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ワークショップで防災を学ぼう① 防災は知識が大切 でもそれだけでは不十分

防災は、おもしろい?

防災の学びって、なぜあまりおもしろくないのでしょう?
防災士や消防士、大学の先生がまじめな顔で備えの大切さを強調したり、リアル感のとぼしい訓練を行ったり。参加している人たちも、何となく行事消化型で、義務感の塊みたいです。とりあえずやっておけばいいんだろう、という感じ。
ちょっと言い過ぎかも知れませんね。もちろん、講師の方々は、防災を大切に考えて一生懸命に話してくれます。防災好きにとっては面白い話も多いし、ためになります。そんな講義はありがたいんだけれど、何か、“防災おたく”の世界観みたいだし、防災に関心のない人にとっては、何となく一方通行で、すとんと入ってこない話も多いんじゃないでしょうか。
防災の講演会に行くと、参加者はいつも同じ人たち。地域の自主防災組織の方々や動員で駆り出された方々。どうも広がりが期待できないんですよね。

防災の知識は大切

でも、防災の知識は大切です。災害が発生するたびに、「まさか自分が災害に遭うなんて」という被災者の声を報道が伝えます。みんな、自分だけは災害に遭わないと決めつけていたのでしょうね。だから、災害時の「安全性バイアス」とか高齢者の「経験逆機能」などという市民には馴染みの薄い専門用語がどんどん私たちの目や耳に触れるようになり、やがて市民権を得て広がっていきます。そして、防災の知識の大切さがどんどん強調されていくのです。でも、ただ協調されるだけで、その後の活動にはなかなかつながりません。
再度強調しておきます。防災の知識は大事です。
地震の強烈な揺れからとっさに身を守るにはどうしたらいいかは、知っておいた方がいいでしょう。揺れによって家具が転倒するのを防ぐ方法も知っておきましょう。耐震建築の大切さも理解して、実践したいものです。
気象警報の種類と意味を知って、自分の住んでいる地域の気象災害への脆弱性を知っていれば、早期避難につながるかもしれません。避難指示を聞いて避難を始めた時は、膝まで水が来ていた、なんてことはなくなるでしょう。
沿岸部に住む人々、海岸沿いに出かけていく人々の間では、長く続く地震の後には津波が来るかもしれないという知識も必要です。そして、垂直避難、水平避難の大切さを知って、とにかく逃げる、という姿勢を持っていないと、大変なことになります。
こういった備えやその時の対応の知識が私たちの命を守ってくれます。

知識だけで命を守れる?

では、そういった知識を持っているだけで、本当に地震の揺れから命や財産を守ることができるでしょうか?
災害への備えや対応の良し悪しは、知識の量に比例するのでしょうか?
日本は知識信奉国家ではないかと思うことがよくあります。大学入試は知識の量で判断されるし、テレビのクイズ番組も知識を持った人々を高く評価します。多くの人が知らない知識を持っているという事実が、最高に素晴らしいという評価につながるのです。
でも、防災も知識偏重でいいのでしょうか。
答えはNOです。防災の知識は実行に移されない限り、意味を持たないのです。

ワークショップのおもしろさ

内閣府が行っていた防災のとりくみの一つに「一日前プロジェクト」があります。災害を体験した人々に「災害の一日前に戻れるとしたら、あなたは何をしますか」と問いかけます。「タンスがあんなに簡単に倒れてくるなんて思わなかった」、「家族と連絡が取れずとても不安だった」というような体験談を聞き、聞き手の私たちにできることを考えるのです。
【参考、災害被害を軽減する国民運動 一日前プロジェクト
こういったワークショップの手法を活用し、あるいはさらに発展させることで、より良い防災の学びが可能になると思いませんか。
このコラムでは、防災の学びを深め、行動に結び付く可能性と高めるワークショップを紹介します。

