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救急車を呼ぶのはどんな時?迷った時の相談先も調べておきましょう

意外に感じるかもしれませんが、総務省の統計(「令和3年中の救急出動件数等(速報値)」の公表)によると新型コロナウイルスの感染拡大が日本で始まった2020年(令和2年)から救急自動車(救急車)による救急出動件数および搬送人員の数は減少に転じています。しかし、事故種別ごとの救急出動件数で見てみると、減少しているのは交通事故等での出動で、急病での出動の割合は2001年が56.4%だったのに対し、2016年は64%、2021年は65.5%と増加の一途をたどっています。
2021年中に救急搬送された人の内訳を、傷病程度別に見ると、総搬送者数549万1,449人中、入院加療を必要としない軽症が44.8%(245万7,607人)、 入院診療が必要となる中等症が45.2%(248万2,813人)、3週間以上の入院加療を必要とする重症が8.5%(46万4,509人)、そして病院に到着する頃には死亡が確認された人も1.5%(8万1,165人)ありました。
この統計は、どのようなタイミングで救急車の手配をすべきか考えるきっかけになるのではないでしょうか。
救急車による搬送が必要でない場合に呼んでしまうケースが増えれば、救急車が足りなくなり、本当に必要な人のところに向かえなくなるかも知れません。
その反面、「救急車を呼ぶほどでもないのではないか」と迷ったり、判断を誤ると、後遺症が残ったり、命を落としてしまうことにつながります。

どのような時に救急車を呼ぶべきなのか、その目安や、救急車が到着するまでにできることを知っておきましょう。
また、迷った時には相談できる機関もあります。いざという時に対応できるように、覚えておきましょう。

特に注意が必要な冬と夏

救急車出動の要請は、もちろん年間を通じて多数あります。
中でも、搬送件数が増えるのが、12月をピークとした前後数ヶ月の冬の季節と、7月をピークとした前後数ヶ月の夏の季節です。
年末年始などは特にお餅を喉に詰まらせる事故や、積雪による転倒などの事故も多く発生しますが、入浴中に亡くなる人が多いことも特徴です。居室から洗面脱衣室、浴室との温度差が大きくなることなどから、脳卒中や心筋梗塞などのリスクが高まります。
夏場に救急搬送が増えるのは、熱中症による救急搬送が増えるためです。7月から8月にかけてがピークですが、熱中症による救急搬送は5月からあり、9月になっても多くの人が搬送されています。

これからの季節(初夏から初秋)に気をつけたい「熱中症」

高温多湿な環境に身体が適応できないことで、体温の調節機能が働かなくなるなどして、体温の上昇やめまい、痙攣、頭痛などの様々な症状を起こす、熱中症。
炎天下で長時間にわたって運動や作業をするなどした時ばかりでなく、梅雨の合間に突然気温が上がった時や暑さに身体が慣れていない時期に風通しも良くなく温度も高い室内にいるときにも発症します。

熱中症は、重症度によって3段階に分類され、日本救急医学会(熱中症の病態と救急医療)によってその対応が示されています。

意識ははっきりしており、めまいや立ちくらみ、生あくびや大量の汗が出ていて、筋肉痛やこむら返りなどの症状がある、Ⅰ度。この段階であれば、出来るだけ早く風通しの良い日陰や冷房の効いている室内などに避難させ、マスクや厚い衣類は脱がせて、身体から熱をにがすようにします。また、吐き気や嘔吐などがなければ、スポーツドリンクや経口補水液などを飲んでもらい水分補給し、胸や体の表面に水をかけてうちわや扇風機などで風を送ることで身体を冷やします。わきの下や腿の付け根などを氷嚢などで冷やす事も効果的です。Ⅰ度の症状でこうした応急処置を行い、改善が見られた場合には、救急搬送の必要はなく、応急処置と経過の見守りだけで大丈夫です。

応急処置をしても改善が見られなかったり、さらに頭痛や嘔吐、倦怠感や虚脱感、集中力や判断力の低下が見られるなど、Ⅱ度の症状が出た場合には、医療機関にかかる必要があります。
さらに、意識障害やけいれん、手足の運動障害、高体温など、Ⅲ度の症状が出た場合には、直ちに救急搬送し、高度な治療ができる病院での診察・処置が必要です。

熱中症で救急車を呼ぶ目安は、このように「呼びかけに反応しない」「受け答えがおかしい」などの意識障害やけいれん、身体が異常に熱いなどの症状が見られるかどうかです。
「意識がなければ、すぐに救急車を呼ぶ」と覚えておいてください。

