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防災教育の実践を支援するいくつかの事業

3つの支援事業

防災教育が大切だ!実践を頑張ろう!と誘ってみても、教職員からは何をどうすればいいの?という言葉がよく返ってきます。なるほど、20年前ならその疑問は正当な主張でした。テキストも方法論も実践の積み上げもほとんどなかったのですから。

では、現在はどうでしょうか。阪神・淡路大震災(1995)や東日本大震災(2011)といった巨大災害や、各地での風水害、地震、火山噴火などが、私たちの防災への関心を確実に高めています。ただ、誰かが背中を押せばすぐにでも始められるところまで来ているのに最初の一歩がなかなか踏み出せないのはなぜでしょうか。いくつか理由があると考えられます。

防災教育を始めたいという人が最初の歩みを始める一助となればと願って、この20年間、防災教育をけん引してきた3つのプロジェクト、「ぼうさい探検隊」「防災教育チャレンジプラン」「1.17防災未来賞ぼうさい甲子園」を紹介します。

マップ作りの老舗

「ぼうさい探検隊」(※1)は一般社団法人日本保険協会が主催しています。マップ作りに特化したプログラムで、子どもたちが、教職員や大学生、地域の大人の支援を受けながら、防災・防犯・交通安全に関する施設や設備などを見て回り、身の回りの安全・安心を考えてマップにまとめ、発表します。マニュアルが整備されており、誰でも簡単に始めることができます。もちろん、コンテストですから優れたマップは表彰され、HPで公開されています。マップ作りにとりくみたいと思っている人にとって力強い支援となっています。

この20年でマップは成長しています。最初は地域のリスクを記載するだけだったマップに、地域の自慢が書き加えられるようになっていきます。ランドマーク、盲導犬と入れるレストラン、夕日の美しい丘、魚が釣れる小川、歴史の重みをもつ神社・・・。様々な地域の宝が地図上に記載されていきます。私が一番笑ったのは、自転車に乗った高校生の絵。なるほど、子どもたちにとっては大きなリスクです。

マップの広がりはそのまま防災教育の広がりであると言えるでしょう。

※1 日本損害保険協会 ぼうさい探検隊

阪神・淡路大震災が生んだ防災教育支援プログラム

「1.17防災未来賞ぼうさい甲子園」は、阪神・淡路大震災の被災地、兵庫県で始まりました。現在は兵庫県、人と防災未来センター、毎日新聞社が主催しています。小学校、中学校、高等学校、大学、特別支援学校の部門で大賞や優秀賞が決められ、大賞の中からグランプリが選ばれます。他にも様々な賞が用意されており、参加団体のモチベーションを高めてくれます。

毎年、受賞校を紹介する冊子(※2)が作られ、NPOさくらネットのHPで公開されています。「ぼうさい甲子園特設サイト」(※3)では、近年の優れた実践を紹介するページがあり、これから防災教育を実践しようとする学校は何らかのヒントを見つけることができるでしょう。

※2 さくらネット ぼうさい甲子園
※3 ぼうさい甲子園特設サイト

伴走型の防災教育支援プログラム

「防災教育チャレンジプラン」の目的は実践を育てることです。防災の専門家や防災教育に詳しい教職員、NPO関係者、行政職員、マスコミ関係者など多様なメンバーで構成する実行委員会が、選ばれた10数団体に1年間伴走し、困りごとへのアドバイス、新たなアイデアなどを提供します。

防災教育チャレンジプランは、スタートした時からずっと中間発表会と最終発表会を開いて、参加団体が年に2回交流できる場を設定してきました。新型コロナウイルス感染症の影響で対面での開催が難しくなると、遠隔会議システムを使って参加団体の交流会を何度も開催するなど、実践の支援だけではなく交流にも力を入れています。HPでは過去の実践団体のとりくみがアーカイブ化されており、近年の実践はビデオでも紹介されています。このサイトも防災教育の宝の山ですね。

