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新型コロナウイルスと教育② 休校措置は正しかったのか

学校は開いておきたい

災害や今回の感染症に伴う休校であっても、こどもたちの学力を保障し、不安の解消、心のサポート、一日も早い学校再開を実現するためには、BCP「事業継続計画」的なものが必要だと前号で書きました。ECP(Education Continuity Planning)「教育継続計画」という言葉も造りました。

今回の新型コロナウイルスに伴う休校措置は、最長で3カ月続きました。教職員の苦労は相当なものだったでしょう。もちろん、日頃は学校で過ごしているこどもたちを家庭で面倒見続けた保護者の苦労も大変でした。いや、テレワークをしながらこどもと過ごせた保護者はまだ恵まれていたのかもしれません。仕事を休めずに小さなこどもに留守番を強いた保護者、やむを得ず仕事を辞めた保護者・・・、そしてそんな環境に突然放り込まれてしまったこどもたちが全国にいます。

私はあえて言いたい。やっぱり学校は開いておかないとだめだと。
3月2日、新型コロナウイルスの流行によって、全国の学校が発達段階も地域も何も考慮せずに一斉に閉じられました。パンデミックを防ぐ方法としては100年前のスペイン風邪の流行時もそうだったように、学校の閉鎖は有効だと思います。まずは、密集を防ぐべきです。
でも今、落ち着いて考えるとこんなに長く学校を閉じていてはダメなのではないでしょうか。日本の学校は素晴らしい衛生指導の方法を持っているし、そのための環境も整っています。手洗いのための水道はそこかしこにあるし、石鹸も備え付けられています。先生方は、小さなこどもたちに丁寧な手洗い指導をしています。家庭で、そういった対応をしてもらえていないこどもにとっては、学校で過ごすほうが感染リスクは少ないはずです。

こどもたちは、感染リスクだけではなく、学習の遅れ、友だちと会えない不安などとも直面しています。こどもの学習保障やストレスの解消、親の生活実態とこどもの過ごす環境などいろんな課題を考慮しながら、一斉休校ではなく、家にいるこども、学校で面倒を見るこども、いろいろ分けて個別対応をしてもよかったのではないでしょうか。これからの災害・パンデミック時の学校のECP「教育継続計画」にぜひ取り入れてほしい視点です。

3つの感染

日本赤十字社はコロナウイルスの3つの顔を指摘しています。※1 「病気そのもの」「不安と恐れ」「嫌悪・偏見・差別」です。
まず、人々は「病気そのもの」を恐れます。未知なウイルスでわからないことが多いため不安が生まれるのです。対策としては、手洗い、咳エチケット、人混みを避ける、などが考えられるようです。いわゆる「3密」※2 を避けるわけですね。

さて、学校教育は、このような手立てを的確に行えます。手洗いや咳エチケット、人混みを避ける指導は、学校にとっては日常の教育活動の範囲内のことです。

「不安と恐れ」はこどもたちの心に大きな不安を生みます。日赤によると、人間の生き延びようとする本能が、ウイルス感染にかかわる人を遠ざけるのだそうです。そんな気持ちがわいてきたときに、その気持ちに気づいて、自分を見つめ、今の状況を整理して自分の気持ちや考え方、ふるまいを色々な角度から観察してみることが大切だと言います。
日赤は指摘しています。人は時としてウイルスに関する悪い情報ばかりに目が向き、何かと感染症に結びつけてしまうのです。趣味の時間や親しい人との交流が減って、生活習慣が乱れてしまいます。
こどもたちはいま、まさにこの状態に放り込まれています。そんな時に、自分をみつめ、他の人の考えを聴く力を高め、普段と変わらず続けられることを探すのが大切だと日赤はアドバイスしています。自分にできないことではなく、今自分ができていることを認める姿勢が大切なのです。

学校は、ウイルスに対する正しい科学的な教育を行うことができます。親しい友だちや先生との交流の時間もたっぷりあります。生活習慣の乱れを防ぐことができます。学校にいるからこそ「不安と恐れ」と対峙できるのです。

「嫌悪・偏見・差別」は人権教育の課題です。
感染者は、差別を受けるのが怖くて熱や咳があっても受診をためらい、結果として病気の拡散を招くことがあると日赤は言います。私は、感染者の隔離宿泊施設となったホテルに投石があったとも聞きました。そんな行為を人として最低だと責めるのは簡単です。ただ、そういった行為は、その行為を行う人の不安が背景にあるのではないでしょうか。日赤は、不安をあおるのではなく、確かな情報を広めて、差別的な言動に同調しないことが大切だと説いています。すべての人にねぎらいと敬意を表そうと呼びかけています。
学校で行っている「人権教育」に似ていると思いませんか。強制的な道徳教育で、これをやってはダメだ、これは人の道に反すると指摘するだけではなく、こどもたちの不安に寄り添い、やわらげる教育が大切です。

