B!

災害時に不足しがちなビタミンや食物繊維などの栄養素、どう補う?食品備蓄は栄養のバランスも考えて

災害用に、食品備蓄をされているご家庭も増えてきました。日常的に使ってはまた買い足していく、ローリングストックをされているご家庭もあるでしょう。どのようなものを、備蓄していらっしゃいますか?

「食べることは生きること」とは、よく言われることです。自治体でも食料や飲料水の備蓄はされており、大規模な災害時には緊急支援物資として食料品の支給や避難所での炊き出しも行われますが、すべての人に速やかにいきわたるわけではありません。道路などに被害が出た場合には、支援物資が届くまでにも時間がかかります。「食料がいつ届くかわからない」という状況が、いつまで続くのかわかりません。また、発災から1ヶ月間ほどは、支給される食料品もカロリー摂取を主眼として置かれているために、主食となるおにぎりやパン、カップラーメンなどのみのケースが多く、炭水化物や脂質などに栄養が偏ることから食欲不振や体調不良などを招くことも報告されています。
災害時に、特に不足すると言われているのが、ビタミンと食物繊維です。

いつ起きてもおかしくない、首都直下型地震や南海トラフ巨大地震のような、大規模災害が発生した時には、避難生活が長期化することも予測されます。
食料品の備蓄も、「最低3日分〜7日分」という量だけでなく、栄養のバランスを考えて備えておくことが、災害時にもできるだけ健康を保ちながら生活することにつながるはずです。

それぞれの栄養素の役割とともに、アルファ米などの定番の非常用保存食と組み合わせて備蓄しておきたい、おすすめの食品をご紹介します。

炭水化物

2011年3月11日に発生した東日本大震災からおよそ1ヶ月後に、厚生労働省は「避難所における食事提供の計画・評価のために当面目標とする栄養の参照量について」という表題で岩手県、宮城県、福島県など、多くの被災した人たちが避難所で生活していた自治体に向けて、被災後約3ヶ月までの間における必要な栄養量の目安を示しました。

1人1日あたり
エネルギー 2,000kcal
たんぱく質 55g
ビタミンB1 1.1mg
ビタミンB2 1.2mg
ビタミンC 100mg

エネルギーを摂取するための、基本となるのは、主食。炭水化物です。
炭水化物は、3大栄養素の一つで、脳や体を動かすエネルギー源として利用される栄養素です。欠かすことのできない栄養素だからこそ、災害時の緊急支援物資でも支給が始まった初期の段階から、主に提供され続ける食品です。
食品備蓄をしているご家庭も、やはり炭水化物が多いのではないでしょうか?
防災非常食用のアルファ米や、研ぎ洗いせずに炊くことができる無洗米も、炭水化物を摂取するための備蓄として適しています。

他にも、スパゲティや蕎麦などの麺類もおすすめです。
スパゲティは、一人前(乾麺100g)あたり、373kcal。主な栄養度は炭水化物ですが、微量ながら食物繊維やタンパク質も摂取することができます。スパゲティの中にも、素麺のように細いカペリーニやマカロニには茹で時間の短いものもありますし、茹でる前に水につけておけば、カセットコンロで調理する際にも、加熱時間を1/3程度に短縮することもできます。

蕎麦は、一人前(乾麺100g)あたり、344kcal。調理後を白米と比べると、カロリーや炭水化物の栄養素は少なめですが、食物繊維やタンパク質を多く含み、特に食物繊維は蕎麦1杯で白米の5杯分相当です。血管を強くしたりビタミンCの吸収を促進するルチンというポリフェノールの一種や、糖質をエネルギーに換える“代謝”を助けたり皮膚や粘膜の再生や疲労回復効果などがあるビタミンB群、カリウムやマグネシウムなどのミネラルも多く含んでいます。

たんぱく質・脂質

筋肉や内臓、髪の毛や骨などを構成し、セロトニンなどのホルモンや、消化吸収などのサポートをしたり、免疫力を支えるなどの役割を担うたんぱく質は、炭水化物・脂質とともに3大栄養素の一つと呼ばれていて、人間の生命を維持するためには欠かせない栄養素です。

