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新型コロナウイルスと教育① 新型コロナウイルスで、こどもたちはどうなった?

全国一斉の長期休校

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、安倍晋三首相が2月27日(木)に全国の小中学校と高校、特別支援学校に臨時休校を要請しました。専門学校や大学もこれにならい、3月2日(月)から春休みまでの長期休校が始まりました。その後、新年度の4月7日(火)、東京都、大阪府など7都府県に新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づく緊急事態宣言が出され、4月16日(木)には全国に拡大されました。
全国の休校は春休みで終わることはなく、新年度に入っても継続されました。5月に入って緊急事態宣言が段階的に解除されるにつれ学校も徐々に再開してはいますが、感染予防を最優先させ、分散・時間差での登校がほとんどです。6月からは全国で学校が再開されていきますが(5月23日現在の予定)、すぐにいつもの学校生活が戻ってくるわけではありません。

こどもの学習保障

突然の休校が始まってから学校は多くの課題に直面しています。
そのひとつは、間違いなくこどもたちの学習保障でしょう。休校措置が新年度まで長引き学力保障の不安が現実化していく中で、教職員は様々な工夫を凝らしてこどもたちを学習に繋ぎとめようと努力しています。
アナログ的には、自習プリントの作成と配布、回収です。登校日を設置してこどもたちに校庭で課題のプリントを手渡す学校がありました。課題を昇降口の下駄箱に入れて置いて持ち帰らせたり(学習を済ませた課題も下駄箱に入れてもらって回収します)、教職員がすべての家庭を訪問してポスティングや手渡したりしている学校もあります。思いつく方法は全部使って、何とかこどもたちに学習の材料を渡し続けています。
デジタルでの学習指導にもとりくんでいます。教職員が動画を撮影して学校のホームページにアップロードしたり、外部の学習支援のURLを紹介して自習を奨励したり、大手学習関連企業や学習塾と連携したりしている学校もあります。とにかく、ひとりで(密集しないで)学習できる条件を作り出して、休校でできなくなった授業の振り替え、こどもたちへの学習の機会の保障に努めているのです。
一方、すべてのこどもたちがネット環境を保障されているわけではありません。ネット学習はWi-Fiとパソコンの存在を前提にしているので、どうしてもこぼれ落ちてしまうこどもたちがいるのです。ネット環境がなくても勉強できるようにと、教職員がDVDを作成し、全生徒分をコピーして配布した特別支援学校もあります。
ひとりで時間を決めて学習を進めるのはかなり困難なようです。大人のテレワークがネットのサーフィンになりがちだという話を聞くと、ましてこどもたちに規律正しい学習を求めるのは酷だと思います。
テレワークで自宅にいる父親が我が子の学習の面倒を見ようと努力するけれども、どうもこどもたちのやる気が上がってこなかったそうです。そこで、勉強時間の始めと終わりにチャイムを鳴らして学校の雰囲気を作り出したという涙ぐましい努力も聞きました。このアイデアは、こどもたちは評判が良かったそうです。

ネット学習の未来

教育におけるネット活用に可能性を見出している人は多いでしょう。逆に、日本がこれまでICT教育 の後進国であっただけで、本当は、今回の休校ですぐに活用できるレベルまで、全国の学校のネット環境が整い実践が行われていなければならなかったという指摘もあります。いずれにせよ、ICTを使った授業が増え、自宅に居ながら授業を受けたり、他の学校のこどもたちとのコミュニケーションを図ったりする授業が進んでいくという予感を持っている人は多いはずです。
ネットを使った遠隔での教育は、課題はあるものの、災害時や今回のような感染症による休校時の学習保障に使えそうです。場合によっては不登校児童・生徒への学習保障、高校では出席日数不足による履修危機の生徒の救済にも使えると期待する人もいます。
一方でネット環境の整備という大きな課題があります。教育の平等を保障するなら、それを享受する家庭でのネット環境も平等であった方がいいでしょう。ユビキタス社会と言われて久しいですが、すべての家庭がネット環境を設置できているわけではありません。経済格差が教育格差に直結してしまう現実があります。
ネット学習を推進しようと思っている方々には、絶対に忘れてほしくないことがあります。教育の価値は知識の伝達だけにあるのではありません。知識を使った課題解決の場、それもバーチャルではないリアルな場がこどもたちを育てるのです。こどもたちは、目の前にある、協力して解決しなければならない課題に、傍らにいる友達と一緒にとりくみ、失敗したり成功したりしながら解決方法を身に付けていくのです。失敗から学び、成功体験から達成感を得るのです。こどもの社会性はネットでの学習では育ちにくいものです。ネット学習はあくまでも全人教育の補完であるべきだと思います。そこを絶対に忘れてはならないはずです。

