愛情の深さとは関係ありません。炎天下での車内への子どもの閉じ込め・子どもの熱中症に注意を
子どもとご高齢の方は、熱中症のリスクが高くなると言われています。ご高齢の方は、喉の渇きや「暑い」と感じにくくなること、体内の水分量が減少すること、体温調節が鈍ることなどが原因です。子どもはご高齢の方とは違った理由で、熱中症にかかりやすい特徴があります。
特に乳幼児は、言葉で異変を伝えるのが難しいこともあります。体調不良とともに注意が必要なのが、炎天下での車の中への閉じ込めです。子どもの炎天下での車内への閉じ込めは、熱中症で亡くなることに直結します。「この炎天下の中で、愛する子どもを車にするなんて、信じられない!」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、JAF(一般社団法人日本自動車連盟)の統計によると2018年の8月1ヶ月間で“子どもを車内に残したままのキー閉じ込み”件数が246件あったと報告されています。子どもの車内への閉じ込めは、親が子どもをどれだけ愛しているのかとは、関係なく発生してしまうことです。
子どもの熱中症リスクや対策とともに、炎天下での車内閉じ込めを防止するために気をつけることや、万が一の時の対処法などを考えておきましょう。
だから子どもは暑さに弱い
子どもは汗をかいて体温を調節する機能が、まだ十分に発達していません。大人と比べると、暑さを感じてから汗をかいて体温を下げるまでに時間がかかり、身体に熱がこもってしまい、暑い日には体温が上昇してしまうリスクが高くなってしまいます。
子どもは、体温が高くなると、皮膚の表面に血液を移動させて身体の熱を外に逃します。体重あたりの体の表面の面積が大きいという体格の特徴が、身体の熱を外に逃しやすくすることに役立っていますが、気温などの環境の影響も受けやすいことにもなります。気温が皮膚の温度よりも高い場合や、地面からの照り返しなどの輻射熱(ふくしゃねつ)が大きな場所では、熱中症のリスクが大人以上に高くなります。
外を歩くときやベビーカーなど、大人よりも地面に近いところにいる子どもは、大人よりも3度ほど高い温度(天気予報で35度の気温が出されていたら、子どもは38度くらい)を感じています。
また、子どもは自分の体調をうまく言葉にすることができません。大人であれば「頭が痛い」や「吐き気がする」など熱中症の初期症状を表現することもできますが、子どもは「眠い」や「つかれた」としか表現できないこともあります。
親子で外出中に「眠い」や「つかれた」と言われると、「もう少しでお家に着くから、頑張ろうね」などと対応してしまうこともあるかもしれませんが、熱中症のリスクが高まっている季節に子どもがこうしたことを伝えてきた時には、すでに熱中症にかかっている場合もあります。
すぐに、涼しい場所で休ませ、水分と塩分の補給をさせましょう。
外出するときには、氷も入れた麦茶などを水筒に入れて持ち歩かせて、喉が乾いていなくても水分を摂るようにうながしましょう。9歳から12歳の子どもで、20分ごとに100〜250mlの水分を補給することが一つの目安です。塩分の摂れるお煎餅や熱中症予防の塩飴なども一緒に食べさせてあげましょう。
もちろん、たとえ短時間でも子どもだけを車の中に置いて行ってはいけません。炎天下の車に子どもをとり残すことは、子どもを“死亡させてしまう”ことです。
しかし、「うっかり」や「予期せぬ出来事」は誰にでも起きうることです。悲しいことが起こらないように、日頃から注意をおこたらないことが大切です。
炎天下の車内はエンジンをかけっぱなしにしておいても危険
「数十分の買い物を終えて、炎天下に駐車した車に戻ってくると、触ることができないくらいハンドルが熱くなっていた」という経験は、自動車を運転する多くの人にある経験でしょう。
JAF(日本自動車連盟)では、真夏の炎天下で車の中の温度がどのように変化するのか、テストを行っています。
8月の晴れた日、外気温が35度の状況では、30分後のエンジンを止めた車内温度は約45度。3時間後には、約55度を超えたという結果が報告されています。窓をそれぞれ3センチほど開けていても、30分後の車内温度は約40度、3時間後には約45度という結果が出ています。また、車を日陰に駐車していても、炎天下に駐車した場合との車内温度差は、約7度です。
