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ハザードマップがどんどん進化② ~受動的な学びから能動的な学びへ④~

ポジティブなレイヤを重ねる

行政がホームページで公開しているハザードマップを見ると、洪水の浸水想定や土砂災害の警戒区域と特別警戒区域、津波の浸水予想区域などが一目でわかります。ハザードマップには、このような危険区域だけではなく、避難場所(※1)や避難所(※2)、消防署、警察署、救護所、AED設置場所などの情報も記載されています。
外国人が多く住む地域では多言語で表示されています。地図とは別に、5段階の警戒レベルと避難行動、日頃の備え、避難のタイミング、土砂災害の前兆現象などを図や表で解説する啓発リーフレットもあります。

行政が準備しているマップ類は、あくまでも防災を前提としているので、情報も災害に関わるものに限定されています。こどもたちが地図を作成する際はどうでしょうか。危険に関わる項目だけを記載した地図を完成させ、先生から「地図を部屋に貼っておいて、いつも危険を認識するようにしましょう」と言われると、こどもたちはどんな気持ちになるでしょう。「自分の住む町は危険がいっぱいで怖い。こんな町は住みたくない」と思うかも知れません。安全のために行っているマップづくりを通して、自分の住む地域を嫌いなってしまっては大変です。

そこで、マップにはポジティブな情報もたくさん載せていきましょう。
大阪の生駒山のふもとにある町のこどもたちが作ったマップには、細い道の両側に続くブロック塀、老朽化してだれも住んでいない木造住宅、ヘビのように曲がりくねって災害時には通りにくい路地・・・そんな危険情報が記載されていました。さらに、可愛いイラストで「コロッケのおいしいお肉屋さん」が描かれていました。こどもたちが小銭を握りしめてコロッケを買いに行き、揚げたてのコロッケをほおばっている様子が目に浮かびます。こどもたちがその町で楽しく暮らしている実感が地図から読み取れて、見ていて楽しくなります。

小学校のマップづくりではこどもたちがグループに分かれて地域を歩きます。安全のためには各グループに大人が同伴する必要がありますが、先生方だけでは人数が足りません。
そこで、地域住民や保護者にお手伝いを依頼しましょう。コロッケを描いたこどもたちの学校では一緒に街を歩いてくれた地域の方々をマップ発表会に招待しました。こんな機会が地域住民とこどもたちを結びつけ、こどもたちのまちへの愛着を高めるだけではなく、住民の防災意識を高めるのにも一役買っています。

※1 一時的に安全を確保する場所。一時避難場所と広域避難場所があります。
※2 一定期間、避難生活を送る場所。一般の避難所と福祉避難所があります。

マップがどんどん進化

高知県の津波想定地域にある小学校は、毎年安全マップを作成し、新たな情報を追加してきました。こどもたちの提案で海岸近くにあった保育所と高齢者施設が安全な高台に移されました。新しい施設は備蓄倉庫や屋外非常用トイレなども設置して避難場所としての機能も備えています。
こどもたちのマップはどんどん進化しすごろくになりました。マップの作成ではなくマップ使った学びが目的となっているのです。このマップはさらに進化を続け、ついには動画視聴用のQRコードが付きました。地域の防災関連施設をこどもたちが紹介している動画を見ることができます。

事前復興まちづくりマップ

東日本大震災の後、各地で高台移転やかさ上げをしてのまちづくり、元の場所でのまちづくりが行われました。しかし、まちづくりには時間がかかります。5年、10年と時間をかけて高齢者を待たせるのは酷です。
まちづくりにはもう一つ課題があります。各家庭から一人ずつ代表者に出てもらうとほとんどが大人の男性になってしまいます。高齢化率の高い地域では参加者の多くは高齢男性です。こどもたちの意見を反映するのはほぼ不可能です。

南海トラフ巨大地震の津波に襲われると想定されている徳島県のある中学校は「事前復興まちづくり」にとりくんでいます。被災前のいまから復興のまちづくりのアイデアを話し合い、マップに表現しています。
学校で、こどもたちが被災後のまちづくりを話し合う実践は、こどもたちにその町に住み続けよう、進学や就職でいったん出ていっても必ず帰ってこようという気持ちを育んでくれるのではないでしょうか。

立体化する地図

地図は平面です。私たちは2次元で表現されている浸水の情報を頭の中で立体的に理解しなければなりません。そこでよりリアルに想像できるようにと立体地図の作成にとりくんでいる学校がいくつかあります。
東日本大震災が発生するもっと前から、岩手県の工業高校の生徒が、入り江の地図をもとにして立体模型を作り、疑似津波発生装置で津波を発生させ危険を視覚的に理解してもらうワークショップを続けていました。いくつもの地域のジオラマを製作し、各地で100回を超える実演を行ってきました。この実演を見ていたから東日本大震災の時には急いで避難したという住民も少なくありません。

広島県は土砂災害が多発する地域です。中国山地には風化した真砂土が多く、大雨が降るたびに土石流やがけ崩れ、地滑りが発生してきました。ある高等専門学校の生徒たちは、2次元の地図情報から3D地形模型マップを作成しています。こどもたちにも簡単に製作できるキットを提案し、平面の地図の情報と立体地図を組み合わせて地域の被害の様子を想像できるようにしました。
工業高校の津波立体模型も高等専門学校の3D地形模型マップも、自分たちが技術を使って製作するだけではなく、完成作品を活用してこどもたちや地域住民が災害を想像し、備えや素早い避難行動につながるような活動になっているところが素晴らしいですね。


この記事を書いた人

諏訪 清二

全国初の防災専門学科 兵庫県立舞子高校環境防災科の開設時より科長を務め、東日本大震災をはじめとする国内外の被災地でも生徒とともにボランティアや被災者との交流に従事。
防災教育の第一人者として文部科学省「東日本大震災を受けた防災教育・防災管理等に関する有識者会議」など、防災教育関連の委員を務める。

2017年4月から防災学習アドバイザー・コラボラレーターとして活動開始。
学校での防災学習の支援活動を中心に、防災学習、災害、ボランティア、語り継ぎなどのテーマで講演活動も。
中国四川省、ネパール、スリランカ、モンゴル、エルサルバドルをはじめ、海外各地でも防災教育のプロジェクトに関わってきた。

2017年度~ 神戸学院大学現代社会学部 非常勤講師 / 兵庫県立大学 特任教授(大学院減災復興政策研究科)
2018年度~ 関西国際大学セーフティマネジメント研究科 客員研究員
2020年度~ 大阪国際大学短期大学部 非常勤講師
2021年度~ 神戸女子大学 非常勤講師 / 桃山学院教育大学 非常勤講師

【著書】
防災教育のテッパン――本気で防災教育を始めよう
防災教育の不思議な力――子ども・学校・地域を変える
高校生、災害と向き合う――舞子高等学校環境防災科の10年
※こちらの書籍は、現在電子書籍での販売となります。

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