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災害時に必ずおきるデマ。過去からひも解くデマが広がる仕組み ~ 災害時のデマ 1

災害がおきた時や、新型コロナウイルスの感染拡大といった非常事態がおきると、必ずと言っていいほど、デマや不確かなうわさ話がおこります。現在のようにX(旧 Twitter)や Facebook などのSNSや、LINEといったコミュニケーションツールが流行するはるか前から、災害や流行病がおきるたびにデマが繰り返されてきました。
なぜ、デマが広まるのかを知るとともに、正しい情報を見分ける方法を考えていきましょう。

歴史に繰り返されるデマ

東日本大震災では「化学工場の爆発により有害物質の雨が降る」、熊本震災では「動物園からライオンが逃げ出した」などのデマがありました。このようなデマは人々を混乱させ、危険にさらす可能性があるものです。さらに恐ろしいことに、近代の日本ではデマが原因となった大規模な殺傷事件がおきています。
関東大震災でおきたこの事件では、世間に「朝鮮人が放火や略奪をしている」「井戸の中に毒を流した」「爆弾を持っている」といったデマが増幅していきました。そして、民間で組織された自営団や、一部の軍隊、警察により、朝鮮人を主として中国人や日本人が虐殺されるという、おきてはならない残虐な事件がおきました。この事件による犠牲者数は正確には把握できていないものの、千人~数千人近くとされています。

非常時に出回るデマやうわさ話の発端は、ほんの少しの悪ふざけの場合や、世間にある差別が表に現れるものなど様々です。まずはデマの種類について整理をしてみましょう。

デマの発端となる3つのタイプ

デマの発生は大きく「悪意の創作」「勘違い」「うわさ話」といったタイプに分類ができます。

悪意の創作

悪意の創作は「動物園からライオンが逃げ出した。」といった全く事実の無いつくり話で、最近はフェイクニュースという言葉でも知られるようになりました。政治などの印象操作や愉快犯などその目的は様々ですが、悪ふざけで発信したつくり話でも多くの人に広まれば社会的な混乱を引きおこします。
もし、ライオンが逃げたという話を信じ、倒壊の可能性のある家から避難しない人がいる中で、再び大きな地震がおきれば人の命を危険にさらすこととなります。このデマは1日もかからず収束したため時間は重ならなかったようですが、熊本地震では1回目におきたマグニチュード6.5の地震の28時間後に、さらに大きなマグニチュード7.3の地震がおきています。また、実際に被災した獣舎の点検に追われる動物園に、問い合わせの電話が殺到する事態となりました。

勘違い

勘違いは発信者に悪意はなくても、早とちりが元となって誤った情報が広がってしまう場合です。
大阪府北部地震では、京セラドームに亀裂が入ったという写真が拡散しました。しかし、実際に確かめてみると、普段から屋根の上に設置されている階段が亀裂のように見えているだけということがありました。また、同じ地震で「電車が脱線するかと思った」というX(旧 Twitter)での投稿を、「電車が脱線した」と勘違いした人がおり、間違った情報が広まってしまったこともありました。

うわさ話

うわさ話では、東日本大震災で「化学工場の爆発により有害物質の雨が降る」という話がありました。

X(旧 Twitter)上の会話を分析した研究によると
  1. 千葉県の石油タンクが爆発炎上したという“事実”が X(旧 Twitter)上で話題となる
  2. 人体への影響を心配するツイートが見られる
  3. 雨が降り始めると「東京は合わせて雨が降ってきました。こういう時には傘ではなくカッパなどの雨衣を用意し、暖かくして行動できるようにしましょう。寒いと判断能力が落ちます。気を付けましょう」といった、雨を心配するツイートがいくつか見られる
  4. 「外を歩く時は傘かかっぱ!爆発で水溶液がとんできました!危険物個所の爆発です!雨に当たらないで!」というツイートが行われる
  5. 「【拡散希望】千葉県市内在住の方!外出るときは、傘かかっぱを着用してください。化学工場爆発の影響で、有害な化学物質が漏れたため、これらが混入した雨が降るそうです。」というツイートへと変化する
といった流れでデマが広がっていったと推測されています。

