B!

幼稚園で防災教育① ~ 園児の活発な学びを引き出そう

園児対象の防災教育の事例がもっとたくさん欲しい

幼稚園ではどんな防災教育ができるのだろう、どうやればいいのだろうという声をよく聞きます。保育士の皆さんは、園児を対象とした防災教育の必要性を痛感しながらも、巷に出回っている防災教育の情報はどちらかというと小学校や中学校の事例がほとんどなので、もっと情報が欲しい、ノウハウを知りたいと熱望されているのだと思います。
私はもともと高校で防災教育にかかわってきましたが、この5年ほどは国内外で、こどもたちを対象とした授業や保育士の皆さんを対象とした研修、保育士を指導する立場の人たち(いわゆる指導主事です)の研修などを通して、幼稚園の防災教育にもかかわってきました。ボトムアップで実践事例を積み上げる現場から、トップダウンで制度を作っていく教育行政まで、すべてをカバーしてきました。
その中から、今回はモンゴルの園児を対象に実践した内容をお伝えします。モンゴルには年間60日ほど分割で滞在して、こどもたちへのモデル授業と現場の先生方の研修指導・授業実践支援、指導主事への研修など、現場から指導層までをカバーした研修を行ってきました。

今回ご紹介する授業は、一つは私が実際に行った授業、もう一つは、保育士さんたちと相談しながら授業をデザインし、授業そのものは現地の保育士さんたちが実施したものです。

まずは体を動かそう

こどもたちに、地震について知っていることを聞きました。「地面が揺れる。」「建物が壊れる。」など、ある程度の知識を持っているようでした。モンゴルはプレートの真ん中に位置しているので、プレート境界にある日本やインドネシアのように地震が頻繁に発生するわけではありません。でも、地震について少しは知っているようでした。もし、まったく知らないのなら、映像を見せるなどして、学習してもらうのもいいでしょう。
地震の性質がわかったら、次の行動です。「1、2の3で地震が起こるぞ。さあ、どう身を守る?」「1、2の3、地震だ!!」
こどもたちは慌てて机の下に隠れます。外に飛び出すこどもや、先生に抱きつくこども、壁にへばりつくこどももいます。
こどもたちを落ちつかせて、一人ずつ、なぜその場所が安全だと考えたのかを発表してもらいます。大事なのは、こどもたちのコメントを受け止めて、ほめてあげることです。もし、行動が間違っていても、質問をして正しい答えを引き出してほめてあげてください。
あるこどもは、机の下に隠れて、頭を両手で抱えていました。頭を守ろうとしているのです。そんな時は、そのこどもにもう一度みんなの前で机の下に入ってもらい、机を揺らして、そのこどもの上から取り除いてみてください。見ているこどもたちは、危ないと気づきます。そうすると、机の下にいたこどもは、慌てて机の脚をつかもうとします。それでいいのです。そこでほめてあげてください。
窓や本立てから離れたこども、ドアを開けたこども、どんな行動をしたこどもでも(もし間違った行動なら正しく導いたうえで)、その行動の大切さを説明して、ほめてあげましょう。


机の下に隠れるこども

部屋の中の危険を探そう

次は、モンゴルの先生に実践してもらった授業です。
前半のプロセスは、さっきの授業と同じです。こどもたちの地震についての知識をチェックして、地震時に起こりうる危険な出来事を共有しましょう。面白かったのは、こどもを段ボールの箱に入れて、それをゆすって揺れを体感させたことです。なるほど、起震車(地震体験車)なんかいらないのですね。身近にある材料で、地震を体感させようとする姿勢に脱帽しました。
次に、赤い色紙をギザギザに切ったシールをこどもたちに渡します。裏面には輪にしたセロテープがつけられています。両面テープです。
こどもたちにたずねましょう。「地震の時に危ない場所はどこですか?赤いギザギザシールを貼っていきましょう。」
こどもたちは先を争うように、あちらこちらにシールを貼っていきます。誰か一人が貼ると、みんながそれを真似て貼ることもありますが、そこは愛嬌です。
こどもたちが手持ちのギザギザシールを貼り終えると、教室内は赤いシールがいっぱい貼られている場所とそうでない場所に分かれます。


危険個所に貼るキザギザシール

どうしてそこが危ないの?

こどもたちを、シールがいっぱい貼られている場所に連れて行ってください。そして、なぜそこにシールを貼ったかをたずねましょう。たくさんの答えが返ってきます。その一つひとつに丁寧に答え、評価してあげましょう。
それから、実際の地震の時は、その危ない場所から離れることが大切だとしっかりと教えてください。そして、この部屋で一番安全な場所はどこなのか、全員に聞いて考えさせてください。
最後に、その一番安全な場所に行って、頭、身体を守る姿勢を教えてあげましょう。
ところで、こどもたちは実際の地震時には揺れに対する恐怖を感じます。たとえけがをせずに助かっても、泣く子もいます。恐怖にどう対処したらいいかわからないのです。そんな時は、ぎゅっと抱きしめてあげる、みんなで一緒に歌を歌う、そんな対応をしましょう。
こどもたちの身体を守るだけではなく心も守るのが、先生の役割です。


先生と歌おう

幼稚園で防災教育 次回の記事

この記事を書いた人

諏訪 清二

全国初の防災専門学科 兵庫県立舞子高校環境防災科の開設時より科長を務め、東日本大震災をはじめとする国内外の被災地でも生徒とともにボランティアや被災者との交流に従事。
防災教育の第一人者として文部科学省「東日本大震災を受けた防災教育・防災管理等に関する有識者会議」など、防災教育関連の委員を務める。

2017年4月から防災学習アドバイザー・コラボラレーターとして活動開始。
学校での防災学習の支援活動を中心に、防災学習、災害、ボランティア、語り継ぎなどのテーマで講演活動も。
中国四川省、ネパール、スリランカ、モンゴル、エルサルバドルをはじめ、海外各地でも防災教育のプロジェクトに関わってきた。

2017年度~ 神戸学院大学現代社会学部 非常勤講師 / 兵庫県立大学 特任教授(大学院減災復興政策研究科)
2018年度~ 関西国際大学セーフティマネジメント研究科 客員研究員
2020年度~ 大阪国際大学短期大学部 非常勤講師
2021年度~ 神戸女子大学 非常勤講師 / 桃山学院教育大学 非常勤講師

【著書】
図解でわかる 14歳からの自然災害と防災 (著者:社会応援ネットワーク 監修:諏訪清二)
防災教育のテッパン――本気で防災教育を始めよう
防災教育の不思議な力――子ども・学校・地域を変える
高校生、災害と向き合う――舞子高等学校環境防災科の10年
※こちらの書籍は、現在電子書籍での販売となります。

諏訪 清二の記事一覧

公式SNSアカウントをフォローして、最新記事をチェックしよう

twitter
facebook

この記事をシェア

B!