駐車場所や窓を開けているかにかかわらず、外の気温が高温である場合には注意が必要です。
気温35度ほどの炎天下に駐車した車内の熱中症指数は、窓を閉め切った状態ではエンジンを切ってエアコン停止した後わずか15分で命の危険があるレベルになります。
こうした車の中に、短時間でも、もしも子どもが置き去りにされたらどのような結果になるのかは、容易に想像できるはずです。
子どもが寝ていたとしても、絶対に車の中に残していってはいけません。
停車中の車でエンジンをかけてエアコンをかけっぱなしにしていると、バッテリーが上がり、エンジンがストップし、エアコンが止まってしまうことがあるためです。
車のエアコンは、電源だけでなく、エンジンの回転数も必要とします。走行しないままエアコンを使用していれば、パワーが足りなくなり、バッテリーが上がってエンジンがストップしてしまうことがあるのです。
どんな場合であっても、たとえ短時間でも、子どもを車内に置いていかないようにしましょう。
不測の事態は起こります。例えば、キーの閉じ込み。
こうした危険性を十分に理解していて、子どもに深い愛情があったとしても、不測の事態に至ってしまうことは、誰しもあることです。例えば、電子キーの閉じ込み事故です。
独立行政法人国民生活センターには、このような事例が寄せられています。
「乗用車の助手席に電子キーを入れたカバンを置いたまま、車外に出てドアを閉めたところロックがかかり、チャイルドシートに座らせた子供が車内に閉じ込められてしまった。あわててロードサービスを呼んで鍵を開けてもらい、子どもを助け出した。」
このケースでは、幸いロードサービスが早く駆け付けられたことと、それほど暑くない日だったために、最悪の事態を免れることができました。
電子キーをカバンの中に入れておくことも、子どもをチャイルドシートからおろしてから、最後に助手席に置いていたカバンを持って車を後にしようとする行動も、特別なことではありません。
近年では、鍵をカバンの中に入れていても、鍵のボタンを押したり鍵を持っているだけで車のボタンを押すことでドアの施錠やエンジンの始動ができる電子キーを装備している車が増えてきました。
たくさんの荷物がある時や、小さな子どもを抱っこしている時などはとても便利に感じる機能です。
しかし、便利な機能である一方で、電子キーが作動しなくなり炎天下の中で子どもが閉じ込められてしまうケースや、子どもが電子キーを偶然操作して施錠してしまい大人が車外に閉め出されてしまうケースなどが発生しているのです。
こうした事故をなくすために、小さな子どもには絶対に電子キーを渡さないようにしましょう。
また、定期的に電池の交換をすることも、私たちができる対策です。
エンジンが停止している時に、電子キーの電池が切れるとドアが施錠される場合があります。電子キーを採用している多くの車では、電子キーの電池の残量が少なくなると、乗車するときに車に警告表示をされるようになっています。「もう少し大丈夫なはず」と思わずに、早めに電池の交換をしましょう。自分で交換できない時には、車の取扱ディーラーなどで交換してもらうこともできます。
電子キーの電池が切れた場合のドアの解錠方法も、取扱説明書などを読んで、日頃から確認しておきましょう。
車を降りるときには、短時間であってもカバンの中に入れっぱなしにせずに、ポケットの中に入れるなど身につけておくことを習慣にしましょう。電池の残量があったとしても、カバンの中で他のものと触れるなど、何らかの理由で電子キーのボタンが押されて、電子キーが車内にあるのにドアが施錠されることがあります。
「子どもを愛していれば、忘れるはずなんて・・・」と思っていても、忘れてしまうことも
昨年(2022年)9月、静岡県牧之原市の幼稚園の送迎バスに約5時間にわたって置き去りにされた3歳の女の子が死亡したという事故が発生しました。同じ年の5月には、新潟市で1歳5ヶ月の男の子が、出勤途中に保育園に送るために父親が車に乗せて自宅を出発したものの降ろし忘れ、約3時間車内に置き去りにされて熱中症で亡くなるという事故が発生しています。