避難所で過ごす必要があるような大規模災害時には、発災から数日〜数週間後、長ければ1ヶ月後以降にお弁当の配布や炊き出しなどで補えることはあります。しかし、平時であれば牛乳や卵、肉や魚、豆腐などの生鮮食品を調理するなどして摂取できるたんぱく質も、大規模災害が発生した時には十分な量を摂取できるとは限りません。

食品備蓄にも、意識的にたんぱく質を摂取できるものを取り入れましょう。
たんぱく質を摂取できる食品には、脂質もあわせて摂取できるものもあります。

常温で長期間保存でき、調理しなくても食べられる、ツナ缶詰はたんぱく質を摂取するための代表的な備蓄食です。ツナのオイル漬けの缶詰であれば、脂質も摂取することができます。災害時に不足しがちな、ビタミンも比較的多く含んでいます。

香辛料などを加えた挽肉をオーブンで焼いたホームメイドソーセージ、ランチョンミートの缶詰(沖縄料理などに使われる「S P A M(スパム)」の缶詰は、ランチョンミートの缶詰ブランドのひとつ)は、焼いておにぎりなどにする食べ方や、パンに挟んだり、沖縄料理のそうめんチャンプルやゴーヤチャンプルなどの炒め物に使われますが、調理しなくても食べられます。
戦時中にアメリカ軍の配給品に採用されたという歴史もあり、お肉の代表的な備蓄食品ともいえるでしょう。

賞味期限は90日と短めですが、ローリングストックするのであれば、魚肉ソーセージやチーかまも、常温で保存でき、調理しなくても食べることができるため、災害時の非常食にむいています。ランチョンミートに比べると脂質は少なめですが、たんぱく質の他に炭水化物なども含まれている食品です。個別包装されているため、衛生的に持ち運びできることも、便利なところです。

他に、缶詰類なら、「やきとり」や「サバの味噌煮」、おつまみになるように調理された缶詰(「缶つま」や「おいしい缶詰」などの商品名で市販されています)も、そのままおかずとして食べることもできますし、スパゲティなどの麺類と合わせることでたんぱく質や脂質などを摂取できます。ツナ缶などに比べると、価格は高めの物が多いですが、災害時こそ少し贅沢な缶詰が食べることの楽しみにもつながるかも知れません。
また、おつまみになるような缶詰の中には、ビタミンなどの栄養が摂れるものもあります。

ビタミン

多くの場合、避難所での食事提供は、おにぎりやパンなどの炭水化物に偏ります。脳や体を動かすエネルギー源として炭水化物が欠かせないこともありますが、大規模災害が発生した時には肉や魚、野菜や果物などの生鮮食品が手に入りにくくなるということも、理由の一つです。

しかし、炭水化物を効率よく体の中でエネルギーに変えたり、健康を維持するためには、ビタミンも摂取することが欠かせません。

ビタミンは、水溶性と脂溶性に大きく分けられます。
普段の暮らしの中で、野菜や果物などから摂取しているビタミンCや、豚肉や大豆製品から摂取しているビタミンB1、卵や納豆などから摂取しているビタミンB2、葉物野菜などから摂取している葉酸などが水溶性のビタミンで、体の中にためておくことができないため、積極的に摂っていくことが必要な栄養素です。

ビタミンCは、ストレスに対抗するアドレナリンの生成に不可欠な栄養素ですが、不安や疲労などのストレスにさらされることで急速に消費されます。ビタミンCは肌の健康に必要な栄養素のイメージが強いですが、免疫力を高めたり心疾患予防などのためにも、必要な栄養素なのです。また、不足すると歯茎や粘膜からの出血をまねくことがあります。

