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広範囲に被害が及ぶ可能性がある、春の爆弾低気圧による嵐"メイストーム" 天気予報で「急速に発達する低気圧」を聞いたら注意と備えを!

「風による災害」といえば、竜巻やダウンバーストのような局地的な突風や、特に夏から秋にかけて上陸や接近・被害の増える台風を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。竜巻やダウンバーストや台風は、比較的限られた地域で被害が発生する傾向があります。

しかし、3月から5月にかけて発生する「メイストーム(5月の嵐)」と呼ばれる大風は、日本の広い範囲にわたって、大きな被害を出すことがあります。行楽・レジャーに出かける機会の増える春の季節に大きな災害をもたらす可能性のある、メイストーム。気象情報などでは「春の嵐」「急激に発達する低気圧」などと表現されて注意を呼びかけられることがあります。
春の季節だからこその風の災害。気象情報や警報・注意報に注目しながら、しっかりと安全対策をするようにしましょう。

爆弾低気圧が大荒れの天気を引き起こす

「爆弾低気圧」という言葉を、聞いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。爆弾低気圧は気象用語ではなく、天気予報などでは「急激に発達する低気圧」と伝えられます。温帯低気圧が急に爆発的に発達し、中心の気圧が1日(24時間)に約24hPa以上下降するもののことを言います。この、春に発生する爆弾低気圧が春の嵐、「メイストーム(5月の嵐)」です。

春の季節は、空の上では、日本付近に北から入り込んでくる冷たい空気と、南から流れ込んでくる暖かい空気が同居しています。この、冷たい空気と暖かな空気がぶつかり合うことで、温帯低気圧が急速に発達して、台風並みの低気圧になる、メイストームが発生します。
メイストームが発生すると、台風並みの暴風や猛吹雪、海岸では高波となることがあります。

台風と違って、気圧の中心から離れたところでも被害が出ることが

台風とメイストームの一番の違いは、広範囲で被害が発生しやすいことです。
台風は、巨大な空気の渦巻きになっていて、地上付近では進行方向に向かって右側では風が強くなり、左側では風速がいくぶんか小さくなったり、中心付近の「眼」と呼ばれるところは比較的風の弱い領域になるという風の吹き方をします。台風は移動していくため、風の強い範囲も動きます。

しかし、メイストームをもたらす爆弾低気圧(発達した温帯低気圧)は、低気圧の中心から離れたところでも、風が強く吹きます。広い範囲で強い風が吹くため、被害の範囲も広がりやすいのです。
「うちの地域はまだ大丈夫」と、油断することのできないのが、メイストームです。

メイストームは強い風だけでなく、雨をともなうこともあります。また、猛吹雪をもたらしたり、海岸沿いでは暴風によって高波が引き起こされ、短時間のうちに海が大荒れになることもあります。落雷や、雹(ひょう)が降ることもあります。こうした気象状況の発生は、どこかの地域に限られていたり、台風のように移動しながら順に発生していくわけではなく、同じようなタイミングで日本の広い範囲で発生し、あちこちで被害を出すこともあるのです。

「メイストーム」という言葉が最初に使われた災害

「メイストーム」という言葉は、日本でできた言葉。和製英語です。「May(5月の)」「Storm(嵐)」で「May Storm(メイストーム)」です。
爆弾低気圧による春の嵐に「メイストーム」と名付けられたのは、約70年前の1954年(昭和29年)。この年の、5月8日、午前9時、中国の東の方にある太平洋の縁海の一つ、黄海で発生した低気圧が9日の朝、日本海西部で急激に発達し、9日から10日にかけて、北海道から千島方面に進み、猛烈に発達しました。この時の低気圧の中心気圧は、9日の朝の時点では日本海西部で988hPa。24時間後の10日の朝には、千島の択捉島付近で952hPaにまで下がりました。24時間で36hPaも下がった、爆弾低気圧でした。低気圧は、時速70〜80kmという通常の約2倍の速さで進みました。低気圧にともなう風は、移動速度が速いものほど、強くなる傾向にあります。