Information and Communication Technology:情報通信技術を使った教育

こどもの心の不安

教職員や保護者の皆さんの報告を聞いていると、新型コロナウイルスによる長期休校中の課題は、学力保障だけではないことが見えてきます。
ひとつは心のケアと関わる課題です。こどもが爪を噛み始めた、抱っこをねだる、コロナウイルスをとても不安がって元気がない、なかなか寝付かない、人に会うのを怖がる、そんな話をよく聞きます。
もうひとつは生活リズムの乱れです。起きる時間、寝る時間が不定期になった、間食の回数も量も増えた、外に出て思いっきり遊べない、たまに外に出ると知らない大人に家にいろと怒鳴られる、いつもゲームをしたりテレビを見たりしてゴロゴロしている、その結果、太った、といった話もよく聞きます。
休校が長引くと、そんなこどもたちの様子がだんだんと見えてくるのです。
結局、自然災害と同じです。阪神・淡路大震災(1995)の時も、東日本大震災(2011)の時も同じ現象が指摘されました。
こどもたちと教職員はほとんど何の前触れもなく、いきなり休校状態に放り込まれます。教職員は対応に追われ、保護者は生活を守ることに追われ、こどもたちは置き去りにされてしまいます。
ほとんどの学校は、長期に及ぶ臨時休校中にすべき事柄を丁寧に記述しているマニュアルを持っていません。参考書がないのです。だから、緊急時にこどもたちがどんな変化を見せるのかを、すべての教職員が知っているわけではありません。どちらかというと教職員は、目の前に次々と現れてくるさまざまな変化、課題を一つひとつ順番にクリアしていっている感じです。

教育継続計画(Education Continuity Planning)※

BCP(Business Continuity Planning)という言葉があります。「事業継続計画」と訳されています。災害など、予期せぬ非常事態が発生したときに、企業は被害を最小限に抑えたいと考えます。さらに、事業の継続、復旧を図りたいと考えています。そのための計画を災害発生前に決めておくのです。
 私は教育と経済は同じ発想で動いているとは思いません。だから、教育に経済用語を用いるのは好きではありません。でも、BCPの発想は必要です。非常事態で学校が休校になった時、こどもたちの学力保障はどうするのか、心のケア、教職員の出勤体制、家庭との連絡、教育委員会や関係機関との連絡、・・・、考えておくべき事柄はたくさんあります。
 日本はこれまで、阪神・淡路大震災や東日本大震災といった未曽有の大災害を体験してきた。今回の新型コロナウイルスに伴う緊急事態宣言や2009年の新型インフルエンザの混乱も経験しています。
 その体験をきちんと整理してEducation Continuity Planning(教育継続計画)を作成して、素早い回復を図れるようにしなければなりません。犠牲者はこどもたちです。

諏訪が作った造語。BCP(Business Continuity Planning)を真似た。

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この記事を書いた人

諏訪 清二

全国初の防災専門学科 兵庫県立舞子高校環境防災科の開設時より科長を務め、東日本大震災をはじめとする国内外の被災地でも生徒とともにボランティアや被災者との交流に従事。
防災教育の第一人者として文部科学省「東日本大震災を受けた防災教育・防災管理等に関する有識者会議」など、防災教育関連の委員を務める。

2017年4月から防災学習アドバイザー・コラボラレーターとして活動開始。
学校での防災学習の支援活動を中心に、防災学習、災害、ボランティア、語り継ぎなどのテーマで講演活動も。
中国四川省、ネパール、スリランカ、モンゴル、エルサルバドルをはじめ、海外各地でも防災教育のプロジェクトに関わってきた。

2017年度~ 神戸学院大学現代社会学部 非常勤講師 / 兵庫県立大学 特任教授(大学院減災復興政策研究科)
2018年度~ 関西国際大学セーフティマネジメント研究科 客員研究員
2020年度~ 大阪国際大学短期大学部 非常勤講師
2021年度~ 神戸女子大学 非常勤講師 / 桃山学院教育大学 非常勤講師

【著書】
図解でわかる 14歳からの自然災害と防災 (著者:社会応援ネットワーク 監修:諏訪清二)
防災教育のテッパン――本気で防災教育を始めよう
防災教育の不思議な力――子ども・学校・地域を変える
高校生、災害と向き合う――舞子高等学校環境防災科の10年
※こちらの書籍は、現在電子書籍での販売となります。

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