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防災教育の内容を問う③ 防災教育は丸投げでいいのか ~専門家への丸投げを問う~

専門家への「丸投げ」

梅雨がやってきました。今年は新型コロナウイルスの感染と重なって、避難所での3密状況の発生が危惧されています。できれば、大雨が降らず、洪水・土砂災害が発生せず、避難所での3密が発生しないことを願っている方は多いのではないでしょうか。

日本は梅雨と台風の時期に洪水、土砂災害が多発します。近年は続けざまに発生した西日本豪雨水害(平成30年7月豪雨)や東日本での台風19号による水害(令和元年10月25日の大雨)のような広域の水害だけではなく、局地的な浸水、土砂災害なども多発しています。
その傷跡が癒えず被災地が回復しないまま越年して、次の雨季を迎えることもあります。梅雨が近づくと人々の不安が増していきます。

そんな水害大国日本では、気象災害をテーマにした防災教育が不可欠です。しかし、理科の授業で気象のメカニズムに触れることはあっても、なかなか水害の実態や備え、避難のタイミングやそのための情報収集、避難所の在り方に言及する授業は行われていないようです。
もちろん、防災教育の大切さに気付いて一歩踏み出した学校は、気象予報士や防災士など、その道の専門家を講師に招いて全校集会でこどもたちに話を聞かせる機会を作っています。

でも、本当にそんな防災教育でいいのでしょうか。防災は専門家がすることだ、教員は忙しいし防災教育に必要な特別な知識を獲得する時間がない、そんな言い訳で先生方が防災教育を担当せず、大学の研究者や気象予報士、防災士、災害に関心を持つNPOなどの外部の専門家に外注していていいのでしょうか。

私はそれを「丸投げ」と呼んでいます。学校から外部専門家への「丸投げ」は実はいくつかの弊害を生み出します。

教材の「選択」(selection)と「配列」(gradation)は誰の仕事?

まず、先生方が防災を学ぼうとしなくなります。授業のために調べ物をし、それらから必要な内容を「選択」し、それらをうまく「配列」する作業は、実は教師にとって楽しい作業のはずです。それを放棄して「丸投げ」で済ませてしまうのは、残念です。

もう一つは「丸投げ」される側がそれを「丸受け」してしまって、結果的に双方が防災教育の発展を阻害してしまうということです。
「丸投げ」される側も防災教育を広げたいと願っています。こどもたちに防災を教えることがうれしくて、楽しいのです。やりがいを感じしてしまうことで先生方の「丸投げ」を助長し、結果的に先生方が防災教育を考える努力を放棄する姿勢に繋がっていることも否定できません。

「丸投げ」される専門家が、学校での防災教育に関わるべきではないと言っているのではありません。関わる方法を変えればいいのです。「丸投げ」されて授業をすべて請け負ってしまうのではなく、先生方が授業をする手助けをすればいいのです。

学校から「丸投げ」されたら、先生方による授業の実施を前提条件としましょう。自分たち専門家はそのための情報を与えることに徹しましょう。先生方がその情報を使って授業を構築する支援をするのです。
でも絶対に授業をするなとは言いません。やるならコンビで一緒にしませんか。そんな授業を一緒に開発することが防災教育の発展と広がりにはとても大切だとは思いませんか。
文科省の学習指導要領は、学校と専門機関や専門家、地域、家庭との連携を薦めています。そういったつながりの中でこそ、いい授業ができ上がっていくと思いませんか。

気象庁のチャレンジ

最後に、学校や地域の防災学習で使えるツールを一つご紹介します。私も関わったので手前味噌みたいで申し訳ないのですが、ぜひ使ってみてください。
気象庁が開発したビデオ教材、e-ラーニングで楽しく学ぶ「自らの命を自らが守る」という教材です 。
洪水や土砂災害が発生する危険性があるときに、どのタイミングで避難するのか、そのためにはどんな情報を活用するのかを5回に分けて解説しています。1回が10分程度の長さなので、授業の一部で紹介できます。地域の学習会でも少しずつ視聴できるし、自宅で学習することも可能です。

私がこのプログラムで一番強調したかったのは、気象災害からの避難は行政が発表する避難指示を待つのではなく、自分の住む地域の脆弱性、危険個所を前もって知っておいて、大雨が予想されるときは自分で気象情報を集め、自分の判断で避難のタイミングと決行を決めるという姿勢が大切だということです。
そして、自治体からの避難の情報が出た時にはすでに避難を必要とする人々が避難を完了しているという状態が出来上がること、これが一番大切なのではないでしょうか。

e-ラーニングで楽しく学ぶ 「自らの命を自らが守る」

こちらの教材は気象庁HPで視聴できます。
気象庁|e-ラーニングで楽しく学ぶ
http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/jma-el/dounigeru.html

今後も順次追加予定となりますのでチェックをしてみてください。

また、現在公開中の教材はYouTubeでも視聴できます。

ステップ I 避難を行うためのポイントを理解しよう

https://youtu.be/3Tk0_QRn9Sk

ステップ II あなたの家の災害リスクを知ろう

https://youtu.be/3P5jdhXmU24

ステップ III 大雨の時の避難先

https://youtu.be/zaGE6z19Db4

ステップ IV 避難にかかる時間を考えよう

https://youtu.be/wKFzs5m_OtQ

ステップ V あなたの避難のタイミングを考えよう

https://youtu.be/Ipr-8-lK_Gg

防災教育の内容を問う 前回の記事

この記事を書いた人

諏訪 清二

全国初の防災専門学科 兵庫県立舞子高校環境防災科の開設時より科長を務め、東日本大震災をはじめとする国内外の被災地でも生徒とともにボランティアや被災者との交流に従事。
防災教育の第一人者として文部科学省「東日本大震災を受けた防災教育・防災管理等に関する有識者会議」など、防災教育関連の委員を務める。

2017年4月から防災学習アドバイザー・コラボラレーターとして活動開始。
学校での防災学習の支援活動を中心に、防災学習、災害、ボランティア、語り継ぎなどのテーマで講演活動も。
中国四川省、ネパール、スリランカ、モンゴル、エルサルバドルをはじめ、海外各地でも防災教育のプロジェクトに関わってきた。

2017年度~ 神戸学院大学現代社会学部 非常勤講師 / 兵庫県立大学 特任教授(大学院減災復興政策研究科)
2018年度~ 関西国際大学セーフティマネジメント研究科 客員研究員
2020年度~ 大阪国際大学短期大学部 非常勤講師
2021年度~ 神戸女子大学 非常勤講師 / 桃山学院教育大学 非常勤講師

【著書】
図解でわかる 14歳からの自然災害と防災 (著者:社会応援ネットワーク 監修:諏訪清二)
防災教育のテッパン――本気で防災教育を始めよう
防災教育の不思議な力――子ども・学校・地域を変える
高校生、災害と向き合う――舞子高等学校環境防災科の10年
※こちらの書籍は、現在電子書籍での販売となります。

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