この低気圧では、北海道南東の海域では9日の朝は風速毎秒5メートル前後、波の高さは1メートル以下であったものが、その12時間後には、風速毎秒20メートルから25メートル、波の高さは5~7メートルと急激に高くなり、避難するタイミングを失った出漁中のサケ・マス漁船群が大きな被害を受けました。東北や北海道で、漁船の沈没・流失などが248隻、亡くなった人や行方不明になった人は361人。日本海難史上最大級の惨事となりました。
この嵐は初めて、気象関係者の方に「メイストーム(5月の嵐)」と名付けられたのです。

近年のメイストームによる災害

近年にもメイストームによる災害は発生しています。
2019年5月。東海地方と関東地方がメイストームに襲われました。静岡県掛川市で土砂崩れが発生したほか、神奈川県藤沢市では足場が倒壊。群馬県では利根川が一時氾濫危険水位を超えたほか、羽田空港発着の国内線も欠航や遅延するなど、あちこちで被害や影響が出ました。

2012年4月にも、各地で記録的な暴風が観測され、転倒や屋根からの転落、風によって倒された木に直撃されて亡くなったり怪我をする人など、人的被害もたくさん出たほか、トラックなどが風に煽られて横転したり、住宅の破損や停電、交通機関の混乱など、様々な被害が発生しました。
この時の低気圧の中心気圧は、4月2日の午後9時には1006hPaだったところから翌日3日の午後9時には964hPaとなり、24時間で42hPaも下降し、台風並みに発達しました。また、低気圧からのびる寒冷前線が西日本から東日本を通過したため、前線の通過に伴って局地的に非常に激しい雨が降り、西日本から北日本の広い範囲で記録的な暴風となり、海では大しけとなりました。和歌山県和歌山市で風速32.2メートルが観測されたほか、新潟県佐渡市でも風速43.5メートル、高知県室戸市で30.6メートル、東京都でも28.2メートルが観測されるなど、暴風の目安となる風速20メートル(「非常に強い風」と表現される風の強さ。何かにつかまっていないと立っていられないくらいの風の強さで、看板が落下したり、屋根瓦などが飛散することがあります)を超えた観測地点は78地点にも達しました。

メイストームは、このように、広い範囲で記録的な暴風をもたらし、多くの被害をこれまでも出してきました。

メイストームによる大荒れの天気に備えるために

メイストームによる大荒れの天気が予想される時には、数日前から気象庁から気象情報が発表されます。気象情報は、警報・注意報に先立って、警戒を呼びかけたり、警報の発表中に現象の経過や予想、防災上の注意点などの解説を行なったりする情報です。ニュースや天気予報などで気象情報を見たり聞いたりしたら、早めに対策を取るようにしましょう。

数日前~1日前 

気象庁から「暴風に関する気象情報」が出されます。大雨や高波、落雷や突風などを含めた気象情報になることもあります。

半日~数時間前

災害の恐れがある強風となる6時間〜3時間前には、気象庁から「強風注意報」が出されます。
さらに重大な災害の恐れがある暴風となる6時間〜3時間前には「暴風警報」が出されます。

注意報・警報が発表される基準は、地域によって違いますが、気象庁のホームページ 警報・注意報発表基準一覧表からお住まいの地域の基準を確認することができます。

また、注意報・警報が出されてからも、状況に応じて「暴風に関する気象情報」が発表されて、刻一刻と変化する暴風の状況が発表されます。爆弾低気圧は、「急激に発達する低気圧」という言葉で伝えられることもあります。

「暴風に関する気象情報」や「強風注意報」「暴風警報」が発表されたら、その時点ではまだ風が強くないとしても、油断してはいけません。早めに強い風に対する対策をして、できるだけ屋内で過ごすようにしましょう。