ビタミンB1とビタミンB2は、ともに代謝をうながす栄養素です。ビタミンB1は糖質(炭水化物)の代謝を、ビタミンB2は糖質・脂質・たんぱく質の代謝を助けます。皮膚や粘膜、髪や爪などの細胞の再生に役立つビタミンB2は、不足すると口内炎や口角炎を引き起こしたり、傷が治るまでに時間がかかるようになります。子どもの成長促進にも必要な栄養素です。

ビタミンは、サプリメントもたくさん市販されています。日常的にサプリメントを飲む方は、ローリングストックしておくと、災害時にも役立ちます。サプリメントを飲む習慣のない方や、サプリメントを飲むことに抵抗がある方など、出来る限り食品から摂りたいと考える方も多いはずです。もちろん、サプリメントを飲む習慣のある方も、サプリメントに頼るばかりでなく、食品からも摂取できるのが理想的です。

備蓄食としては、缶詰で備えておくのが良いでしょう。果物の缶詰は、シロップまで飲むことができるため、災害時には水分補給も兼ねられます。果物の缶詰のシロップの甘さは、非常時に溜まる疲労感を、気持ちの上でもやわらげてくれるかも知れません。
果物の缶詰だけでなく、ツナ缶やおつまみになるように調理された缶詰にもビタミンが含まれています。

缶詰に比べると賞味期限は短くなりますが、ドライフルーツやアーモンドなどでも、ビタミンCやビタミンB1、ビタミンB2が摂取できます。乾燥させたスナックの納豆も市販されています。携帯しやすく、手軽にビタミンが摂れる食品です。

野菜ジュースも、防災備蓄用に賞味期限が長めのものがあります。ローリングストックしておくと良いでしょう。

ジャガイモにも、ビタミンCが豊富です。レトルトの野菜スープでももちろんビタミンが取れますが、レトルトのビシソワーズスープ(ジャガイモの冷製スープ)なら、もともと冷やしてのむ料理なので、災害時の温めることが難しい環境の中でも美味しくいただけます。また、じゃがいもベースのスナック菓子は、砕いてパスタやアルファ米にトッピングしたり、お湯などで溶かしてポテトサラダやマッシュポテトなどのようにして食べることもできます。

他に、ビタミンC 入りの飴なども、ローリングストックしておくと良いでしょう。

食物繊維

カップ麺やおにぎりなどに食事が偏ると、食物繊維も不足する栄養素の一つです。食物繊維は、普段の暮らしでも、日本人にとって不足しがちな栄養素とも言われています。
食物繊維は、水に溶ける水溶性食物繊維と、溶けにくい不溶性食物繊維に分けられます。水溶性食物繊維は、糖質の吸収を穏やかにし、血糖値の急激な上昇を抑えてくれるほか、コレステロールなどを吸着して体の外へ排泄します。お腹の調子を整える効果もあります。
不溶性食物繊維も、お腹の調子を整え、便通を促します。また、よく噛んで食べることで、満腹感が得られたり、唾液の分泌も増えて口腔内の細菌の繁殖を抑えてくれて、虫歯や歯周病の予防にも効果があると言われています。口の中を清潔に保つことは、肺炎の防止にもつながります。
食物繊維は、便通だけでなく、健康をたもつために、必要な栄養素なのです。

食物繊維は、ごぼうやセロリ、切り干し大根などの野菜や、玄米、わかめやひじきなど海藻類、椎茸やキクラゲなどのキノコ類に多く含まれています。
野菜やきのこ類などは、不溶性食物繊維。海藻類には、水溶性食物繊維が含まれています。

食物繊維を摂取するための備蓄食として、おすすめなのが、豆の水煮缶詰と切り干し大根、そしてオートミールです。そのまま食べられる海苔もローリーングストックしておくと良いでしょう。

大豆は乾物の状態でも長期保存でき、備蓄食として適していますが、浸水時間や調理時間がかかってしまうことが、不便なところです。乾物の大豆を備蓄しておくなら、潰した大豆を乾燥させた「打ち豆」なら、煮る時間は10分程度ですみます。大豆はビタミンB1とビタミンB2も豊富です。ゆで汁に栄養素が出てしまうので、煮汁ごとお味噌汁やカレーなどにするのが良いでしょう。

