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防災教育の内容を問う② 流行りのHUG(避難所運営ゲーム):基本形と発展形

防災教育でHUG(ハグ)が流行っています。対象は中学生と高校生がほとんどです。小さな子供達には少しハードルが高いかもしれませんね。

HUGは静岡県が開発した防災研修ツールです。静岡県のホームページによると「避難所の運営をしなければならない立場になった時、最初の段階で殺到する人々や出来事にどう対応」するかを参加者で考えるゲームです。”Hinanzyo Unei Game”の頭文字をとって名づけられました。”hug”という英単語は「抱きしめる」という意味です。「避難者をやさしく受け入れる避難所のイメージと重ね合わせて」付けた名称なのだそうです。

HUGでは、避難所となる体育館や教室の平面図に、避難してきた人々を適切に配置していきます。
避難者にはいろんな年齢、国籍の人がいて、それぞれの人の事情も違います。病人や妊婦、日本語が分からない外国人、ペットと一緒に避難してきた人、小さなこどもを連れた人、高齢者など、いろんな人々が避難してきます。
避難所ではさまざまな出来事が発生します。仮設トイレの設置場所や炊き出しの場所の検討、マスコミや視察の対応、避難者のいろいろな事情への対応など、次から次へと解決しなければならない課題が出てきます。しかも、のんびりと考えている時間はありません。このゲームでは、参加者で意見を出し合い、話し合って課題をどんどん解決していかなければならないのです。

地域性に合わせたHUG

HUGはもともと行政職員や自主防災組織メンバーの研修用に開発されたものです。最近では学校の防災教育に積極的に取り入れられるようになりました。完成されたゲームなので、やり方さえ理解すれば、とても簡単に授業に導入できます。先生方が前もって新しい防災知識を予習したり、指導案を書いたりしておく必要もありません。防災教育の時間が1時間か2時間しか取れない学校で行う防災教育にはうってつけです。

ところが、防災教育をどんどん進めている学校は、HUGでは物足りなくなるようです。おそらく、HUGで使われる避難者の情報が、自分たちの住む町の実態とずれている事実に気づくからでしょう。過疎地ではもっと多くの高齢者が避難してきます。外国人労働者の街では、避難者の層が変わってきます。HUGにとりくめばとりくむほど、もっと自分の街に即した内容でやってみたいという気持ちが、実践者の心に湧いてくるのです。

そこで、学校と行政が協力して、住民の実際の情報を使ったHUGを開発した地域もあります。個人情報の問題もあるので、行政、住民、学校がよほど信頼し合っていなければ、できない実践です。こんなとりくみが進んでいけば、より地域に密着したHUGができるようになるでしょう。また、生徒たちと地域住民が一緒になって、自分たちの地域の情報を取り入れたHUGにとりくむと、相互理解が進み、災害時をより具体的にイメージして、より実践的な対応を考える姿勢に繋がっていくはずです。

実際に体を動かして行う Real HUG

もっとアクティブなHUGも開発されています。実際の体育館を避難所と見立てて、避難者役の生徒たちと運営側の生徒たちがいろんな課題の解決を図っていくのです。“Real(リアル) HUG(ハグ)”と呼ばれています。
まず、事前学習を行います。生徒たちは、災害時の避難所の様子を映像や体験談などを通して学びます。そして、全員が、自分が避難者であると仮定して、どんな困りごとが発生するかを考えるのです。生徒たちは運営側の人々にとってはかなり厳しい困りごとを考えてくれます。
困りごと(難題とも言えますね)はカードに書き出しておきます。そこまで準備したら、生徒たちを避難者役と避難所運営役に分けます。準備の学習はここまでです。
ただ、体育館を実際の避難所に見立てるために、受付、物資配布場所、トイレ、ペット収容場所、医務室、炊き出し場所などを事前に決めておく仕事が必要です。先生方や有志生徒で準備しておきましょう。実際のおにぎりは準備できないので、紙のおにぎりを作っておくとか、毛布に見立てる新聞紙とか、ペットボトルとか(空でもいい)、ゴミ袋、そういったいろいろなグッズを準備する必要があります。準備は少し大変ですね。

本番は、避難者役の生徒と運営に回る生徒の自由な活動に任せましょう。先生方は、じっと見守るだけでいいのです。それでも、時々、全体への指示を出す必要がでてくるかも知れません。もっと活性化させたいと思う時もあるかも知れません。ここは、先生方の臨機応変の力が試されています。ただ、解決方法を指示するのは控えましょう。生徒たちに丸ごと任せるのです。

事前学習、本番とくると、次に振り返りとなる事後学習です。生徒たちに上手く行ったこと、上手く行かなかったこと、解決できたこと、解決できなかったことを具体的に指摘させ、その理由を考えさせましょう。個人で考えさせ、グループで共有し、最後に全体に発表してもらいましょう。このときは、避難所運営に詳しい人が助言者として参加すると、生徒たちの学習が深まります。

最大の成果は分からないことの発見

この3段階の学習を通して、避難所運営のノウハウが学べて、その知識が災害時に役立つとは思わないでください。もちろん、全く役立たないとは言いません。多くの知識が実際の災害時には役に立つはずです。
でも、このようはワークショップの最大の目的は、「分からないことがいっぱいあることが分かる」という事実です。もっと知りたかったら、勉強しようという気持ちになりませんか。防災の学習のモチベーションがぐっと高まるはずです。

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この記事を書いた人

諏訪 清二

全国初の防災専門学科 兵庫県立舞子高校環境防災科の開設時より科長を務め、東日本大震災をはじめとする国内外の被災地でも生徒とともにボランティアや被災者との交流に従事。
防災教育の第一人者として文部科学省「東日本大震災を受けた防災教育・防災管理等に関する有識者会議」など、防災教育関連の委員を務める。

2017年4月から防災学習アドバイザー・コラボラレーターとして活動開始。
学校での防災学習の支援活動を中心に、防災学習、災害、ボランティア、語り継ぎなどのテーマで講演活動も。
中国四川省、ネパール、スリランカ、モンゴル、エルサルバドルをはじめ、海外各地でも防災教育のプロジェクトに関わってきた。

2017年度~ 神戸学院大学現代社会学部 非常勤講師 / 兵庫県立大学 特任教授(大学院減災復興政策研究科)
2018年度~ 関西国際大学セーフティマネジメント研究科 客員研究員
2020年度~ 大阪国際大学短期大学部 非常勤講師
2021年度~ 神戸女子大学 非常勤講師 / 桃山学院教育大学 非常勤講師

【著書】
図解でわかる 14歳からの自然災害と防災 (著者:社会応援ネットワーク 監修:諏訪清二)
防災教育のテッパン――本気で防災教育を始めよう
防災教育の不思議な力――子ども・学校・地域を変える
高校生、災害と向き合う――舞子高等学校環境防災科の10年
※こちらの書籍は、現在電子書籍での販売となります。

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