単発の防災教育教材

防災教育を始めようとする教職員、防災関係者は、まず何をどう教えるかという課題に直面します。学校教育の世界であれば、教科書があり、指導書があり、同僚のアドバイスや過去の実践記録があって、それらから多くを学び取ることができます。しかし、防災教育の歴史はそう長くはなく、上記の3つの支援事業が始まってまだ20年です。教科や総合的な学習の時間で取り上げられる他のテーマと比べると、実践は単発が多く体系化されているとはいい難い状況です。

防災教育に関するテキストやe-learning、ゲームなどの教材も同様に、大雨や非常持ち出し袋、避難所生活、災害時の困りごと、マップ、等々、ある項目を限定的に取り扱う一点突破型が多く、小学校から高校までを視野に入れた体系的な防災教育のテキストは、例えば、筆者たちが開発した一連の教材くらいしかありません(※4)。

「千と千尋の神隠し」(※5)に出てくる湯屋のかまじいは、何本もある長い手を伸ばして薬ダンスの引き出しから薬を取り出して調合します。防災教育もこんな感じです。引き出しはいっぱいあります。面白い(単発の)授業はたくさん出そろいました。ただ、数多くの引き出しが体系的に整理されていないのです。防災教育の世界では、かまじいのようにすべてを知って調合できる人はまだまだごく少数です。多くの人は、特定の引き出しを開けて、そこにあるプログラムを単発で実施している段階にいます。

※4 明石スクールユニフォームカンパニー 防災関連事業
「まもろう!じぶんのいのち」(小学校低学年)「守ろう!自分・家ぞく・地いき」(小学校中学年)「守ろう!私たちの今と未来」(小学校高学年)「災害と向き合う」(中学校)「災害と生きる」(高等学校)
※5 スタジオジブリ

セレクションとグラデーション、プチ・カリキュラムマネジメント

紹介した3つのプログラムは、見ようによってはその調合方法を教えてくれているのです。ぼうさい探検隊はマップに特化していますが、マップという分野の中での調合方法を教えてくれます。防災教育チャレンジプランとぼうさい甲子園で優れた賞を受賞している団体の実践はほとんどが総合的で体系的です。うまく調合されているのです。

セレクション(selection)とは選択のことです。たくさんある引き出しのどの引き出しを開けるかということです。グラデーション(gradation)とは徐々に変化していく様をさします。引き出しを開けて教材を引っ張り出し(セレクション)、それをうまく配列する(グラデーション)、これがいわゆる「カリキュラム・マネジメント」にあたります。と言っても、年間指導計画などと大きなことを考えずに、まずは数コマの防災教育教材を作りましょう。私はこれをプチ・カリキュラムマネジメントと呼んでいます。

この3つの支援プログラムが蓄積してきた実践事例を参考にすれば、防災教育のステップをもう一段上げることができるはずです。

この記事を書いた人

諏訪 清二

全国初の防災専門学科 兵庫県立舞子高校環境防災科の開設時より科長を務め、東日本大震災をはじめとする国内外の被災地でも生徒とともにボランティアや被災者との交流に従事。
防災教育の第一人者として文部科学省「東日本大震災を受けた防災教育・防災管理等に関する有識者会議」など、防災教育関連の委員を務める。

2017年4月から防災学習アドバイザー・コラボラレーターとして活動開始。
学校での防災学習の支援活動を中心に、防災学習、災害、ボランティア、語り継ぎなどのテーマで講演活動も。
中国四川省、ネパール、スリランカ、モンゴル、エルサルバドルをはじめ、海外各地でも防災教育のプロジェクトに関わってきた。

2017年度~ 神戸学院大学現代社会学部 非常勤講師 / 兵庫県立大学 特任教授(大学院減災復興政策研究科)
2018年度~ 関西国際大学セーフティマネジメント研究科 客員研究員
2020年度~ 大阪国際大学短期大学部 非常勤講師
2021年度~ 神戸女子大学 非常勤講師 / 桃山学院教育大学 非常勤講師

【著書】
図解でわかる 14歳からの自然災害と防災 (著者:社会応援ネットワーク 監修:諏訪清二)
防災教育のテッパン――本気で防災教育を始めよう
防災教育の不思議な力――子ども・学校・地域を変える
高校生、災害と向き合う――舞子高等学校環境防災科の10年
※こちらの書籍は、現在電子書籍での販売となります。

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