B!

台風シーズンが来る前に。あなたの家の瓦対策は大丈夫?

住宅のデザインや建材なども多様化しています。近年では、瓦屋根の日本家屋は減少してきているかも知れません。それでも、歴史ある街並みの広がる地域や、農村部などではまだまだ瓦屋根の住宅は数多くあります。
全国の神社仏閣の災害での被害件数を見てみると、瓦屋根の日本家屋が災害に弱いとは一概に言い切ることはできません。しかし、施工方法などによって、大規模な地震や台風などによる災害で被害が出ていることも事実です。
台風シーズンは7月〜10月ですが、これまでの歴史を紐解くと、4月に上陸している台風(1956年4月25日・鹿児島県大隅半島南部)もあります。「気が早い」と思うかもしれませんが、シーズンに入る前だからこそ、瓦屋根の住宅にお住いの方は、確認し、対策を進めておきましょう。

過去の災害からみる瓦屋根の住宅の被害

災害での瓦屋根の住宅の被害として、まず思い浮かぶのが大規模な地震の際の被害ではないでしょうか。1995年に発生した阪神・淡路大震災、2011年に発生した東日本大震災、2016年に発生した熊本地震でも、多くの瓦屋根の住宅に被害が出ました。一部の屋根瓦が落下し、雨漏りを防ぐための処置として、多くの瓦屋根の住宅にブルーシートがかけられた光景を覚えていらっしゃる方も多いはずです。

地震だけでなく、台風でも瓦屋根に被害が出ています。2019年に千葉県を中心に大きな被害を出した、令和元年房総半島台風(令和元年台風第15号)が記憶に新しいところです。この台風では、伊豆七島の一つ神津島では最大瞬間風速58.1m/s、千葉県でも最大瞬間風速57.5m/sが記録されています。送電塔や電柱の破損・倒壊などから長期にわたる停電があったことが強く印象に残っているかも知れませんが、強風による被害は電力だけでなく、住宅にも大きな被害を出しました。千葉県内だけでも、全壊426戸、半壊4,486戸、一部損壊は76,319戸。被害のあった建物の屋根のうち、約8割は瓦屋根だったという調査結果も、国土交通省から出されています。
また、千葉県内での住宅被害の9割強が国による住宅支援の対象外である一部損壊を占めていたことから、国土交通省が特例として屋根の修繕費に対する市町村補助の9割を国が負担するに至りました。また、この台風では、千葉県内で被災して壊れた住宅の屋根を自分で補修しようと屋根に上がり転落するなどして、怪我をされた方や亡くなった方も出ています。

台風の際などの強風によって屋根瓦が飛ばされた際には、直接的な建物への被害はもちろん、飛ばされた瓦によって人が怪我をすることがあります。災害が収まった後にも、瓦がなくなっているところに再び雨が降れば雨漏りし、住まいでの生活を続けることが難しくなるばかりでなく、建物の構造の見えにくいところにも重大な影響を及ぼします。

地域で多くの被害が出れば、施工業者などにも修繕の要請が殺到し、すぐには対応できなくなります。ブルーシートを張ることで応急処置にはなりますが、ブルーシートを張るだけでも、かなり待たなければいけなくなるかも知れません。もしもブルーシートを張ったとしても、数年間に渡って張ったままにしておけば、劣化してしまうため、張替えも必要です。
自力で屋根に登りブルーシートを張ろうと思う方もいらっしゃるかも知れませんが、瓦が破損した屋根に一般の人が登って作業することは、大変危険です。

屋根瓦が台風や地震で飛ばされたり落下してしまう原因は、工法に

こうした、災害による瓦屋根の破損は、瓦そのものに問題があるわけではなく、施工に問題があったとみられています。
従来の瓦屋根の施工法としては、下地として屋根に取り付けた野地板に土を乗せて瓦を重ねるだけの「土葺き(湿式工法)」と言われる工法がとられていました。この工法は、工期が短く、耐熱性や防火性には優れていましたが、瓦の重さに加えて土の重量もあり、建物への負担も大きく、また土の上に瓦が乗せられているだけなので、強風によって瓦が飛ばされるリスクも高いことはイメージしやすいはずです。

