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内水氾濫と外水氾濫、浸水と冠水、決壊と越水、どう違う?知っておきたい、よく聞く水害用語

梅雨の季節から台風シーズンまでは、大雨が降りやすく、河川が増水しやすい「出水期」と言われる時期です。特に、梅雨の終わり頃には豪雨になることが多く、大きな被害を出す水害も起こりやすいとき。様々なところで、水害に関する用語を見たり聞いたりする機会も増えてきます。「内水氾濫」と「外水氾濫」、「浸水」と「冠水」、「決壊」と「越水」など、その言葉の意味を、水害への備えとともに確認しておきましょう。

そもそも、水害とは

水によって引き起こされる災害全般のことを「水害」といいます。
海で発生する、「波浪」や「高潮」、大規模な地震によって引き起こされる「津波」も、水害の一種です。


多くの人が暮らす街でも、水害が発生することは、想像できるはずです。
水害の中でも「洪水」は、馴染みのある言葉かもしれません。また、さらに詳しく防災などを語られる際には「内水氾濫」や「外水氾濫」などといった用語も耳にする機会が増えてきたのではないでしょうか。大雨などによる浸水被害の原因は、大きく「外水氾濫」と「内水氾濫」の2つに分けられます。

住宅地などの水害による被害を語られる際には、床上浸水や床下浸水などといった「浸水」という言葉や、「道路が冠水した」など「冠水」という言葉で説明されます。

河川の堤防の状況は、「大雨によって“決壊”」や、「堤防を“越水”した」などという言葉が使われます。
こうした言葉は、すべて気象庁が定義している、水害に関連した用語です。

洪水災害ってどんな災害?

「洪水」と聞くと、大雨が降って川から街に水があふれて、道路が川のようになったり住宅が水に浸かったりする光景が思い浮かぶのではないでしょうか。

例えば、熊本県や大分県、福岡県などで死者30名、行方不明者2名、九州北部を中心に1万棟を超える住宅の損壊や浸水等の被害を出した、「平成24年7月 九州北部豪雨」。2012年7月11日から14日にかけて九州北部地方を中心に記録的な大雨となり、矢部川で堤防が決壊するなど、河川の氾濫や土石流、がけ崩れなどが発生した災害です。

「大雨によって、河川の氾濫などが発生した」というところが、「洪水災害」のポイントです。

気象庁では、「洪水」を「河川の水位や流量が増大することにより、平常の河道から河川敷内に水があふれること、及び堤防等から河川敷の外側に溢れること」と定義しています。
河川の水が異常に増えて、堤防が決壊したり橋が流されたりすることによって起こる災害が、洪水災害です。
大雨が降る時はもちろん、大雪が降った後に暖かくなって雪がとけだした時にも洪水災害は発生します。

洪水と同じような意味の「外水氾濫」

洪水と同じような現象に「外水氾濫」があります。外水氾濫は、気象庁の定義によると「河川の水位が上昇し、堤防を超えたり破堤するなどして堤防から水が溢れ出ること」。大雨が降った際に、河川の水位が上がって、堤防が破損したり水が堤防を越えるなどして、市街地に水があふれ出てしまうことです。

例えば、2015年9月に台風18号や前線の影響で関東地方と東北地方で記録的な大雨となった「平成27年 関東・東北豪雨」。鬼怒川で堤防が決壊し、家屋の流出などが発生した災害です。住宅81棟が全壊し、7,045東が半壊、床上浸水は2,495棟、床下浸水は1万3,159棟に及びました。

外水氾濫では、河川から溢れ出た大量の水が強い勢いで一気に市街地に流れ込んでくるために、逃げ遅れて人的な被害が起きてしまったり、家屋の半壊や全壊も多くなる傾向にあります。押し寄せてきた水には、土砂を多く含んでいるため、被災した家屋などの復旧もより大変なものとなります。

近年増えてきている「内水氾濫」

堤防から水があふれなくても、市街地に水があふれてしまう水害があります。内水氾濫です。
気象庁では、内水氾濫を「河川の水位の上昇や流域内の多量の降雨などにより、河川外における住宅地などの排水が困難となり浸水すること」と定義しています。

街には、側溝や排水路など、降った雨水を下水路や河川に誘導して処置する、排水機能がつくられています。しかし、街の排水能力を超えるような大雨が短時間に降ると、市街地に水があふれ、浸水してしまいます。排水先の河川の水位が上がって、街の側溝や排水路に水が逆流することで発生する内水氾濫もあります。

雨水は土壌にも吸収されて貯えられますが、道路や住宅地などの開発が進んで多くの土地の舗装が行われたことから、土壌に浸透して貯えられる量が少なくなったことも、内水氾濫の原因といわれています。
内水氾濫は「都市水害」ともいわれていて、近年増えてきています。

例えば、2020年に発生し熊本県を中心に大きな被害をもたらした「令和2年7月豪雨」や、その前年の2019年に発生し福島県や宮城県などで多くの死者を出した「令和元年東日本台風」も内水氾濫によって多くの住宅が浸水しました。

