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災害関連死とは?生き残った後にも油断せず、健康リスクに注意しよう

大きな災害が発生した時、発災直後に命を守ることができて、無事に避難所までたどり着けたとしても、安心はできません。被災したことで感じる疲労やストレス、慣れない避難生活の中での身体にかかる負担や、医薬品が手に入りにくくなり持病が悪化するなど、さまざまな理由により、発災からしばらくたってからでも災害に関連して命を落とす可能性があります。
建物の倒壊や地震などが起因することによる火災など、直接的に災害の被害によって亡くなるのではなく、避難所での病気の発症や持病の悪化など、間接的に災害が原因となって死に至ること、それが災害関連死です。

災害関連死の法的な定義と災害弔慰金

災害関連死という概念は、1995年に発生した、阪神淡路大震災の時に生まれました。災害発生時に、直接的・物理的な原因だけでなく、避難生活などの身体的・精神的負担などが影響して命を落とす災害関連死は、東日本大震災の時には発災から5年以上が過ぎても発生していました。こうした、災害関連死を減らすためにも、まずはその数を把握することが重要だと、国は認識しています。その前提としての災害関連死の定義付けを、2019年に内閣府が行いました。
内閣府では、災害関連死は、「当該災害による負傷の悪化または避難生活等における身体的負担による疾病により死亡し、災害弔慰金の支給に関する法律(昭和48年法律第82号)に基づき、災害が原因で死亡したと認められたもの(実際には災害弔慰金が支給されていないものも含めるが、当該災害が原因で所在が不明なもの(行方不明者)は除く)」と、定義しています。
災害弔慰金とは、自治体が主体となって、大きな災害によってご家族を亡くされた方に支給されるというもの。亡くなった方の配偶者やお子さん、両親や孫、祖父母などに支給され、支給額はご家庭の生計を支えられていた方がなくなった場合は500万円、その他の方がなくなった場合は、250万円が支給されることになっています。これは、地震による建物の倒壊や津波などによる直接的な原因で亡くなった場合にも支給されます。

過去の災害での災害関連死

災害によって亡くなった方のご家族には、災害弔慰金が支給されます。支給対象となるご家族がいらっしゃらない場合には、災害弔慰金は支給されませんが、災害弔慰金の支給をもとに、これまで発生した大きな災害で亡くなった方の人数を、内閣府では統計的に出しています。
例えば、阪神・淡路大震災では、兵庫県の死亡者総数6,402人のうち、約14.3%の919人が災害関連死。東日本大震災では、亡くなった人の総数19,603人のうち約18.7%の3,676人が災害関連死でした。
また、新潟県中越地震では亡くなった方の総数68人のうち約76.4%の52人が、熊本地震では、死者総数267人のうちの約79.4%の212人が災害関連死でした。

地震災害だけでなく、大規模な水害でも災害関連死はみられます。平成30年7月豪雨では、亡くなった方の総数95人のうちの約35.8%にあたる34人が災害関連死しました。
災害関連死した人の中には、本来なら救えたはずの命もあったはずです。家具固定や耐震化などのまずは災害が発生した直後に命を守るための対策はもちろん重要ですが、災害関連死を防ぐための知識やモノの備えをはじめとした対策も必要なのです。

熊本地震から読み解く災害関連死のリスクが高い人の特徴

熊本県では、2016年に発生した熊本地震に関して、「熊本地震デジタルアーカイブ」として、被害の実情や復旧・復興の過程で得たノウハウ、教訓などをまとめています。その中で、災害関連死についてもまとめられています。(参照: 熊本地震デジタルアーカイブ 震災関連死の概況について
どのような人たちが災害関連死に至ってしまったのか、その傾向を知ることで、リスクの高い人の傾向や災害関連死を避けるためにすべき行動も見えてきます。

命を落とした人の、79%以上が災害関連死だったという、熊本地震。
男女比では男性が若干多いものの、大きな偏りはありませんでした。発災から1年ほど経っても亡くなる方が出ましたが、災害関連死した方の約8割は、発災から3ヶ月以内。過去に何らかの病気にかかったことのある人がほとんどでした。
年代別に見ると、10代以下でも災害関連死での死者は出ていますが、30代から増え始め、50代からは災害関連死での死亡者数の増加が顕著となり、80代が最も多くなっています。体力も落ちていて、持病のある人も多くなる、高齢者に災害関連死のリスクが高くなるのです。

