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学んで教える防災教育

「個別最適化」されたアクティブな防災の学び

日本の学校では、教えるのは教師でありこどもたちは学ぶ側であるという主従関係が長く続いてきましたが、教育のスタイルは時勢とともに変化を受け入れてもきました。
学習者同士が協力して学びあうピア・ラーニング(peer learning:仲間との学習)や学習者が受け身になって先生の話を聞くだけではなく能動的に学ぶアクティブ・ラーニング(active learning:活動的な学習)といった学習方法が教育に取り入れられています。これからは一人1台の学習用端末を活用したGIGAスクール構想(Global and Innovation Gateway for All:すべてのこどもたちのための世界とつながる革新的な扉)が進められていきます。
新しい学習指導要領では「個別最適化された学び」という表現が使われるようになりました。「個別」とはいっても一人ひとりが学習用端末を使って孤立して学ぶスタイルになってしまってはダメです。「個別最適化」とは、こどもたちが自分の興味・関心や学習の意欲、到達度などに合わせて情報を収集し、考え、理解を深めていく学びのスタイルと捉えたら良いでしょう。そして、一人ひとりの学びは、仲間(peer)と切り離されているのではなく、集団での活動的な(active)学びの中でより深められていくのです。

指導者によってうまくデザインされた集団での防災の学びは、仲間、集団での活動的な学びです。こどもたちは課題と直面し、情報を集め、考え、相談し、答えを見つけ、その答えに納得して行動します。時には答えに納得できなくても、行動しなければならない場合もあります。
例えば、「避難所に500人が身を寄せています。おにぎりが200個届けられました。配りますか?配りませんか?」というクロスロード的な問いに対して、こどもたちはいろいろな答えを出しあって考えます。グループで一つの解決策をまとめたときは、その方法に納得しているこどももいるし、まだ少し納得できないこどももいます。それでも、実際の場面ではみんなで決めた結論を実行に移すはずです。

学ぶ側が教える側に

優れた防災教育は、学習活動を受動的活動から教えあい、学びあう能動的活動へと変えていく力を持っていますが、もう一つ、学校教育に面白い変化を持ち込んでいます。こどもたちが、学ぶ側から教える側にシフトしているのです。

大学生が小学生に防災を教えるケースが増えてきました。大学の場合はゼミでの活動が主流です。その研究室の研究課題が続く限り、大学生とこどもたちとの防災教育は続きます。1回きりの外部講師ではなく継続性が担保されるというメリットがあります。こどもたちにとっては、いつもと違った非日常的で楽しい授業になるでしょう。

東日本大震災から10年が過ぎ、被災地の小学生は震災の記憶を持っていません。中学生の多くも記憶していないでしょう。そこで、岩手県のある高校の生徒たちが、自分の幼い時の体験をもとに絵本を作り、こどもたちに読み聞かせをする活動を始めました。こどもたちからみれば、高校生が小学校低学年だった頃の体験を聞けます。
災害を「自分ごと」として捉えることが大切だとよく言われますが、その一つの方法が、過去の災害でのこどもたちの体験を、現在の同世代のこどもたちに伝えることだと私は考えています。こどもたちは、過去の災害に現在の自分を重ねて考えます。被災体験を聞いたこどもたちが書く作文にはいつも「もし私だったら…」という表現が使われます。見事に「自分ごと」にしています。

高校生が特別支援学校を訪れ、こどもたちと一緒に防災を学ぶ活動をしています。と言っても、高度な防災を教えているわけではありません。災害は怖いけれど、きちんと備えて正しく対応すれば怖くないという基本を、活動を通して教えています。
特別支援学校ではこどもたちの防災の学びだけではなく、防災体制の確立も重要です。近年、防災教育と防災管理に力を注ぐ先生方が増えてきました。卵の殻を破ってひなが飛び出してくる寸前のような気がします。爆発的に広がってほしいですね。
また、多くの高校生たちが、普段、障害児・者と一緒に過ごす機会はほとんどありません。特別支援学校を訪れて一緒に防災を学びながら、障害を持つ人と接する経験をします。そういった関わり合いが、災害時にも障害児・者への正しい理解と適切な支援につながっていくのです。

阪神・淡路大震災から26年が過ぎました。高校生は学習を通して震災を知ります。淡路島のある高校では、生徒たちが授業で震災を学び、震災記念館を訪れて学び、学んだ内容をシナリオにして、自分たちが震災記念館で語り部としてこどもたちに伝えるとりくみをしています。
「語り継ぎ」は体験者しかできないと思われがちですが、私はそうではないと考えています。「語り継ぎ」は一つの言葉ではなく「語り」と「継ぎ」から成り立っています。被災者の「語り」を聞いて、他の人に「継ぐ」活動をすればいいのです。

中学生が防災フェアを開き、地域の小学生、幼稚園児を招いている実践もあります。中学生はブースに立って、自分たちが調べ、学んだ防災を説明します。インプットした知識をアウトプットすることで理解が深まり定着します。こどもたちは、近い年齢の中学生から防災を楽しく学びます。
防災は難しい顔をした人が真剣に教えるものだという固定概念を取り払って、時には楽しく学ぶのも大切です。

この記事を書いた人

諏訪 清二

全国初の防災専門学科 兵庫県立舞子高校環境防災科の開設時より科長を務め、東日本大震災をはじめとする国内外の被災地でも生徒とともにボランティアや被災者との交流に従事。
防災教育の第一人者として文部科学省「東日本大震災を受けた防災教育・防災管理等に関する有識者会議」など、防災教育関連の委員を務める。

2017年4月から防災学習アドバイザー・コラボラレーターとして活動開始。
学校での防災学習の支援活動を中心に、防災学習、災害、ボランティア、語り継ぎなどのテーマで講演活動も。
中国四川省、ネパール、スリランカ、モンゴル、エルサルバドルをはじめ、海外各地でも防災教育のプロジェクトに関わってきた。

2017年度~ 神戸学院大学現代社会学部 非常勤講師 / 兵庫県立大学 特任教授(大学院減災復興政策研究科)
2018年度~ 関西国際大学セーフティマネジメント研究科 客員研究員
2020年度~ 大阪国際大学短期大学部 非常勤講師
2021年度~ 神戸女子大学 非常勤講師 / 桃山学院教育大学 非常勤講師

【著書】
防災教育のテッパン――本気で防災教育を始めよう
防災教育の不思議な力――子ども・学校・地域を変える
高校生、災害と向き合う――舞子高等学校環境防災科の10年
※こちらの書籍は、現在電子書籍での販売となります。

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