災害への教育、つまり防災教育のミニマム・エッセンシャルズは「ハザードの理解」「備え」「対応」だと、私は考えています。新型コロナウイルスに対する教育も、防災教育と同じではないでしょうか。

こどもたちだけではありません。専門学校生も大学生も困っています。職業高校の生徒たちもです。彼らに共通する「資格」の取得ができないのです。職業高校の生徒たちが専門科目の資格を取れません。それは就職や進学に直結しています。専門学校の生徒が実習や資格取得ができず、モチベーションが上がってこないそうです。教職を履修する大学生が、教育実習に行けない事態も発生しています。教育実習は概ね3年生の後半から4年生に行われます。例えば、特別支援学校と小学校の2つの免許取得を目指している学生は、どちらかをあきらめなければならないかもしれないそうです。そういった課題は、実はあまり議論されていないのではないでしょうか。ぜひ、支援策を考えて欲しいと思います。

最後に少しだけ、知人から聞いたほっとする言葉を紹介しておきたいと思います。
「休校中に設定した登校日に、不登校の生徒が登校してきた。」 
もちろん、その登校が、日常の登校につながる保証はありません。でも、こどもたちは非常時に人とのかかわりを求めます。そう思うとホッとします。逆に、登校できていたこどもたちの不登校が増えるかもしれません。でも、非日常の中で、こどもたちは一生懸命に考えて生きています。それだけは間違いないと思います。
「先生方は何もかも背負い込みすぎ。こどもの衛生管理も、トイレの世話も、休校時の家庭学習も。親がもっと先生を支えないと。」
もちろん、大変な状況に巻き込まれて生きていくので精いっぱいの保護者がたくさんおられるのは知っています。でも、少しゆとりのある人は、先生方を支えて欲しと思います。
もうすぐ長い休校が明けます。でも、一足飛びに日常が戻ってくるわけではありません。
私はできれば以下の仕事をしたいと考えています。
  • ECP(Education Continuity Planning)を作る。
  • 休校中、休校明けのこどもたちの心のケアと休校中の学習保障のモデルを作る。
これは教育に関わっている人間の義務だと思います。

※1 「新型コロナウイルスの3つの顔を知ろう!~負のスパイラルを断ち切るために~」
発行年月 2020年3月26日 初版発行 日本赤十字社新型コロナウイルス感染症対策本部

※2 密閉:換気がうまくできていない。密集:奥の人が集まったり、少人数でも至近距離に集まったりする。密接:お互いに手の届く範囲にいる。

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この記事を書いた人

諏訪 清二

全国初の防災専門学科 兵庫県立舞子高校環境防災科の開設時より科長を務め、東日本大震災をはじめとする国内外の被災地でも生徒とともにボランティアや被災者との交流に従事。
防災教育の第一人者として文部科学省「東日本大震災を受けた防災教育・防災管理等に関する有識者会議」など、防災教育関連の委員を務める。

2017年4月から防災学習アドバイザー・コラボラレーターとして活動開始。
学校での防災学習の支援活動を中心に、防災学習、災害、ボランティア、語り継ぎなどのテーマで講演活動も。
中国四川省、ネパール、スリランカ、モンゴル、エルサルバドルをはじめ、海外各地でも防災教育のプロジェクトに関わってきた。

2017年度~ 神戸学院大学現代社会学部 非常勤講師 / 兵庫県立大学 特任教授(大学院減災復興政策研究科)
2018年度~ 関西国際大学セーフティマネジメント研究科 客員研究員
2020年度~ 大阪国際大学短期大学部 非常勤講師
2021年度~ 神戸女子大学 非常勤講師 / 桃山学院教育大学 非常勤講師

【著書】
図解でわかる 14歳からの自然災害と防災 (著者:社会応援ネットワーク 監修:諏訪清二)
防災教育のテッパン――本気で防災教育を始めよう
防災教育の不思議な力――子ども・学校・地域を変える
高校生、災害と向き合う――舞子高等学校環境防災科の10年
※こちらの書籍は、現在電子書籍での販売となります。

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