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ジェンダーと防災 ~避難所運営を考える~

避難所の「良好な生活環境」

最近、「ジェンダーと防災」というテーマでの授業依頼が続けてありました。サブテーマは「避難所」です。
日本の避難所は劣悪な環境にあります。東日本大震災を受けて災害対策基本法が改正され、内閣府(防災担当)が2013年(平成25年)8月に「避難所における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」を公表しました。「良好な生活環境の確保」と明記しているのは、現状が全く「良好」ではないと認識しているからでしょう。指針では、平常時から避難所の組織体制、応援体制を整備し、避難所(福祉避難所も含む)を指定して運営のための研修を行い、備蓄や要配慮者への支援体制を整え、災害発生時には、避難所をどのような方針で誰が運営するか、ボランティアとの連携などどのように応援するか、食物アレルギーや宗教への配慮を行うなど、細かな項目が決められています。
阪神・淡路大震災(1995)当時はこのような詳細な指針のない中、手探りで臨機応変の(つまり、場当たり的でもあった)避難所運営で頑張ってきましたが、東日本大震災(2011)でも同じような状況が再現されました。それではだめだと国が認めた形ですが、その後の熊本地震(2016)では災害関連死が直接死を大きく上回り(※1)、災害後の支援の必要性が改めてクローズアップされました。「人がどれだけ人間らしい生活や自分らしい生活を送ることができているか」が問われているのです。
2016年(平成28年)4月には「避難所運営ガイドライン」、「福祉避難所の確保・運営ガイドライン」、「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」が作成されていますが、ここでは要配慮者や女性への視点が多く盛り込まれています。
こういった動きを背景にして、ジェンダー平等の意識を持った防災とは何か、避難所運営はどうあるべきかを学ぼうという視点が生まれてきたのでしょう。

避難所で支援者となる子どもたち

学校で行われる防災教育で避難所を取り上げると、どちらかというと子どもたちがどんな支援をできるかという視点で授業が展開されることが多いようです。熊本地震では、避難所で子どもたちがお年寄りと話をして、その内容を新聞に仕上げて配布する活動がありました。話し相手があまりいないお年寄りは子どもたちとの会話を楽しみにし、新聞を喜んで読んでくれます。そんな実践を見ていると、支援される側ととらえられがちな子どもたちが支援する側に回るというのはとてもいいとりくみだと思います。ただ、行政側が劣悪な環境を放置したうえで支援者の努力を求めるだけではだめですね。

地域リーダーのジェンダー意識

避難所運営を期待される地域のリーダーは、自治会や自主防災組織の役員をそのまま横滑りさせると、ほぼ間違いなく、年配の男性になるでしょう。彼らは学校でジェンダー平等教育を受けたわけでもなく、どちらかと言えば男尊女卑の雰囲気が残っている社会で育てられた人たちが多いと思います。一人ひとりがジェンダー平等を強く意識しているとは思いにくく、社会情勢に敏感な方がその意識を持っているとしても少数派でしょう。トイレは男女別のスペースを確保とか、洗濯物を干す場所で女性への配慮とか、乳児の授乳場所とか、そういったところまで気が回らない男性も多いでしょう。
私は一度こんな経験をしました。ある地域の防災訓練で物資の搬送と炊き出しを行いました。地域の年配の方々を中心に男女がほぼ同じ人数集まっておられました。私は高校生の男女と一緒に参加しました。到着後最初に受けた指示が、女子は炊き出し、男子は荷物運び、でした。男は力仕事、女は台所の発想ですね。そこで一計を案じて、高校生を男女同数の2グループに分け、男女で荷物運び、男女で炊き出しに参加してもらったのです。そうすると、荷物運び担当の年配の男性が俄然張り切りだして、女子高校生に荷物運びのコツをレクチャーし始めました。一方、炊き出しの男子生徒は女性陣に囲まれて、料理を手取り足取り教えてもらっていました。こんな雰囲気が実際の避難所にあれば、少しは気持ちが和んでいいだろうなと感じました。

