B!

3.11を迎えて - 防災教育の専門家に聞いた、災害体験を語り継ぐ大切さ

神戸に住んでいると、1月から3月にかけて、災害を思う機会が多々あります。もちろん、阪神・淡路大震災という、私の生活の場を襲った震災がそのきっかけだと言えますが、阪神・淡路大震災の被災地に住む、特に防災にかかわる人々は災害全般について敏感な人が多く、東日本大震災や西日本大水害、台風19号の水害など、いろんな災害についていろいろと語り合うので、この時期はとにかく災害と向き合っているなと感じます。シンポジウムやセミナーもこの時期に集中します。もちろん私がその中にいるので、「多いな」と感じるのかもしれません。

社会の防災力を高める、教訓の語り継ぎ

災害体験を語り合うと聞くと、多くの方々は、語り部の辛く悲しい体験談や防災専門家の難しい話を思い浮かべるでしょう。神戸で開かれる多くのシンポジウムやセミナーもそのような内容が多くあります。これはとても大切なことです。

災害体験の語りには二つの種類があると私はずっと思ってきました。一つは災害への備えの欠落、災害時の対応の失敗などを語り継いで、聞き手の属する社会の防災力を向上させようとする語りです。もちろん成功談も大切です。災害時の失敗と成功を聞いて、聞き手がそれを取り入れて正しい備えや対応をすると、その社会の防災力が格段に向上し、次の災害での被害を軽減できるはずです。私はこういった語りを「社会的な意味を持った語り」と呼んできました。こういった語りは、エビデンスを持ち、整理され、説得力があります。

被災者が伝える「個人的な意味を持つ語り」

ところが、語りにはもうひとつ大切な意味があります。それは、時には聞き手の心を乱す語りです。阪神・淡路大震災で小学生の娘を亡くした母親から、こんな話を伺ったことがあります。彼女は震災後、娘の話を同世代のこどもたちに語って聞かせたそうです。娘はこんなことが好きだった、将来の夢はこうだった、でも震災でそれができなくなったと。震災からずっと、震災で亡くなった娘がかわいそうだと語り続けたそうです。

でも、10年ほどたった時、彼女は自分の心の変化に気づいたと言います。「私が本当に語りたかったのは、震災で亡くなった娘がかわいそうだ、ではなくて、震災で娘を亡くした自分がかわいそうだ」ということなんだと。
聞いた私は返事ができませんでした。戸惑いました。でも、こんな「戸惑い」を聞き手に与える話は大切だと思います。ずっと心に引っかかって、災害や防災に向き合う原動力になるのですから。こんな語りを私は「個人的な意味を持つ語り」と呼んでいます。

語り部が教えてくれた、心のつながり

東日本大震災でも、同じような意味を持つ語りに出会います。
大川小学校で語り部をされている私の友人は、私を案内しながらよく笑っておられます。笑顔で亡くなった娘の話をされます。聞く側の私には戸惑いしかありません。なぜ、笑顔でいられるんだろ、そんな思いがついて回ります。でも彼は、こんなことを教えてくれました。「ここでは娘と一緒に居られるんだ。」
そうか、私たちに語る形をとりながら、娘と話し合っていたんだ。そう思うと、笑顔がとても素敵に見えました。
災害体験の語りに、こんな「社会的な意味を持つ語り」と「個人的な意味を持つ語り」があるのだろうと思っています。

東日本大震災から増えた、こどもや若者の語り部

最近、ふと感じることがあります。阪神・淡路大震災の後は、大人の語り部のみなさんが、辛い体験や社会の防災力の向上に向けた話をしてくれました。こどもたちや若者たちの語りはほとんどなかったと言っていいでしょう。でも、東日本大震災の後は、若い人たちが自信をもって語っているような気がします。例えば、「16歳の語り部」という本があります。震災時、小学校5年生だった子供が今、大学生になって体験を語っています。大川小学校の若い語り部は、亡くなった小学生の弟の話をしてくれます。彼の話を現場で聞くと、津波に破壊された校舎にこどもたちの笑い声がこだまするような気がします。
釜石市は語り部育成に取り組んでいますが、手を挙げた語り部候補の中には若者が少なからずいます。大槌高校の生徒は自分たちの体験を絵本にして次世代に伝えようとしています。

そう、若者が語りだしているのです。そしてその陰には、大人がいます。若者の語りを応援しているのです。私のような防災教育にかかわっている大人こそ、若者が語る場を作っていく仕事をしなければならないと思っています。

この記事を書いた人

諏訪 清二

全国初の防災専門学科 兵庫県立舞子高校環境防災科の開設時より科長を務め、東日本大震災をはじめとする国内外の被災地でも生徒とともにボランティアや被災者との交流に従事。
防災教育の第一人者として文部科学省「東日本大震災を受けた防災教育・防災管理等に関する有識者会議」など、防災教育関連の委員を務める。

2017年4月から防災学習アドバイザー・コラボラレーターとして活動開始。
学校での防災学習の支援活動を中心に、防災学習、災害、ボランティア、語り継ぎなどのテーマで講演活動も。
中国四川省、ネパール、スリランカ、モンゴル、エルサルバドルをはじめ、海外各地でも防災教育のプロジェクトに関わってきた。

2017年度~ 神戸学院大学現代社会学部 非常勤講師 / 兵庫県立大学 特任教授(大学院減災復興政策研究科)
2018年度~ 関西国際大学セーフティマネジメント研究科 客員研究員
2020年度~ 大阪国際大学短期大学部 非常勤講師
2021年度~ 神戸女子大学 非常勤講師 / 桃山学院教育大学 非常勤講師

【著書】
図解でわかる 14歳からの自然災害と防災 (著者:社会応援ネットワーク 監修:諏訪清二)
防災教育のテッパン――本気で防災教育を始めよう
防災教育の不思議な力――子ども・学校・地域を変える
高校生、災害と向き合う――舞子高等学校環境防災科の10年
※こちらの書籍は、現在電子書籍での販売となります。

諏訪 清二の記事一覧

公式SNSアカウントをフォローして、最新記事をチェックしよう

twitter
facebook

この記事をシェア

B!