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<夏に向けて>非常用持ち出し袋の中身も、衣替えしましょう!

4月の後半頃から、25度を超える夏日になる日も増えてきました。そろそろ、衣替えの季節。
クローゼットの中やインテリアなどの衣替えをする方は多いかもしれませんが、非常用持ち出し袋はいかがでしょうか?一年中、同じものを入れっぱなしで、部屋の片隅で忘れられたりしていませんか?6月1日は、夏に向けての衣替えをする目安の日。そして、6月〜10月にかけては、「出水期」といわれる、集中豪雨や台風などによって災害のリスクが高まる時期です。夏に向かって日に日に暑さが増していくこの季節に、非常用持ち出し袋の中身も衣替えしながら、再チェックしていきましょう!

夏に向けての非常用持ち出し袋の中身は「熱中症対策」を考えて

昨年(2022年)は、5月から35度を超える猛暑日になった地域や、6月になると40度を超えた地域もあり、東日本や西日本で、観測史上1位の高温を記録しています。6月の後半からは、熱中症で救急搬送される人も急激に増えてきます。特に、65歳以上のご高齢の方を中心に、熱中症で亡くなる方も6月後半から急増します。1990年代以降、猛暑日の日数が増加していて、今後もこうした傾向はますます深刻化するとみられています。

熱中症は、適切にエアコンを使い、こまめな休憩と水分補給・塩分をしっかりとすれば、防ぐことができます。しかし、災害時には停電でエアコンが使えない状況になることもあり、避難所などではトイレに行く回数を減らすためや水の備蓄量に不安があることなどから、水分補給を控える方も少なくありません。慣れない環境でのストレスなどから睡眠不足になったり、生活のリズムも乱れやすくなるなど、熱中症のリスクが高くなります。

だからこそ、夏の向けての非常持ち出し袋の中身は、熱中症対策に重点を置いた備えをしておく必要があるのです。

熱中症とは

熱中症は、体温が上がって、体の中の水分や塩分のバランスが崩れたり、体温の調節機能が働かなくなることで起きる病気です。
症状の軽いものでは、立ちくらみやめまい、「熱けいれん」と言われるこむら返り(筋肉の硬直)や筋肉痛などの症状が出ます。
この症状が出た段階で、水分や塩分を摂り、涼しい場所で風にあたったり、冷たいシャワーを浴びるなどして身体を冷やすことができれば良いのですが、さらに症状が進んでくると、頭痛や吐き気・嘔吐、倦怠感や虚脱感などの症状が出ます。
重症になると、体温が40度以上になり、意識障害や全身のけいれん、「まっすぐ歩けない」などの手足の運動障害、呼びかけに対して返事がおかしいなどの症状がでます。

熱中症は、死に至る可能性のある病気です。
一命をとりとめたとしても、脳が部分的に損傷を受けて新しいことが覚えられなくなるなどの「高次脳機能障害」や、嚥下障害、パーキンソン病症候群、肝機能や腎機能の障害などの後遺症が残ることもあります。
熱中症の症状や応急処置などについては、こちらの記事でも詳しくご紹介しています。


熱中症を引き起こす要因は、「環境・からだ・行動」といわれています。災害時には、すべての面で、リスクが高まります。暑い季節に向かう時期には、非常用持ち出し袋でも熱中症対策の備えがとても大切なのです。

例えば、こんなものを備えておきましょう

熱中症対策のために非常用持ち出し袋に備えておくものを考えるときのポイントは、2つです。
まず一つ目は、「暑さをやわらげるためのもの」。そして2つ目は、「水分・塩分を効率的に補給できるもの」です。

1.暑さをやわらげるためのもの

暑さをやわらげるものには、服装やグッズなどがあります。

吸水速乾Tシャツ(インナー)

例えば、着替え。以前はスポーツやアウトドアウェアなどが中心でしたが、普段着にできるようなデザインのものも増えてきた「吸水速乾Tシャツ(インナー)」は、生地が吸った汗などの水分を素早く乾かすことで、快適を保つことのできる素材の洋服です。水に濡らして着れば、蒸発するときに肌から熱を奪う気化熱によって、少し体温を下げることができます。

