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防災テッパン授業① ~ 牛乳パックを使って耐震を学ぼう

テッパンの耐震学習

この授業は、防災教育のテッパンです。私は、日本でも、モンゴルでも、ネパールでも、中国でもいろんな国で実践してきました。とにかくどの国でも行っても、参加者の関心は非常に高いと実感しました。

対象年齢は、ハサミを自在に使える年齢ならどの世代でも大丈夫です。
小学校高学年から、中学生、高校生、大学生、大人と、誰でもできます。幼稚園や小学校低学年のこどもでも、介助者がハサミを使い、こどもたちの意見を聞きながら一緒に作業をすれば大丈夫です。地域の自主防災組織で行った時も、大人が楽しそうに工作をし、意見を交わしていたのが印象に残っています

シンプルな手順

指導手順はシンプルです。以下の流れで行ってください。
  1. 地震災害の写真を見せます。とくに、木造家屋の倒壊写真などがいいでしょう。阪神・淡路大震災や熊本地震など、家屋の倒壊が多かった地震災害の地元自治体のホームページなどに、フリーの写真素材があります。


    (出典: 財団法人消防科学総合センター 災害写真データベース)

    それらの写真を見せながら、地震被害の説明をし、一つ、質問を投げかけます。
    「地震は人を殺しまか?」
    ちょっとどぎつい表現ですね。こどもたちの発達段階に応じて、少しソフトな表現を考えてもいいでしょう。

    防災を学んでいないこどもたちの多くは、「地震が人を殺す」と考えます。すでに防災教育にしっかりととりくんでいる学校でこの質問をすると、「地震は人を殺さない。人が建てた弱い建物が倒れて人を殺す」と答える生徒がいます。

    「では、こんな家にならないように、耐震の勉強をしましょう。」

  2. 牛乳パックを使って、2階建ての家の作り方を説明します
    まず、牛乳パックを1~2センチの幅で輪切りにします。2つのピースをセロテープやホッチキスでつなぐと2階建ての家になります。



    その家を揺らしてみましょう。とてもよく揺れます。とくに接合点で変形が顕著です。牛乳パックの四角い輪切りが平行四辺形になります。

    こどもたちに問いかけましょう。
    「こんな家に住みたいですか?」
    全員の答えがNoです。誰もこんな脆弱な家には住みたくないですよね。

  3. 次に、残った材料を使って、2階建ての家を補強してもらいます。個人作業でもいいし、グループで話し合ってもいいでしょう。どんな構造でも構いません。自由に補強してもらいましょう。

    指導者は時々作業中のこどもたちに声をかけ、こどもたちのやる気をどんどん引き出しましょう。
    ときどき、家の土台や基礎を広げるために、隣の家の敷地に入り込んでしまうように補強していくこどもがいます。「隣の家に入っちゃだめだよ」と、笑いを誘いながら指摘しましょう。




    写真はモンゴルとネパールでの作業のシーンです。 みんな熱心に作業していますね。屋根を付けたり、飾りをつけたりと、自分の好きな家にデコっています。

  4. こどもたちの作業が終わると、成果を発表してもらいます。もちろん、指導者からの声掛けも大切です。こどもたちの工夫に対して、いいアイデアを見つけてポジティブな評価をしてあげましょう。

  5. 最後に、実際の建設現場の写真を見せます。例えば、鉄筋の校舎なら柱や梁を太くする、木造住宅なら筋交いや火打ちを入れる、耐震壁を設置する、などの写真がいいでしょう。
    こどもたちの作品はこういった技法ときわめて類似しています。自分たちのアイデアが、最先端の建設現場で使われていると知ったこどもたちの喜びを想像してみてください。

工作と一緒に学ばせたい

このワークショップは、小学校高学年から大人まで、いろんな世代で使えます。学習者、参加者の年齢によって、指導者が用いる逸話は変えればいいのです。例えば、以下のような話を準備します。
阪神・淡路大震災では、2階建ての家屋の1階がつぶれて下敷きになった人が多かったようです。亡くなった方の6割は60歳以上の高齢者ともいわれています。

こどもたちにその理由を尋ねてみましょう。体力がないから?と答える子どもたちが多いですね。でも、1階がぺしゃんこで2階建ての家がまるで1階建てみたいに見えます。こんな倒壊家屋で下敷きになったら、体力のある若者でもひとたまりもありません。

こどもたちをやり取りしながら、ちょっとヒントを出します。
「2階建ての家で、おじいちゃん、おばあちゃんは何階で寝ていますか?」
するとこどもたちは気づきます。1階で寝ているから被害にあうのです。日常の生活の仕方が、災害時の被害に繋がっているのです。

こどもたちには宿題を出します。
「おじいさん、おばあさんに電話して、とにかく2階で寝るように伝えてね。」

中国四川省での反応

この授業は、耐震の方法を教えるものではありません。あくまでも、耐震の大切さに気付かせるのが狙いです。

私が中国四川省の被災地でこの実践を行った時の話を紹介しましょう。
2008年に5.12大地震が発生しました(中国では四川大地震とは言いません。5.12大地震とか震源地の地名をとって汶川地震などと呼ばれています)。死者7万人、行方不明者2万人というのが中国政府の発表です。地震で行方不明って、変ですよね。

北川県城という街は山の中の盆地です。地震で多くのビル、家屋が倒壊し、人々が生き埋めになりました。さらに大雨でできたダム湖が決壊し、土砂災害にも見舞われました。政府は遺体を取り出すことをあきらめ、町全体を墓地とし、博物館としたのです。
観光客が倒壊して保存されたビルを見て回り、遺族が爆竹を鳴らして亡くなった方を慰霊しています。



そんな被災地で、先生方を対象にこの授業を行いました。ある先生は、この授業が面白かったと、家に帰ってこどもたちに教えました。そのこどもが、将来は建築士になりたいと言い出し、実際に大学では建築を専攻したそうです。
彼女が大学を卒業したときに、四川省のある被災地で会うことができました。お母さんから聞かされた牛乳パックの授業をしっかりと覚えていてくれました。

この授業は、モチベーションを高め、意識に残る授業なのです。

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この記事を書いた人

諏訪 清二

全国初の防災専門学科 兵庫県立舞子高校環境防災科の開設時より科長を務め、東日本大震災をはじめとする国内外の被災地でも生徒とともにボランティアや被災者との交流に従事。
防災教育の第一人者として文部科学省「東日本大震災を受けた防災教育・防災管理等に関する有識者会議」など、防災教育関連の委員を務める。

2017年4月から防災学習アドバイザー・コラボラレーターとして活動開始。
学校での防災学習の支援活動を中心に、防災学習、災害、ボランティア、語り継ぎなどのテーマで講演活動も。
中国四川省、ネパール、スリランカ、モンゴル、エルサルバドルをはじめ、海外各地でも防災教育のプロジェクトに関わってきた。

2017年度~ 神戸学院大学現代社会学部 非常勤講師 / 兵庫県立大学 特任教授(大学院減災復興政策研究科)
2018年度~ 関西国際大学セーフティマネジメント研究科 客員研究員
2020年度~ 大阪国際大学短期大学部 非常勤講師
2021年度~ 神戸女子大学 非常勤講師 / 桃山学院教育大学 非常勤講師

【著書】
図解でわかる 14歳からの自然災害と防災 (著者:社会応援ネットワーク 監修:諏訪清二)
防災教育のテッパン――本気で防災教育を始めよう
防災教育の不思議な力――子ども・学校・地域を変える
高校生、災害と向き合う――舞子高等学校環境防災科の10年
※こちらの書籍は、現在電子書籍での販売となります。

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