B!

伝える・学ぶ・繫がるものづくり ~受動的な学びから能動的な学びへ②~

アクティブな活動・アクティブな学び

文部科学省は学習指導要領の中で「主体的・対話的で深い学び」という表現と使って、これからの学習のあるべき方向を示しています。教育関係者以外の方にはちょっとわかりにくい表現ですが、私は次のように解釈しています。
「主体的」とは、誰かにやらされるのではなく自分から積極的に学ぼうとする姿勢です。「対話的」な学びとは、先生や友だち、家族や地域の人たち、学校にやってくるゲストティーチャーや校外学習で出会う様々な人々、要は他者との対話(「会話」ではありません)を通しての学びです。そして、課題を見つけて挑戦し、解決し、新たに課題を見つけてまた挑戦していく、つまりどんどん深掘りしていく学習方法が「深い」学びです。

生徒・学生たちが生き生きと防災学習にとりくんでいる学校では、知識と技能をインプットするだけではなく、自らの被災体験や他者から吸収した知識を何らかの形に加工してアウトプットする活動にとりくんでいるところが少なくありません。そこには、課題を見つけ、その解決のために情報を集め、先生や友だちと相談し、判断し、実行していくプロセスがあります。他者と深く関わっていく姿勢が見られるのです。素晴らしい防災学習の実践事例には、「主体的・対話的で深い学び」が具体的な形を伴って表現されていると私は感じています。

被災体験を伝える

被災地では、ある一定期間が過ぎると、災害体験を持たないこどもたちが入学してきます。被災体験をどう伝えるかは、被災地に共通する課題として受け止められています。
東日本大震災の被災地で、自分の被災体験を紙芝居で発信する高校生がいます。震災から10年、小学生はもうあの震災の直接記憶を持ちません。あと数年もすれば大津波を体験していない世代が高校に入学してきます。そんな世代にとっては土地のかさ上げや造成、住宅の建設が続くまち、集団移転した新しいまちが故郷になります。そこでは、震災を知らない世代にあの時起こった事実を記憶しておいて欲しいと願う高校生が、自分の幼い頃の体験を紙芝居にして幼稚園や小学校で読み聞かせを続けています。

この活動には災害体験の伝承とともに、もう一つ、大切な意味があります。話を聞いたこどもたちは「もし自分なら・・・」と考える傾向があります。防災を進めるには災害を「我が事」ととらえる必要があるとよく指摘されますが、同世代の体験を聞き、過去の体験に現在の自分を重ね合わせて考えるプロセスは、災害への「我が事」感を高めていく一番の方法ではないでしょうか。

楽しく学べる教材づくり

こども向けの防災教育教材を作る大学生や高校生がいます。難しいテキストではなく、紙芝居やゲームのような、だれでもが気軽にとりくめるツールです。もちろん、噓や間違いを教えるわけにはいきません。製作者たちがまず防災をしっかりと学び、インプットした正しい知識を紙芝居やゲームの形でアウトプットします。こどもたちは大学生や高校生と一緒にゲームを通して防災の知識を学んでいきます。

防災ダンスを考えた大学生たちがいます。こどもたちは音楽に合わせて楽しく体を動かし、身体の動きと歌詞で災害時の正しい対応を学べます。
ラップで防災学習を発信している障害児学校の子どもがいます。6年生になった時に、4年生の時に作ったラップを口ずさんだりしていたそうです。音楽は体に沁み込んでいるのですね。
リズムに乗せた防災学習はこどもたちにとって受け入れやすく、記憶の箱に長く保持できる方法なのでしょう。

ものづくりを通したつながりづくり

うちわやカレンダーを防災と関連付ける実践があります。夜間定時制高校の生徒たちが防災啓発のうちわを作って地域に配布しています。高校は通学区域が広く地域と密接な関係を築きにくいのですが、この定時制高校はうちわを地域の商店街やイベントで配布して防災の啓発をしながら、学校とのつながりづくりを模索してきました。今では、地域の芸術家や音楽家が学校と連携しているそうです。

防災カレンダーを作っている学校はたくさんあります。1か月単位のカレンダーや日めくりもあります。毎日目にするものだからこそ、そこに載せられている防災情報が意識に入ってくるのです。生徒自たちは自宅に貼って意識を高め、地域に配布して啓発しています。
日常使いができるアイデア商品を開発して防災イベントで販売し、その収益を被災地に送っている高校たちがいます。東日本大震災から10年が過ぎてもその取り組みを継続しています。「忘れていない」というメッセージです。

東日本大震災の被災地の学校で調理実習用の包丁が流されたり錆びてしまったりして使えなくて困っていると聞いた高校生たちは、伝統工芸である包丁を授業で作ってプレゼントしました。被災地を直接訪れて錆びた包丁を研ぐボランティアをしていると、母や妻の形見の包丁の話を聞かせていただいたそうです。震災から10年が過ぎても、現地に出向いて包丁を研ぐ活動を継続しています。

防災の学びが、自分や家族、大切な人の命や財産を守るための学びから、地域、被災地とのつながりを作り強めていく学びへと広がっています。

この記事を書いた人

諏訪 清二

全国初の防災専門学科 兵庫県立舞子高校環境防災科の開設時より科長を務め、東日本大震災をはじめとする国内外の被災地でも生徒とともにボランティアや被災者との交流に従事。
防災教育の第一人者として文部科学省「東日本大震災を受けた防災教育・防災管理等に関する有識者会議」など、防災教育関連の委員を務める。

2017年4月から防災学習アドバイザー・コラボラレーターとして活動開始。
学校での防災学習の支援活動を中心に、防災学習、災害、ボランティア、語り継ぎなどのテーマで講演活動も。
中国四川省、ネパール、スリランカ、モンゴル、エルサルバドルをはじめ、海外各地でも防災教育のプロジェクトに関わってきた。

2017年度~
神戸学院大学現代社会学部 非常勤講師
兵庫県立大学 特任教授
(大学院減災復興政策研究科)

2018年度~
関西国際大学セーフティマネジメント研究科 客員研究員

【著書】
防災教育のテッパン――本気で防災教育を始めよう

防災教育の不思議な力――子ども・学校・地域を変える

高校生、災害と向き合う――舞子高等学校環境防災科の10年
※こちらの書籍は、現在電子書籍での販売となります。

諏訪 清二の記事一覧

公式SNSアカウントをフォローして、最新記事をチェックしよう

twitter
facebook

この記事をシェア

B!

あなたにおすすめの記事