救急車の到着を待っている間は、出来るだけ涼しい場所へ避難して、服をゆるめて、首や脇の下、太股の付け根などを集中的に冷やすようにしましょう。
意識がない・受け答えがおかしいなど、意識障害がある場合には、無理に水分補給をさせてはいけません。

冬場に特に気をつけたい「脳卒中」と「心臓発作」

寒い季節になったら、特に注意が必要なのが脳卒中と心筋梗塞などの心臓発作です。
脳卒中は、脳の中や脳の近くの血管が突然破れたり、血管の中に血の塊ができて脳の血液循環が悪くなって、急激に意識障害や運動障害などを起こす病気です。
心臓発作は、心臓の筋肉を養う血管(冠動脈)に突然異常が起こり、急性心筋梗塞や狭心症、不整脈による心停止などを引き起こす心臓の病気です。心筋梗塞は、冠動脈の一部の血液の流れが止まり、その部分の心筋に栄養や酸素が不足し、心筋が壊死していきます。狭心症は、冠動脈の血液の流れが悪くなった時に起こります。
脳卒中も心臓発作も、命を守るために、そして後遺症などを残さないためにも、一刻も早く専門医による診療を受ける必要のある病気です。疑わしい症状が見られたら、躊躇せずに119番通報し、救急車を呼びましょう。

こんな症状が出たら「脳卒中」の可能性が

急激に意識障害や運動障害などを起こす、脳卒中。「口角など顔の片側が下がり、ゆがみがある」「片手に力が入らず、だらりと下がる」「言葉が出てこなかったり、ろれつがまわらない」こうした顔・手・言葉に、どれか一つでも当てはまる症状があれば、すぐに119番通報します。救急隊員には、症状に気づいた時刻を伝えるようにしましょう。
また、くも膜下出血では「後頭部をバッドで殴られたような激痛」と表現されるような突然の激しい頭痛(嘔吐を伴うことも)、急激な意識障害、突然の歩行困難、視野が欠ける、眼球の動きが異常になり両眼が一方に寄ったり片側が外を向いたりするといった症状も、脳卒中の可能性があります。

119番通報し、救急車の到着を待つ間には、倒れた場所がトイレや浴室、屋外などの場合には、数人で協力して、近くで安静を保てる場所に静かに移し、水平に寝かせて毛布などで保温し、安静にします。特に頭部は揺らしたり動かしたりしないようにしましょう。ネクタイやベルトなどは緩めます。
嘔吐があるときには、吐いたものを器官に吸い込まないように、下になる腕を前に伸ばし、上になる腕を曲げ、その手の甲に顔を乗せて上になる膝を90度曲げ前方に出す「回復体位」をとらせましょう。
意識のない場合には、胸骨圧迫やAED(自動除細動器)の使用、人工呼吸など、一次救命措置を行います。


脳卒中は、できるだけ早く救急搬送し、救急車を待っている間も出来るだけ頭を動かさないようにするというのが、原則です。

こんな症状が出たら「心臓発作(狭心症・心筋梗塞など)」の可能性

狭心症や心筋梗塞などの心臓発作は、日本の死因の高順位を占める病気です。短時間で状態が悪化し、致命的になる可能性があります。脳卒中と同様に、心臓発作と思われる症状が出たら、躊躇せずに一刻も早く119番通報し、救急車を呼びましょう。

心臓発作が起こると、「胸が締め付けられるような」や「胸が重苦しい」「胸がぐっとしぼられるような」「焼け付くような」と表現される痛みがあります。顔面が蒼白になり、冷や汗をかき、胸を押さえた後うずくまったり、倒れたり、けいれんを起こしたりします。
心臓発作は、胸だけでなく、背中や肩、両腕や喉、ヘソより上の腹部に痛みが生じることもあります。

救急車の到着を待つまでの間、意識がなければ、脳卒中と同様に直ちに胸骨圧迫やAED(自動除細動器)の使用、人工呼吸などの一次救命措置を行います。
意識があるときには、ラクな姿勢をとらせて、深呼吸を促し、全身を保温して、観察を続けます。ニトログリセリンなど、医師から指示された薬を持っている人には、服用する補助をします。

他にも、こんな時には救急車を呼びましょう!

