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SDGsと防災教育⑥ ~ 質の高い教育って、何だろう? その①

教育の質ってどう計る?

SDGsの4番目の目標は「質の高い教育(quality education)」です。「すべての人々に、包摂的(inclusive)で公平な(equitable)質の高い教育を保障し、生涯学習(lifelong learning)の機会を与えること」を目標としています。性別や貧富、思想、信条、宗教、居住地域など様々な要因を超えて、誰もが質の高い学校教育を受ける権利を持ち、卒業した後も一生涯学び続ける場を保障しようということです。生涯「教育」ではなく生涯「学習」という表現がポイントですね。
では、質の高い教育とはどんな教育でしょうか。

先進国と開発途上国では教育条件はまったく違います。日本では、ICT教育の導入により大型モニターが教室の前にドンと置かれ、先生がパソコンを使って教材や問題を提示し、子どもたちが全員タブレットを使って回答・解答するシーンが増えてきました。高度な教育機器を活用する教室、様々な実験や実習を行う特別教室などもそろっています。一方、開発途上国では電気もない狭い教室もあります。先生はざらざらの黒板に質の悪いチョークで文字を書き(文字が見づらい)、子どもたちはノートに鉛筆で書き写します。スポーツを楽しむグラウンドのない学校もあります。学習環境に着目すれば、質の違いは一目瞭然です。
開発途上国には就学率が低い国もあります。ドロップアウトもあります。貧困や古くからのジェンダー意識が影を落としています。教育の質の向上は学校の学習環境の改善や教育内容、教育方法の向上といった教育固有の課題だけではなく、社会の意識の改革や貧困の解消とも深くかかわっているのです。

日本国内に限って考えてみましょう。どんな尺度で教育の質を評価するのでしょうか。大学への進学率?全国学力テストの結果?教員の質?教員一人が受け持つ子どもの数?クラスサイズ?いろいろな要因が頭に浮かびます。
公立と私立、都市部と過疎地でそれぞれ教育の条件は違っています。教育内容については学習指導要領で一定の指針が示されていますが、都会の小学校の40人近い児童数のクラスと過疎地の数人のクラスや複式学級では、先生と子どもたちの関わり合いやクラスの中での協力や競争の質も違います。地域と学校の関係にも濃淡があります。このように教育条件に大きな差がある中で、どの地域のどの学校のどの教育の質が高いとは一概には言えません。

防災教育の性格:地域に根差す

防災教育は防災が持つ性格を強く反映します。それは、災害は地域で発生するという事実です。だから、地域に根差した防災教育が可能であり、不可欠であり、教育における地域格差を乗り越える原動力になります。先に述べたように教育環境には地域差がありますが、防災教育は地域の個性に根差しています。地域の防災マップ作りや福祉防災の在り方を考える授業は、まさに地域を包摂的に取り上げて向き合っているのです。

防災教育の性格:主体的で対話的な学び

新しい学習指導要領は「主体的・対話的で深い学び」を通して「知識・技能」「理解力・判断力・表現力」を身に着けること、その学びのバックボーンとして「学びに向かう力・人間性等」が大切であることを指摘しています。つまり、知識は、学校で学ぶべきすべてではなく一部だと考えられているのです。
防災教育は「知識・技能」を伝える教育でしょうか。もちろん、「知識・技能」は大切ですが、知識の押し付けだけの防災教育は面白くないし、実際の災害では役に立たない危険性が高いでしょう。「理解力・判断力・表現力」が伴っていないからです。
私はよく、こんなワークショップをします。
  1. 参加者は、明日大きな災害が起こると仮定して、今日のうちにやっておきたいことを10個考えて書き出します。この段階では相談はせず、一人で考えます。
  2. その後、グループで話し合って10の行動を選び出し、1番から10番まで、順番を決めます。
  3. 複数のグループがあれば、発表して共有します。
  4. ここでコーディネーター(私)が、自分たちで考えた10の行動をすでに全部行っているかどうか問いかけます。実は、全部実施している人はまずいません。つまり、知識はあるけれども行動にはつながっていないのです。「それじゃ、だめだろう」と指摘します。
  5. 叱られて終わるワークショップは面白くないですね。最後に、この1週間で自分にできる行動に〇をつけてもらいます。目標を持って、このワークショップを終えます。
このワークショップで明らかになるのは、防災の知識はあるものの何ら行動を起こしていない人がたくさんいるという事実です。防災の知識はあるが何もしない人と防災の知識が無くて何もできない人。何もしていないという点では、同じですね。これが市民の防災の実態です。そんなところに、知識を高めるための講演会をいくら開催しても、防災マニアの知識が増えるだけで、市民社会の防災力の向上に直結する防災教育にはなりません。

防災教育で最も必要とされているのは、状況を理解して、取るべき行動を考え、相談し、判断し、それを行動に移す力です。もちろんその過程で知識を総動員します。この力は災害前の備えでも、災害発生後の対応でも私たちに安全と安心をもたらします。そんな市民一人ひとりの行動の積み重ねが、社会の防災力の向上につながります。防災教育では近年、この力を育てる(少なくともこの力の大切さに気付かせる)様々なワークショップが開発されています。筆者もテッパンのワークショップをいくつか持っていて、講演会に取り入れています。
防災教育は、地域の個性を反映し、高齢者や子ども、障害者、外国人も含めたすべての住民を包摂します。学習者の理解力、思考力、判断力、行動力、コミュニケーション力などを高めます。その意味において、優れた防災教育は「包摂的で公平な質の高い教育」だと言えます。教育の質を高める「教育改革」の震源になり得るのです。

この記事を書いた人

諏訪 清二

全国初の防災専門学科 兵庫県立舞子高校環境防災科の開設時より科長を務め、東日本大震災をはじめとする国内外の被災地でも生徒とともにボランティアや被災者との交流に従事。
防災教育の第一人者として文部科学省「東日本大震災を受けた防災教育・防災管理等に関する有識者会議」など、防災教育関連の委員を務める。

2017年4月から防災学習アドバイザー・コラボラレーターとして活動開始。
学校での防災学習の支援活動を中心に、防災学習、災害、ボランティア、語り継ぎなどのテーマで講演活動も。
中国四川省、ネパール、スリランカ、モンゴル、エルサルバドルをはじめ、海外各地でも防災教育のプロジェクトに関わってきた。

2017年度~ 神戸学院大学現代社会学部 非常勤講師 / 兵庫県立大学 特任教授(大学院減災復興政策研究科)
2018年度~ 関西国際大学セーフティマネジメント研究科 客員研究員
2020年度~ 大阪国際大学短期大学部 非常勤講師
2021年度~ 神戸女子大学 非常勤講師 / 桃山学院教育大学 非常勤講師

【著書】
図解でわかる 14歳からの自然災害と防災 (著者:社会応援ネットワーク 監修:諏訪清二)
防災教育のテッパン――本気で防災教育を始めよう
防災教育の不思議な力――子ども・学校・地域を変える
高校生、災害と向き合う――舞子高等学校環境防災科の10年
※こちらの書籍は、現在電子書籍での販売となります。

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