災害関連死の多くは自宅で発生している

災害関連死の多くの原因は、地震のショックや余震への恐怖による、肉体的・精神的な負担です。ついで、避難所などでの生活の肉体的・精神的な負担。また、停電などによって医療機関の機能が停止し、既往症が悪化したり疾病を発症しても、初期治療を受けることができずに、命を落とすケースもあります。災害時には十分な医療が受けられなくなることを日頃から想定して、持病のある方は日頃からお薬などを多めにストックしておき、避難所などに行く際には、お薬手帳とともに忘れずに持っていくようにしましょう。



災害時には避難所などの慣れない場所で、慣れない状況下での生活が大きなストレスになるようにも思いますが、災害関連死は実は避難所よりも自宅などの、災害が発生した時にいた場所やその周辺で多く発生しています。
また、熊本地震の際は、肺炎や気管支炎などの呼吸器系の疾患や、心不全やくも膜下出血などの循環器系の疾患で亡くなった方が多くありました。
呼吸器系疾患や循環器系疾患で亡くなった方ほど数は多くありませんが、災害関連死者数全体の約8%の人が自殺で命を絶っています。
こうしたケースの中には、誰かひとりでも寄り添う人がいたなら、救うことができた可能性のあるものもあります。
ご近所とのおつきあいは日常生活の中でももちろん大切なことですが、大規模災害時には、ご高齢の在宅避難をしている人にも頻繁に声かけなどをすることが、災害関連死を防ぐためにはとても重要なことなのです。

避難生活ではエコノミークラス症候群に注意を

ご自宅などで災害関連死に至ってしまった人が多く見られた熊本地震ですが、阪神淡路大震災などの過去の災害と比較すると、避難者数に対する災害関連死の割合は、それほど高くはない傾向でした。これは、これまでの災害を踏まえて、早い段階での医療救護活動が行われたり、エコノミークラス症候群の予防などが広まったおかげだと見られています。
エコノミークラス症候群を減らすことが、災害関連死を減らすことにも繋がるのです。
エコノミークラス症候群は、食事や水分を十分に取らない状態で、車などの狭い座席に長時間同じ姿勢のまま座っているなどして、足を動かさないことで血行不良となり、血液が固まることで発症します。さらに、その血栓(血のかたまり)が血管の中を流れて、肺に詰まって肺塞栓症などを誘発します。軽度の場合には、足や膝が腫れたり、ふくらはぎや太ももに激しい痛みを感じます。また、胸が痛い、呼吸が苦しいなどの症状を起こします。重度になると心臓発作のような症状が出るなどして、命を落とすことになります。こうした病気が、エコノミークラス症候群です。

阪神淡路大震災では、エコノミークラス症候群を発症し、亡くなった方が多数いたとみられています。
その背景には、避難所での高齢者のトイレ問題が潜んでいました。
阪神淡路大震災の際の避難所では、トイレの数が不足しており、しかも仮設トイレは居住スペースから遠くに設置されるケースが多く、このためにトイレを頻繁に利用するご高齢の方はトイレに行く回数を減らすために水分を摂ることを控えてしまう傾向にありました。また、車中泊避難や、避難所でも十分なスペースがとれずに窮屈な姿勢で長時間過ごすこともエコノミークラス症候群を引き起こす大きな要因となります。
エコノミークラス症候群で一度できた血栓は、消えにくいことも特徴です。2004年に発生した新潟県中越地震では、発災から2年後の2006年に検査を実施した際にも、検査を受けた人のうちの約4.7%に血栓が見られました。発災の翌年、2005年に血栓が見つかった人の4人に一人は、血栓が残り続けていたということになります。

エコノミークラス症候群を予防するには

被災後は、後片付けなどに追われて、喉の渇きを忘れがちです。また、避難所などではトイレの回数を少なくしようと、水分を摂ることを控えようとしてしまうかも知れません。しかし、水分を取るのを控えると血液が濃縮して血栓ができやすくなります。エコノミークラス症候群の予防のためには、水分を摂ることが大切です。ただし、アルコールは逆に脱水症状を引き起こすことにつながるので、飲酒は水分補給にはなりません。できるだけこまめに水を飲むなどして、水分補給するようにしましょう。