帽子と日傘

避難生活での作業や、交通がマヒをした状況で移動をするときには、長時間にわたって日差しの強い屋外にいなければならなくなることもあります。帽子や日傘も備えておきましょう。直射日光を遮ることで、5度〜10度ほど、頭の温度の上昇を抑えることができるといわれています。帽子なら、つばが広く、通気性の良いもの、白または白っぽいものの方がより効果的です。
特に日傘には抵抗のある男性もいらっしゃるかも知れませんが、熱中症になるリスクを抑えるためには、日傘や帽子を使うことは、とても大切です。

冷感タオル(ネッククーラー)

首元などの大きな血管がある場所に巻いて、体温を少し下げることのできる、暑さ対策グッズです。
水に濡らして使用する「瞬間冷却タイプ」と、濡らさずに使える「接触冷感タイプ」がありますが、水に濡らして使う「瞬間冷却タイプ」の方が主流です。濡らさずに使える「接触冷感タイプ」は、瞬間冷却タイプに比べるとひんやり感は弱めですが、災害時に断水して水が使えなくなる可能性を考えると、接触冷感タイプも備えておいた方が良いかもしれません。

瞬間冷却パック

冷凍しなくても使える保冷剤です。薬剤の入ったパックに「パンチ」したり、ギュッと握ってひねると冷却が始まるというもの。冷却持続時間は30分〜90分前後で、冷凍の保冷剤のように氷のような冷たさになるものは少ないですが、軽度の熱中症の症状が出たときなどは、応急処置で首や脇、太ももの付け根などを冷やすのに必要です。
使用期限があり、長いもので3年程度なので、非常用持ち出し袋の冬に向けての衣替えの時には日常使いにしてまた翌年の夏に向けての非常用持ち出し袋の衣替え時に、新しいものを入れておくようにしましょう。

うちわ、扇子

熱中症が起こりやすい環境の一つとして、「風が弱い」ことが挙げられます。からだに風をあてると、汗の蒸発を促進して、からだにたまった熱を効率よく発散することができるという実験結果も出されています。
日頃から熱中症予防のために、エアコンや扇風機を効果的に使うことがとても大切です。しかし、災害時には停電になってしまうことも多く、電気を必要とするものは使えないと考えておきましょう。
そこで、備えておきたいのが、昔ながらの「うちわ」や「扇子」です。電池やUSB充電式のポータブル扇風機もありますが、充電が切れてしまったり、電池がなくなって、動かせなくなってしまう可能性もあります。うちわや扇子なら、そのような心配がなく使うことができます。

2.水分・塩分を効率的に補給できるもの

熱中症は、高温多湿な環境の中で、からだの中の水分や塩分のバランスが崩れたり、調整機能が崩れたりした時に発症します。からだの中の水分(体液)には、ナトリウムやカリウム、マグネシウムなどの「電解質(イオン)」と言われる成分が含まれています。熱中症の予防には、積極的に水分を摂っていかなくてはならないことはもちろんですが、同時に塩分も摂っていく必要があります。水分とあわせて、塩分などを摂取できるものも備えておきましょう。

水、ゼリー飲料

水分を摂る量の目安は、1日あたり1.2Lです。500mLのペットボトル、2.5本分。すべてを非常用持ち出し袋に入れておくのは難しいかもしれませんが、十分な量の備蓄をしておきましょう。コーヒーやお茶などのカフェインを多く含む飲み物は、利尿作用があるため、飲み過ぎると逆に体内の水分の排出を促してしまう可能性があります。もちろん、適度に飲むことには問題ありませんが、「水分補給は主に“水”でする」と考えておいた方が良いでしょう。
水の他に、ゼリー飲料なども、水分と栄養素の両方を摂取できるのでおすすめです。

梅干し

梅干しには、塩分(ナトリウム)はもちろん、カリウムや鉄、ビタミンE、クエン酸なども含まれています。長期保存できるのも、良いところ。しっかり干していないタイプだと、かさばったり重くなることが難点ですが、種を抜いた干し梅や、梅干しのタブレットなども市販されています。
災害時に限らず、夏場は特に積極的に摂っていきたい食品の一つです。

