著書】
図解でわかる 14歳からの自然災害と防災 (著者:社会応援ネットワーク 監修:諏訪清二)
防災教育のテッパン――本気で防災教育を始めよう
防災教育の不思議な力――子ども・学校・地域を変える
高校生、災害と向き合う――舞子高等学校環境防災科の10年
※こちらの書籍は、現在電子書籍での販売となります。

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