冬場や夏場は健康リスクが高く、特に注意が必要な季節ではありますが、救急車を呼んだ方がいい病気やケガは、季節を問わず一年中起こります。
交通事故や転落事故などの事故の際はもちろん、大量の出血を伴う怪我や、広範囲の火傷など。痙攣が止まらない時や、物を喉に詰まらせて呼吸が苦しい時、顔色が明らかに悪い時なども、重大な病気や怪我の可能性があります。
15歳以下の子どもなら、激しい咳やゼーゼーして呼吸が苦しそうな時、手足が硬直しているような時、唇の色が紫色になっている時や、嘔吐が止まらない、便に血が混じっている時なども、救急車を呼びましょう。

政府広報オンラインには、こうした、救急車を呼んだ方がいい緊急度の高い症状をまとめられています。(どんな場合に、どう呼べばいいの? もしものときの救急車の利用法
どこの地域においても、救急車の数には限りがあります。すぐに救急車で病院に行く必要のある人のために、むやみに救急車を呼んではいけませんが、迷わず119番通報して救急車を呼んだ方がいいケースもあります。
その目安となる症状を覚えておいて、いざという時に速やかに行動できるようにしておきましょう。

救急車を呼んだら、保険証やお金、普段飲んでいる薬(おくすり手帳)、そして救急搬送される人の靴も持って同乗できるように準備をしておきましょう。
救急車が到着したら、救急隊員に「事故や具合が悪くなった状況」「救急隊が到着するまでの変化」「行なった応急手当ての内容」「持病やかかりつけ医、普段飲んでいる薬など、具合の悪い方の情報」などを伝えることも必要です。

救急車を呼んでいいのか迷った時には「救急安心センター(#7119)」と全国版救急受診アプリ「Q助(きゅーすけ)」

小さなお子さんやご高齢の方がご家庭にいる場合には特に、不安に感じることも多いと思います。そんな中で、緊急性が高い症状かどうか自分で判断するのが難しいことや、「救急車を呼ぶほどではないかもしれないけど、休日や深夜などでも受診したい。相談したい」と思うこともあるかもしれません。そんな時には、電話やアプリを使って相談できます。

電話で#7119をダイヤルすることで、診療が可能な医療機関の電話番号を教えてくれたり、医師や看護師などの相談員が、自分で病院に行くべきか救急車を呼ぶべきかなどの医療相談を行う窓口「救急安心センター事業(#7119)」。症状に応じた応急手当てのやり方をアドバイスしてくれたり、緊急性が高いと相談員が判断した場合には、消防署に電話を転送するなど、救急車の要請のサポートもしてくれます。ただし、これは2020年10月時点で、東京や宮城、京都、大阪、鳥取、福岡など、全国で17地域しか対応できていません。
対応していない地域では、厚生労働省が進めている「医療情報ネット」をインターネット上で検索することで、全国の医療機関の情報について知ることができます。

スマートフォンアプリやウェブから症状の緊急度を判断する情報を得られる、消防庁の運営している「全国版救急受診アプリQ助(きゅーすけ)」は、全国対応しています。
iOS版
Android
Web版
当てはまる症状を画面上で選択していくことで、緊急度の目安を知ることができ、必要な対応も表示されます。緊急度が高い場合には、アプリから119番に電話することもできます。緊急度が高くない場合には、受信できる医療機関や移動手段などの情報をアプリから検索することもできます。
お使いのスマホにアプリをインストールするか、ウェブ版をブックマークしておきましょう。

参考資料


総務省 「令和3年中の救急出動件数等(速報値)」の公表

総務省 令和3年(5月から9月)の熱中症による救急搬送状況

東京消防庁 救急搬送データからみる日常生活の事故 第1部 平成28年の概要

朝日新聞 餅・入浴中の事故…コロナ禍の年末年始、身を守る行動を

政府広報オンライン もしものときの救急車の利用法

日本気象協会推進 熱中症ゼロへ 熱中症の症状

日本赤十字社 熱中症

日本救急医学会 熱中症に関する委員会 熱中症の病態と救急医療

日本赤十字社 脳卒中

日本赤十字社 心臓発作

この記事を書いた人

瀬尾 さちこ

防災士。住宅建築コーディネーター。整理収納コンサルタント。

愛知県東海市のコミュニティエフエム、メディアスエフエムにて防災特別番組「くらしと防災チャンネル(不定期)」、「ほっと一息おひるまメディアス(毎週水曜日12時〜)」を担当。
以前の担当番組:みんなで学ぶ地域防災(2021年~2021年)、防災豆知識(2019年~2021年)
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