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SDGsと防災教育③ 〜 避難所の生活

劣悪な環境にある日本の避難所

災害時には避難所が開設されます。大雨による洪水や土砂災害が予想される場合は災害が発生する前に開設されます。テレビのニュースでは、公民館などに身を寄せている避難者が毛布にくるまって寝転んでいる映像が流されます。ほとんどの場合、避難者は少なく、部屋の隅っこなどで所在なげに過ごしています。地震や津波の場合は、災害発生後に避難所が開設されます。家屋の倒壊や流出によって住む場所を失った多くの人々が避難所に身を寄せます。着の身着のままでの避難者がすし詰め状態になる避難所が少なくありません。
東日本大震災の2年半後の2013年(平成 25 年)8月、災害対策基本法が改正され、「避難所における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」が策定されました。これを受けて内閣府(防災担当)は、2016年(平成28年)4月、「避難所運営ガイドライン」を作成しています。このガイドラインは、「被災者の健康を維持するために『避難所の質の向上』を目指す」ために作成されたものです。その中で、「東日本大震災では、避難所における『生活の質』には課題が多く、水、食料、トイレ等は不十分で、暖房は限定的であり、狭い空間での生活によって、多くの被災者が体調を崩す恐れと隣り合わせの生活であった」と、避難所の劣悪な環境を認めています。その後の熊本地震では、劣悪な環境の避難所を避けて車中泊やテント生活をする被災者も多く、「体調を崩す」どころか、多くの震災関連死を招くほど、被災者・避難者の生活環境は劣悪なまま放置されてしまいました。
国の法律やガイドラインに「良好な生活環境の確保」とか「避難所の質の向上」と明記しなければならないほど、日本の避難所問題は深刻なのです。

(参考)内閣府 防災情報のページ 災害関連死について

SDGsと避難所

外務省のHPで見ると、SDGsの17の目標の中に「3.すべての人に健康と福祉を」があります。英文では“Ensure healthy lives and promote well-being for all at all ages”と書かれており、「すべての年齢のすべての人々に健康的な生活を確保し、幸福で健康な状態を促進する」と訳せばいいのでしょうか。 Well-beingに含まれる「幸福」という意味合いが、外務省の日本語訳には使われていないのが気になりますが、この健康で幸福な状態こそ、避難所が目指すべきものだと思います。ところが日本の避難所はひたすら我慢を強いるところになってしまっています。
「6.安全な水とトイレを世界中に」も「世界中に」を除けば、避難所の必須条件です。英語では“Ensure access to water and sanitation for all”(すべての人々に水と衛生設備の利用を確保する)となっており、ここでもfor allを「世界中に」、sanitationを「トイレ」と訳してしまう感性には疑問符が付きますが、allを避難所にいるすべての人々に置き換えてみると、この目標も日本の避難所が目指すべきものだと理解できます。

避難所をどう教える?

防災教育では、避難所をどう教えているのでしょうか。筆者が関わってきた事例では、避難所でできることを考えようという内容が多かったような気がします。
有名なHUG(※1)では、次々と避難してくる多様な人々をどう収容するかを考えます。年齢や性別、家族構成、障害の有無、健康状態、国籍などを考慮しながら、避難してくる人ができるだけ快適に過ごせるように部屋割りを考えていきます。そこにはwell-beingの思想を取り込めそうです。とはいえ、これはあくまでも図上訓練です。実際の避難所でそう簡単にはいかないこともあるでしょう。
Real HUGという訓練があります。リアルですから、実際に体育館を避難所にして避難所開設訓練を行います。例えば、地震とその後の津波を想定し、中学生たちが避難所を開設します。避難者役と運営役に分かれて、次々と起こる難題を解決していくリアルな訓練です。避難者を収容するだけではなく、薪を使って炊き出しをするし、トイレ問題を解決するために裏庭に穴を掘ったりもします。近所に住む外国人も参加して、生徒たちは片言でのコミュニケーションを図ります。
自分が避難者となった時に、ただぼーっと過ごすのではなく、どんな手伝いができるかを考える授業もあります。食事の準備やトイレの掃除など、避難所の食、健康、衛生に関わる仕事だけではなく、お年寄りの話し相手やこどもの遊び相手、ペットの世話など、「幸福」につながる仕事も、こどもたちは提案してくれます。
中高生になると、避難所運営組織を考える授業にとりくめます。齋藤幸男氏は、避難所の組織図を縦型ではなくWeb形(組織同士が網目状につながる形)で考えるワークショップを実践されています(※2)。
ただ、避難所に関するこれらの学びは、今ある避難所を前提としています。劣悪な環境を受け入れ我慢することを前提にしていると言えるでしょう。今、日本は「被災者の健康を維持するために『避難所の質の向上』を目指」しています。より良い避難所はどうあるべきかをこどもたちと考える防災教育も必要ではないでしょうか。たとえそれが絵に描いた餅であっても、避難所とは本来、被災者が人としての尊厳を持ちながら生きていく、つまりwell-beingを追求できる場であるということを、こどもたちには学んで欲しいと思います。

※1 ハグと読む。「H(hinanjo避難所)」、「U(unei運営)」、「G(gameゲーム)」の頭文字をとったもの。静岡県が開発した図上訓練。英語のhugには「抱きしめる」という意味がある。
静岡県 避難所運営ゲーム HUG

※2 東日本大震災発生時、宮城県石巻西高校の教頭で避難所運営に従事。避難所運営組織をWeb状に考えるワークショップを開発し、全国で語り部活動をしている。「生かされて生きる」(河北選書2018)など。

この記事を書いた人

諏訪 清二

全国初の防災専門学科 兵庫県立舞子高校環境防災科の開設時より科長を務め、東日本大震災をはじめとする国内外の被災地でも生徒とともにボランティアや被災者との交流に従事。
防災教育の第一人者として文部科学省「東日本大震災を受けた防災教育・防災管理等に関する有識者会議」など、防災教育関連の委員を務める。

2017年4月から防災学習アドバイザー・コラボラレーターとして活動開始。
学校での防災学習の支援活動を中心に、防災学習、災害、ボランティア、語り継ぎなどのテーマで講演活動も。
中国四川省、ネパール、スリランカ、モンゴル、エルサルバドルをはじめ、海外各地でも防災教育のプロジェクトに関わってきた。

2017年度~ 神戸学院大学現代社会学部 非常勤講師 / 兵庫県立大学 特任教授(大学院減災復興政策研究科)
2018年度~ 関西国際大学セーフティマネジメント研究科 客員研究員
2020年度~ 大阪国際大学短期大学部 非常勤講師
2021年度~ 神戸女子大学 非常勤講師 / 桃山学院教育大学 非常勤講師

【著書】
図解でわかる 14歳からの自然災害と防災 (著者:社会応援ネットワーク 監修:諏訪清二)
防災教育のテッパン――本気で防災教育を始めよう
防災教育の不思議な力――子ども・学校・地域を変える
高校生、災害と向き合う――舞子高等学校環境防災科の10年
※こちらの書籍は、現在電子書籍での販売となります。

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