在宅避難などを考えている方は簡易トイレなどの備えを十分にしておくことで、トイレの心配を軽減できます。もちろん、自らの備えを避難所などに持参しても良いでしょう。
また、なるべく手足を伸ばして生活したり、軽い体操やストレッチ運動などを行なって体を動かすこともエコノミークラス症候群を予防することにつながります。4~5時間おきに意識して体を動かすようにしましょう。歩くだけでも効果的です。
ふくらはぎを軽く揉んだり、かかとの上げ下ろし運動をすることや、眠る時には足を上げることも、予防につながります。
ベルトをきつく締めないなど、ゆったりとした服装で過ごすことも、エコノミークラス症候群の予防の一つです。

肺炎などの呼吸器系疾患を防ぐことで災害関連死を減らす

2016年の熊本地震では、災害関連死の死因のおよそ半数を占めたという、呼吸器系の疾患。なかでも、高齢者に多く見られたのが、嚥下障害によって起こる、誤嚥性肺炎です。誤嚥性肺炎とは、本来は食道を通るはずの食べ物や唾液が、誤って気管に入り込んでしまい、唾液とともに流れ込んだ口の中の細菌が肺で繁殖し、炎症を起こす病気です。
加齢によって筋力が低下したり、病気などの影響によって飲み込む機能が低下したり、誤って気管に入った唾液などを咳き込んで外に押し出す力が低下することによって、嚥下障害が起こりやすくなり、平時からご高齢の方は誤嚥性肺炎のリスクを抱えています。
そのうえ、災害時の避難所などでは、断水などによって十分に水が使えないことも多く、普段のように手を洗ったり、歯を磨いたり、義歯の洗浄なども難しくなり、口内の雑菌が繁殖しやすくなります。さらに、ストレスなどから睡眠不足となり免疫力も低下し、誤嚥性肺炎にかかりやすくなります。もちろん、災害関連死にまでは至らないまでも、虫歯や歯周病などのリスクは、年齢を問わず、誰にでもあることです。

呼吸器系疾患を防ぐためには、口内をできるだけ清潔に保つことが重要です。非常持ち出し袋には、歯磨きセットや、口腔ケア用のウエットティッシュなどを備えておき、避難所などでもできるだけ口内を清潔に保つようにすることで、呼吸器系疾患のリスクを下げることができます。また、義歯を使っている方は、洗浄剤なども非常持ち出し袋に備えておきましょう。


呼吸器系疾患には、津波に巻き込まれた際に飲み込んだ、土やガレキ、重油などが混じった海水が肺に侵入したことで発症する「津波肺」という肺炎もあります。肺炎の中でも重症化しやすいため、早めのケアが必要です。
被災後のあとかたづけの際に吸い込んだ泥などにも有害物質が含まれていて、重篤な症状を引き起こすことがあります。後片付けの作業をする際には、釘などの鋭利なものを踏み抜いたりすることで負った傷から細菌が傷口から侵入し、破傷風などにかかることもあります。もしも被災して、後片付けなどを行う時には、マスクを着用し、夏場でも長袖を着るなど、安全対策をしっかりとした上で取りくみましょう。

感染症のリスクが高い時代に生きている

これまでの災害でも、避難所で風邪やインフルエンザのリスクはもちろんありました。近年では、従来の避難場所にはなかった、「新型コロナウイルスの感染」というリスクを私たちは抱えることになりました。
不特定多数の人が集まることになる避難所などでは、感染のリスクはある程度高くはなりますが、それでも自宅にいては危険な場合には、躊躇なく避難することが必要です。
避難所などでは、可能な限りマスクをして過ごすことや、除菌ウエットティッシュや除菌ジェルなどを使ってなるべく清潔を保つことが、感染の可能性を減らすことにつながります。
エコノミークラス症候群の予防ももちろん大切なことですが、感染症などの対策も、基本的なところを大切にすることで、災害関連死のリスクを減らすことにもつながります。

この記事を書いた人

瀬尾 さちこ

防災士。住宅建築コーディネーター。整理収納コンサルタント。

愛知県東海市のコミュニティエフエム、メディアスエフエムにて防災特別番組「くらしと防災チャンネル(不定期)」、「ほっと一息おひるまメディアス(毎週水曜日12時〜)」を担当。
以前の担当番組:みんなで学ぶ地域防災(2021年~2021年)、防災豆知識(2019年~2021年)
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