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ハザードマップでは把握しきれないことを、街歩きから。「マイ防災マップ」

内閣府などによる被害想定をもとに、地方自治体が作成するハザードマップには、「洪水ハザードマップ」と「地震ハザードマップ」の2種類(地域によっては両方の情報が1つのハザードマップにまとめられている場合も)があります。
どちらのハザードマップにも、指定避難所(避難場所)の位置や避難に関する情報、災害に関しての学習情報などが記載されているほか、洪水ハザードマップには浸水想定区域や浸水深、河川の氾濫特性、土砂災害警戒区域などの危険か所などの情報が記載されており、地震ハザードマップには津波や液状化現象などによって浸水が想定される地域などが記載されています。

日頃からハザードマップを確認していただくことで、もしも災害が発生した時には、ご自宅や職場などはどの様な状態になるのか、どこに避難したらいいのか、どんな経路で避難するのがより安全なのか、などをイメージする手がかりになります。

ただ、そうしたハザードマップでも、災害時に危険が及ぶ可能性のある、すべてのことを反映できているわけではありません。例えば、自宅から避難所に行くまでに、徒歩でどれくらいの時間がかかるのかも、ハザードマップからは読み取れませんし、避難所に行くまでの道のりの浸水や土砂崩れなどのいくつかの項目以外の危険か所や、避難時に助けになってくれるような場所は、ハザードマップからはわかりません。
そうした課題をクリアして、災害が発生した時にはより安全に、的確な判断と正しい行動ができるように、手作りハザードマップ「マイ防災マップ」を作ることを、国土交通省や自治体などが提案しています。

マイ防災マップは、本来なら、町内会などの自治会の皆さんで一緒に作成するのが好ましいとされていますが、自治会の皆さんで集まることも難しいとされている昨今、まずはご家族で作成してみていただけるといいのではないでしょうか。

マイ防災マップの作り方

マイ防災マップも、「洪水用」と「地震用」をそれぞれに作ります。どちらも、自治体が作成したハザードマップをベースに、街歩きをしながら作成していきます。

街歩きを始める前に、まずはハザードマップで自宅と、避難所や避難場所を確認して、チェックを入れましょう。お手元にハザードマップがない場合には、インターネットで「重ねるハザードマップ」を検索して地域のハザードマップをプリントアウトしたり、地域によっては自治体のホームページなどからもプリントアウトできるハザードマップが掲載されています。ハザードマップでは小さすぎてご自宅から避難所(避難場所)までの道のりの途中に書き込みしにくい場合には、ご自宅から避難所(避難場所)までのエリアを拡大コピーして使いましょう。

ベースとなるハザードマップに、自宅と避難所(避難場所)を確認して印をつけたら、マップとともに筆記用具とクリップボードを持参して街歩きに出かけましょう。街歩きをしながらマップに直接書き込んでいくのが難しそうな場合には、大きめの付箋を持参して、付箋にメモしていくのが便利です。自宅から避難所(避難場所)まで移動するのに必要な時間の目安を知るために、時計も忘れずに持っていきましょう。

洪水マイ防災マップを作成するためにチェックすること

自宅から避難所(避難場所)までの避難経路を決めるときには、まずはハザードマップで土砂災害危険区域に指定されていたり、河川の近くや浸水が予想されるエリアを通らないか確認しましょう。
できれば避難経路は一つではなく、複数考えておくと、実際に避難が必要になった時にも、少し落ち着いて、臨機応変に対応しやすくなるはずです。
なるべく安全なルートを複数選んだら、経験した水害などを思い出したり、洪水が起こったことをイメージしながら、それぞれのルートを歩いて、気づいたことをマップや付箋に書き込んでいきます。

チェックするポイントは、「道路が浸水した場合などに、危険な場所」と「避難途中に一時的に避難できそうな場所。支援が受けられそうな場所」です。「危険」と「安全」の、2つの視点で街を見てみましょう。

「道路が浸水した場合などに危険な場所」というのは、例えば歩道と車道の区切りの縁石。浸水している時には、足元が見えなくなり、つまずく危険性があります。
蓋のない側溝や水路などで、ガードレールが設置されていない場所も、浸水時には転落の危険性があります。マンホールなども、内水氾濫が起こっている時には、水圧で蓋が浮き上がり、転落する可能性があります。
周囲から低くなっている道路には、水がたまり、浸水深が急に深くなることも考えられます。
街灯がなく、夜間には真っ暗になるような場所も、危険な場所です。
山の近くなどにお住いの方は、山から水が流れ込んでくる場所や、岩や石が落ちて来やすい場所も、注意が必要な場所の一つです。

