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平時のリスクは災害時にも(1) - 交通事故が増える原因を知って対策しよう

災害時には、平時のリスクや問題、危険性がより大きくなったり、顕在化すると言われています。夜道での交通事故も、その一つかも知れません。
阪神淡路大震災の時には、発災から1年後には約13〜15%程度交通事故が増加しているという研究結果も発表されています。(参照: 道路交通環境に着目した大地震発生前後の交通事故分析
もちろん、大きな震災などの時には、道路等に損傷が生じたり、停電などで信号が使えなくなるということが起こり、交通事故の発生に影響を与えているかも知れません。しかし、災害時のストレスなどで運転が荒くなるということもあります。交通事故は、車を運転する人だけでなく、道を行き交う人がそのリスクを理解して行動することでも減らすことができます。
どのような時に、どのような危険性があるかなどを知り、日頃から気をつけて行動することが、きっと大きな災害が起こった時にも役立つはずです。

死亡事故が最も多い時間帯は午後5時〜7時

警視庁の統計によると、年間で交通死亡事故が多い季節は、10月〜12月の秋から冬にかけて。そして、1日のうちで交通死亡事故の一番多い時間帯は、午後5時〜午後7時の夕暮れ時。特に、日没前後1時間の「薄暮時間帯」が多く発生しています。2016年〜2020年までの統計を見ると、この時間帯の交通死亡事故の発生は、昼間の時間帯と比較すると、なんと4倍もの件数にのぼるのです。
この原因としては、様々なことが考えられますが、一つには「薄明」の時間が短くなることがあるかも知れません。薄明とは、日没後や日の出前に、しばらく薄明かりの状態が続くことを言います。上空の大気の中のチリなどが太陽光を散乱させることによって起こる現象です。
薄明時間が継続する時間は、6月が一番長く、日が沈んでから約2時間かけてゆっくりと暗くなっていきますが、9月を過ぎると日没後1時間25分程度で暗くなっていきます。
「秋の日は釣瓶落とし」ということわざがありますが、この数十分の差が、急に暗くなったと感じさせます。しかし、夏の間の薄明時間の長い季節から秋の短い季節に移ろっていく時には、ドライバーのヘッドライトの点灯も遅れがちで、また、気づいたときには暗くなっているために歩行者などが見えにくく、事故につながりやすいということもあります。

警視庁の統計では、この時間帯の自動車と歩行者の死亡事故の約9割は、歩行者が道路を横断している時に発生していると出ています。その中でも、約8割は横断歩道以外で発生していて、走行車両の直前直後の横断などの法令違反も見られます。日中と朝晩の寒暖差も激しくなり、歩行者が少しでも早く帰宅したいと考えて無理な行動をしてしまうことも、死亡事故につながっているかも知れません。

歩行者ができる事故防止対策

横断歩道ではないところを渡ったり、無理な横断をすることで発生する交通死亡事故が統計上も多数上がっています。歩行者が事故に遭わないためにまずできることは、交通ルールを守ることです。
面倒だと思っても、横断歩道が近くにあるところでは、横断歩道を横断する。交差点では、道路標識などで斜め横断できるとされているところ以外では、道路を斜めに横断しないことも大切なことです。斜め横断すると近いように思うかも知れませんが、交差点上での横断距離も時間も長くなり、危険です。歩行者横断禁止の標識が出され、横断が禁止されている道路は、もちろん横断してはいけません。

急に暗くなる秋の夕暮れ時には、歩行者から自動車は見えていても、ドライバーからは歩行者が見えにくいことがよくあります。特に、歩行者が黒などの暗い色の服装の場合には、より一層ドライバーから見えにくくなります。
夕暮れ時の事故に巻き込まれないためには、歩行者自身がドライバーから見えやすくする工夫をすることがリスクを下げることにつながります。明るい色の服を着るなどの工夫が効果的です。反射材という、受けた光を、光が来た方向に強く反射する素材を使った靴を履いたり、キーホルダーやリストバンド、衣類などを身に着けることでも、ドライバーに自分の存在を早めに知らせることにつながります。

夕暮れ時の事故防止。ドライバーにできること。

ドライバーも歩行者と同様に、まずは横断歩道に関するルールを遵守しなければいけません。横断歩道を横断しようとする、または横断している歩行者がいる場合には、歩行者が優先です。横断歩道は、歩行者が安全に横断するためのもの。ドライバーは歩行者の安全を図るために、横断歩道の手前で一時停止する必要があります。ちなみに、路面にひし形の「ダイヤマーク」が描かれているところでは、その先に横断歩道があるということです。
運転免許を取得してから時間が経つと、こういったことも忘れがちになりますが、ダイヤマークは「横断歩道または自転車横断帯あり」を意味する道路標識。このマークを見かけたら、その先には横断する人や自転車がいるかも知れません。注意して運転し、明らかに歩行者がいない場合を除いては、横断歩道の直前で確実に停止できるように、速度を落として運転しましょう。
特に夕暮れ時から夜間にかけては、周囲が見えにくくなるために、速度感覚が鈍り、速度超過になりやすくなるとともに、歩行者などの発見も遅れがちになります。少しでも早く歩行者などを発見できるように視線はできるだけ先の方に向けながら、速度は感覚に頼るのではなく、スピードメーターでチェックするようにしましょう。

