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2022年6月から開始された「顕著な大雨に関する情報」。線状降水帯とは?

災害が発生した時には、「自助・共助・公助」のうちの「自助」が基本だとよく言われます。私たちは、「自分の命は自分で守る」という意識を持って、自分の判断で避難行動をとることが必要です。これは、国の方針として、内閣府の「避難情報に関するガイドライン」にも書かれています。

私たちが自ら判断できるための材料として、災害が発生する可能性のある気象状況などによって、自治体からは警戒レベル4避難指示や警戒レベル3高齢者等避難などの避難情報が出されます。
また、自治体が発令する避難情報などに先立って、気象庁からは注意報や警報などの防災気象情報が発表されます。
本来であれば、対象となる地域の人すべてがこうした情報から危機感を高めて、避難行動に移すことができれば良いのですが、「以前は大丈夫だったから、今回も大丈夫なはず」という正常性バイアスがはたらき、避難行動に至らないことが多いのではないでしょうか。こうしたことは、国や自治体などでも大きな課題と考えられています。

災害発生の危険度が高まった時には、気象庁は危険度の高まりを伝えるために、「記録的短期大雨情報」と「顕著な大雨に関する情報」(2022年6月より)が発表されます。どちらも、危険度分布(キキクル)の紫色「危険」、警戒レベル4、市町村から「全員が危険な場所から避難する」ことが必要な避難指示が出される時点での発表になります。
この2つの大雨に関する情報が地域に出されたら、急激に状況が悪化するおそれがあると認識し、自ら安全な場所に避難する判断をすることが必要です。もちろん、この2つの情報が出されなくても、危険を感じたら命を守る行動をとりましょう。

数年に一度しか発生しないような短時間の大雨で発表される「記録的短時間大雨情報」

大雨警報が発表されている最中に、その時降っている雨が、その地域にとって土砂災害や浸水害、中小河川の洪水災害の発生につながるような、稀にしか観測しない雨量だということを知らせるために発表されるのが、「記録的短期大雨情報」です。
地域ごとに、一時間雨量の歴代1位または2位の記録を参考にして雨量基準(気象庁 記録的短時間大雨情報の発表基準一覧表)が決められていて、その雨量基準を満たし、気象庁の運営する危険度分布(キククル)に紫色の「危険」が出ている場合に発表されます。記録的短期大雨情報は、大雨警報の発令中に発表されるため、記録的短期時間大雨情報が出された時には、すでに避難を完了している場合もあるかもしれません。

記録的短時間大雨情報は、「○時 △△県で記録的短時間大雨 □□市で××ミリ」のように、時間と地域と雨量を発表されます。これは○時までの1時間に降った雨量を意味しています。

この情報が出されたら、実際にどこで災害が発生する危険度が高まっているかを危険度分布(キキクル)で確認するとともに、ハザードマップを確認して、土砂災害警戒区域や浸水想定区域などの危険な場所にいる方は、適切な避難行動をとる必要があります。ただし、道路が冠水するなどして、避難場所への移動がすでに危険な状況になっている場合には、少しでも浸水しにくい高い場所や、崖などの土砂災害が発生する可能性のある場所から出来るだけ離れた頑丈な建物の中に移動するなど、命を守る行動をとりましょう。
市町村から避難情報が発令されていなくても、記録的短時間大雨情報が発表された時には、急激に状況が悪化する可能性があることも念頭に置き、早めに自ら安全な場所に移動する判断をすることが大切です。

2022年6月から開始された、線状降水帯の発生を伝える「顕著な大雨に関する情報」

警戒レベル相当を補足する情報として、今年(2022年)6月から「顕著な大雨に関する気象情報」の提供が始まりました。これは、数時間にわたって同じ場所で大雨をもたらし、豪雨災害の要因となる「線状降水帯」の発生を知らせるものです。
線状降水帯による大雨の可能性が高いことが予想された場合に、半日程度前から気象情報で呼びかけられます。
線状降水帯は、これまでも、多くの豪雨災害を引き起こす要因となってきました。海上の水蒸気量や陸上の湿度などが複雑に関係して発生する線状降水帯による大雨の予測は難しく、議論を重ねられてきましたが、観測網の強化やスーパーコンピューター富岳の分析を駆使することで、「顕著な大雨に関する情報」の提供開始に至りました。

しかしながら、「顕著な大雨による情報」は通常の天気予報のような高い的中率ではありませんので、必ずしも線状降水帯が発生するわけではありませんし、呼びかけがなくても大雨による災害が発生する可能性はあります。
しかし、この呼びかけがあった時には、線状降水帯が発生しなかったとしても、大雨となる可能性が高い状況になっていると考えられます。
「顕著な大雨による情報」が発表された時には、私たちは、他の大雨に関する情報や危険度分布(キキクル)、市町村が発令する避難情報、防災気象情報などとあわせて活用し、大雨による災害に対して早めに危機感を持って、自ら避難行動などの判断をすることが大切です。

大雨による災害をもたらすことのある、線状降水帯とは

数時間にわたって同じ場所で大雨を降らせて、豪雨災害を引き起こす要因にもなる線状降水帯。予報用語では、「次々と発生した雨雲(積乱雲)が列をなした、組織化した積乱雲群によって、数時間にわたってほぼ同じ場所を通過または停滞することで作り出される、線状に伸びる長さ50〜300km程度、幅20〜50km程度の強い降水をともなう雨域」と定義されています。

