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長田のまち歩きと震災学習

広場に立つ鉄人

神戸市長田区は阪神・淡路大震災の時、火災で大きな被害が出た地域です。あれから28年が経過してきれいになった町には今も時々修学旅行生がやって来ます。目玉は2009年に作られた鉄人28号の実物大18メートルのモニュメントでしょう。右手を突き上げた得意のポーズで若松公園の鉄人広場の真ん中にどかんと立っています。実は、実物大18メートルは嘘です。だって、鉄人28号はフィクション。実物なんて存在しないのですから。このあたりも笑いのネタにしてしまうのが関西人ですね。

現代とレトロと

もちろんそれ以外にも、長田区の元の場所から淡路島に移転・保存されている「神戸の壁」に関する展示や、レトロな小学校校舎を改修して市民の地域活動への参加や交流、学びを支援している「ふたば学舎」などもあります。南に下ればまだまだ昭和の匂いのする(それも末期ではなく中頃の)路地が残っています。木造モルタル住宅が軒を並べ、お地蔵さんがあったりして、ちょっとした時間旅行を楽しめます。新長田駅前の広場に立つと高層マンションが何棟も見えますが、そんな都会の風景とは違った趣が楽しめます。

足元を見て歩く

焼け落ちて復興された大正筋商店街の路面には神戸ゆかりの野球選手、サッカー選手、芸能人、著名人の手形やメッセージが埋め込まれていて、下を見ながら知っている人を探すのも楽しい散歩です。
商店街の店主の中には手持ち資料を準備して、震災の日のこと、その後の復旧、復興のプロセス、その中で繰り広げられた命の物語や助け合い、協働のとりくみを語ってくださる方もいます。もちろん辛く苦しい体験も。

忙しい修学旅行生

ここに修学旅行生がやってきます。でも、ゆっくりと滞在する時間はなかなか取れないようです。長田以外にも東にある人と防災未来センターや西にある須磨水族園や離宮公園を訪れる学校もあります。海なし県から来る子どもたちにとっては、明石海峡大橋を望める眺めは格別です。さらに大阪にはUSJがあります。長田でじっくりと散策する時間はそんなにはとれないのでしょうね。昔はここに民泊してじっくりと長田を楽しむコースもあったようですが、まだ残っているのでしょうか。
長田といえばお好み焼き屋さん。スジこん(すじ肉とこんにゃくを醤油ベースで甘辛く煮込んだもの)やそば飯(焼きそばと焼き飯の合体)が有名です。ただ、1時間程度の自由散策では買い食いの時間すら取れないのでしょうね。
短時間の散策で震災の何がわかるんだと訝る気持ちも少しはあるけれども、それでも修学旅行の目的地に選んでくれる学校があることを嬉しくも思います。もしかしたら、学校で事前学習や事後学習を行っていて、修学旅行の窮屈なスケジュールを何とかやりくりして長田に来てくれたのかも知れません。そう思うことにしましょう。

総合学習

ここからは、「総合学習」の醍醐味を紹介します。「総合学習」は「総合的な学習の時間」を短く呼称したものだと考えられがちですが、実はそうではないと私は考えています。「総合的な学習の時間」(高校では「総合的な探究の時間」)は、例えば国際理解や環境、健康・福祉などの様々な課題に対して探究的な見方・考え方を働かせて、横断的・総合的に学習するために設定された「時間」のことです。現在の学習指導要領では、小学校3年生から6年生が年間70単位時間、中学1年生が年間50単位時間、2・3年生が年間70単位時間です。高校の「総合的な探究の時間」の標準単位数は3~6と定められています。その時間の中で子どもたちは、「自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決していく」(※)のです。その学習の方法が「総合学習」と言われるものです。ですから、「総合学習」は「総合的な学習の時間」の中だけではなく、修学旅行のような特別活動や教科の時間にもできます。

※『今、求められる力を高める総合的な学習の時間の展開』(文部科学省、令和3年3月)

本物と出会わせる「総合学習」

防災学習には「本物との出会い」が必要です。子どもたちは現地に来てその風景や人々の姿、匂い、音、風から何かを感じ、体験者の話を聞いて「もし私なら」と追体験的に考えます。過去の災害に自分を置いて、現在の自分ならどうするだろうと考えているのです。出会いの中で疑問を抱き、課題を見つけて持ち帰り、それを理解しよう、解決しようという目的を持って調べ、考え、話し合い、まとめていきます。最終的には発表しますが、それはゴールではありません。自分たちの発表への先生や友だちからの評価、そして友だちの発表への評価やそこからの学びは、次の課題発見へとつながっていきます。「本物との出会い→課題設定→課題解決学習→発表→課題発見→課題設定→課題解決学習…」と無限に続いていくのです。
防災学習ではこんな学びのプロセスを体験します(するはずです。ぜひさせてください)。その中に長田のまち歩きがきちんと組み込まれているとしたら、うれしいですね。

この記事を書いた人

諏訪 清二

全国初の防災専門学科 兵庫県立舞子高校環境防災科の開設時より科長を務め、東日本大震災をはじめとする国内外の被災地でも生徒とともにボランティアや被災者との交流に従事。
防災教育の第一人者として文部科学省「東日本大震災を受けた防災教育・防災管理等に関する有識者会議」など、防災教育関連の委員を務める。

2017年4月から防災学習アドバイザー・コラボラレーターとして活動開始。
学校での防災学習の支援活動を中心に、防災学習、災害、ボランティア、語り継ぎなどのテーマで講演活動も。
中国四川省、ネパール、スリランカ、モンゴル、エルサルバドルをはじめ、海外各地でも防災教育のプロジェクトに関わってきた。

2017年度~ 神戸学院大学現代社会学部 非常勤講師 / 兵庫県立大学 特任教授(大学院減災復興政策研究科)
2018年度~ 関西国際大学セーフティマネジメント研究科 客員研究員
2020年度~ 大阪国際大学短期大学部 非常勤講師
2021年度~ 神戸女子大学 非常勤講師 / 桃山学院教育大学 非常勤講師

【著書】
図解でわかる 14歳からの自然災害と防災 (著者:社会応援ネットワーク 監修:諏訪清二)
防災教育のテッパン――本気で防災教育を始めよう
防災教育の不思議な力――子ども・学校・地域を変える
高校生、災害と向き合う――舞子高等学校環境防災科の10年
※こちらの書籍は、現在電子書籍での販売となります。

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