「避難途中に一時的に避難できそうな場所。支援が受けられそうな場所」というのは、2階建以上のビルやマンションなどです。こうした、高い建物は、避難途中に道路が冠水するなどして危険な状態になった時に、逃げ込む事ができます。
ショッピングセンターやコンビニ、ガソリンスタンドなど、トイレが借りられそうな場所も、チェックしておきましょう。
自販機の場所もチェックしておけば、給水ポイントとなることはもちろん、「あとどれくらい歩けば避難所(避難場所)に到着できるのか」という目安にもできます。

地震マイ防災マップを作成するためにチェックすること

地震マイ防災マップを作成するときにも、洪水マイ防災マップを作成するときと同じように、複数の避難ルートを考えて歩いてみましょう。

チェックするポイントは、やはり「避難するときに危険な場所」と「安全な場所や、避難途中に役立ちそうな場所・もの」です。

もしも大きな地震が起こったら、街はどうなるのかを、イメージしながら歩きましょう。阪神・淡路大震災や東日本大震災など、過去に発生した大きな地震での被害などを事前に勉強してから街を歩いてみることで、災害時の街をイメージしやすくなるかも知れません。
また、南海トラフ地震や首都直下地震が発生した時には、「緊急交通路」として緊急車両以外の通行ができなくなる道路もあります。警視庁のホームページ(南海トラフ地震発生時の交通規制計画首都直下型地震発生時の交通規制計画)に一覧になっています。多くは高速道路や自動車専用道路ですが、一部、一般国道なども指定されているので、事前に確認しておきましょう。

大きな地震が発生した時に、「避難するときに危険な場所」というのは、例えば、大きな揺れで倒壊しそうな老朽化した家屋がある場所や、ブロック塀、電柱も場合によっては倒壊して危険が及ぶ可能性があります。大きな看板やガラス面積の大きな建物なども、注意が必要です。
狭い道路も、近隣で火災などが発生した時には、逃げ場を失います。
古いため池なども、大きな揺れで堤防本体にヒビが入り、貯められている水が流れ出したり、堤防が崩壊して土砂が流れ出したり、周辺の道路に大きなクラックが入る危険性があります。
避難経路に山などの斜面がある場合には、擁壁にクラックが入っていたり、ふくれたりしていないか、水が変なところから流れ出していないかも、チェックしておきましょう。こうした擁壁は、大きな地震が発生した際には、崩れてくる危険性があります。
その他にも、「危険かも知れない」と感じるところは、チェックしておきましょう。

「安全な場所や、避難途中に役立ちそうな場所・もの」は、例えばコンビニエンストアです。コンビニの多くは、「災害時帰宅困難者支援」の協定を自治体などと結んでいて、トイレを借りたりできるほか、避難時に必要な情報の提供なども受けられます。
公衆電話の場所なども、チェックしておきましょう。特に、災害対応の公衆電話は、コインがなくても使うことができます。
自動販売機も、災害時には飲み物を無料で開放してくれるものがあります。
消防団や防災倉庫なども、緊急時に命を守るための助けになってくれるはずです。
災害時に断水した際、水を配る「災害時給水ステーション」も、マイ防災マップに書き込んでおきましょう。


自宅や職場から避難所(避難場所)まで、災害時のことを想像しながら歩いてみると、危険な場所や、緊急時に役立ちそうな場所など、きっと多くのことに気づくはずです。
できれば、平日と休日、朝・昼・夜など、時間や曜日を変えて、何度か歩いてみましょう。
大人だけでなく、お子さんと一緒に歩いてみることで、さらに多くのことに気づくことができるかも知れません。
平常にでも、避難所(避難場所)にたどり着けるまでにどれくらいの時間がかかるのかを把握しておくことも、災害時にはどのタイミングで避難行動を始めるべきか判断する材料になります。


<参考資料>

国土交通省近畿地方整備局 マイ防災マップ・マイ防災プラン作成の手引き

愛知県土砂災害情報マップ マイ・ハザードマップを作ってみましょう

防災リテラシー研究所 自分で作る防災マップ

地盤工学会 ため池の被災事例から見た減災機能と維持管理

東京水道局 くらしと水道

この記事を書いた人

瀬尾 さちこ

防災士。住宅建築コーディネーター。整理収納コンサルタント。

愛知県東海市のコミュニティエフエム、メディアスエフエムにて防災特別番組「くらしと防災チャンネル(不定期)」、「ほっと一息おひるまメディアス(毎週水曜日12時〜)」を担当。
以前の担当番組:みんなで学ぶ地域防災(2021年~2021年)、防災豆知識(2019年~2021年)
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