線状降水帯には風上側で次々と積乱雲が発生して連なってしまうことでできるタイプと、局地的な前線や地形などの影響で前線上に次々と積乱雲が発生してできるタイプの2つのパターンがあります。
積乱雲が一つだけなら雲が風に流されて通り雨で終わることもありますが、積乱雲が連なってしまうことで、長さ50〜300km程度、幅20〜50km程度の地域で数時間にわたって非常に強い雨が降り続く、線状にのびた雨雲のまとまりになります。
線状降水帯が発生している地域では、100mmから数百mmの雨量の雨が降ります。
線状降水帯が発生している状況は、気象庁の危険度分布(キキクル)では、赤い楕円で表示されます。

線状降水帯による大雨は、過去にも大きな災害を

ここ数年で「線状降水帯」という言葉を聞く機会も増えてきました。ニュースなどで災害の発生とともに「線状降水帯」という言葉を耳にしたことで、「線状降水帯が発生したら大変なことになるかもしれない」と感じるようになった方も多いかも知れません。

過去の災害をたどってみると、例えば、2020年7月、熊本県の球磨川流域で河川の氾濫や土砂崩れなどが発生し、全国で死者84名、行方不明者2人、住宅の全半壊9,628棟、住宅浸水6,971棟に被害を出した、「令和2年7月豪雨」。球磨川流域で線状降水帯が形成され、およそ8時間にわたって、1時間あたり30ミリを超える激しい雨が降り続きました。球磨川流域が氾濫し、球磨村の特別養護老人ホームへの浸水により、14名の高齢者が犠牲になるなど、亡くなった方の86%が65歳以上の高齢者で、死因の半数以上が洪水による溺死でした。

2018年7月に発生した「平成30年7月豪雨(西日本豪雨)」では、東海地方から西日本で15個の線状降水帯が形成され、そのうちの9個は3時間の積算降水量が最大で150ミリを超えました。さらに、台風も発生し、前線や台風の影響により、西日本を中心に全国的に広い範囲で記録的な大雨となりました。
特に、広島県、岡山県、愛媛県では、河川の氾濫や浸水害、土砂災害などが相次ぎ、死者237名、行方不明者8名、重軽傷者432名と、多数犠牲者を出しました。住家被害についても、街全体が浸水した岡山県倉敷市真備町を中心に、全壊が6,767棟、半壊・一部損壊が15,234棟、浸水が28,469棟と多くの被害が出ています。

他にも、2017年7月に発生し福岡県と大分県を中心に九州北部で多数の被害を出した「平成29年7月九州北部豪雨」や、2015年9月に発生し宮城県などの東北と栃木県や茨城県などの関東北部を中心に24時間雨量が300ミリを超えて大規模な被害をもたらした「平成27年9月関東・東北豪雨」なども線状降水帯による大雨が甚大な被害をもたらした大雨災害です。

自分で判断し、命を守ることのできる行動を

多くの大雨災害による被害をもたらしている線状降水帯。6月から「顕著な大雨に関する情報」として提供が開始されたものの、その予測は難しく、残念ながらまだ完璧ではないため、予測の精度を高められるように研究が続けられています。将来的には、「記録的短時間大雨情報」とともに市町村などの細かい単位での予測が実現するかもしれません。

線状降水帯が大きな災害をもたらしてきたことを知った私たちは、「今回の大雨は線状降水帯によるものかどうか」という情報に依存したくなるかも知れません。しかし、線状降水帯は強い雨が降り続けるかを判断するための1つの要因です。発生しない場合にも災害は起きますので、市町村が発令する避難情報や、他の防災気象情報などとあわせて確認し、自分自身で判断して命を守ることのできる行動を取れるようになる必要があります。
避難を迷っているうちに、あっという間に道路が冠水したり、外が暗くなって避難できない、寝ているうちに住居が浸水するなどということが起こるかもしれません。
「今回も大丈夫」ではなく「今回は危険かもしれない」。様々な情報を確認し、状況によっては、そう判断できる力を身につけて、早めの避難行動につなげましょう。



<参考資料>
内閣府 避難情報に関するガイドライン

気象庁 記録的短期大雨情報

気象庁 線状降水帯に関する各種情報

気象庁 線状降水帯に関する情報について

荒木健太郎著「すごすぎる天気の図鑑」「もっとすごすぎる天気の図鑑」 KADOKAWA

国土交通省 九州地方整備局 球磨川水害伝承記

内閣府 令和元年版防災白書 平成30年7月豪雨(西日本豪雨)災害


この記事を書いた人

瀬尾 さちこ

防災士。住宅建築コーディネーター。整理収納コンサルタント。

愛知県東海市のコミュニティエフエム、メディアスエフエムにて防災特別番組「くらしと防災チャンネル(不定期)」、「ほっと一息おひるまメディアス(毎週水曜日12時〜)」を担当。
以前の担当番組:みんなで学ぶ地域防災(2021年~2021年)、防災豆知識(2019年~2021年)
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