塩分タブレット、塩飴

梅干しが苦手な方などは、「塩分タブレット」や「塩飴」がおすすめです。熱中症の予防のために必要な成分が配合されている塩分タブレットや塩飴は、スタンダードな塩味や、スポーツドリンク味、レモン味やピーチ味など、普通の飴やタブレット(ラムネ菓子)のように楽しめる味のものもあります。飴は、暑いと溶けやすくなってしまうことが難点ですが、唾液の分泌も促進してくれます。タブレットなら、気温が高くても溶けません。

粉末の経口補水液、粉末のスポーツドリンク

軽度の熱中症などで脱水症状が出てしまった時には、食塩とブドウ糖を混合して、適切な濃度で水に溶かした「経口補水液」で水分補給するのが効果的です。また、経口補水液よりも塩分が低く糖分を多めに配合されているスポーツドリンクは、熱中症予防のために必要な成分を効率よく摂ることができます。
経口補水液もスポーツドリンクもペットボトルのドリンクで備えておくのも、もちろん良いのですが、水に溶かして飲む粉末タイプの方が賞味期限が長めです。

そのほか、備えておいた方がいいもの

熱中症の対策ではありませんが、気温や湿度が高くなれば雑菌が繁殖することもあります。アルコールジェルやアルコールスプレー、ウエットティッシュ、ボディシートなども備えておきましょう。
水がなくても手を殺菌できるという効果に加えて、手や体をシートで拭くことでリフレッシュすることができます。

効果がありそうで、実はあまり効果のないもの?

熱中症対策に効果がありそうで、実はあまり効果のないものもあります。
例えば、スーッとした香りに清涼感のある、ハッカ(ミント)油。清涼感はありますが、実際に体温を下げるわけではありません。むしろ、脳が涼しいと感じて汗を止めてしまい、逆効果になることもあります。
しかし、ハッカ油の香りは汗の匂いを緩和したり、リラックスさせてくれる効果は期待できます。また、虫除けなどにも効果があるといわれています。
ハッカ油を非常用持ち出し袋に備えておくなら、暑さ対策ではなく、アロマ(香り)として活用しましょう。

発熱した時などにおでこに貼る、冷却ジェルシートも、実は体温を下げるまでの効果は期待できません。冷却ジェルシートは、ジェルに含まれている水分が蒸発する気化熱で、シートを貼ったところの温度が部分的に下がるというものです。首などに貼って、冷感タオルのように使うのは良いかも知れませんが、「少しひんやりするのが、気持ち良い」と感じているだけなので、水分と塩分補給もしっかりしながら、他のものと組み合わせて熱中症対策をしましょう。

日常と「もしもの備え」は、ひと繋がりで

夏に向けての非常用持ち出し袋に備えておきたいものは、もちろん、日常での熱中症対策にも使えます。また、梅雨の季節の前の暑くなりはじめの頃から、適度に運動をしたり入浴をして、汗をかく習慣をつけて、暑さにからだを慣れさせましょう。
熱中症を予防することは、暑くなる季節には、平時も災害時もとても大切なことです。


参考資料

熱中症ゼロへ

JVOAD 防災アクションガイド 【コロナ禍でもすぐできる!防災アクションガイド】暑い夏に気をつけること

Medical Note 熱中症

環境省 令和4年夏の記録的な暑さ〜今後、更に深刻化するおそれ〜

tenki.jp 5月なのに最高気温35℃以上の猛暑日 この先の暑さはどうなる?夏は猛暑? 2022/5/29

マスダ株式会社 “生地屋”の機能性解説〜吸水速乾素材(吸汗速乾素材)とは?〜

WASEDA ONLINE 実はすごい風の力 熱中症を防ぐ暑さの対策

大塚製薬 熱中症からカラダを守ろう 効率的な水分補給

一般社団法人梅研究会 梅に含まれる成分とその作用

健栄製薬 ハッカ油について

日本医事新報社 冷却ジェルシートにはクーリング効果があるのか?

この記事を書いた人

瀬尾 さちこ

防災士。住宅建築コーディネーター。整理収納コンサルタント。

愛知県東海市のコミュニティエフエム、メディアスエフエムにて防災特別番組「くらしと防災チャンネル(不定期)」、「ほっと一息おひるまメディアス(毎週水曜日12時〜)」を担当。
以前の担当番組:みんなで学ぶ地域防災(2021年~2021年)、防災豆知識(2019年~2021年)
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