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学校の防災教育 ~新しい学習指導要領の下で~ 【第1回】「安全教育」と「防災教育」

新学期、防災教育はどうなる?

新学期ですね。といっても、新型肺炎の休校措置で学校は混乱しています。予定していたカリキュラムが年度内に終わらず、新学期にしわ寄せがくる気がします。例えば、土日も授業を行うとか、学校行事を減らすとか、夏休みを短縮するとか…。

そうなると防災教育は蚊帳の外に追いやられてしまうかも知れません。多くの学校にとって防災教育の優先順位はそんなに高くはないからです。「必要なのはわかるけれど、時間がないので…」といった理由で後回しにされてしまう恐れがあるのです。
今回からは、そんな防災教育が学校でどのように扱われているかを、3回に分けて見ていきましょう。

防災教育の差・・・富士山の頂上と裾野

学校では1年に1回以上、避難訓練が行われます。これは無くなりません。消防法で決まっています。だからほとんどの学校は火災を想定した避難訓練だけを行っています。
一方、津波や地震などの災害が予想される地域にある学校の多くや教職員の意識が高い学校は、火災避難訓練に加えて地震や津波を想定した避難訓練も実施しています。火災避難訓練と合わせると1年に2回や3回は行われている計算になります。研究指定校では10回を超えるところもあるようです。

でも、避難訓練と防災教育はイコールではありません。避難訓練と防災教育の境目はどのあたりにあるのでしょうか。
富士山をイメージしてみましょう。頂上には優れた防災教育を実践している学校があります。1年間に10時間とか20時間、あるいはそれ以上の時間を防災教育に充て、「総合的な学習の時間」や「教科」、「特別活動」といった時間を駆使して面白い実践を行っています。
  • 地域学習では、危険という視点だけではなく、地域の自然、ランドマーク、産業、福祉など多様な視点で地域を観察し、マップに落とし込む。
  • 地域の災害の歴史を聞き取ってまとめる。
  • 地域合同総合防災訓練に役割を持って参加する。
  • 防災紙芝居や絵本、劇などのアウトプットを作る。
  • 避難所運営を考える。
このようなアクティブな学習活動が防災教育の醍醐味です。明らかに単なる避難訓練とは違う内容です。
裾野はどうでしょうか。年に1、2回の火災避難訓練しか実施していない学校がたくさんあります。火災発生場所と時間をあらかじめこどもたちに教え、「お・は(か)・し・も」※1 のルールに従って移動させるだけの訓練。こんな訓練でも「火災があればとにかく避難する」という行動規範を教えるのだから、一方的に無意味だと切りてる必要はないでしょう。ただ、文部科学省(以下、文科省)がめざす「生きる力」を育む防災教育とイコールだとは言えません。
この、富士山の頂上と裾野を繋ぐような防災教育の制度をどう作っていくかが、これからの日本の防災教育の課題ではないでしょうか。
文科省の考えを紹介します。

3つの「学校安全」

文科省はこれまで「学校安全」という考え方を進めてきました。この学校安全は3つの領域から成り立っています。「生活安全」「交通安全」「災害安全」です。

「生活安全」は、日常の学校活動でのけがを防止したり、事件や事故、不審者からこどもたちを守ったりする活動です。
「交通安全」はわかりやすいですね。登下校時に保護者や地域のボランティア、先生方が通学路に立ち、こどもたちの安全を見守っている光景は、よく見かけます。安全な横断歩道の渡り方や自転車の乗り方なども指導しています。
「災害安全」が防災教育に関する領域です。では「災害安全」と「防災教育」はどう違うのでしょうか。

これまでの「災害安全」の実践は、災害発生時にどのように身を守るか、といった点に力を入れていたと思います。正しい対応を教えようとしているのです。例えば、火災発生時にどう避難するかとか、地震発生時にどう身を守るか、ですね。
しかし近年では、単に災害発生時の対応を学ばせるだけではなく(もちろん、これは重要です)、災害を引き起こす自然現象(ハザード)の理解や災害への備えといった要素も一緒に教えられるようになってきました。私はこの3つの領域――「ハザードの理解」「備え」「対応」――を「防災教育のミニマム・エッセンシャルズ」と呼んでいます。

先ほど、富士山の山頂を例えに、防災教育がそのカバーする範囲をどんどん広げていると書きました。つまり、現在の先進的な防災教育の実践は、「災害安全」といった枠組みには収まらなくなっているのです。

次回は、「学習指導要領」における防災教育の位置づけを考え、先進的な実践事例をいくつか紹介します。
※1 「お・は(か)・し・も」 火災や地震など災害発生時の適切な避難行動を表す標語。避難時の混乱や二次災害を防ぐためのルールである「押さない」「走らない(かけない)」「しゃべらない」「戻らない」の4つの言葉の頭文字を組み合わせたもので、小中学校の避難訓練などで指導するよう、高官庁や地方自治体などが呼び掛けている(時事用語辞典imidas)。

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この記事を書いた人

諏訪 清二

全国初の防災専門学科 兵庫県立舞子高校環境防災科の開設時より科長を務め、東日本大震災をはじめとする国内外の被災地でも生徒とともにボランティアや被災者との交流に従事。
防災教育の第一人者として文部科学省「東日本大震災を受けた防災教育・防災管理等に関する有識者会議」など、防災教育関連の委員を務める。

2017年4月から防災学習アドバイザー・コラボラレーターとして活動開始。
学校での防災学習の支援活動を中心に、防災学習、災害、ボランティア、語り継ぎなどのテーマで講演活動も。
中国四川省、ネパール、スリランカ、モンゴル、エルサルバドルをはじめ、海外各地でも防災教育のプロジェクトに関わってきた。

2017年度~ 神戸学院大学現代社会学部 非常勤講師 / 兵庫県立大学 特任教授(大学院減災復興政策研究科)
2018年度~ 関西国際大学セーフティマネジメント研究科 客員研究員
2020年度~ 大阪国際大学短期大学部 非常勤講師
2021年度~ 神戸女子大学 非常勤講師 / 桃山学院教育大学 非常勤講師

【著書】
図解でわかる 14歳からの自然災害と防災 (著者:社会応援ネットワーク 監修:諏訪清二)
防災教育のテッパン――本気で防災教育を始めよう
防災教育の不思議な力――子ども・学校・地域を変える
高校生、災害と向き合う――舞子高等学校環境防災科の10年
※こちらの書籍は、現在電子書籍での販売となります。

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