B!

防災テッパン授業③ ~ 部屋の中の危ないところ探し

地震による建物の倒壊と家具の転倒

今回は地震への備えと対応の学習です。
阪神・淡路大震災(1995)をはじめ、新潟県中越地震(2004)、熊本地震(2016)など、震度7を記録した地震では、直接的な死者のほとんどが家屋の倒壊家具の転倒によって亡くなっています。海外でも、中国の四川大地震(2008)、ネパール地震(2015)では脆弱な建物が地震によって倒壊し、人々の命を奪っています。地震に対する最大の備えは、地震で倒れない家に住むことです。
日本では、耐震基準の厳格化により、地震に強い建物が増えてきました。もちろんまだ昔の古い耐震基準で建てられ、築後かなりの年月が経過して地震で倒壊する恐れのある老朽家屋は全国にたくさんあります。特に都市でこのような建物が密集している地域は、今後の大地震の被害が集中する危険性が大きく、とても心配です。

さて、今回は、日本にはまだまだ建物の耐震性という問題が存在していることを認めたうえで、強い建物に住んでいる人が地震の揺れによる家具の倒壊などから命を守るために何をしたらいいかを学ぶ方法をお伝えします。
強い建物の中で命が助かっても、家具の下敷きでケガをしたり、最悪の場合は命を落としたりする恐れもあります。そうならないために家具の固定が推奨されていますが、まだまだ広がっているとは言えません。
また、強い地震の揺れの中では、家具以外にいろんなものが凶器になります。割れたガラスや食器、テーブルの上に置いた観葉植物の鉢、分厚い本、テレビ、置物、…。家の中には一瞬にして凶器になってしまうものがたくさんあります。

地震への備えとその瞬間の対応

地震が発生したときに、それらから身を守る方法は二つしかありません。
一つは、事前の備えです。家具の固定、ガラスの飛散防止、テレビなどの下に耐震マットを入れる転倒防止、・・・やるべきことはたくさんあります。
もう一つは、その瞬間の対応、つまり揺れたらすぐに一番安全な場所に逃げることです。逆に言えば、危険な箇所から離れることです。昔はトイレが安全だと言われていました。狭い空間ですが、柱の数が多いからです。テーブルや机の下も、落下物から身を守ることができます。

今回は、部屋の中のどこが危険かを探し、安全な場所を見つける方法を学びましょう。手順は以下の通りです。
  1. 地震の揺れの怖さが分かる映像を見せます。もちろん、怖がるこどももいるので、無理に見せる必要はありません。地震の揺れによっていろんなものが倒れたり落ちてきたりするという事実を理解してもらえばいいでしょう。

  2. 今いる部屋の中の危険だと思う個所を探してもらいます。個人でノートに書きだしたり、それをグループで出し合って共有したりしましょう。もっと活動的にやりたければ、こどもたちに赤いギザギザの付箋を持たせて、危険な箇所に張ってもらってもいいでしょう。付箋は折り紙で手作りし、セロテープを輪にして貼れば両面テープになります。

  3. こどもたちに「危険な箇所」を発表してもらいます。先生はそれを黒板に書き込んでいきます。家庭で家族一緒にとりくむなら、メモ用紙に手書きしてもいいですね。危険な箇所を発表するときは必ずその理由も説明しもらいます。

  4. さて、こどもたちに聞いてみましょう。「危険な箇所を全部覚えられるかな?」
    小さなこどもほど「覚えられる」と答えます。でも、この部屋だけではなく、ほかにも部屋はいっぱいあります。外に行けば、スーパーマーケットや友達の家、列車、バス、・・・こどもたちはいろんな場所に立ち寄ります。そこにある危険を全部覚えられるかと問いかけると、こどもたちはやっぱり覚えるのは無理そうだと気づきます。

  5. そこで、こどもたちが指摘した危険個所を4つにまとめていきます。「落ちてくるから危ない」「倒れてくるから危ない」「移動してくるから危ない」「割れるから危ない」です。