学校や職場などにいるときには、強い風によって交通機関がストップして、帰宅できなくなる可能性もあります。学校や会社の指示に従って、早めに帰宅するなど、強風のピークを避けて行動するようにしましょう。職場などで決定権のある方は、できるだけ早めに、社員などの安全を確保できるご決断をお願いします。

また、登山やハイキング、釣りやマシンレジャー、川遊びやキャンプなどのレジャーも危険です。メイストームは強風ばかりでなく、猛吹雪や大雨、雷を伴う場合や、海では高波となることもあります。「暴風に関する気象情報」などが発表された場合には、無理をせずに、計画を変更しましょう。危険な行動を取らないこと、出かけないことも、メイストームに対する安全対策です。

建物や建物周りの強風への備えを

ご自宅などの建物の安全対策をしておくことも大切です。
台風時の対策と同じように、風が強まる前に、物干し竿や植木鉢など、家の周辺やベランダに置かれている倒れやすいものや飛ばされやすいものは家の中に入れたり、固定したりしておきましょう。庭に直接植えられている樹木なども、飛ばされたり倒れないように添木などで固定しておきましょう。

雨戸やシャッターのあるお宅では、ちゃんと閉まるか点検して補修・補強を日頃からしておくようにしましょう。風が強くなる前に、雨戸やシャッターを閉めるようにして、飛来物が窓を直撃して家の中に飛び込んでくることを防ぎましょう。

雨戸やシャッターのない窓は、窓に飛散防止フィルムを貼ることで、対策できます。(「防火地域」や「準防火地域」で採用しなければいけないことになっている“網入りガラス”は、一般的な飛散防止フィルムを貼ることができません。網入りガラスにも貼れるものか、購入時に確認するようにしましょう。網入りガラスは火災時にはガラスが割れて飛散しにくくなりますが、衝撃に対しては弱い窓です。対策が必要です。)強い風が吹いているときには、割れた窓ガラスなどが部屋の中に飛散することを防ぐために、カーテンを閉めておきましょう。

また、メイストームや台風など災害が心配な季節になる前に、点検や補修などをしておくことも大切です。
  • 屋根瓦やトタンがめくれたり壊れていないか
  • 雨どいに枯れ葉や砂がつまっていないか、外れている箇所がないか
  • 屋根の上に設置しているテレビアンテナは錆びたり緩んでいたりしないか
  • 窓にひび割れやガタつきがないか
  • プロパンガスのご家庭はしっかりと固定されているか
このようなことをポイントに、日頃から確認しておきましょう。

嵐が来る前に

3月から5月にかけては、メイストームが発生するリスクが高くなります。しかし、風による災害の可能性はどの季節にもあることです。
メイストームへの対策が、他の季節に発生する風の災害から、あなたやあなたの大切な人を守ってくれることにもつながります。
しっかりと対策をしておきましょう。


参考資料

「N H K気象・災害ハンドブック」N H K放送文化研究所編 N H K出版

「防災雲図鑑」荒木健太郎・津田紗矢佳著 文溪堂

政府広報オンライン 台風並みの暴風となる「春の嵐」「メイストーム」気象情報や警報・注意報に注意して安全対策を

気象庁予報課気象防災推進室 4月6日から7日にかけての暴風と高波

神戸市役所 台風並みの暴風となる「春の嵐」

防災歳時記(16)

ほっかいどうの防災教育ポータルサイト

気象庁 災害をもたらした気象事例

気象庁 台風に伴う風邪の特徴

この記事を書いた人

瀬尾 さちこ

防災士。住宅建築コーディネーター。整理収納コンサルタント。

愛知県東海市のコミュニティエフエム、メディアスエフエムにて防災特別番組「くらしと防災チャンネル(不定期)」、「ほっと一息おひるまメディアス(毎週水曜日12時〜)」を担当。
以前の担当番組:みんなで学ぶ地域防災(2021年~2021年)、防災豆知識(2019年~2021年)
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