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災害時の子どもの心のケア

大規模な災害が発生した時、おとなでさえも不安や恐怖を感じます。日常生活を送ることが難しくなってしまった被災地はもちろん、被災状況などをテレビやSNSなどで繰り返し目にすることでも、心理的な影響を受けます。大規模な災害などが発生し、危機的な状況におかれた時、助けを求めたり多くを語ることはなくても、子どもたちも心のケアを必要としているはずです。
カウンセリングなど、専門家による支援が必要な場合もありますが、身近にいるおとなだからこそできることもあります。危機的状況におかれた時の子どもたちの反応の例とともに、おとなができることや避けるべきことを覚えておきましょう。

危機的な状況の下での子どものストレス反応

大規模な災害で、食料などが十分に得られなくなったり、多くのものが破壊されたり、身近な人の怪我や死を目の当たりにした時の子どもたちの反応は様々です。子どもの年齢や発達段階によっても異なりますし、反応が表面的に出ない子どももいます。
乳幼児は、自分の周りで何が起こっているのかよく理解できないかも知れません。それでも、なにかしら感じ取って、小さな反応を見せているかも知れません。また、被災した地域でなくても、被災地の映像を繰り返し目にしている場合にもストレスを感じていることがあります。
「いつもよりも元気がない」「イライラしたり興奮しやすくなる」「お母さんやお父さんから離れたがらずに、甘えん坊になる」「日頃していた好きなことをしなくなる」「急に素直になる」などということも、反応の一つです。
「過食や食欲不振」「喘息やアトピーなどのアレルギー症状が強まる」「吐き気や腹痛、下痢、頭痛、めまいなどの症状を訴える」「寝つきが悪くなる」などの身体症状がでることもあります。
こうした反応には個人差があるものの、年齢によって現れやすい特徴的な反応があります。

年齢別反応の例

乳幼児(0〜3歳くらい)

何が起きたのか理解できない乳幼児は、漠然とした不安を感じて、保護者にしがみついたり、付きまとって離れなくなったりすることがあります。以前は怖がらなかったことを怖がるようになることも。睡眠や食事行動に変化が起きることもあります。幼児は、おねしょや指しゃぶりのような“赤ちゃん返り”をしたり、あまり遊ばなくなったり、悲惨な出来事に関係する遊びを繰り返したりすることがあります。

学童期前期(4歳〜6歳くらい)

保護者やまわりのおとなたちの反応を見て、事実を推測できるようになる年齢です。また、想像力も豊かになる頃で、想像的な考え方ができるようになっているからこそ、「自分が悪いことをしたから悲惨な出来事が起こった」と考えたり思いこんだりして、現実にないことを言い出すことがあります。
想像から不安を増大させたり、孤独を感じていることもあります。甘えなくなることもストレスによる反応の一つです。

学童期後期(7〜12歳くらい)

「震災ごっこ」など、起きた出来事を遊びの中で表現したり、起きた出来事について同じ言葉や方法で、繰り返し話したりすることがあります。そのような様子をおとなが目にしたり聞いたりすると、残酷に感じるなどしてやめさせたくなるかもしれませんが、子どもにとっては自然なストレス対処法の一つでもあるので、遊びを無理に止めずに見守りましょう。

思春期(13歳以上くらい)

緊急時の深刻さを自分の視点からだけでなく、他者の視点からも理解できるようになる思春期。強い責任感や罪悪感も、この年齢の子どもによくみられる感情です。強い虚脱感に襲われたり、孤立しているように感じたりして、自滅的な行動をとったり他者を避けるような行動をとることがあります。攻撃的な行動が増すこともあり、保護者や権威などに反抗的になり、社会に適合するためにより仲間を頼るようになります。