内水氾濫は、河川が近くにない地域でも発生します。他の土地よりも低い場所や、アスファルトなどが配備された地域などは、内水氾濫が発生しやすくなります。

氾濫が発生している時の状態「浸水」と「冠水」の違いは

内水氾濫や外水氾濫が発生して、市街地に水があふれ出している状態を表現される言葉に、「浸水」と「冠水」があります。「床上浸水」「床下浸水」や、「道路が冠水した」などといわれます。

浸水と冠水。この言葉の違いは、“物”が水に浸かっているのか、“土地”が浸かっているのかです。

浸水

浸水は、“物”が水に浸ってしまったり、“物”に水が入りこんでしまっていることを言います。
住宅などの建物や自動車などが水に浸かったり、中に水が入ってきてしまったら、浸水の被害となります。

ちなみに、自動車保険などでは浸水の被害にあった車を「水没車」といったりもしますが、水没とは正確には、浸水する深さが増していって、完全に水の中に沈んでしまった状態を言います。
低い土地などでは、大雨によって外水氾濫と内水氾濫が同時に発生するなどすれば、住宅も床下浸水から床上浸水、そして水没へとなることもあります。
お住まいや職場などに、どれだけ浸水のリスクがあるのか、日頃からハザードマップを確認しておきましょう。

冠水

土地が水に浸かっている状態を表すのが「冠水」です。気象庁では、「農地や作物、道路が水をかぶること」と定義しています。
道路や田畑などの、建物が建っていない場所があふれた水に浸かっている状態です。

道路の冠水は、交差する鉄道や道路などの下を通過できるように周辺の地面よりも低くなっている道路「アンダーパス」で発生のリスクが高まります。
大雨が降っているなか「きっと通れるだろう」と侵入したものの想像していたよりも深く冠水していて、浸水してしまった車の身動きが取れなくなり命を落としてしまうというケースも、大雨による災害時にはあちこちで見受けられます。

大雨が降った時には入り口に設置された掲示板で冠水情報を表示するアンダーパスも増えてきています。また、国土交通省のホームページでは、全国道路の冠水が想定されている箇所などの情報「道路防災情報WEBマップ(道路に関するハザードマップ)」も公開しています。

台風や豪雨などの大雨が降っている時には、冠水による被害から身を守ることができるように、危険箇所へ無理に侵入することはやめましょう。

外水氾濫が発生するときの河川付近の状態「決壊」「越水」「溢水(いっすい)」

大雨が降るなどして河川の水位が上昇し、水が市街地のほうにあふれ出てくると、外水氾濫になります。外水氾濫が発生した時には、堤防のある河川では「決壊」か「越水」が起きています。また、堤防のない河川では「溢水(いっすい)」が起こっているかも知れません。

「決壊」「越水」「溢水」、それぞれの違いはどんなところでしょうか?

決壊


決壊とは、河川が増水して、堤防が壊れることです。
大雨などによって河川の水が増水すると、流れも早くなり、激しい川の流れで堤防の土が削り取られて堤防は壊れやすくなります。雨水が浸透したり川の激しい流れで、堤防の斜面が弱くなることもあります。こうしたことが重なると、堤防が耐えきれずに、決壊することがあるのです。

大雨が数日間にわたって降る時には、特に注意が必要です。

越水


堤防が壊れていなくても、短時間に多量の雨が降れば、河川の水はあふれることがあります。河川の水が堤防を越えてあふれ出ることを、越水(えっすい)といいます。

決壊に比べて、ゆっくりじわじわと市街地に水が広がってくる傾向にありますが、油断できません。越水によって堤防がもろくなり、決壊に繋がることがあります。

溢水(いっすい)


越水と同じように、河川の水があふれ出ることを「溢水」といいますが、越水とは大きく違う点があります。
越水は、堤防のある河川で、堤防を越えて水があふれてくることをいうのに対して、「溢水」は堤防のない河川で水があふれることをいいます。

なによりも大切なのは、備えることと早めの避難行動

水害にまつわる言葉の意味をご紹介してきましたが、こうした言葉の意味を理解する以上に大切なのは、日頃からの備えや、大雨が降った際には気象情報や避難情報をしっかりとチェックして、早めに避難行動をおこすことです。

ハザードマップなどを確認して、お住まいや職場にどのようなリスクがあるかも知っておきましょう。土のう袋や水のう袋なども備えておき、水害のリスクが高まった時には早めに玄関扉の前や通気口の周り、周辺道路の排水溝周りなどに設置することで、住宅などの浸水被害を減らすことにつなげられます。


参考資料

気象庁 台風や集中豪雨から身を守るために

国土交通省中部地方整備局 用語解説

気象庁 河川、洪水、大雨浸水、地面現象に関する用語

内閣府 避難に関する国の指導等

内閣府防災 2015年(平成27年)関東・東北豪雨による災害

国土交通省 ガイドライン策定後における内水浸水対策の取組状況

国立研究開発法人国立環境研究所 都市型水害について

国土交通省 道路防災情報WEBマップ

この記事を書いた人

瀬尾 さちこ

防災士。住宅建築コーディネーター。整理収納コンサルタント。

愛知県東海市のコミュニティエフエム、メディアスエフエムにて防災特別番組「くらしと防災チャンネル(不定期)」、「ほっと一息おひるまメディアス(毎週水曜日12時〜)」を担当。
以前の担当番組:みんなで学ぶ地域防災(2021年~2021年)、防災豆知識(2019年~2021年)
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