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SDGsと防災教育⑤ ~ 自然と社会の不平等から考える

不平等な自然

10番目の目標は「不平等の是正」です。国内、各国間にはさまざまな不平等が存在しています。法や制度の整備を通して、さまざまなアプローチでその是正を図っていこうとしています。
さて、災害は平等、不平等、どちらの顔を持っているでしょうか。例えば、地震や大雨などの自然現象(以下、ハザードと呼びます)はすべての地域に平等に発生するわけではありません。地震が多発する国もあれば(日本はその最たる国です。世界の有感地震の2割は日本で起こっているそうです)、地震とはほぼ無縁の国もあります。多くの火山がある国もあれば(日本は現在111の活火山があります)、火山のない国もあります。気候に目を向けると、極寒の地域から酷暑の地域、多雨多湿の地域や乾燥した地域など、地球上には極めて多様な気候区分が存在しています。
地震や火山のように地球の内部の力と関係する要因と、太陽や水、大気などの地球を取り巻く要因が複雑に絡みあって、ハザードはさまざまな顔を持って極めて「ばらばらに」に存在しています。

社会に存在する「脆弱性」という不平等

すべてのハザードが災害になるわけではありません。人間社会に被害をもたらして初めて災害となります。そして、地域が持つ災害への耐性はさまざまです。震度5強程度の揺れで多くの家屋が倒壊する地域もあれば、震度6弱でも持ち堪えられる地域もあります(震度の表し方は国によって違いますが、ここでは日本の尺度を使います)。ある程度のまとまった雨が降れば洪水や土砂災害が発生してしまう地域もあれば、かなりの豪雨でも災害を回避できる地域もあります。その差はどこにあるのでしょうか。
答えは明確です。災害の発生はハザードの強さと社会の脆弱性(逆に言えば防災力)の比較によって決まるのです。だから、例えば、震度5強の地震が脆弱な地域と防災力の高い地域に発生しても(震度は平等です)、その被害は全く違ってきます(被害は不平等です)。言い方を変えると、脆弱な地域がハザードにさらされると(暴露、exposureと言います)災害が発生するのです。だから、地域の不平等、それも、ハザードではなく、社会の脆弱性(防災力)の不平等を改善することは、被害の減少につながります。

気候変動とハザードの巨大化・多発化

13番目の目標「気候変動」によると、大雨や台風の様な気象関係のハザードは極端化してきていると言われています。台風が巨大化したり、時間雨量が増加したり、温暖化が進んだりといった気候変動は地球温暖化が原因だと言われています。化石燃料の燃焼だけではなく、人間の活動の増加による放出熱量の増加、森林の減少といった原因も関わっているはずです。さらにこんな話を読んだことがあります。地球はいま氷河期にあるのだそうです。氷河期は氷期、間氷期の繰り返しから成り立っています。現在は間氷期にあって、まだまだ暖かくなる過程にあるという説です。結局、温暖化の回避は、これさえやれば大丈夫という決定打はなさそうです。

自然の不平等と社会の不平等

社会的な不平等がある地域では弱いハザードでも災害が発生する恐れがあります。防災力を持つ社会では、少々強いハザードが襲ってきても持ち堪えることができます。ハザードの強弱(自然の不平等)と社会の防災力の強弱(社会の不平等)によって災害が発生すると考えられますが、人類がハザードをコントロールすることは不可能です。災害に立ち向かうには、社会の防災力を向上させる(脆弱性を減少させる)しかないのです。そしてそれは、社会の不平等の是正と重なってきます。
社会の不平等に目を向け、どんな不平等を解消し、どんなまちを作れば災害に向き合えるかを考えていきましょう。これは、11番目の目標「住み続けられるまちづくり」そのものです。レジリエントで持続可能な人間居住の実現はそのまま、災害による被害の減少も意味しています。私は、「レジリエント」を「しなやかな回復力」と捉えています。災害を力で完璧に抑え込むのではなく(不可能ですが)、被害を受けながらもダメージを少なくする社会、被害を受けても素早く回復していく社会をイメージしています。

災害・防災をキーワードにしてゴール横断的に考える

SDGsの17のゴールはそれぞれ独立しているわけではありません。どのゴールも相互に関連しているのです。災害というテーマで、複数のゴールを横断的に考えてみるのもなかなか面白いアプローチです。
子どもたちに防災を教える時、自然現象の強弱、社会の脆弱性、そして、自然現象への曝露についてはぜひ触れてください。社会的な不平等が存在している地域をハザードが襲うと被害が拡大するのです。そんな視点で、社会の不平等を捉えさせてください。
「気候変動」は抑えられないかもしれないけど、「不平等」をできるだけ少なくして、「包摂的で安全かつ強靭(レジリエント)で持続可能な都市と人間居住」を実現したら、災害で苦しむ人も減るはずです。
さて、どんな授業をしましょうか。
川沿いで堤防が低く、河川敷や川の上にもバラック小屋が密集している地域と河川沿いでスーパー堤防が整備されている地域の写真を見ながら、同じ強さの台風が来襲したらどうなるかを考えさせてみましょう。もう一つ、なぜそんな社会の差ができたのか、経済や社会の背景を考えさせてみましょう。

この記事を書いた人

諏訪 清二

全国初の防災専門学科 兵庫県立舞子高校環境防災科の開設時より科長を務め、東日本大震災をはじめとする国内外の被災地でも生徒とともにボランティアや被災者との交流に従事。
防災教育の第一人者として文部科学省「東日本大震災を受けた防災教育・防災管理等に関する有識者会議」など、防災教育関連の委員を務める。

2017年4月から防災学習アドバイザー・コラボラレーターとして活動開始。
学校での防災学習の支援活動を中心に、防災学習、災害、ボランティア、語り継ぎなどのテーマで講演活動も。
中国四川省、ネパール、スリランカ、モンゴル、エルサルバドルをはじめ、海外各地でも防災教育のプロジェクトに関わってきた。

2017年度~ 神戸学院大学現代社会学部 非常勤講師 / 兵庫県立大学 特任教授(大学院減災復興政策研究科)
2018年度~ 関西国際大学セーフティマネジメント研究科 客員研究員
2020年度~ 大阪国際大学短期大学部 非常勤講師
2021年度~ 神戸女子大学 非常勤講師 / 桃山学院教育大学 非常勤講師

【著書】
図解でわかる 14歳からの自然災害と防災 (著者:社会応援ネットワーク 監修:諏訪清二)
防災教育のテッパン――本気で防災教育を始めよう
防災教育の不思議な力――子ども・学校・地域を変える
高校生、災害と向き合う――舞子高等学校環境防災科の10年
※こちらの書籍は、現在電子書籍での販売となります。

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