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学校の防災教育 ~新しい学習指導要領の下で~ 【第3回】教科、特別活動、総合的な学習の時間での防災教育事例

*学校教育は、国語や算数、理科、社会・・・などの「教科」と、入学式や卒業式、HR、運動会、遠足などの「特別活動」や「総合的な学習の時間」から成り立っています。

3段階で考えよう

学習指導要領には自然災害や安全、防災に関する記述が増えました。もちろん、教科書に反映されますから、こどもたちが授業で災害や防災と出会う機会は増えます。でも、私はそれだけでは不十分だと考えています。かといって、総合的な学習の時間のかなりの部分を防災に充てるとか、特別活動で防災の学習をどんどん取り入れるのは難しいでしょう。学校にはとりくまなければならない課題がたくさんあるのですから。
かといって、あきらめる必要はありません。たとえ学習指導要領に自然災害や安全などの記載がなくても、アイデア次第ではどの教科でも防災教育が可能です。3段階で考えてみましょう。
  • 学習指導要領に記載があり教科書に掲載されるので、防災教育が行われる。
  • 記載はないが関連が深そう。ちょっと工夫を加えるだけで防災教育が可能になる。
  • 関連はなさそうだが、アイデア次第で面白い防災教育ができる。




アイデアを考える楽しさ

一つ質問です。
体育の授業で、1分間で防災教育をやってみましょう。どんなアイデアが浮かびましたか。
防災教育がとても大好きなある先生が、こう叫びました。「全力ダッシュ!!」
なるほど、津波から命を守るために走っての避難が必要な地域もあります。南海トラフ巨大地震と津波の想定を見ると、地震発生からほんの数分で30メートルを超える津波に襲われると想定されている地域があります。逃げるための基礎体力を作っておくのは防災の基本ですね。もちろん、高齢者など脚力が弱い方や、車いす生活をしている方もいます。特別な配慮が必要な人への理解と支援の在り方も学んでおく必要があります。
私なら「エコノミークラス症候群」に着目します。こどもたちにエコノミークラス症候群の症状と危険性、発生する理由と対応策を話します。そして、後はいつもの体育の授業をすればいいのです。これも立派な防災教育です。

教科ごとにアイデアを出そう

図は、教科でどのような防災教育ができるかをまとめたものです。いくつか取り上げて詳しく説明していきましょう。すべてを紹介するスペースはありません。自分で考えてみるのもとても楽しいですよ。

【国語】
国語の授業での文章(文字)や発表(音声)を使った表現活動と「非常持ち出し袋」の授業を組み合わせてみましょう。「非常持ち出し袋」に入れるアイテムを考える授業は備えの防災教育の定番です。保存食糧や水、ラジオ、電池、ファーストエイドキットといった定番アイテムから、各家庭に固有のアイテムまで――例えば、お薬手帳とか赤ちゃんの紙おむつなど――様々なものが浮かびますね。
こどもたち一人ひとりがアイテムだと仮定しましょう。それぞれ、ラジオとか懐中電池とか非常食といったように、役割を割り当てていくのです。そして、こどもたちに自分が非常持ち出し袋に入れて欲しい理由を考えさせ、発表させるのです。わかりやすい表現でみんなを納得させることができれば、非常持ち出し袋に入れてもらえます。

【算数】
同じ非常持ち出し袋の授業を算数でやってみましょう。こどもたちを5人程度のグループに分けます。各グループにはアイテムが描かれたカードが配られています。カードには値段も記載されています。
こどもたちに5千円とか1万円といった定額を示して、その範囲で必要なものを必要な数だけ買うように指示します。
300円のアイテムと250円のアイテムを買うのなら合計550円になる、つまり足し算をします。いったん入れようと思っていたけれど、話し合いの結果必要ではなくなった400円のアイテムを除外するなら、引き算です。100円のアイテムを5個買うのなら掛け算が必要です。途中で先生が2割引券を渡すとこどもたちは割り算を始めます。
防災と算数の勉強が合体するのです。

【家庭科】
家庭科は衣食住を扱います。防災教育のネタの宝庫です。
非常食の写真やレシピをこどもたちに提示して、栄養について考えさせます。3大栄養素はきちんと摂取できるでしょうか。生野菜が少ないとか炭水化物が多いといった発見があるかもしれません。1週間分の食事内容を見せると、変化が乏しくおいしくなさそうといった反応が出てくるかもしれません。
「高齢者の非常食や乳児の離乳食は?」「アレルギーの人は大丈夫かな?」「宗教によっては食べられないものもあるね」と様々な条件を考えさせるといいでしょう。
できれば、こどもたちに非常食のメニューを提案させたいですね。
家の中の整理整頓の授業も防災の学習とつながります。地震時に身を守るためには「落ちてくるもの」や「倒れてくるもの」、「移動してくるもの」、「割れるもの」 をどう減らしておくかが大切です。地震から身を守る防災と日常の住みやすい環境づくりを繋いでみましょう。

【図画・工作】
災害の体験談を読ませたり、聞かせたりした後、こどもたちの心の浮かんだイメージを絵で表現させましょう。こどもたちは大人の想像をはるかに超えた表現で災害のイメージを伝えてくれます。

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この記事を書いた人

諏訪 清二

全国初の防災専門学科 兵庫県立舞子高校環境防災科の開設時より科長を務め、東日本大震災をはじめとする国内外の被災地でも生徒とともにボランティアや被災者との交流に従事。
防災教育の第一人者として文部科学省「東日本大震災を受けた防災教育・防災管理等に関する有識者会議」など、防災教育関連の委員を務める。

2017年4月から防災学習アドバイザー・コラボラレーターとして活動開始。
学校での防災学習の支援活動を中心に、防災学習、災害、ボランティア、語り継ぎなどのテーマで講演活動も。
中国四川省、ネパール、スリランカ、モンゴル、エルサルバドルをはじめ、海外各地でも防災教育のプロジェクトに関わってきた。

2017年度~ 神戸学院大学現代社会学部 非常勤講師 / 兵庫県立大学 特任教授(大学院減災復興政策研究科)
2018年度~ 関西国際大学セーフティマネジメント研究科 客員研究員
2020年度~ 大阪国際大学短期大学部 非常勤講師
2021年度~ 神戸女子大学 非常勤講師 / 桃山学院教育大学 非常勤講師

【著書】
図解でわかる 14歳からの自然災害と防災 (著者:社会応援ネットワーク 監修:諏訪清二)
防災教育のテッパン――本気で防災教育を始めよう
防災教育の不思議な力――子ども・学校・地域を変える
高校生、災害と向き合う――舞子高等学校環境防災科の10年
※こちらの書籍は、現在電子書籍での販売となります。

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