こうした反応を示す子どももいれば、まったく反応が見られず、一見いつもと変わらずに元気そうにしていることもあります。
しかし、反応を示すかどうかに関わらず、危機的な状況の下で子どもたちもストレスや不安などを感じていることには違いありません。
子どもを守り、精神的に支える上で、一番身近にいる家族や保護者が安心感を与える役割はとても重要です。しかし、危機的な状況の中では家族や保護者などのおとなもストレスなどを抱えていることがほとんどです。大切な子どもを守るためにも、自身が心身の不調を感じたときには、公的機関やボランティア、専門家などを頼ったり、コミュニティの中で支えあいながらケアをしていきましょう。

身近なおとなにしかできない心のケア・4つのポイント

大規模な災害時には、自宅にいられなくなり、避難所に身を寄せなければならなくなるかも知れません。子どもたちが通う学校などは避難所になり、おとなたちは片付けに追われるかも知れません。
一瞬にして、おとなも子どもも、災害によって日常が奪われてしまうことになることは、多くの人が想像できることでしょう。
災害の翌日から数日ほどで、被災した地域にはボランティアや専門家が支援に入ることもありますが、子どもの身近にいるからこそできることがあります。
災害時に子どもたちの心のケアをするためのポイントは、4つあります。
「安心感を与える」こと、「“日常”を取り戻すことを助ける」こと、「被災地の映像を繰り返し見せない」こと、そして「子供は自ら回復する力があることを理解し、見守る」こと。
この4つのポイントに留意しながら、子どもの心のケアを行うようにしましょう。

1.安心感を与えましょう

子どもに寄り添って、いつもよりも一緒にいる時間やスキンシップを増やしましょう。子どもの言うことに耳を傾け、疑問や心配に思うことには、できるだけ簡単な言葉で、穏やかに正直に応えることが、安心感につながります。
もしも答えがわからないことを質問されたら、無理に答えを導き出そうとせずに、「わからないけど、様子を見てみましょう」のような答え方でも大丈夫です。
子どもの話を途中で止めさせることや、子どもたちが置かれている状況を一方的に判断せずに、できるだけしっかりと耳を傾けるようにしてください。
子ども自身が心に持っている不安や恐怖心を言葉にすることと、それを誰かがちゃんと聞いてくれること、それが重要です。
まだ言葉を発していない子どもや、言葉によるコミュニケーションができない子どもにも、同じように声をかけるようにしましょう。

2.“日常”をできるだけ早く取り戻せるように

避難所に身を寄せることそのものが、おとなにとっても子どもにとっても非日常です。
そんな中でも、食事や歯磨き、着替えや睡眠時間などをできるだけ普段通りに保てるようにサポートしてください。可能な限り普段の習慣を保つことは、子どもを安心させる手助けになります。
また、“遊ぶこと”も子どもたちにとっては、日常の一つです。避難所のような、多くの人が集まるところでは、思い切り子どもを遊ばせることは難しいと思うかもしれませんが、子どもをもつ人たちで協力し合い、子どもが安心して遊べるスペースを設けられるように働きかけてみましょう。
広場や体育館、教室や自宅などで安全が確保できれば、どんな場所でもかまいません。お気に入りのおもちゃや遊び道具などが用意できることが理想ですが、代わりになりそうなものを与えたり、指相撲などの道具を使わない遊びもスキンシップが取れ、安心感につながります。可能な限り、おとなも子どもの相手をしながら、一緒に遊びましょう。
子どもが何を求めているのか、子ども自身にニーズを聞いて、それを叶えられるように周りのおとなが協力することも、子どもたちが日常を取り戻すためのサポートの一つです。

