日本赤十字社はコロナウイルスの3つの顔を指摘しています。
※1 「病気そのもの」「不安と恐れ」「嫌悪・偏見・差別」です。
まず、人々は「病気そのもの」を恐れます。未知なウイルスでわからないことが多いため不安が生まれるのです。対策としては、手洗い、咳エチケット、人混みを避ける、などが考えられるようです。いわゆる「3密」
※2 を避けるわけですね。
さて、学校教育は、このような手立てを的確に行えます。手洗いや咳エチケット、人混みを避ける指導は、学校にとっては日常の教育活動の範囲内のことです。
「不安と恐れ」はこどもたちの心に大きな不安を生みます。日赤によると、人間の生き延びようとする本能が、ウイルス感染にかかわる人を遠ざけるのだそうです。そんな気持ちがわいてきたときに、その気持ちに気づいて、自分を見つめ、今の状況を整理して自分の気持ちや考え方、ふるまいを色々な角度から観察してみることが大切だと言います。
日赤は指摘しています。人は時としてウイルスに関する悪い情報ばかりに目が向き、何かと感染症に結びつけてしまうのです。趣味の時間や親しい人との交流が減って、生活習慣が乱れてしまいます。
こどもたちはいま、まさにこの状態に放り込まれています。そんな時に、自分をみつめ、他の人の考えを聴く力を高め、普段と変わらず続けられることを探すのが大切だと日赤はアドバイスしています。自分にできないことではなく、今自分ができていることを認める姿勢が大切なのです。
学校は、ウイルスに対する正しい科学的な教育を行うことができます。親しい友だちや先生との交流の時間もたっぷりあります。生活習慣の乱れを防ぐことができます。学校にいるからこそ「不安と恐れ」と対峙できるのです。
「嫌悪・偏見・差別」は人権教育の課題です。
感染者は、差別を受けるのが怖くて熱や咳があっても受診をためらい、結果として病気の拡散を招くことがあると日赤は言います。私は、感染者の隔離宿泊施設となったホテルに投石があったとも聞きました。そんな行為を人として最低だと責めるのは簡単です。ただ、そういった行為は、その行為を行う人の不安が背景にあるのではないでしょうか。日赤は、不安をあおるのではなく、確かな情報を広めて、差別的な言動に同調しないことが大切だと説いています。すべての人にねぎらいと敬意を表そうと呼びかけています。
学校で行っている「人権教育」に似ていると思いませんか。強制的な道徳教育で、これをやってはダメだ、これは人の道に反すると指摘するだけではなく、こどもたちの不安に寄り添い、やわらげる教育が大切です。
災害への教育、つまり防災教育のミニマム・エッセンシャルズは「ハザードの理解」「備え」「対応」だと、私は考えています。新型コロナウイルスに対する教育も、防災教育と同じではないでしょうか。
こどもたちだけではありません。専門学校生も大学生も困っています。職業高校の生徒たちもです。彼らに共通する「資格」の取得ができないのです。職業高校の生徒たちが専門科目の資格を取れません。それは就職や進学に直結しています。専門学校の生徒が実習や資格取得ができず、モチベーションが上がってこないそうです。教職を履修する大学生が、教育実習に行けない事態も発生しています。教育実習は概ね3年生の後半から4年生に行われます。例えば、特別支援学校と小学校の2つの免許取得を目指している学生は、どちらかをあきらめなければならないかもしれないそうです。そういった課題は、実はあまり議論されていないのではないでしょうか。ぜひ、支援策を考えて欲しいと思います。
最後に少しだけ、知人から聞いたほっとする言葉を紹介しておきたいと思います。
「休校中に設定した登校日に、不登校の生徒が登校してきた。」
もちろん、その登校が、日常の登校につながる保証はありません。でも、こどもたちは非常時に人とのかかわりを求めます。そう思うとホッとします。逆に、登校できていたこどもたちの不登校が増えるかもしれません。でも、非日常の中で、こどもたちは一生懸命に考えて生きています。それだけは間違いないと思います。
「先生方は何もかも背負い込みすぎ。こどもの衛生管理も、トイレの世話も、休校時の家庭学習も。親がもっと先生を支えないと。」
もちろん、大変な状況に巻き込まれて生きていくので精いっぱいの保護者がたくさんおられるのは知っています。でも、少しゆとりのある人は、先生方を支えて欲しと思います。
もうすぐ長い休校が明けます。でも、一足飛びに日常が戻ってくるわけではありません。
私はできれば以下の仕事をしたいと考えています。
- ECP(Education Continuity Planning)を作る。
- 休校中、休校明けのこどもたちの心のケアと休校中の学習保障のモデルを作る。
これは教育に関わっている人間の義務だと思います。
※1 「新型コロナウイルスの3つの顔を知ろう!~負のスパイラルを断ち切るために~」
発行年月 2020年3月26日 初版発行 日本赤十字社新型コロナウイルス感染症対策本部
※2 密閉:換気がうまくできていない。密集:奥の人が集まったり、少人数でも至近距離に集まったりする。密接:お互いに手の届く範囲にいる。
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新型コロナウイルスと教育① 新型コロナウイルスで、こどもたちはどうなった?