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防災訓練で防災意識と技術を高める ~受動的な学びから能動的な学びへ①~

防災教育支援プロジェクト

皆さんは「1.17防災未来賞ぼうさい甲子園」※1 と「防災教育チャレンジプラン」※2 というプロジェクトをご存知でしょうか。
「ぼうさい甲子園」は兵庫県と人と防災未来センター、毎日新聞社が主催者です。全国から実践を募集し優れたとりくみを顕彰します。表彰式の後には交流会を設け、防災教育の楽しさや課題とその解決方法を参加者で話し合います。
「防災教育チャレンジプラン」は防災や防災教育の専門家、実践家からなる実行委員会が運営しています。参加団体を募り、応募の中から10数団体を選んで支援しながら育てます。中間発表会では実行委員がアドバイスをして、最終発表会で優秀団体を選んで表彰します。
手法の違いはありますが、両者に共通しているのは「交流」を大切にしている点です。お互いの実践から学び、各団体が抱える課題を出し合ってその解決策を共に考える場は防災教育の発展に大きく貢献しています。

このコラムでは、二つのプロジェクトを中心に、私が出会ってきたたくさんの実践の中から面白い活動を拾い出し、「防災訓練」とか「地域のマップづくり」「ものづくり」のようなテーマに分けて紹介していきます。
第1回目では訓練を取り上げます。アイデアが詰まった訓練の様子を見ていきましょう。

※1 令和2年度ぼうさい甲子園特設サイト
※2 防災教育チャレンジプラン

避難訓練の進化

昔は、ほとんどの学校の避難訓練は火災を想定し、こどもたちに事前に火災発生時間と場所を伝えていました。警報ベルが鳴るとこどもたちは決められた通路を通ってグラウンドに避難し、点呼・報告を受けます。これでは実際の火災時に役立たないという指摘がなされるようになって、少しずつ実施方法に工夫が加えられてきました。例えば、事前に通知しないで抜き打ちで行うとか、数人のこどもを隠しておいて点呼の正確さをチェックするといった方法が導入されるようになってきました。

ただ、私は、事前通告のある避難訓練も意味があると考えています。私は2008年の四川大地震以来、中国の防災教育プロジェクトに長くかかわってきましたが、ある時、シンポジウムの参加者からこんな話を聞きました。
「あるビルが火災になった。中国人には逃げ遅れて亡くなった方もいたが、日本人は全員素早く避難して助かった。その理由を問うと、『日本ではすべての学校が年に1、2回、必ず避難訓練をする』という。驚いた。」
つまり、火災があれば避難するという基本的な行動は日本人全員に刷り込まれているのです。たとえ筋書きのある火災避難訓練でも意味があると私は考えています。

津波を想定した避難訓練もあります。こどもたちは緊急地震速報を聞き(あるいは地震が発生したとして)、グラウンドなどに避難して点呼を受け、それから高台に避難します。津波が短時間で襲ってくると想定されている地域では、地震発生後すぐに高台に走っていき、そこで点呼します。

火災にしろ、津波にしろ、多くの学校の訓練はいつも校長先生や防災担当の先生の講話で終わることが多いようです。こどもたちは「遅かった」とか「もっと真剣にやりなさい」といったお叱りを受動的に聞くことになります。面白くないでしょうね。
そこを改善しているとりくみがあります。避難が終了したら、こどもたちが「ふりかえり」を行い、発表しあうのです。ここで、子どもたちの姿勢が能動的になります。
「小さなこどもに『ふりかえり』ができるだろうか」と心配する方もおられるかもしれません。私が関わってきた幼稚園では、避難訓練の後、園児が先生を囲んで意見を言います。聞いていると、真剣に考えてとても素晴らしい指摘をしているのがわかります。こどもたちを信じて訓練の評価はこどもたちに任せましょう。

防災訓練・避難所体験訓練へと広げる

避難だけではなく消火訓練や搬送、AEDの使い方、心肺蘇生の訓練、災害発生のメカニズムと備え方、災害時の対応の学習など、多様な活動を取り入れて総合的に防災訓練を行う学校が増えてきました。その多くは体験コーナーを設置して、子どもたちが順に回っていくという方法です。指導者は消防士や防災士など、専門の知識を持っている人です。たくさんの学びがありますが、こどもたちは受動的です。

このような防災訓練がもっと進化するとどうなるでしょうか。
ある中学校は地域の幼稚園児と小学生を招いて、生徒たちが指導する側に立って学習した知識と技術を伝えます。
別の中学校の訓練は生徒たちが極めてアクティブに活動します。朝、地震が発生し、大津波警報が出たと仮定します。生徒たちは津波が襲ってくる平地の自宅から高台の中学校へと安全な経路を通って避難します。学校に到着すると生徒たちは様々な困難に直面します。避難所の開設、トイレの設置、けが人の世話、日本語が話せない外国人の対応、火災発生、炊き出し・・・、そういった状況を先生方が用意し、生徒たちは相談しながら一つずつ解決していくのです。筋書きのない避難所運営訓練で生徒たちは考え、相談し、行動します。きわめて能動的な訓練です。

津波が想定される地域に位置するある小学校は、地元のバス会社と連携して、バスの中で一泊する訓練を取り入れています。
津波が襲ってくる別の地域にある高校では、生徒たちが地域の高齢者と一緒に高齢者の自宅から高台の高校まで歩きます。避難時には「逃げトレ」※3 というアプリを使います。「逃げトレ」では津波ハザードマップと津波到達時間を知ることができます。避難中の人のいる場所はGPS地図上に表示され、その位置の標高と津波が到達するまでの残り時間も刻々と表示されます。時間以内の避難できれば、高齢者の安心につながります。
津波からの避難訓練だけではなく、地域に津波到達時間を示す表示を多言語で掲示している中学校があります。避難をあきらめがちな高齢者に、動けば「間に合う」と理解してもらうためです。この地域では、地域の訓練に中学生、小学生も参加します。こどもがいる家庭の保護者の参加率が毎年高いそうです。

学校で行っていた火災避難訓練が、地震や津波を想定した防災訓練に広がり、こどもたちの参加形態も受動的参加から能動的参加へと変化してきました。学校と地域がつながって総合的な防災訓練、避難所体験訓練が多くの地域で実施されるようになってきました。

※3 逃げトレ

この記事を書いた人

諏訪 清二

全国初の防災専門学科 兵庫県立舞子高校環境防災科の開設時より科長を務め、東日本大震災をはじめとする国内外の被災地でも生徒とともにボランティアや被災者との交流に従事。
防災教育の第一人者として文部科学省「東日本大震災を受けた防災教育・防災管理等に関する有識者会議」など、防災教育関連の委員を務める。

2017年4月から防災学習アドバイザー・コラボラレーターとして活動開始。
学校での防災学習の支援活動を中心に、防災学習、災害、ボランティア、語り継ぎなどのテーマで講演活動も。
中国四川省、ネパール、スリランカ、モンゴル、エルサルバドルをはじめ、海外各地でも防災教育のプロジェクトに関わってきた。

2017年度~
神戸学院大学現代社会学部 非常勤講師
兵庫県立大学 特任教授
(大学院減災復興政策研究科)

2018年度~
関西国際大学セーフティマネジメント研究科 客員研究員

【著書】
防災教育のテッパン――本気で防災教育を始めよう

防災教育の不思議な力――子ども・学校・地域を変える

高校生、災害と向き合う――舞子高等学校環境防災科の10年
※こちらの書籍は、現在電子書籍での販売となります。

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