面白い防災の学びもある

防災の学習は、展開次第では本当に面白いし、ためになります。知識の獲得に合わせて、その知識を(時には知識のなさを)実際に使ってみる機会があれば、という条件付きですが。
獲得される知識の量で学びを評価するのではありません。知識の獲得を主とする学びには、正解と不正解が付きまといます。でも、災害時には、正解も不正解もない場面が時として起こるのです。そこを切り抜ける力も必要です。
ワークショップには、時として正解がありません。グループによって結論が違ったり、一人ひとりが自分だけの結論をもって終わることがよくあります。それでいいのです。話し合い、語り合い、正解のない中で合意を探すプロセスを体験すること、それこそが防災の学びにとって必要なのです。

新・一日前プロジェクト

先ほど紹介した「一日前プロジェクト」を少しだけ改良して実施してみましょう。
まず、学習者に問いかけます。
「明日災害が発生します。今日、何をしますか?自分がしておきたい行動を10個、書きだしてください。」
参加者は、あれやこれやと考えながら10の行動を書き出します。次に5人のグループに分かれて、話し合ってもらいます。5人は、グループワークに最適の人数です。偶数だと、半々に分かれて話し合いに決着がつかないときがあります。8人を超えてしまうと、活発な意見交換ができにくくなります。できれば5人で一つのグループを構成してワークショップを行ってください。
5人で、明日災害が起こるという切迫した状況で何をするか、いろいろと話し合いましょう。そして、5人が行いたい行動(最大50の行動ですが、重なることもあるので、実際には20から30程度でしょう)を10の行動に絞り込んでいってください。
さらに、その10の行動に優先順位を与えてください。1番に行いたい行動、2番目の行動、3番、4番・・・。10番まで並べてください。
いろいろな面白い行動が出てきます。まじめに、備えを行う行動が多く出されます。家を耐震化する、家具を固定する、避難経路を確認する、家族の連絡体制を作っておく、食料と水を保管しておく、非常持ち出し袋を用意しておく・・・。
中には奇抜な、面白いアイデアもあります。焼き肉を思いっきり食べておく、好きな人に告白しておく、遠くの親戚の家に逃げる、・・・。
そうです。このプロジェクトでは、どんな意見でも尊重するのです。

あなたは、すでに実行していますか?

でも、最後にコーディネーターが厳しい質問を投げかけます。
「皆さんが挙げた行動のうち、備えに関わる行動を考えてください。もうすでに全部を行っている人はいますか?手を挙げてください。」
まず手が上がることはないでしょう。あっても一人二人かな。
最後にこう問いかけます。
「知識をいっぱい持っているけれども何もしない人と、知識がなくて何もできない人がいます。同じに見えますか、違って見えますか?」
このワークショップで伝えたい結論です。知識は大切です。でもそれを行動に移さないと何の意味もありません。

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この記事を書いた人

諏訪 清二

全国初の防災専門学科 兵庫県立舞子高校環境防災科の開設時より科長を務め、東日本大震災をはじめとする国内外の被災地でも生徒とともにボランティアや被災者との交流に従事。
防災教育の第一人者として文部科学省「東日本大震災を受けた防災教育・防災管理等に関する有識者会議」など、防災教育関連の委員を務める。

2017年4月から防災学習アドバイザー・コラボラレーターとして活動開始。
学校での防災学習の支援活動を中心に、防災学習、災害、ボランティア、語り継ぎなどのテーマで講演活動も。
中国四川省、ネパール、スリランカ、モンゴル、エルサルバドルをはじめ、海外各地でも防災教育のプロジェクトに関わってきた。

2017年度~ 神戸学院大学現代社会学部 非常勤講師 / 兵庫県立大学 特任教授(大学院減災復興政策研究科)
2018年度~ 関西国際大学セーフティマネジメント研究科 客員研究員
2020年度~ 大阪国際大学短期大学部 非常勤講師
2021年度~ 神戸女子大学 非常勤講師 / 桃山学院教育大学 非常勤講師

【著書】
図解でわかる 14歳からの自然災害と防災 (著者:社会応援ネットワーク 監修:諏訪清二)
防災教育のテッパン――本気で防災教育を始めよう
防災教育の不思議な力――子ども・学校・地域を変える
高校生、災害と向き合う――舞子高等学校環境防災科の10年
※こちらの書籍は、現在電子書籍での販売となります。

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