落下防止のリスクを少しでも下げるようにと、「銅線留め付け」という工法も取られるようになりました。これは、銅線や鉄線、ステンレス線などを使用して、瓦を留めつける方法です。瓦を桟木に引っ掛けて留めることから「引っ掛け桟工法」や、「乾式工法」とも呼ばれています。土葺きと同じように屋根の下地として野地板を張った上に横木として桟を取り付け、そこに瓦の上部を銅線などで固定していきます。この工法は、屋根瓦の落下防止として一般的なものとなりましたが、瓦と桟木と銅線、それぞれの耐用年数が異なるため、メンテナンスの時期を誤ると、気づかないうちに老朽化が進んでいるというようなことも起こります。

さらにそのあと出てきた工法が、「釘やビスによる留め付け」です。
屋根の下地として野地板を張った上に横木として桟を取り付け、そこに瓦を固定していくのは銅線による留め付けと同じですが、瓦に穴を開け、銅線などの代わりに釘やビスで固定していきます。
この工法は、1956年頃から基準とされていて、すべての瓦屋根の建物に義務化されています。
ただ、2001年よりも前には、どこまで固定するのかという基準は曖昧でした。すべての瓦を固定するかどうかはそれぞれの施工業者の判断とされていて、多くの場合は1971年の建築基準法告知(昭和46年建築省告示第109号)で基準とされていた、屋根の頂上にあたる「棟」の瓦を一つおきに、「けらば(外壁から出っ張っている屋根部分のうち、雨樋がついていない方)」と「軒(軒先き)」、それぞれの端から2列目だけをビスや釘で取り付けられていました。釘やビスを使って瓦を固定することで、落下を防止し、安全性を高め、屋根工事の品質を高めることにつながりましたが、一方で「平部」と言われる固定されていない部分の瓦が大規模な地震による大きな揺れや、台風などの強風で飛ばされたり、落下することになりました。
これまでの災害による瓦屋根の被害の多くは、施工時に瓦を固定していないことから発生していたと言えるでしょう。

部分的な固定からすべての瓦の固定へ「ガイドライン工法」

1995年に発生した阪神・淡路大震災で、多くの建物が倒壊するなどの被害が出たことを受けて、2000年に建築基準法が改正されました。この中に、瓦屋根については盛り込まれませんでしたが、この翌年の2001年、全国の瓦工事事業者による団体、一般社団法人全日本瓦工事業連盟(全瓦連)では、国立研究開発法人建築研究所の監修のもと、瓦の施行についてのガイドラインを作成しました。それが「ガイドライン工法(瓦屋根標準設計・施工ガイドライン)」です。
ガイドライン工法では、「棟」はすべてネジで結合し、「軒」や「けらば」は、ネジおよび2本の釘で固定すること、これまでは規定のなかった「平部」も釘などですべて固定するものとされています。原則としてすべての瓦を、ネジや釘でズレや緩みのないように、しっかりと固定するようにというのが、ガイドライン工法による瓦屋根の施工です。
しかし、ガイドライン工法はあくまでも業界団体による施工のガイドラインで、法的な強制力はありませんでした。

