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自分にあった防災を考える本「図解でわかる 14歳からの自然災害と防災」

増えた防災関連本

最近では、インターネットで「防災」「減災」などをキーワードに書籍を検索すると随分たくさんの本がヒットするようになりました。研究者の書いた専門書だけではなく、市民向け、子ども向け、子育て世代向けなど、多様な読者を意識した本がたくさんリストアップされます。文章だけではなくイラストや写真、図、グラフ、表などを使ってわかりやすく構成された本やマンガ本もあります。近い将来に発生すると言われている南海トラフ巨大地震や首都直下地震、最近想定が発表された千島海溝や日本海溝を震源とする北海道、東北の巨大地震、各地で続発する洪水、土砂災害が、防災への関心を高めているのは間違いありません。

「図解でわかる 14歳からの自然災害と防災」


実は、私たちも一冊の本を作りました。「私たち」と複数形を使っているのはチームで作り上げたからです。私は監修という立場で参加しましたが、実際は制作チームの1人として中高生のニーズを調べたり、資料を探したり、文章を書いたりしていたので、本作りの楽しさを随分と味わうことができました。
「図解でわかる 14歳からの自然災害と防災」(太田出版)というタイトルです。4章構成で各章に8項目のトピック(合計32項目)があります。これは、中高生を対象に、災害の何に興味を持っているのか、どこに不安があるのかをリサーチして、制作チームで話し合って絞り込んだものです。各項の最初に中高生の不安や疑問が質問形式で書かれており、その質問に対して600字程度の短い文章と図やイラスト、写真などを使って「答え」がわかりやすく示されています。ただし、この「答え」が唯一の正解とは限りません。時には自分で自分なりの納得解を探してもらえるような工夫が取り入れられています。

答えを押し付けず、読者に考えてもらう

たとえば、避難所のトイレ。最悪のイメージですが、近年ではマンホールトイレなど、災害時のトイレ環境をなんとか改善しようというとりくみが進んでいる事実を紹介しています。でも、避難所のトイレの快適さは、結局、避難所の運営方法や使用する人のマナーにかかっているのだから、そこからは自分たちで考えてほしいという投げかけで終わります。
たとえば、大雨が降ると避難情報が出される時があります。でも、人はなかなか逃げません。避難しない人のことがいつもニュースになります。では、全員が避難するとどうなるでしょう。避難所は人であふれかえります。コロナ禍の今、そういう避難所には行きたくないという人は多いでしょう。ではどうしたら良いのでしょうか。何より、自分の住んでいる場所が、避難が必要なほど危険なのかどうか、どうやって調べれば良いのでしょうか。そんな、次のアクションへのきっかけが書かれています。イタリアの快適な避難所も紹介されていて、日本の劣悪な避難所で我慢していて良いのだろうかと、疑問に感じる読者もいると思います。
このように、正解を押し付けるのではなく、その時の状況に合わせて自分で考えて最善策、次善、三善策を求める姿勢が大切であることを伝えています。
本には高校生たちが登場します。高校生が考える非常持ち出し袋は、販売されている定番の持ち出しグッズとはちょっと違います。非常食がカンパンではなくビスコだったり、小説や手話の本も入っていたりします。「避難先で小さな子どもがお腹を空かせていたら、カンパンじゃなくてもっと食べやすいお菓子を分けてあげたいから」だそうです。「避難所で自分の好きな小説を読んで落ち着きたい。」「手話はできないけれど、本を見ながら、必要な人の役にたちたい。」そんな思いが詰まった非常持ち出し袋です。袋自体も普段使いのカッコいいリュックです。もちろん、それが正解ではなく、自分オリジナルの持ち出し袋を考えましょう。

感想もユニーク

数人の知人から、面白い読後感をいただきました。
「不安を与える防災の本とは違って、安心感がありますね。地震の時、エレベーターが止まってしまい閉じ込められると不安になります。でも、この本では、止まっているということは正常に動いている証拠だと書かれていて、その一言で、最初の混乱が回避できます。」
「この本は痒い所に手が届く内容ですね。我が家のリビングに置いておこうと思います。子どもたちが自然に手に取って読んでくれたらと狙っています。」
「小学校4年生の担任をしています。学級文庫において置きます。14歳じゃなくても十分読めます。イラストを見るだけでも勉強になります。」

コラムの体験と自分を重ねて「我が事感」を持つ

コラムでは実際の被災体験が紹介されています。32項目全てを読み終えたら、絶対に安心だというわけではありません。コラムで紹介されている体験に自分を重ねてみて、自分ならどう対応するだろうと想像しましょう。いや、その前に、被害を減らすためにどう備えておくかを考えましょう。


この記事を書いた人

諏訪 清二

全国初の防災専門学科 兵庫県立舞子高校環境防災科の開設時より科長を務め、東日本大震災をはじめとする国内外の被災地でも生徒とともにボランティアや被災者との交流に従事。
防災教育の第一人者として文部科学省「東日本大震災を受けた防災教育・防災管理等に関する有識者会議」など、防災教育関連の委員を務める。

2017年4月から防災学習アドバイザー・コラボラレーターとして活動開始。
学校での防災学習の支援活動を中心に、防災学習、災害、ボランティア、語り継ぎなどのテーマで講演活動も。
中国四川省、ネパール、スリランカ、モンゴル、エルサルバドルをはじめ、海外各地でも防災教育のプロジェクトに関わってきた。

2017年度~ 神戸学院大学現代社会学部 非常勤講師 / 兵庫県立大学 特任教授(大学院減災復興政策研究科)
2018年度~ 関西国際大学セーフティマネジメント研究科 客員研究員
2020年度~ 大阪国際大学短期大学部 非常勤講師
2021年度~ 神戸女子大学 非常勤講師 / 桃山学院教育大学 非常勤講師

【著書】
図解でわかる 14歳からの自然災害と防災 (著者:社会応援ネットワーク 監修:諏訪清二)
防災教育のテッパン――本気で防災教育を始めよう
防災教育の不思議な力――子ども・学校・地域を変える
高校生、災害と向き合う――舞子高等学校環境防災科の10年
※こちらの書籍は、現在電子書籍での販売となります。

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