このように、「4.」で雨と石油タンクが結びつけられ、「5.」で化学工場からの有害な化学物質が雨に混入と変化しています。また、この他にも「友人から聞いた」「工場勤務の知り合いから聞いた」といった話が加わりながら、X(旧 Twitter)やチェーンメールでデマが広がっていきました。
「4.」の「爆発で水溶液がとんできました!」といった真偽や、「5.」で石油コンビナートが化学工場に変わり、雨に混入するとされた意図は不明ですが、信ぴょう性を増すための脚色だったかもしれません。こうした誇張や伝聞による変化によって情報があいまいになり、話の発生源や真偽の確認がしにくくなったことが、デマが広がる原因になったと考えられます。

時間とともに変化していくデマ

デマの発生は大きく3つのタイプに分類されると書きましたが、そこから伝わっていく過程では勘違いや脚色が重なりあいデマの内容が変化していきます。
関東大震災で殺傷事件の原因となったデマについての考察がありますので、デマがどのように変化していくかの例として紹介しましょう。

関東大震災では大規模な火災がおき当時の東京市(現在の23区の中心部)の43%が焼失しました。この時、あまりに大きな煙が発生したり、ガス管の爆発があったりしたため、人々の中で「山が噴火した」「火薬庫で爆発がおきた」といったデマが流れます。また、火災は40時間も続き、火が一度消えた場所でも再び火災がおきたこともあり「誰かが放火をしている」というデマもおきました。
このように通常ではおきない現象について誰かが仮説を唱え、それに納得した人々が話を伝えてくことで事実とは異なるデマが作られます。

また、地震がおきた翌日には農家からの食料品の強奪や、配給所の襲撃、その他にも多数の傷害や殺人事件が実際におきました。
これらの事件は朝鮮人によるものではありませんでしたが、当時の朝鮮は日本の植民地とされており世間には朝鮮人への差別もありました。また、地震がおきる直前に配られた新聞 には「怪鮮人三名捕はる」(原文ママ)といった見出しの記事も掲載されています。このような下地があったところに「火薬庫で爆発がおきた」「暴行事件がおきた」といった話が結びつけられたものと思われます。
こうしてできた「朝鮮人が人を襲っている」「爆弾をもっている」「井戸に毒を入れた」といったデマは、聞いた人々を不安させることで真実味をもち急速に広がることとなりました。

広がりやすいデマのポイント

デマが広がりやすくなるポイントとして「不安」と「あいまいさ」という要因があります。
平時でも、ポジティブな内容よりも不安を感じるデマの方が信じられやすい傾向にありますが、災害時のような情報によって安全が左右される状況では、確証をもって否定されない限りは、未確認の情報としてたくさんの人に伝えられていきます。
話が本当かどうかを検証するための情報が無いあいまいなデマは、話が広まる過程で誤りが指摘されないために広く伝わっていきます。例えば、「化学工場の爆発により有害物質の雨が降る」といったデマに「工場勤務の知り合いから聞いた」といった脚色が加えられると、あいまいな話でも信ぴょう性が高く感じられデマが広まることとなります。

また、デマが急速に広がれば、まわりまわって複数の人から同じ話を聞くことが多くなりまるため、1回目は疑うことがあっても複数の人から話を聞いた場合や、「みんなそう言っている」「ほかでも聞いたことがある」といった会話によって、うわさ話の信ぴょう性が増していきます。


今回は過去におきた災害からデマが広がる仕組みについて解説をしました。次回は役立つ情報からデマまで、膨大な情報が発信されるSNSを活用するためのファクトチェックの方法について紹介します。


参考資料

災害教訓の継承に関する専門調査会報告書 平成20年3月
第4章 第1節 流言蜚語と都市
第4章 第2節 殺傷事件の発生

東日本大震災における Twitter 上での流言の発生,伝搬,消滅プロセス

この記事を書いた人

moshimo ストック 編集部

防災をしたいけど情報がたくさんあって、何から始めればいいの…?
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