(引用:国土交通省 令和4年1月1日から瓦屋根の緊結方法が強化されます ~建築基準法の告示基準(昭和46年建設省告示第109号)の改正~

「ガイドライン工法」が義務化に

もしも2001年にガイドライン工法が義務化されていれば、令和元年房総半島台風での瓦屋根の住宅の被害は、もっと減らせたのかも知れません。
2019年の令和元年房総半島台風(令和元年台風第15号)での被害を踏まえて、今年、2022年1月から、ガイドライン工法が新築などに際して義務化される事になりました。国土交通省は、瓦屋根の建物を新築する際には強風対策を講じる必要があると、ガイドライン工法を義務付けたのです。
新築時などに、強風対策としてガイドライン工法での施工が求められるのは、粘土瓦(一般的な焼きものの瓦)とセメント瓦(セメントを材料として作られている瓦)の瓦屋根。軽量化され、防水性や耐風性を向上させた「防災瓦」も、粘土瓦の一種で、ガイドライン工法に沿って、すべてを固定することが義務付けられています。
注意すべきなのは、基準風速によって屋根瓦を固定するときの釘などの金具の本数や、使える瓦の種類に規制がかかる場合があるということです。千葉県や高知県、鹿児島県の一部などは、基準風速が38m/s〜46m/sとされており、防災瓦しか使用することができません。

リフォームや増築をする際にはどうなる?

今年2022年1月から施行されている新法令で義務化されたガイドライン工法は、原則として新築の建物が対象となっています。つまり、すでに建っている住宅などに大規模なリフォームをする場合には、ガイドライン工法を採用せずに、これまでと同じ工法で屋根の葺き替えを行なっても今のところ大丈夫です。
増築の場合も、既存の建物と新たに増築する建物の間に「Exp.J(伸縮継ぎ手)」といわれる伸び縮みする継手を挟むことで、既存の建物の瓦屋根はこれまでのまま、新たに増築した部分にだけガイドライン工法が適応されます。
しかし、国土交通省では「ただちに改正後の基準への適合を求められることはない」としながらも、「改正後の基準で葺き替えることが望ましい」ともしており、今後はまた適合基準が変わってくることもあるかもしれません。

一部の地域では、屋根診断や改修に補助金も

瓦屋根の住宅にお住いの方で、「うちは大丈夫?」と不安に思われた方は、台風シーズンの前に瓦屋根の耐風診断を受けたり、耐風改修工事を行っておくのも一つです。
国土交通省では、2021年度より「住宅・建築物安全ストック形成事業」を行なっています。この事業では、DID地区と言われる人口が集中している地区で基準風速32m/sの区域や、地域防災計画などで地方公共団体が指定する区域を対象に、瓦屋根の耐風診断と耐風改修工事に補助金を出しています。
瓦屋根の耐風診断は、すべての瓦を固定するガイドライン工法に沿っているかではなく、一部の瓦を固定する1971年の建築基準法告知(昭和46年建築省告示第109号)の基準に適合しているかどうかを、かわらぶき技能士や瓦屋根工事技師、瓦屋根診断技師などによって診断するというもの。
お住いの地域の自治体などにご確認ください。

悪徳業者にご注意を

住宅の屋根に関しては、瓦屋根かどうかに関わらず、以前から「点検商法」や「修繕詐欺」など、悪徳業者による被害も問題になっています。従来からある手口はもとより、今回のように新たな基準が設けられ、多くの人がしっかりと理解できていない時には、悪徳業者や詐欺集団などが新たな手口で近づいてくることも考えられます。


問い合わせなどもしていないのに、いきなり訪ねて来る業者などには、慎重に対応しましょう。毅然とした態度で断ることも大切なことです。
改修工事などを依頼するときには、一般社団法人全日本瓦工事業連盟に加入している事業者が目安の一つです。

全日本瓦工事業連盟 加盟工事店の検索

こちらのWebサイトから、お住いの地域の加盟工事店を検索することができます。

この記事を書いた人

瀬尾 さちこ

防災士。住宅建築コーディネーター。整理収納コンサルタント。

愛知県東海市のコミュニティエフエム、メディアスエフエムにて防災特別番組「くらしと防災チャンネル(不定期)」、「ほっと一息おひるまメディアス(毎週水曜日12時〜)」を担当。
以前の担当番組:みんなで学ぶ地域防災(2021年~2021年)、防災豆知識(2019年~2021年)
瀬尾 さちこの記事一覧

公式SNSアカウントをフォローして、最新記事をチェックしよう

twitter
facebook

この記事をシェア

B!

詳しく見る