秋から冬にかけての夕暮れ時は薄明時間が短く、みるみるうちに暗くなるからこそ、早めにヘッドライトを点灯することも大切です。人の目は、暗さの変化にはなかなか慣れません。「まだ明るいから」と思ったとしても、早めに点灯するようにしましょう。早めのヘッドライトの点灯は、視界を確保して歩行者や自転車などを早めに発見するだけでなく、自分の車の存在を他の歩行者や自転車などに知らせることにもつながります。

ヘッドライトのハイビーム(上向き)とロービーム(下向き)を使い分けることも、歩行者や自転車などを早く発見するためには効果的です。
ヘッドライトのロービームで照らすことができる距離は40mほどなのに対して、ハイビームでは約100m先まで照らすことができます。そのため、歩行者や自転車を遠くから見つけやすくなるのです。ただし、ハイビームは他の車両のドライバーの目をくらませてしまうこともあります。自動車や自転車などの対向車と行き違う時や、他の車のすぐ後ろを走行している時にはロービームにする配慮をしましょう。

蒸発したように歩行者などが見えなくなる「グレア現象」に注意

夜間、対向車とすれ違う際に、それぞれの車のヘッドライトが交錯するセンターライン付近にいる歩行者などが、蒸発したかのように、突然ドライバーから見えなくなる現象があります。それが、グレア現象(蒸発現象)です。さらに対向車のヘッドライトの光を直接目に受けると「眩惑」と言われる、なにも見えない状態になります。
また、雨が降ると、路面の雨水にライトの光が乱反射して、センターラインや停止線、横断歩道などの道路標識も見えなくなることがあります。このような現象が起こると、歩行者などの発見が遅れてしまうことや、自分の車線確認に気を取られて周囲への注意が散漫になることがあるため、信号機のない交差点や横断歩道では特に注意が必要です。

グレア現象(蒸発現象)を完全に防ぐことは難しいですが、対向車とすれ違う時にはヘッドライトをロービームにしたり、「グレア現象(蒸発現象)によって見えなくなっている歩行者がいるかもしれない」と危険を予測して、対処できるようなスピードで運転するなど、余裕を持った運転をすることで、事故のリスクを下げることはできます。
また、対向車のヘッドライトがまぶしいと感じたら、視線を少し左に移して、眩惑されるのを防ぎましょう。
歩行者や自転車に乗っている人たちも、「夜間の自動車はグレア現象などの錯覚によって自分たちのことが見えていない(道路状況を正確に認知することができない)可能性がある」ということを意識しながら行動することが大切です。

横断する際は左からの車に、運転する際は右からの横断者に注意を!

道路を横断中に多数発生している、交通死亡事故。交差点はもちろんのこと、中央線等により道路の中央が定められていない道路でも、歩行者が横断中に左方向から進行してくる車両との衝突事故が数多く発生しています。

中央分離帯のあるような幅の広い道路では、信号があったとしても、渡りきれなかった歩行者が、信号が変わってしまってからでも無理に渡ろうとして事故に合うケースも発生しています。
歩行者は、信号のない場所を横断しようとするときには、車が近づいて来ていないか必ず左右を確認し、余裕を持って渡るようにしましょう。右から来た車が止まってくれたとしても、反対車線の車が止まってくれるとは限りません。焦らずに、よく確認してから渡るようにしましょう。中央分離帯のあるような幅の広い道路では、無理に一気に渡ろうとせずに、中央分離帯まで渡ったら、次に信号が青に変わるのを待ってから渡るようにしましょう。
ドライバーも、反対車線の向こうから横断者があるかも知れないということや、中央分離帯の切れ間などからも道路を横断する人があるかも知れないということを、意識しておきましょう。

あたりまえのことを、あたりまえに

夜間の交通事故を防ぐためには、歩行者もドライバーも「交通ルールを遵守すること」が基本です。ドライバーは歩行者優先を心がける。歩行者は無理な横断はしない。
ごくあたりまえなことですが、それが守られていないために、多くの交通死亡事故が発生しています。

もしも災害が起こったら・・・。
平穏な日常を送ることが難しくなるのが、大規模な災害です。
平時からできていないことは、災害時にはなおさら難しくなるのは、当然のことなのかも知れません。
だからこそ、日頃から「あたりまえのことを、あたりまえに」やっていくことが、きっと大切なのです。

この記事を書いた人

瀬尾 さちこ

防災士。住宅建築コーディネーター。整理収納コンサルタント。

愛知県東海市のコミュニティエフエム、メディアスエフエムにて防災特別番組「くらしと防災チャンネル(不定期)」、「ほっと一息おひるまメディアス(毎週水曜日12時〜)」を担当。
以前の担当番組:みんなで学ぶ地域防災(2021年~2021年)、防災豆知識(2019年~2021年)
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