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災害時の車中泊避難のポイント。エコノミークラス症候群にご注意を!

大地震などの災害時に、災害が発生した直後に身を守ることができ、ケガなどもなくても、長期に及ぶ避難生活の仕方によって、数日から数ヶ月後に命を落とすようなケースがあります。いわゆる、「災害関連死」です。
災害関連死をまねく原因の一つに、車中泊避難などによる、「エコノミークラス症候群」があります。
大きな災害が発生した時にも、自宅に残れるように安全な場所にしておくことや、できるだけストレスなく避難生活を送れるような場所をいくつか準備しておくことが大切なのはもちろんですが、やむを得ず、自家用車で寝泊まりして避難生活を送る(車中泊避難)可能性も考えておく必要があります。
もしも車中泊避難しなければいけなくなった時には、エコノミークラス症候群を避けるためにどのようなことを心がけたら良いのか、そのポイントを知っておきましょう。

10,000人の車中泊避難

大地震などの災害が発生した時、自宅が安全な場所であれば自宅にとどまることができます。しかし、自宅がたとえ安全だとしても、心理的な恐怖やライフラインが止まることなどから自宅で過ごすことが難しくなる場合もあります。また、交通網の寸断などにより、親戚や友人宅への避難も難しく、多くの人が避難所に詰めかけることで避難所内で過ごすことも困難になる可能性があります。そんな場合には、車中泊避難せざるを得なくなることもあるのです。

2016年4月に発生した熊本地震では、被害の大きかった益城町の大規模避難所、町総合体育館を含む町総合運動公園内に、約1,500人の避難者を収容しました。町総合体育館の建物内には入りきらず、テント村での避難者や、車中泊避難者などの、屋外避難者も収容し、10月31日までの約7か月にわたって開所されていました。
また、町としては避難所に指定していませんでしたが、広大な駐車場がある熊本産業展示場(グランメッセ熊本)には、約10,000人もの車中泊避難者が発生したことも記録されています。
さらに、被災した地域全体に広げると、約20万人が一時的に避難し、車中泊避難した人は8万人を超えていたと推測されています。

2004年10月に発生した新潟県中越地震では、約10万人が一時避難し、そのうちの半数が車中泊避難したと言われています。

この2つの震災では、災害後のエコノミークラス症候群(肺血栓塞栓症)によって亡くなった人が出ています。
エコノミークラス症候群のリスクもあることから、できる限り車中泊避難を避けることが推奨されています。しかし、大きな災害が発生した時には、これだけ多くの人が車中泊避難をせざるを得なくなるということも現実です。

だからこそ、リスクを知って、できるだけ安全に過ごすためのポイントを知っておくことが大切なのです。

エコノミークラス症候群とは

長時間にわたって、ずっと飛行機のエコノミークラスに座っていることで引き起こされる病気として知られるようになった、エコノミークラス症候群。災害時の車中泊避難や避難所などで水分を摂ることを控えて動かない状態を続けていても、発症することがあります。

エコノミークラス症候群の正式な名前は肺血栓塞栓症といい、脚などの下半身の静脈でできた血液のかたまり(血栓)が、血液の流れにのって肺の血管(肺動脈)で詰まる病気です。この他にも、手足の静脈に血栓ができる深部静脈血栓症があり、肺血栓塞栓症と深部静脈血栓症をあわせてエコノミークラス症候群とすることもあります。

エコノミークラス症候群を発症すると、突然の胸の痛みや、呼吸困難、動悸、息切れなどの症状が出ます。血の混じった痰の出る咳や、発熱などの症状がおき、意識を失ってしまうこともあります。
血栓が肺に届く前、脚の静脈などに血栓ができた時には、足首や脚のむくみや、痛みなどがあります。特に、片脚にこの症状が出た場合には、脚に血栓ができている可能性が高く、注意が必要です。早めに医師の診察や処置を受けるなどしましょう。
エコノミークラス症候群は、誰でもかかる可能性がありますが、出産直後の方や妊娠中の方、肥満の方、喫煙される方、糖尿病などの持病がある方は、よりリスクが高くなります。