2019年には富山県で、外出先から運転代行を使って二人の子どもを乗せて帰宅した際に、11ヶ月の子どもを降ろし忘れて早朝5時20分頃から午前9時半頃までの約4時間車内に置き去りにすることになり亡くなってしまったという事故も。
他にも、毎年のように、このような事故は発生しています。
こうした事故、事件のニュースを見聞きすると、「虐待ではないか」「子どもを忘れるなんてあり得ない」「愛情がないのではないか」「親としてだらしない」などの批判的な声も聞きます。
ひとつひとつのケースを見れば、そうしたケースもあるかも知れませんが、どれだけ子どもを愛していたとしても、どれだけ大切に思っていたとしても、忘れてしまうことがあります。
子どもと一緒に出かけていて、車から降ろす前に、何か突発的なことが起こったり、心配事などがあって考え事をしていたり、暑さで判断力が鈍ってしまったり、思い込みなどがあったり、そうしたことで子どもを車から降ろし忘れてしまうようなことは、誰にでも起こり得ることです。
祖父母や友人家族と一緒など、複数の大人と一緒に出かけているときにも、「他の人が降ろしてくれたはず」などの思い込みから子どもを車内に置き去りにしてしまうことがあります。子どもと二人きりで出かけていても、複数の人と出かけていても、同じように子どもの車内への置き去り事故が起こる可能性はあるのです。
「ヒューマンエラー」という言葉があります。製造現場などで使われる用語で、「しなければいけないことが決まっているときに、しなければいけないことをしなかった」または「してはならないことをしてしまった」と後で評価される行為のことを言います。「人為的ミス」ともいわれます。
人は忘れたり、失敗したりするものなのです。ただそれを責めることでは、解決しません。
「自分自身もヒューマンエラーを起こすかも知れない」と考えて、日頃から「子どもを車内に忘れないように」確認することなどを習慣にしていくことが、子どもを車内に置き去りにすることの防止に繋がるはずです。
例えば、車から降りるときには、「必ず後部座席を振り返る」という行動を習慣にしましょう。子どもを乗せていてもいなくても、荷物があってもなくても、必ず振り返ることを繰り返していくうちに、習慣として身についてくるはずです。
普段から持ち歩いているカバンを、後部座席に置くようにするのも良いかもしれません。ただし、鍵はカバンの中に入れたままにせずに、必ず身につけているようにしましょう。
時間に追われて焦っているときや、突発的に何かが起こった時には忘れてしまうこともあるかもしれませんが、日頃から「後部座席を確認する」と意識してみることで、思い出せるようになるかもしれません。
「後部座席の確認」を習慣に。そして、焦っている時こそ、意識的にチェックするようにしましょう。
「もしも子どもを閉じ込めてしまったら・・・」最悪の事態に備えて
どれだけ気をつけていたとしても、車の鍵とともに子どもを閉じ込めてしまったり、思いがけないことが起こる可能性はあります。
もしも車の鍵とともに子どもを車内に閉じ込めてしまったら、ロードサービス(JAFは短縮ダイヤル「#8139」でも呼ぶことができます)を呼びましょう。その際に、緊急性があると思われる場合には、子どもが車内に残されていることを伝えて、速やかに救助に来てもらえるようにお願いしましょう。
それでも救助に時間がかかる時には、消防に救助をお願いしましょう。車内に残されている子どもを観察し、意識障害が見られたり、汗が出ていないように見えたり、嘔吐などが見られる場合には、救急車も呼ぶ必要があります。
ロードサービスが救助に来てくれるまでの時間がかかったり、消防も救助に来てくれるのに時間がかかり、他に救出する方法がない場合には、自分で窓を壊して救助することも必要です。自分で窓を壊す場合には、フロントガラスではなく、ウインドーガラス(ドア部分のガラス)を破るようにしましょう。
自動車用緊急脱出ハンマーを車に乗せている場合には、それを使って窓を割りましょう。その他、ビニール袋に金属の硬貨や石を入れて、振り回して窓を割って救出しましょう。
「子どもは熱中症になるリスクが高い」普段から意識して対策を
この記事を書いた人
moshimo ストック 編集部
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