3.被災地に関する映像は繰り返し見せないように

大規模な災害が起こると、ニュースなどでは繰り返しその映像が流れることになります。被災地でない地域にいたとしても、こうした映像を繰り返し観ることによっておとなでもストレスを感じることがあります。
おとなのように言葉での情報が理解できない乳幼児は、映像などが伝える事実を把握できません。時間の感覚がまだ十分に発達していない子どもにとっては、それが過去に起こったことなのか、今起こっていることなのかも、判断することが難しいこともあります。
「自分のせいでこの災害が起こってしまったんじゃないか」「自分の近くでも起きるんじゃないか」と思ってしまったり、おとな以上に映像や画像から大きな衝撃を受ける可能性があります。
小学校高学年よりも上の年齢になっても、感受性豊かな子どもは、被災地の映像に触れる時間が長くなると、深く感情移入してしまうこともあります。
できるだけ、被災地に関する映像を見せるのは避けましょう。

4.子どもの「自分で回復する力」を信じましょう

災害を経験したり、被災地の映像を繰り返し見てしまった子どもには、様々な反応が見られます。特に身体的な反応などは、治療が必要なのではと心配になるかも知れませんが、子どもが一時的にストレス反応(悲嘆反応)を示すことは、自然で正常なことです。
子どもは、自分で回復する力を持っています。危機的状況下で一時的に様々な反応や行動を示すことで、自分を守ってくれる身近なおとなとの信頼関係などを確認しています。信頼できるおとなに働きかけることで、子どもは自分自身の心の状態を回復させようとしています。
おとなにとっては好ましくないと感じることや、心配になる行動もあるかもしれません。それでも、無理にやめさせようとせずに、子どもには安心感を与え、少しでも日常を取り戻せるようにサポートしながら、見守りましょう。

これら4つのポイントの他にも、子どものために周りのおとなができることは、たくさんあります。
例えば、乳児には、大きな音や混乱から遠ざけることや、暖かくしたり抱きしめたり、穏やかに話しかけること。幼児や児童には、両親や兄弟姉妹など、大切な人と一緒に過ごせるようにすること。児童や思春期の子どもには、何が起きたのか事実を伝えて現状を説明することや、無理に強さを求めずに悲しむことにも寄り添うこと、機会を作って支援活動に参加することを勧めることも心のケアに繋がります。

子どもの心のケアのために身近なおとながしてはいけないこと

危機的状況下における子どもの反応が長期にわたる場合、カウンセリングや絵画・運動・遊びなどを通したセラピーが必要になることもあります。こうした支援を行う時には、専門的な知識や研修が必要です。カウンセラーは中立の立場で、心の安定を保ち、相手(子ども)との一定の距離感が必要です。
親子など、子どもとの距離が近い関係では、カウンセリングはできません。身近な存在であればあるほど、カウンセリングをすることは避ける必要があります。
カウンセリングやセラピーが必要な場合には、専門家の助けを求めましょう。

子どもの心をケアするのと同時におとなの心のケアも

大規模な災害が起こった時の子どもの心のケアはとても大切です。保護者だからこそできるケアはたくさんあります。しかし、危機的な状況の中で、ストレスや不安を感じているのはおとなも同じです。子どものケアをすることに集中するあまり、おとな自身の心が悲鳴を上げている場合もあります。
自分一人で子どものケアをしようとせず、おとなも辛い時には「つらい」と声をあげて、周りの人に助けを求めましょう。
災害時には、自助と同じくらい、周りの人で助け合う、共助が大切です。


参考文献

災害時の子どもの心のケア:一番身近なおとなにしか出来ないこと|日本ユニセフ協会

子どものための心理的応急処置|公益財団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン

[特集]災害時の子どもの心を守る方法|国際NGOプラン・インターナショナル

日本子ども虐待防止学会「社会的養護における災害時『子どもの心のケア』手引き

この記事を書いた人

瀬尾 さちこ

防災士。住宅建築コーディネーター。整理収納コンサルタント。

愛知県東海市のコミュニティエフエム、メディアスエフエムにて防災特別番組「くらしと防災チャンネル(不定期)」、「ほっと一息おひるまメディアス(毎週水曜日12時〜)」を担当。
以前の担当番組:みんなで学ぶ地域防災(2021年~2021年)、防災豆知識(2019年~2021年)
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