車中泊避難などによるエコノミークラス症候群でできた血栓は 直後から数年にわたって

多くの人が、車中泊避難をすることになった2004年に発生した新潟県中越地震。発災から8日後には、エコノミークラス症候群による肺塞栓症で亡くなった方が出たことが、大きく報じられました。亡くなった方は、7人。全員が女性で、うち6人は50歳以下。7人全員が、夜間にトイレに行っていなかったという調査結果があります。

また、2016年に発生した熊本地震では、本震発生から2日後までに少なくとも18人が肺塞栓症を発症し、全員が車中泊避難をしていました。本震4日後に、亡くなった方が出たことが報道されるまで、発症した方が増え続けたという報告もあります。

新潟県中越地震で避難生活をしていた人たちを対象に、発災から2年後の2006年に実施された検査では、検査を受けた人のうちの約4.7%に血栓が見られました。発災の翌年、2005年に血栓が見つかった人の4人に一人は、血栓が残り続けていたという調査結果もあります。

車中泊避難によるエコノミークラス症候群でできた血栓は、災害発生の翌日から5日後が発症のピークで、数年にわたって血栓が残り続けることになると言えるでしょう。一度できた血栓は、消えにくいのです。
しかし、報道などによる注意喚起で発症が減少することから、車中泊避難もしっかりとエコノミークラス症候群の対策をとりながら行えば、リスクを下げられるとも言えるはずです。

車中泊避難は最低限の期間で

アウトドアレジャーでキャンプを楽しむ方の中には、「車中泊には慣れている」という方もいらっしゃるかも知れません。キャンプ初心者でも、車の中で寝ることにすれば、テントを張ってテントの中で寝るよりも、手間もかからずラクに感じるでしょう。
しかし、そうしたレジャーの中での車中泊に慣れていたとしても、災害時の車中泊避難は精神面でも置かれる環境なども大きく違います。
アウトドアレジャーでの車中泊は、事前にしっかりと準備をして、1泊〜数泊と期間を決めて行うはずです。BBQをして食事をとったり、キャンプ場の施設を利用したり、楽しいことがたくさんある中での車中泊です。
しかし、災害時の車中泊避難は、多くの場合、着のみ着のまま突然避難生活が始まります。アウトドアレジャーで車中泊するときのようは準備もしっかりとできませんし、車中泊する期間も先が見えないこともあり、精神的にも大きなストレスを伴います。

車中泊避難は、長期間にわたって行わず、災害時に自宅に残ることは危険で、避難所などにも入ることができないような、本当にやむを得ない場合にだけ一時的に行うものだと考えておきましょう。
内閣府や自治体などから提案されている「分散避難」に車中泊も挙げられていますが、積極的に車中泊避難を推奨しているわけではありません。車中泊避難のポイントも、車中泊避難を推奨しているわけではなく、少しでもエコノミークラス症候群のリスクを下げ、避難している期間をできるだけ安全に過ごすことができるためにということが、大前提です。

やむを得ず「車中泊避難」する時のリスクを少しでも減らすためのポイント

車中泊避難をしたら、できるだけ安全なところに車を停めましょう。自治体によっては、グラウンドなどの広い避難場所を車中泊避難者用に提供されることもあります。
車を駐車するときには、傾斜地を避けて、なるべく明かりや人通り、そしてトイレのある場所にしましょう。傾斜地に駐車せざるを得ない時には、タイヤに踏板をかませて、忘れずにサイドブレーキをかけましょう。

夏場であれば熱中症のリスクを下げるために、日陰を選びましょう。
また、マフラーを塞がれてしまうと一酸化炭素中毒になる危険性があります。そのため、壁や草にふさがれることが無いかの確認が必要です。冬場で積雪があるような場合には、除雪しやすい場所であることも条件の一つです。

安全な場所に車を停めたら、防犯のためにドアをロックし、エンジンを止めて車中泊します。命の危険を伴う(熱中症や低体温症など)場合を除いて、車中泊するときの基本的は、アイドリングストップです。

こうした基本をおさえたうえで、車中泊避難で少しでも快適で安全にすごすためのポイントは、3つです。

  1. 車内をフラット(水平)にすること
    座席をそのままにして寝ると、エコノミークラス症候群を発症するリスクが高まります。後部座席からラゲージを連結させてフラットにできるタイプの車種は、最前列のシートを一番前までスライドさせて、フラットにした後部座席からラゲージのスペースで休むようにしましょう。マットや毛布、タオルやクッションなどを敷くことで、いくぶんか過ごしやすくなります。
    前席のシートで休む場合には、座面は一番後ろまでスライドさせて、背もたれは最大までリクライニングさせます。足元のスペースは段ボールや蓋つきの収納ケースなどで埋めて、その上にタオルなどを置いて座席とフラットになるように調整します。寝るときには、なるべく足を上げて眠るようにしましょう。

