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SDGsと防災教育② 〜 災害時の食

地球的規模で考え、地域で活動する

1月の記事で、「次回からはSDGsと防災教育について書く」と予告しておきながら、2月は自著の紹介を書いてしまいました。3月からしばらくは、お約束通りSDGsを念頭に置いた防災教育の展開事例を紹介していきます。
SDGsはグローバルな課題です。Globalは「地球の」という形容詞で、その名詞はGlobeです。この表現に私は、国境といった面倒くさい線が引かれていない、往来自由のイメージを感じます。自然はまさにグローバルです。台風がいくつかの国を通過するとき、いちいちパスポートやビザを提示したりしません。温暖化したり寒冷化したり、大気汚染や海洋汚染が空気や水の流れによって広がったりするのは国ごとではなく、国を越えたもっと広い地域ごとです。自然は、人間が恣意的に決めた国境とは無縁に自らの営みを続けています(もちろん、山脈や河川、湖沼が国境となって、その両側では気候が全く違ってくる場合もありますが)。
SDGsの17の目標には国境はありません。もちろん、先進国と開発途上国の間の格差が途上国にひずみを押し付けているとか、先進国内にも格差が存在しているとか、いろいろと課題はあります。でも、自然の営みには社会的な意味の国境は無関係です。防災は、ちょっと昔流行った表現を使うと”Think globally, act locally”な課題です。防災教育にも、地球的規模の視点と地域での活動が必要です。

災害時の食

今回は、災害時の食の問題を取り上げます。
日本では、大規模な災害が発生すると、未災地から救援の食料が届きます。最近では行政の備蓄も進んではいますが、南海トラフ巨大地震や首都直下地震のような国難ともいえる大災害では、おそらく、被災者全員に行き届くだけの量の確保を事前に備蓄しておくのは困難でしょう。災害の規模が大きくなればなるほど、避難所での食料は不足します。災害発生直後は個人の備蓄に頼るしかありません。ローリングストックなどの個人備蓄が必要です。また、地方の農村地帯や農村に囲まれた中規模、小規模の町なら被災時の食料の自給がかなり期待できますが、大都市ではおそらく無理でしょう。たとえ近郊に農村地帯があったとしても、そこでは換金作物がメインに栽培されているので、コメのような腹持ちの良い食糧ではなく、切り花や珍しい野菜しか手に入らないかもしれないからです。
開発途上国での災害発生を想像してみましょう。そこではすでに食糧問題が存在しているかもしれません。つまり、慢性的な貧困と飢えに災害が追い打ちをかけるのです。海外からの支援が届くまでには時間がかかります。食べるものがない状態がしばらくの間続くのです。
SDGsの”Zero Poverty”(飢餓をなくそう)によると、「約6億9千万人(世界人口の8.9%)が飢えて」おり、世界食糧計画(World Food Programme)によると「人為的な紛争や気候変動、経済悪化により1億3千5百万人が急性的な飢餓に苦しんで」いて、さらに、「2億5千万人が潜在的な飢えの瀬戸際に」います。この発表の後も、ウクライナでの戦争勃発などで多くの難民が生まれています。
もし、そんな地域に大規模な災害が発生したらどうなるでしょうか。
ここまで考えただけでも”Zero Hunger”(飢餓をなくそう)、”Good Health and Well-Being”(健康と福祉)、”Clean Water and Sanitation”(きれいな水と衛生), “Sustainable Cities and Communities”(持続可能な都市と地域)、“Life on Land”(陸上の命)などが災害と防災に直接かかわっているのがわかります。それ以外のゴールも見方によっては、災害と無縁ではありません。

授業でどう展開?

ここまで考えてきた災害と食の問題を1コマの授業に落とし込んでみましょう。

【導入】
 こどもたちに、災害への備え、特に食料をどれだけストックしているかを聞いてみましょう。災害といっても、地震、津波、洪水、土砂災害など様々です。災害時には避難しなければならないこどももいるし、家で過ごせるこどももいます。家でのローリングストックなのか、非常持ち出し袋に入れているのか、状況によって変わってきます。
 もし、準備していないこどもたちがいたら(まだまだ多いと思います)、災害時に誰がどんな食料を提供してくれるかを考えさせてください。行政によるカンパンなどの非常食、ボランティアによる炊き出しなどが考えられます。ただし、これらの支援はすぐに到着するわけではなく、場合によっては1日後になるかもしれません。栄養にも偏りがあり、高齢者や乳幼児、ビーガン(完全な菜食主義者)、宗教上の理由で食べられない食品がある人たちには食べられない時もあります。

【展開】
 では、どうすればいいかを話し合わせるのですが、結論は明白です。「自分で備えておくしかない」ですね。これでは、知っている知識の上書きで終わってしまいます。そこで、視点を変えましょう。大都会と農村では、災害に対するしなやかさ(resilience)が違うことを発見させましょう。便利な都会に住むほど、実は災害時には脆弱だと気づけば、もしかしたら備えの意識も高くなるかもしれません。日本の農業が日常的に持つ課題にも気づかせたいですね。
次に、もし災害が普段から貧困に直面している開発途上国で発生したらどうなるかを考えさせてください。一人でできるだけたくさんの考えを書き出させたあと、グループでの話し合いを通してそれを整理させると、面白い意見が出てくるかもしれません。防災教育の醍醐味の一つは、対話的な学びです。そこで、開発途上国の災害時の食支援が、緊急支援だけに頼るのではなく、その国で日常的に豊かな農業が展開されていることのほうが大切だと気づかせてあげてください。普段の不合理が災害時には顕著に表れるのです。

【まとめ】
先生からの、こうしましょう、ああいましょうというまとめは不要です。ただ、こどもたちが社会の在り方に疑問を持って、何らかのアクションを起こさなければと思ってくれれば良いのです。日本の教育は正解を求めたがります。そうではなく、疑問を疑問のままこどもたちに持たせる教育が大切なのです。

この記事を書いた人

諏訪 清二

全国初の防災専門学科 兵庫県立舞子高校環境防災科の開設時より科長を務め、東日本大震災をはじめとする国内外の被災地でも生徒とともにボランティアや被災者との交流に従事。
防災教育の第一人者として文部科学省「東日本大震災を受けた防災教育・防災管理等に関する有識者会議」など、防災教育関連の委員を務める。

2017年4月から防災学習アドバイザー・コラボラレーターとして活動開始。
学校での防災学習の支援活動を中心に、防災学習、災害、ボランティア、語り継ぎなどのテーマで講演活動も。
中国四川省、ネパール、スリランカ、モンゴル、エルサルバドルをはじめ、海外各地でも防災教育のプロジェクトに関わってきた。

2017年度~ 神戸学院大学現代社会学部 非常勤講師 / 兵庫県立大学 特任教授(大学院減災復興政策研究科)
2018年度~ 関西国際大学セーフティマネジメント研究科 客員研究員
2020年度~ 大阪国際大学短期大学部 非常勤講師
2021年度~ 神戸女子大学 非常勤講師 / 桃山学院教育大学 非常勤講師

【著書】
図解でわかる 14歳からの自然災害と防災 (著者:社会応援ネットワーク 監修:諏訪清二)
防災教育のテッパン――本気で防災教育を始めよう
防災教育の不思議な力――子ども・学校・地域を変える
高校生、災害と向き合う――舞子高等学校環境防災科の10年
※こちらの書籍は、現在電子書籍での販売となります。

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