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SDGsと防災教育③ ~ トイレ

避難所のトイレ

前回は避難所での食の話を紹介しました。人間は生き物です。食べたら出します。避難所のトイレ問題は、実はとても過酷です。あまりの汚さにトイレを使いたくないと、食事、水分補給を制限して体調を壊してしまう人もいます。さらに、汚れたトイレは感染症の震源地となります。何より、避難所の睡眠や食事をとるスペースにトイレの匂いが漂ってきたら、気が滅入ってしまいます。今回は、そんなトイレの厳しい話をします。今この瞬間、食事前の方や「そんな話はちょっと・・・」という方は、読まない選択もありです。

白い巨塔

阪神・淡路大震災の時、私が勤務していた学校も1週間だけ避難所になりました。被災の中心ではなく神戸市西部のちょっと古い新興住宅地(変な表現ですね)に位置し、周囲の建物のほとんどは団地とマンションでした。大規模な家屋の倒壊や火災がなく、比較的少人数の避難者が1週間程度、剣道場と柔道場に避難していました(といっても300人を超えていました)。さらに、グラウンドには100台を超える車が停っており、多くの方々が車中泊をしていました。
さて、一夜明けた1月18日、水が止まってしまっていました。私の学校の水は、夜の間に屋上に汲み上げてタンクに入れ、昼間は引力を使って下に落として使う方式です。断水したとしてもタンクの水が空になるまでは使えるはずです。ところが、そのタンクから伸びるパイプが外れてしまって、タンクの水が全て流れ出てしまったようです。
グラウンドで車中泊をしている避難者が使えるようにと開放していた1階の職員トイレの個室が悲惨な状況でした。前の人の汚物の上に次の人が汚物を出す。それを繰り返すと小高い山ができます。たとえ切羽詰まっていてとはいえ、「そんな行為ができる人間って、なんて強い存在なんだ」としみじみ思ったものです。トイレットペーパーがはりついて、私はそれを「白い巨塔」と呼んでいました。でも、片づけないわけには行きません。棒などを使ってなんとかビニール袋に入れようとするのですが、無理でした。匂いで涙が出て、気分が悪くなってきました。最後にはビニールのゴミ袋をかぶせて手づかみで処理しました。あの匂いと触感は今も覚えています。

側溝にも・・・

学校周囲の側溝に汚物が山積みになった学校もあります。あの形状がトイレを連想させるのでしょうか。校舎の裏や木陰といった隔離感がちょっとした安心感をもたらすのでしょうか。ある高校生のボランティアは、ボランティアセンターの受付で、活動場所一覧の中から好きな所を選ぶように言われ、その日は誰もまだ参加していなかった学校を選んだそうです。ボランティアがいないと困るだろうからと考えたようです。そこでの活動が側溝の汚物処理であることは、もちろん到着してから知ったそうです。何度かボランティアにやって来ている人たちには側溝の汚物の情報が知れ渡っていて、みんな敬遠していたのですね。もちろん、知らなかったとは言えその場所を選んだ以上、懸命に作業したそうですが、その経験は思い出したくないけれども決して忘れられないものになったようです。

トイレ配備が最優先

大震災の被災地とはいえ、いつまでもこんな状況が放置されるわけではありません。災害発生からしばらく経つと仮設トイレが運ばれてきて、何十という数のトイレが設置されます。私は、仮設トイレを満載したトラック3台がパトカーに先導され、赤信号に突っ込んで行く場面に出くわしたことがあります。被災の町では、トイレの確保は最優先課題だったのです。

どう解決するか、考えよう

さて、防災教育では、トイレ問題をどう教えるのでしょうか。避難所には非常用トイレが保管されているとか、凝固剤とビニール袋を準備しておこうとか、携帯用ミニトイレを鞄に入れておこうとか、非常マンホールトイレが設置されている公園があるとか、そういった話はよく聞きます。でも、現実はそんなもので切り抜けることができるほど生易しくはありません。避難所のトイレは、世界一きれいなトイレに慣れきっている私たちの尊厳を根底から叩き壊すような、劣悪な環境なのです。そこまで教えている防災教育はあるのでしょうか。
日本の避難所はとにかく我慢を強いるところです。「非人間的」と言ってもいいし、人権がないがしろにされていると言っても過言ではありません。でも、我慢だけでは人は疲弊します。子どもたちとの「対話的な学び」を通して解決策を考えましょう。

授業で汚れた便器の写真を見せるには勇気が要ります。ずらっと並んだ非常用トイレを見ながら、議論を進めて行きましょう。以下のような視点で、子どもたち同士の話し合いを促しましょう。
  • 被災直後の避難所のトイレは徹底的に汚れる。
  • 最初に掃除するのは、ほぼ中高生と教職員。
  • 非常用トイレが運ばれて来てずらっと並べられるけど、男女の場所を離している例は稀。しかも、汲み置き式なので、匂いはきつい。
  • 手洗いのための石鹸や水は不十分かも知れない(最近はコロナの関係でアルコールスプレーはあるけれども)。
  • こんな環境を敬遠して飲食を我慢して、体調を壊す人がいる。
最後に、SDGsの視点で考えてみましょう。③健康と、⑤ジェンダー平等、⑥きれいな水と衛生は直接関係がありそうです。災害に強いまちづくりの視点で考えれば、⑪持続可能な都市とコミュニティなども、避難所に行かなくていい住まい方を模索する、つまりトイレ問題を軽減する課題と取れます。他にも子供たちの発想で、どんなゴールが避難所のトイレと結びつくか、こどもたちと一緒に考えましょう。

この記事を書いた人

諏訪 清二

全国初の防災専門学科 兵庫県立舞子高校環境防災科の開設時より科長を務め、東日本大震災をはじめとする国内外の被災地でも生徒とともにボランティアや被災者との交流に従事。
防災教育の第一人者として文部科学省「東日本大震災を受けた防災教育・防災管理等に関する有識者会議」など、防災教育関連の委員を務める。

2017年4月から防災学習アドバイザー・コラボラレーターとして活動開始。
学校での防災学習の支援活動を中心に、防災学習、災害、ボランティア、語り継ぎなどのテーマで講演活動も。
中国四川省、ネパール、スリランカ、モンゴル、エルサルバドルをはじめ、海外各地でも防災教育のプロジェクトに関わってきた。

2017年度~ 神戸学院大学現代社会学部 非常勤講師 / 兵庫県立大学 特任教授(大学院減災復興政策研究科)
2018年度~ 関西国際大学セーフティマネジメント研究科 客員研究員
2020年度~ 大阪国際大学短期大学部 非常勤講師
2021年度~ 神戸女子大学 非常勤講師 / 桃山学院教育大学 非常勤講師

【著書】
図解でわかる 14歳からの自然災害と防災 (著者:社会応援ネットワーク 監修:諏訪清二)
防災教育のテッパン――本気で防災教育を始めよう
防災教育の不思議な力――子ども・学校・地域を変える
高校生、災害と向き合う――舞子高等学校環境防災科の10年
※こちらの書籍は、現在電子書籍での販売となります。

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