  6. 「4つの危ない」が発生しないようにはどうしたらいいか(備え)、地震が発生したときに「4つの危ない」から身を守るにはどうしたらいいか(対応)を考えさせましょう。
「4つの危ない」を覚えておけば、応用が利きます。どんな場所にいても、「4つの危ない」から離れることが大切です。といっても、いきなり強い揺れに襲われて、冷静に「4つの危ない」を探すのは難しいかもしれません。いつでも、周りを見て危険な箇所がないかを探す癖をつけておくのがいいのかもしれませんね。

たくさんの危険な個所を見つけたと喜んでいてはだめです。先生や親の仕事は危険な箇所をできるだけ減らしていくことです。学校なら、予算を確保して本立てや下駄箱、理科実験室の薬品庫など、こどもたちが指摘した危険個所に転倒防止策を講じていきましょう。ガラスも飛散防止フィルムを貼ったり、耐震ガラスに取り換えたりしなければなりません。家庭でもこどもたちと話し合って、危険を減らしていきましょう。
自分の意見が取り入れられて、自分のいる環境がどんどん安全になっていくと、こどもたちもどんどんやる気を出してくれるはずです。

さて、もし防災教育の時間を十分の取れないのなら、この危険な個所探しを朝の会や帰りの会を使ってほんの5分で行うことができます。いわゆるモジュールという方法です。学校なら教室や理科室、給食室、廊下、体育館などの写真やイラストを見せます。家なら寝室や居間、台所、風呂、・・・ほかにも屋外でこどもたちが行きそうな場所の写真イラストを見せて、どこが危険かを見つけさせ、発表させればいいのです。クイズ感覚で楽しくできそうですね。
毎日防災ばかりだとマンネリ化する恐れがあるなら、週に1回でも構いません。地震だけではなく、水害、土砂災害、交通事故など、いろんな「危険」を取り上げて、幅広く安全について考えさせたいですね。

写真は筆者がモンゴルの幼稚園の先生方と一緒に行った時の様子です。


危険個所に貼る付箋を手作りしました。


こどもたちは、自分が危険だと思う個所に付箋を貼っていきます。


先生が子供たちを危険な箇所に連れて行き、どうすれば安全かを説明しています。

防災テッパン授業 前回の記事

この記事を書いた人

諏訪 清二

全国初の防災専門学科 兵庫県立舞子高校環境防災科の開設時より科長を務め、東日本大震災をはじめとする国内外の被災地でも生徒とともにボランティアや被災者との交流に従事。
防災教育の第一人者として文部科学省「東日本大震災を受けた防災教育・防災管理等に関する有識者会議」など、防災教育関連の委員を務める。

2017年4月から防災学習アドバイザー・コラボラレーターとして活動開始。
学校での防災学習の支援活動を中心に、防災学習、災害、ボランティア、語り継ぎなどのテーマで講演活動も。
中国四川省、ネパール、スリランカ、モンゴル、エルサルバドルをはじめ、海外各地でも防災教育のプロジェクトに関わってきた。

2017年度~ 神戸学院大学現代社会学部 非常勤講師 / 兵庫県立大学 特任教授(大学院減災復興政策研究科)
2018年度~ 関西国際大学セーフティマネジメント研究科 客員研究員
2020年度~ 大阪国際大学短期大学部 非常勤講師
2021年度~ 神戸女子大学 非常勤講師 / 桃山学院教育大学 非常勤講師

【著書】
図解でわかる 14歳からの自然災害と防災 (著者:社会応援ネットワーク 監修:諏訪清二)
防災教育のテッパン――本気で防災教育を始めよう
防災教育の不思議な力――子ども・学校・地域を変える
高校生、災害と向き合う――舞子高等学校環境防災科の10年
※こちらの書籍は、現在電子書籍での販売となります。

諏訪 清二の記事一覧

公式SNSアカウントをフォローして、最新記事をチェックしよう

twitter
facebook

この記事をシェア

B!