  2. 暑さ対策・寒さ対策をしっかりと
    車中泊避難の基本は、アイドリングストップです。夏の熱中症リスクが特に高くなるときには、周りに配慮しながらエアコンを使うことも必要になってくるかも知れませんが、サンシェードで日差しを遮ったり、ウインドーネット(車用網戸)を取り付けて風を通すなどの工夫は必要です。ただし、ウインドーネットを使用するなどして窓を開けたままにする場合には、防犯上の注意は必要です。冬の車中泊避難では、寒さ対策も大切です。毛布や寝袋など、防寒対策のためのアイテムを車に積んでおくようにしましょう。

  3. 防犯・プライバシー保護対策
    エコノミークラス症候群などの健康状態に直接関連することではありませんが、車中泊避難をする時には、防犯対策やプライバシーを守るための対策も大切です。車中で過ごしている間も、必ず鍵をかけるようにしましょう。窓の外から覗かれないように、窓にサンシェードや銀マットを貼り付けたり、アシストグリップ(助手席や後部座席の上部に取り付けられている握り手)にロープなどを渡してタオルをかけるなどして目隠しすることが必要です。車用の目隠しカーテンも市販されています。窓に目隠しを施すことは、夏の日よけ対策や冬の防寒対策も兼ねられます。また、深夜にトイレに行く時などは、なるべく一人にならないように、ご家族などと連れ立って行動するようにしましょう。
車の中には、日頃から、クッションや毛布、ウインドーネット、寝袋、銀マット、洗濯ひも、携帯トイレや除菌シートなどを段ボール箱や蓋つきの収納ケースなどに入れて積んでおくと、いざという時に役立ちます。着圧ソックスが、エコノミークラス症候群の予防に効果的です。車の中に備えておく防災グッズに中に加えておきましょう。

車中泊避難によるエコノミークラス症候群を予防するために

エコノミークラス症候群は、狭い空間で同じ姿勢を続けることで血液の流れが滞ったり、水分の摂取を控えて脱水傾向となることで血液が固まりやすくなったり、避難時の打撲などで血管が傷つくことで発症のリスクが高まります。
車中泊避難するときには、こまめな水分補給をすることはもちろん、衣類で身体を締め付けないようにゆったりとした服装で過ごすようにしましょう。また、数時間おきに外に出て歩いたり、軽い体操やストレッチ運動をすることも効果的です。ふくらはぎをマッサージしたり、足の指でグーパーを繰り返したり足を上下につま先立ちをしたり、ひざを両手で抱えて足の力を抜いて足首を回すといった運動も、エコノミークラス症候群の予防になります。
普段、お酒やタバコを嗜む方は、車中泊避難中は、飲酒は控えて、できれば禁煙するようにしましょう。

避難することで命を危険にさらさないように、やむを得ず車中泊避難しなければならなくなった時には、エコノミークラス症候群の予防を始め、しっかりと安全対策をとることが大切です。


参考資料

熊本県益城町 平成28年熊本地震益城町震災記録誌

医学会新聞 災害後のエコノミークラス症候群対策(榛沢和彦)

厚生労働省 エコノミークラス症候群の予防のために

Medical Noteエコノミークラス症候群

朝日新聞(2007年7月23日)エコノミークラス症候群、6人の1人は兆候 中越沖地震

安全安心情報 震災時のエコノミークラス症候群を考える

豊田市 車中泊避難ハンドブック

トヨタ災害復旧支援 車中泊避難ヘルプBOOK


この記事を書いた人

瀬尾 さちこ

防災士。住宅建築コーディネーター。整理収納コンサルタント。

愛知県東海市のコミュニティエフエム、メディアスエフエムにて防災特別番組「くらしと防災チャンネル(不定期)」、「ほっと一息おひるまメディアス(毎週水曜日12時〜)」を担当。
以前の担当番組:みんなで学ぶ地域防災(2021年~2021年)、防災豆知識(2019年~2021年)
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