ジェンダー平等とLGBTQ+

さて、防災教育で我慢を押し付けるのは止めましょう。それよりも、ジェンダー視点で避難所はどうあるべきかを子どもたちに話し合わせましょう。もちろん、あわせてジェンダー平等とは何かを一緒に考えさせる授業も必要ですね。もし学校でジェンダー平等を、例えば総合的な学習の時間のテーマに取り上げているのなら、そのうち1~2時間を避難所との関連で話し合う機会にするとよいでしょう。もちろん、単発の授業でも大丈夫です。
着替え場所、就寝スペース、衣料(特に若い女性の下着)の配布場所、衛生用品の配布場所、掃除や料理の役割分担、乳幼児とお母さんのためのスペース、等々、いろんな課題で面白い発想が生まれてくるはずです。
最後にもう一つだけ指摘しておきます。たとえジェンダー意識を強く持って男女に平等な避難所運営を心掛けても、LGBTQ+(※2)の人々への支援の在り方が残ります。一人ひとりに配慮した避難所運営なら、自己責任ではなく、行政として、運営側としてどう配慮するか、ここもしっかりと考えたいですね。今、学校では、例えば制服は女子がスカートだけではなくパンツも選択でき、男子がズボンだけではなくスカートを選択できる学校も増えてきました。そんな時代に、避難所だけがあらゆる我慢を押し付ける場所のままでいいはずがありません。


※1 平成28年熊本地震等に係る被害状況
警察が検視により確認している死者数 50人
市町村において災害弔慰金の支給等に関する法律に基づき災害が原因で死亡したものと認められたもの 215人
6月19日から6月25日に発生した豪雨による被害のうち熊本地震との関連が認められた 死者数 5人
合計死者数 270人
資料:熊本県「平成28年熊本地震等に係る被害状況について【第288報】」平成31年3月13日16時30分発表

※2 明石市のホームページより
L Lesbian レズビアン 女性が好きな女性。女性同性愛者。
G Gay ゲイ 男性が好きな男性。男性同性愛者。
B Bisexual
バイセクシュアル
男性も女性も好きになる人、または好きになるのに性別を問わない人。
T Transgender
トランスジェンダー
生まれたときに割り当てられた性別と性自認が異なっている人。性自認が男性、女性に二分できないXジェンダーも含む。
Q Questioning/Queer
クエスチョニング/クィア
・クエスチョニング:自分の性のあり方について「わからない」「迷っている」「決めたくない」など。
・クィア:性的マイノリティを包括する言葉。元々は「変わった、奇妙な」という意味で同性愛者を侮蔑する言葉だったものが、当事者が前向きな意味で使いだした経緯がある。
+ プラス 最後に「+」がついているのは、性はとても多様であり、上記以外にもたくさんの性のあり方があることから、包括的な意味を持たせるため。

この記事を書いた人

諏訪 清二

全国初の防災専門学科 兵庫県立舞子高校環境防災科の開設時より科長を務め、東日本大震災をはじめとする国内外の被災地でも生徒とともにボランティアや被災者との交流に従事。
防災教育の第一人者として文部科学省「東日本大震災を受けた防災教育・防災管理等に関する有識者会議」など、防災教育関連の委員を務める。

2017年4月から防災学習アドバイザー・コラボラレーターとして活動開始。
学校での防災学習の支援活動を中心に、防災学習、災害、ボランティア、語り継ぎなどのテーマで講演活動も。
中国四川省、ネパール、スリランカ、モンゴル、エルサルバドルをはじめ、海外各地でも防災教育のプロジェクトに関わってきた。

2017年度~ 神戸学院大学現代社会学部 非常勤講師 / 兵庫県立大学 特任教授(大学院減災復興政策研究科)
2018年度~ 関西国際大学セーフティマネジメント研究科 客員研究員
2020年度~ 大阪国際大学短期大学部 非常勤講師
2021年度~ 神戸女子大学 非常勤講師 / 桃山学院教育大学 非常勤講師

【著書】
図解でわかる 14歳からの自然災害と防災 (著者:社会応援ネットワーク 監修:諏訪清二)
防災教育のテッパン――本気で防災教育を始めよう
防災教育の不思議な力――子ども・学校・地域を変える
高校生、災害と向き合う――舞子高等学校環境防災科の10年
※こちらの書籍は、現在電子書籍での販売となります。

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