豆の水煮缶詰も、大豆やひよこ豆、レッドキドニーなど、いろいろな種類のものが市販されています。ひよこ豆と青えんどう、レッドキドニーがミックスされた、ミックスビーンズの缶詰もあります。
水煮缶詰なら、調理しなくても、そのまま食べられます。ツナ缶などと和えてマヨネーズで味付けしたサラダにすれば、満腹感が得られるおかずになります。他の野菜が手に入れば、サラダのトッピングにもなります。ベーコンなどと炒めたり、洋風のスープの具としても使えます。

切り干し大根は、煮物にするイメージが強いと思いますが、火を通さなくても15分〜20分程度水に戻してマヨネーズなどで味付けをすれば、サラダとして食べられます。また、戻した水にもビタミンなどの栄養素が出ているので、お味噌汁などの汁物として活用できます。

オートミールは、オーツ麦を脱穀して、加工したもの。オートミールに砂糖や蜂蜜などで甘味をつけ、植物油を混ぜてオーブンで焼いたものが、グラノーラです。食物繊維は白米の約20倍多く含まれていて、たんぱく質やビタミン、カルシウムや鉄分、炭水化物も摂取することができます。
グラノーラであれば、調理せずにそのまま食べることができます。
オートミールは、そのまま食べることはできませんが、水を入れて3分〜5分ほど煮ると、お米と同じように使えます。水を入れて煮たオートミールは、コンソメと野菜スープなどと一緒に煮てリゾット風にしたり、鰹節と醤油を混ぜておにぎりのようにしたり、ツナ缶やおつまみ缶詰などと合わせて炒めてチャーハン風にすることもできます。

空腹をしのぐための食品備蓄から、できるだけ健康に過ごすための食品備蓄に

大規模災害が発生した時には、発災からしばらくは、炭水化物に偏った食事になりがちです。空腹をしのぎ、まずは体を動かすためのエネルギーが必要なために、まずはパンやご飯、カップ麺などの炭水化物を摂ることは、大切なことです。
しかし、そうした食生活が長期にわたって続けば、食欲も低下し、体調不良を引き起こすことがあります。
大規模災害からまずは生き残った先も、できるだけ健康に過ごすために、ご家庭での食品備蓄も栄養のバランスを考えて、見直してみませんか?

参考資料

内閣府 防災情報のページ 「特集 災害への備え、何をしていますか」

厚生労働省 避難所における食事提供の計画・評価のために当面目標とする栄養の参照量について

農林水産省 災害時に備えた食品ストックガイド

農林水産省 災害時に備えて食品の家庭備蓄を始めよう

大塚製薬 栄養素カレッジ

農林水産省 国の災害用備蓄食品の提供ポータルサイト

日本ビタミン学会会誌 85巻8号

一般社団法人全国発酵乳乳酸菌飲料学会 発酵乳乳酸菌飲料公正取引協議会
乳酸菌ニュース 2020年No.507


森永製菓 かんたん、わかる!プロテインの教科書

農林水産省 災害時に備えて食品の家庭備蓄を始めよう〜乳幼児や高齢者向けの情報も紹介〜

大塚製薬 健康と病気 食物繊維を摂ろう!

厚生労働省 災害時のお口のお手入れについて

この記事を書いた人

瀬尾 さちこ

防災士。住宅建築コーディネーター。整理収納コンサルタント。

愛知県東海市のコミュニティエフエム、メディアスエフエムにて防災特別番組「くらしと防災チャンネル(不定期)」、「ほっと一息おひるまメディアス(毎週水曜日12時〜)」を担当。
以前の担当番組:みんなで学ぶ地域防災(2021年~2021年)、防災豆知識(2019年~2021年)
瀬尾 さちこの記事一覧

公式SNSアカウントをフォローして、最新記事をチェックしよう

twitter
facebook

この記事をシェア

B!

詳しく見る